お伽話 

六笠 嵩也

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第二章

2-30 ★

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男は閉じる力を失った後孔を満足気に見下ろし、白い尻朶を両手で割り開くと、まだ硬さの残る陰茎をにゅるりと引き抜いていった。鈴虫の後孔を排泄にも似た感覚が通り過ぎて行く。その様子をゆっくり堪能し終えると、男は列の奥に戻ってゆき、先程の口虐の男と此方を指さして何やらニヤニヤと話をし始めた。

もう体に上手く力が入らない。その場に半分蹲るように体を丸めて、鈴虫は手の届かない場所に落ちている布切れに手を伸ばした。

「お、お婆様…猿轡を…かけてくだせ。」

「あぁ、そうね、人の煩悩を消し去るために現身として遣わされた筈なのに、嫌だ嫌だと口にするなんていけませんよ。余計な事を口走る前に、そんなお口は塞いだ方が良いわね。唾が染みているから新しい布に変えてあげましょう。」

お妙は袂から新しい晒布の切れ端を取り出して鈴虫の口を塞いだ。
お妙には鈴虫の真意は分かっている。多少の息苦しさと引き換えにしてでも、鈴虫が一番大切にしている物を守るためだ。

「お妙様…苦しそうに見えますが…」

「いいえ、これで良いのよ。ね、これで安心ね。」

「何が安心!?…辛そうにしか見えませんが…!」

お妙は鈴虫の頭を優しく撫でながら小さな声で風野に告げた。

「この子は自分にとって一番大事なものが何か分かっているの。だから…大丈夫なのよね?」

鈴虫はコクリと頷いた。

「さぁ、お次は…何方どなたかしら?もう現身様もお疲れの御様子ですから、あまり乱暴はいけませんよ。優しく可愛がって下さる方を優先しようかしら?」

「お、俺、優しいです!ほんと、優しいです!」
「いや、おれだッ!」
「やっぱり、年の順にしてくれって。」

またしても待たされている男達が騒ぎ出した。
しかし風野にはその喧騒がまるで耳に入らない。ただ、お妙の膝に頭をのせたまま動かなかくなった鈴虫の顔から目が離せなくなっていた。風野としては、もう無理だから助けて下さいと鈴虫の口から言って欲しかった。そうすれば堂の戸を割ってでも連れて逃げてあげる事だってできるのだ。
ふと気付けば、この堂の中は男達の汗の臭いと、放たれた精子の青臭い匂いが充満しているではないか。木匙で掬って水を飲ませた後に立ち昇った、あの甘く芳醇な香りが醜悪な雄の臭いに追い遣られてほとんど残ってはいない。

「お妙様、あの…香りが…」

「そうね、腹の足しが効かなかったみたいね。元々、あまり体の丈夫では無い忌子同士の掛け合わせで生まれてきた子だからかしら…やっぱりこの子には無理があったのかしらねぇ。なるべく早く終わらせましょう。」

残るは六人。皆、それほど癖の強そうな者では無かったが、若さと勢いだけは侮れないのである。技巧も無く、矢鱈めっぽうに腰を振るだけならば、少々痛みを伴うが鈴虫もあまり善がる事も無い。それは体力の温存につながるだろう。そうこうするうちに話がついたのか、一人の男が前へ進み出た。

「さ、現身様、お前様は肩が痛いんだろう?同じ格好ばかりで膝も腕も辛かろうがもう暫く御辛抱下され。」

この男、年の頃は喜一郎と同じだろうか。優しいと自称して前に出てきたのだからというのもあるのだろうが、あまり大きな声も出さずに気を遣っているようだ。お妙も少々安堵した様子で、膝の上の鈴虫を起こして引き合わせた。

「うっわぁぁ~っ!法性華って白い雪に紅色の梅の花が落ちたように綺麗なんだなぁ。俺のケツの穴とは全然違うよ…たぶん。自分のケツの穴はみた事ねぇけど、よろしくお願いします。」

鈴虫は自分の後孔をそのように比喩されてもあまり嬉しく無かったが、今度の男はあまり嗜虐的では無さそうな感じがしたので少しだけ心を緩める事が出来た。恐怖心や緊張が少なければ、場数の分だけ鈴虫にもがある。なるべく長く息を吐いて体を緩める。そうすると余計な抵抗がなく、割と楽に迎え入れる事が出来ることは経験上で知っているのだ。
先程の男が随分と長いこと挿入していたせいで多少は拡張されたのか、それとも今度の男に労わりの心があったのか、それともこの男が緊張感を持たせないようにしているのが伝わったのか。案の定、楽に体が受け入れて行った。

「…な、なむ…南無観世音菩薩…なむ…はぁぁぁ…浄土だ…」

くちゅり…くちゅ…くちゅり…と男は蕩けた顔を観衆に晒しながら律動を始めた。その動きはまったくもって単調なものだ。それはこの男に何の経験も無かった事に起因するのだろうが、先程まで者達の行為を観察していたとは思えない程に散々なものだった。当然、観衆としても何の見所も無く単調過ぎて面白くも無い。早いこと終わらないかと飽き飽きしてくるのが本音ではないだろうか。

「お~い、それじゃぁ夜が明けても終わんねぇぞぉ~」
「フハハハハハッ!現身様がお前の珍宝を咥え込んだまま寝ちまうぞ。」
「いやぁ、そんなんじゃ現身様も気色良くなれねぇよ!」
「ちゃんと見てなかったからやり方が分からないのか?こうだ、こう、もっと腰を突き出して、ほれ、ほれ。」
「はははっ、何だその屁っ放り腰は~!?」

「…はぁ!?黙ってろよ!俺だって本気を出せばだなぁ!よぉし、現身様を善がらせて見せようじゃないか!」

男は愚かにも観衆の煽りに乗った。初めてならば初めてなりに誠意を尽くせば良いものを、無駄な背伸びをしようというのだ。どう考えても先程の二十歳過ぎの二人と同じ様な技量が有ろう筈も無い。
そして有ろうことかこの男、兎角ありがちな間違いをしてしまったようだ。派手に腰を振ればそれがすなわち大きな快楽であると勘違いをしてしまったのだろう。パンパンと大きな音を立てて肌を打ち合わせながら自分の快楽だけを求めて只管に駆け上ろうとし始めた。

「ンッ!ンッ!…うぅん…ンッ!…ンッ!」

「さ、どうだね…激しかろう!ふぅっふぅっ…うわぁっ…はぁぁぁ…どうだッ!」

体ごと思いっきり揺す振られることで鈴虫は内臓が押し上げられるようで苦しかった。視界が揺れて目を開けていられない。頭や首にもその振動が伝わって吐き気がする。自ら口を塞いでしまったため、止めて欲しいと口にすることは出来なくなっていたが、苦しみを伝えるくぐもった悲鳴が喉の奥から止めどなく絞り出された。
しかし、それは生憎攻める側からすると、行為に感じ入っての嬌声とも受け取れるものでもあった。観衆もまた、派手な動きと、それに合わせて発せられる艶めかしい苦悶の息遣いを、脳を蕩かすほどの強烈な刺激として感じ取っているようだ。

「お妙様…あれは、さすがに…優しいとは言えないのでは?」

「…といって、やめろっていうんですか?無理でしょう?まぁ…大丈夫、あの手の子は呆気なく陥落するものよ。」

観衆が肌のぶつかり合う音に合わせるようにして己のイチモツに手を掛けて扱き始めた。音に合わせる事によって、まるで自分が挿入して快楽を得ているかのような錯覚に陥ろうとしているのだ。

「ふぅっ…はぁぁ…はぁぁ…あぁ、ど、どうだね…ふぅっ…おれは…も、もう…はぁぁぁもたねぇ…息がきちぃ…はぁはぁはぁ…うっ…全部がよぉ、温けぇ…じゅるじゅるでよぉ…手じゃ覆えない…全部がじゅるじゅるなんだよぉ…気持ちいい…あぁぁ…浄土だぁ…」

男は優しく可愛がるなんて言葉はすっかり頭の中から消えてしまったかのようだ。自分の欲するままに鈴虫の体を蹂躙するだけして勝手に尽き果てた。大袈裟に体を動かした分だけ血の巡りが良くなったのか、ドクン…ドクン…ドクン…と鼓動に合わせる様にして随分と長らく精液を放っているようだ。その恍惚の表情に相手への思い遣りなど微塵も無い。結局のところ、体だけの関係とは一時のものでしかないという事の証明をしたかのようなものだ。
男が体を離すと鈴虫はその場に崩れていった。やはり体の限界なのだろうか。風野は心配になってお妙の様子を見遣ったが、それでも端座したまま動こうとはしていない。もはや次の男が前へ進み出る前にどうにかして中断させるべきだ。風野は意を決して中に割って入った。

「ね、…現身様?大丈夫?…大丈夫じゃないよね?」

風野の問いに対して鈴虫はゆるゆると首を横に振った。この期に及んで助けを求めようという気は無いのだろうか。脱力した体を腕の中に抱き起すと、さらに首を横に振って風野に対して拒絶を示した。

「なんで…あっ!お妙様、ちょっと…」

風野はお妙を呼び寄せ手を取ると、鈴虫の鎖骨の辺りに添えさせた。

「まっ!随分と体が熱いわね。この子ったらまた…」

「…もう、やめませんか…」

しばらくお妙は口を閉ざしたままだった。
この場は暫し中断するとして、鈴虫を休ませてから様子を見て考えるべきだろう。そうでなければ本当に取り返しのつかない事になりかねないのだ。風野は縋るような眼でお妙の顔を覗き込んで言葉を待った。しかし、再び開いたお妙の口から発せられた言葉は風野を裏切るものだった。

「さ、お次の方は…何方でしょうか?申し訳ございませんが、出来るだけ手早くお願いします。」

風野の顔から一瞬にして表情が消えた。

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