ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

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59甘:謝罪と回顧

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エリザータは、固まった。一方、キャナリーンの顔は強張る。エリザータが「何で?」と言おうとした時、キャナリーンがこの家での第一声を上げた。

「どこかで聞いた名前だと思ったら、アルヴェードさんって、エリザータの夫だったのね?」

 アルヴェードは、それに返した。

「そうですよ?」
「アルヴェードさん?何で私をこんな所に連れて来たんですか?」

 キャナリーンの表情が険悪な物になっていく。アルヴェードはそれを意に介せず言った。

「ほら、エリザータ、客人を応接間に案内しないか」
「えっ?ええ」

 エリザータは、慌ててアルヴェードの言う事を聞いた。

「きゃ、キャナリーンさん、お久しぶりです。どうぞ、こちらへ」

 キャナリーンは、一瞬帰ろうとしたが、それに従った。

「失礼します」

 案内された席に座るキャナリーン。アルヴェードとエリザータも席に着く。そして、アルヴェードが口火を切る。

「偶然ですが、キャナリーンさん、貴女と出会えてよかったですよ。丁度、貴女に用がありましてね」
「何ですか?会った事もない貴方が私に何の用なんですか?」
「実は、妻が若い頃、貴女に多大なるご迷惑をおかけしたと聞きましてね、是非とも謝らせたいと思っていたんてすよ」

 エリザータは、横のアルヴェードを凝視する。その視線にアルヴェードは冷たい視線で返し、こう言った。

「ほら、謝れよ、エリザータ」
「えっ、ええ」

 エリザータは、戸惑いつつもキャナリーンに向き合う。

「その、過去の貴女に私がしてしまった事に対して、謝ります。申し訳ありませんでした」
「そ、そんな、最初に謝られて、私何て言葉を返したらいいかわからないわ」
「エリザータ、そんなんじゃ足りないな。謝り足りない」
「アルヴェード?これでも、誠心誠意」
「はっ!お前の誠意とは、そんな物だったのか。薄いな」

 エリザータは、どうしていいかわからず、再び謝罪をする事にした。

「キャナリーンさん、私、心から反省しています。本当に申し訳ありませんでした」
「えっと、と言うか、何で貴女は謝るの?それに、アルヴェードさんは、何で奥さんにそこまで謝ってもらいたいの?」

 エリザータは、意を決して言った。

「あの、あの時、貴女はセブレーノの事、好きだったんでしょう?それを、奪ってしまって、ごめんなさい」
「知っててセブレーノに貴女は告白したのっ?」
「違います!あの、後からそうだったんじゃないかって考えるようになったんです!」

 そのやり取りに割って入るアルヴェード。

「そう言う事です。私の愚妻が過去貴女に大変な事をしでかしたと聞いてから、キャナリーンさんにどうにか接触して謝らせたいと思っていたんですよ。ああ、今日貴女と出会えて本当によかった」
「それは、よかったですけど、アルヴェードさん、貴方、本当に冷たい旦那さんですね」
「そうですよ?」

 エリザータは、「いつもはこんなに冷たくないんだけど。まるで、新婚時代のアルヴェードだわ」と思った。そんなエリザータの傍らで、アルヴェードは言葉を続けた。

「とにかく、妻には謝らせましたが、貴女は妻を許す必要はありません」
「ええ?じゃあ、何のために奥さんに謝らせたんですか?」
「妻に、罪を再確認させたかっただけです。そして、一生その罪を背負っていって欲しいので」
「そんな、奥さんを追い詰めないでやってください。確かに、私は奥さんに悪い感情をずっと抱いてきましたけど、そこまで重い罪の意識を持ってもらいたいとは思ってません」
「では、いずれ妻を許してくださるんですか?」
「きょ、今日謝ってもらったから、一応、許します」
「ああ、貴女はなんて寛大な女性なんだ。感動しました。妻を許していただいて、ありがとうございます」

 アルヴェードは、頭を下げた。それに追いかけるようにエリザータも頭を下げ、こう言った。

「キャナリーンさん、ありがとうございます」
「エリザータ?なんだか冷たい旦那さんを見ていたら、逆に同情しちゃったわ。なるほどね。こんな冷たい旦那さんなら、セブレーノの優しさに縋りたくなる気持ち、わかるわ。あの時の気持ちは変わらないけどね」
「ほ、本当にありがとうございます」

 そのやり取りが終わったことを確認したアルヴェードは、話を続けた。

「それでですね。変かもわかりませんが、私、他人の恋愛に興味がある男でして、貴方の悲恋を聞きたいなとも思っていましてね。ぜひとも、セブレーノとの出会いからお聞かせ願いたいんですが、どうでしょうか?」
「ええ?でも、いいわ。私がどんな思いでここまで来たのか、聞いてもらおうじゃないの」
「ありがとうございます」

 アルヴェードは、心の中で 「多少変な会話だな。しかし、エリザータがミルフォンソの聞き役に回ったなら、俺もキャナリーンの聞き役に回ろう。彼女は落とさない」と言った。そんなアルヴェードにキャナリーンは話をし始める。

「エリザータは知っていると思うけど、あのシェアハウスで私とセブレーノは出会ったわ。同じ医療の人材を目指してね。猛勉強の日々だったけど、あのシェアハウスの中でいちばん優しくて優秀な男がセブレーノだったのよ」
「そうだったんですか」

 アルヴェードの声が響く。エリザータはそのシェアハウスの光景を思い出していた。

「それで、私、単純だけど、セブレーノを好きになった。そして、いつの間にかシェアハウスは私とセブレーノだけになった。舞い上がったわよ。二人っきりだって。エリザータがあのシェアハウスに来たばかりの頃、私たちを夫婦だって勘違いしてくれたけど、本当にあれ、嬉しかったわ。私も夫婦になったみたいって思ってたから」
「そんなこと、言いましたね」

 エリザータも反応した。

「けど、セブレーノはエリザータを選んだ。あの人、心が弱っている人に寄り添いすぎる人だから。そこが好きだったけど、旦那さんがいる人まで手を広げた事、あの時許せなかった。だから、あそこをあの日、出たの。もう、2人の顔を見たくなかったから」

 エリザータは神妙な顔をした。アルヴェードは頷き、話しをするキャナリーンを見守った。

「それから、看護師になるのをやめた。セブレーノとの日々を思い出したくなかったから。でも、しばらくしたら、医療の人になりたい気持ちが再燃して、結局薬剤師になったの。それから勉強してね」

 キャナリーンは、携帯を義務付けられている薬剤師の資格証を見せてくれた。アルヴェードとエリザータは興味深そうに見入る。

「薬局で働き始めて、医療の役に立っているって実感できてよかった。けど、最近苦しくなってきて。職場の近くに大きな新しい病院ができるって聞いて楽しみにしていたんだけど、その病院が、セブレーノの病院だっていうじゃない。それから、セブレーノの事を人づてに聞いたら、結婚しちゃったって。もう、辛くて辛くて。両想いになれたかどうかわからないけど、なんでエリザータより先に私、セブレーノが好きって言えなかったんだろうって思ったらさ」

 キャナリーンは涙を流し始めた。アルヴェードは、それを拭いに行ってやった。

「ああ、それはお辛い経験でしたね。それで、病院を見上げていたんですか?」
「毎日、毎日、セブレーノの事を考えてしまって。でも、顔は合わせたくなくて、病院の建物をセブレーノだと思って、仕事の帰りに毎日セブレーノに『会いに行ってた』。そこで、アルヴェードさん、今日、貴方に声をかけられた」
「なるほど。出会えてよかったですよ。私もね」

 それから、キャナリーンはしばらく泣き続けた。しかし、それも収まり、キャナリーンの顔に少し笑顔が見えた。アルヴェードは、冗談めかしこう言った。

「それを考えたら、妻は貴女に本当に酷いことをしましたね?どうです?仕返しに私をエリザータから奪ってみますか?」
「そんな倫理に外れた事はしないわ!」
「そうですか。でも、ぜひとも貴女と友人になりたい。よろしいでしょうか?」
「なんだか、貴方たちとは縁があるみたいだから、そうしましょうか」
「ありがとうございます」

 そして、キャナリーンは帰宅して行った。アルヴェードとそれを見送ったエリザータは言った。

「色々、ありがとう。何でキャナリーンさんを連れて来たの?って思ったけど、全部解決してくれたのね?」
「ご名答。一応だが、許してもらえてよかったな」
「10代の頃の貴方そのものだったわね」
「そうだろう?言っている俺も懐かしい気分になった。楽しかった」
「そう」
「後は、ミルフォンソとキャナリーンを会わせる。それに力を入れよう」
「ええ」
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