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第三章
3-1
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「嘉平殿!嘉平殿!
屋敷の方へ回ったのだが誰もいらっしゃらないのかね。」
上ノ村の長の声で起こされた。
気付けば太陽も真上を通り越している。どうやら様子を聞き及んで上ノ村側から出向いてくれたらしい。嘉平は慌てて起き上がると身形を整えた。
「いやいや、忌子が噛まれたとお八重から聞きまして、色々と薬湯を見繕っておりましたが…。若い者達を予定通りにお集めになったとお聞きしたので三日間持つかと思っておりましたが、これは酷い事になってしまいましたなぁ!こんな事でしたらもっと急いでくるべきでした!まぁ、本当にご無理なさいましたなぁ…。可哀相に…様子を見させて下され。私に出来る事があれば良いのだけれど…」
「まぁ…なんとか三日間だけでもと思いましたが駄目でした。誠に申し訳ございませんでした。色々と手筈を整えて頂いたのに、ご期待に沿えない結果となってしまいました。本当に、本当に面目無い…」
「いや、そんなことは結構。それより大事な現身を亡くしては来年からが大変だ。遠慮は要りません。こんな時は助け合うものです。末娘の八重を連れて来ております。薬湯を早く飲ませて進ぜようと思いましてな。声を掛けても返事が無かったので、勝手に厨を使わせてもらってますよ。」
「ありがとうございます。母も疲れ切ってしまって…」
「まぁ、そうでしょう、そうでしょう。」
上ノ村長は眠る鈴虫の脈をとり始めた。熱を持った体の中を、トクン…トクン…と血の巡るのを感じ取る。薬湯が仕上がるまで、しばらくはこのままで良いだろう。上ノ村の長は鈴虫の手首を握ったまま話を続けた。
「この子は…数えで幾つになりましたかのぉ?雪虫が亡くなったのが十五年前の夏の終わり…という事は十五になったばかりでしょうか。それともまだ十四?」
「いえ、何日だったかはもう覚えてはおりません。あんな産まれ方をした子ですし、体の弱い者同士の掛け合わせでしたので、生まれて来てもまともに育つとは思えませんでした。あの時は情が移らないようにと思っておりましたから…この子の生まれた日は忘れてしまいました。…あの日の事はなるべく忘れてしまおうと…」
「いえね、そうじゃなくって、今回の事で思ったのですよ。忌子に盛りがついても十六、または十七…年齢は話し合って決めるとして、一定の年齢を超えるまでは現身の役目をさせるのを禁じる掟を新たに作るべきなのではないかと提案したい。」
嘉平は項垂れていた顔を上げて上ノ村の長を窺い見た。
その眼差しは我が子を愛おしむように優しい。上ノ村の長は本心から鈴虫の容態を案じているのだ。そして、今後このような事が二度と起こらないように、ここまでの道すがら考えて来てくれたのだろ来てくれたのだろ。
「…でも、そうするとこの村はまた誰からも顧みられることも無くなりましょう。…我々は十五年も耐えてきたのですぞ。畑仕事もまともに出来ないこの子にタダ飯を食わせて育てて来たんですぞ。」
「…ですから、その辺りも含めてより一層強固な連帯を持つという事を考えたいのです。嘉平殿もこの子に無理を重ねさせて殺してしまいたくはないでしょう。」
二人は口を閉ざした。
初老の男が二人、沈黙の内に思案を巡らせる。他の村からの同意が得られるかは分からないが、今の状況からすると援助が得られるならば願ってもない事だ。
「いえね、実は…うちの村の忌子が首を噛まれた件は嘉平殿もご存じであろう?あれが…いよいよ駄目になりそうなのです…。上ノ村にはもう一人忌子がいるが、噛まれればいずれ死んでしまうとなると、何らかの手を打たねばならないでしょう。鈴虫様も噛まれて高熱を出してしまわれたことですし、これは他人事で無いのですよ。お分かりいただけるか。」
「山梔子様…そんなに体調がお悪いのですか!?項を誰かに噛まれて気が触れてしまったとお聞きしていたが。あぁ…どのようにお悪いのでしょうか。よろしければ鈴虫の今後の事もありますので是非お聞かせ願いたい。」
「えぇ、お話ししましょう。鈴虫様は首ではなく、肩を噛まれたので全く同じではないかも知れませんが、知っておいて損は無いでしょう。でも…分からないのです…誰が噛んだのかは。あの子は何も話せませんので。」
上ノ村の長は普段の威厳のある顔付を忘れてしまったかのように、心細げに眉をひそめて事の次第を離し始めた。
上ノ村には山梔子と五月雨という双子の忌子がいた。
この忌子という者達、通常は四季の移ろいに合わせて一年に四度、七日間ほど観世音菩薩様の御光臨に預かる。その間は観世音菩薩様がいらっしゃる南海補堕洛浄土を地上に再現すべく、この世の物とは思えない甘美な芳香を漂わせ、その体からは甘露を滴らせるのだ。村々は、この一年に四度ある御光臨のうち一度だけ、体調の良さそうな時を選んで官吏の接待と村々の若者の煩悩を払うことに使わせてもらっていた。これ以外の三度の御光臨はと言うと、鈴虫の堂のようなところに閉じ込めるかして、誰にも会わせないようにして守るしかなかったのだ。
「…それが、鍵を掛けたはずなのに…鍵は屋敷にしまってあった筈なのにですよ。おかしな事もあるもので、誰かが忍び込んだのです。」
「鍵を掛けたのにですか!鍵は忌子を閉じ込めるためではなく、余所者の侵入を防ぐために大枚叩いて手に入れたんですよ。それが通用しない相手とは、まさか化け物では無いのでしょうか!」
「それも考えましたよ。何と言っても、格子窓からしか入れないと思うんです。でも、実際に山梔子は素性の知れない相手に犯されて、殴る蹴るの乱暴された挙句に首に噛み痕をつけられた!そして…下手人は分からないままです。」
「で…一番心配なのはご容態です。どのような感じなのでしょうか…」
「それが…日を追うごとに悪くなるのです。始めは触ると傷が痛むのかと思っておりました。しかし、どうやら違うのです。私も含めて、誰かに触れられると頭を押さえて苦しがったり、酷い時には吐いたりするのです。喚き散らしたり、逃げ回ったり…あんなに愛らしい子が…まるで狂人です。もう誰も触れる事が出来ません。」
嘉平は思わず固唾を飲んだ。ここに音も無く眠る鈴虫が、喚き散らして暴れる様になってしまうのだろうか。そう思うと心臓が凍る思いだ。
「あぁ…そして…もう山梔子は天上の芳香を失いました。あの甘い香りはいつになっても漂いません。」
「えっ!それはどうして…」
「分かりません。それでも盛りはついているようで、蜜を垂れ流しては見悶えているのです。それはもう…可哀相で…可哀相で…噛み傷から質の悪い病が入り込んだのかも知れません。本当に分からない事だらけで手に負えないのです。」
嘉平は鈴虫の首元に触れてみた。そこには佐吉が心を込めて結びつけた観世音菩薩様の護符がある。汗を吸って薄汚れて来てはいたが、そんなことは関係が無い。ここには愛するものを守る為の願いが込められているのだ。
嘉平はこの護符に改めて願いを込めた。どうか、鈴虫を山梔子のような体に変えないで下さい。どうか、この高熱から鈴虫をお守り下さいと…
コン、コン、と扉を叩く音がした。振り返るとお八重が戸口に立っている。どうやら薬湯が出来上がったようだ。
嘉平は辛い気持ちを押し隠し、出来る限りの笑顔を作ってお八重に挨拶をした。
「嘉平様、お邪魔しております。お妙様は余程お疲れの御様子、呼んでもお返事ありませんでした。眠ったまま起きてはくれませんね。こちらに薬湯、ご用意出来ました。さぁ、現身様に飲ませて差し上げましょう。」
「あぁ、この薬湯は相当に苦いので、あの、誰だったか…あの…薬を飲ませるのが上手だった…名前が出て来ん…」
「佐吉に御座います。佐吉は夜祭の進行に当たって貰っているのでおりません。…佐吉がいてくれたら、鈴虫は幸せに御座いましょうに…。ありがとう、お八重さん…本当に良く出来たお娘さんだ。喜一郎が馬鹿な真似をしなければ、こんな可愛らしくて気の利く娘さんが嫁に来てくれるはずだったなんてなぁ…。」
嘉平の口から思わず本音が漏れ出した。忌子の心配もあるが、嫁が来てくれないという心配もしなければならない。うんざりする程に心配事は積み重なってゆく。きっと、何もしなければ、何も変えなければ、この心配事は積み重なる一方で減ってゆくことは無いのだろう。思わず溜息が出た。
「嘉平殿!そんな訳で…どうでしょうか?この機会に村長を集めて、より強固な連帯を作り、悪質な噛み癖のある者の排除、そして忌子を失った村に対する相互救済策、忌子の年齢による制限などの新しい掟を作ろうじゃありませんか!」
嘉平の手を取り熱い口調で語る村長の目の中に、この十五年間の嘉平の苦労が過っていった。鈴虫とお八重は同じくらいの年頃だと言うのに随分と体つきが違うのだ。お八重のふくよかで健康的な美しさ比べると、素地は愛らしくとも窶れて血色の悪い鈴虫は哀れでしかない。きっと小さい頃から良い物を腹一杯に食べさせていれば、鈴虫ももっと丈夫な体になれはずだ。
何もしなければ何も変わらない、そう心の中で強く繰り返す。嘉平は上ノ村の長の手を握り返して頷いた。
「あぁ、それと…これ。こんな状態の時にお渡しするのは心苦しいのですが…これが無いともっとお困りになると思いますので差し上げます。」
上ノ村の長は掌ほどの木箱を差し出した。蓋を開けると赤い布にくるまれた何か乾燥した植物が入っている。嘉平はこれが何なのかすぐに理解したようだ。はっ、と息を飲んだまま何も言葉には出来ない。木箱を両手で恭しく受け取ると、唇を噛み締めて深々と頭を下げた。
※山梔子と五月雨=この「お伽話」、当初は「お伽話その壱」でした。その弐に書こうと思っていた登場人物なのですが、その壱が長くなりすぎてしまい、その弐がいつ書けるか分かりません。話の構想は出来上がってるんですが…。
屋敷の方へ回ったのだが誰もいらっしゃらないのかね。」
上ノ村の長の声で起こされた。
気付けば太陽も真上を通り越している。どうやら様子を聞き及んで上ノ村側から出向いてくれたらしい。嘉平は慌てて起き上がると身形を整えた。
「いやいや、忌子が噛まれたとお八重から聞きまして、色々と薬湯を見繕っておりましたが…。若い者達を予定通りにお集めになったとお聞きしたので三日間持つかと思っておりましたが、これは酷い事になってしまいましたなぁ!こんな事でしたらもっと急いでくるべきでした!まぁ、本当にご無理なさいましたなぁ…。可哀相に…様子を見させて下され。私に出来る事があれば良いのだけれど…」
「まぁ…なんとか三日間だけでもと思いましたが駄目でした。誠に申し訳ございませんでした。色々と手筈を整えて頂いたのに、ご期待に沿えない結果となってしまいました。本当に、本当に面目無い…」
「いや、そんなことは結構。それより大事な現身を亡くしては来年からが大変だ。遠慮は要りません。こんな時は助け合うものです。末娘の八重を連れて来ております。薬湯を早く飲ませて進ぜようと思いましてな。声を掛けても返事が無かったので、勝手に厨を使わせてもらってますよ。」
「ありがとうございます。母も疲れ切ってしまって…」
「まぁ、そうでしょう、そうでしょう。」
上ノ村長は眠る鈴虫の脈をとり始めた。熱を持った体の中を、トクン…トクン…と血の巡るのを感じ取る。薬湯が仕上がるまで、しばらくはこのままで良いだろう。上ノ村の長は鈴虫の手首を握ったまま話を続けた。
「この子は…数えで幾つになりましたかのぉ?雪虫が亡くなったのが十五年前の夏の終わり…という事は十五になったばかりでしょうか。それともまだ十四?」
「いえ、何日だったかはもう覚えてはおりません。あんな産まれ方をした子ですし、体の弱い者同士の掛け合わせでしたので、生まれて来てもまともに育つとは思えませんでした。あの時は情が移らないようにと思っておりましたから…この子の生まれた日は忘れてしまいました。…あの日の事はなるべく忘れてしまおうと…」
「いえね、そうじゃなくって、今回の事で思ったのですよ。忌子に盛りがついても十六、または十七…年齢は話し合って決めるとして、一定の年齢を超えるまでは現身の役目をさせるのを禁じる掟を新たに作るべきなのではないかと提案したい。」
嘉平は項垂れていた顔を上げて上ノ村の長を窺い見た。
その眼差しは我が子を愛おしむように優しい。上ノ村の長は本心から鈴虫の容態を案じているのだ。そして、今後このような事が二度と起こらないように、ここまでの道すがら考えて来てくれたのだろ来てくれたのだろ。
「…でも、そうするとこの村はまた誰からも顧みられることも無くなりましょう。…我々は十五年も耐えてきたのですぞ。畑仕事もまともに出来ないこの子にタダ飯を食わせて育てて来たんですぞ。」
「…ですから、その辺りも含めてより一層強固な連帯を持つという事を考えたいのです。嘉平殿もこの子に無理を重ねさせて殺してしまいたくはないでしょう。」
二人は口を閉ざした。
初老の男が二人、沈黙の内に思案を巡らせる。他の村からの同意が得られるかは分からないが、今の状況からすると援助が得られるならば願ってもない事だ。
「いえね、実は…うちの村の忌子が首を噛まれた件は嘉平殿もご存じであろう?あれが…いよいよ駄目になりそうなのです…。上ノ村にはもう一人忌子がいるが、噛まれればいずれ死んでしまうとなると、何らかの手を打たねばならないでしょう。鈴虫様も噛まれて高熱を出してしまわれたことですし、これは他人事で無いのですよ。お分かりいただけるか。」
「山梔子様…そんなに体調がお悪いのですか!?項を誰かに噛まれて気が触れてしまったとお聞きしていたが。あぁ…どのようにお悪いのでしょうか。よろしければ鈴虫の今後の事もありますので是非お聞かせ願いたい。」
「えぇ、お話ししましょう。鈴虫様は首ではなく、肩を噛まれたので全く同じではないかも知れませんが、知っておいて損は無いでしょう。でも…分からないのです…誰が噛んだのかは。あの子は何も話せませんので。」
上ノ村の長は普段の威厳のある顔付を忘れてしまったかのように、心細げに眉をひそめて事の次第を離し始めた。
上ノ村には山梔子と五月雨という双子の忌子がいた。
この忌子という者達、通常は四季の移ろいに合わせて一年に四度、七日間ほど観世音菩薩様の御光臨に預かる。その間は観世音菩薩様がいらっしゃる南海補堕洛浄土を地上に再現すべく、この世の物とは思えない甘美な芳香を漂わせ、その体からは甘露を滴らせるのだ。村々は、この一年に四度ある御光臨のうち一度だけ、体調の良さそうな時を選んで官吏の接待と村々の若者の煩悩を払うことに使わせてもらっていた。これ以外の三度の御光臨はと言うと、鈴虫の堂のようなところに閉じ込めるかして、誰にも会わせないようにして守るしかなかったのだ。
「…それが、鍵を掛けたはずなのに…鍵は屋敷にしまってあった筈なのにですよ。おかしな事もあるもので、誰かが忍び込んだのです。」
「鍵を掛けたのにですか!鍵は忌子を閉じ込めるためではなく、余所者の侵入を防ぐために大枚叩いて手に入れたんですよ。それが通用しない相手とは、まさか化け物では無いのでしょうか!」
「それも考えましたよ。何と言っても、格子窓からしか入れないと思うんです。でも、実際に山梔子は素性の知れない相手に犯されて、殴る蹴るの乱暴された挙句に首に噛み痕をつけられた!そして…下手人は分からないままです。」
「で…一番心配なのはご容態です。どのような感じなのでしょうか…」
「それが…日を追うごとに悪くなるのです。始めは触ると傷が痛むのかと思っておりました。しかし、どうやら違うのです。私も含めて、誰かに触れられると頭を押さえて苦しがったり、酷い時には吐いたりするのです。喚き散らしたり、逃げ回ったり…あんなに愛らしい子が…まるで狂人です。もう誰も触れる事が出来ません。」
嘉平は思わず固唾を飲んだ。ここに音も無く眠る鈴虫が、喚き散らして暴れる様になってしまうのだろうか。そう思うと心臓が凍る思いだ。
「あぁ…そして…もう山梔子は天上の芳香を失いました。あの甘い香りはいつになっても漂いません。」
「えっ!それはどうして…」
「分かりません。それでも盛りはついているようで、蜜を垂れ流しては見悶えているのです。それはもう…可哀相で…可哀相で…噛み傷から質の悪い病が入り込んだのかも知れません。本当に分からない事だらけで手に負えないのです。」
嘉平は鈴虫の首元に触れてみた。そこには佐吉が心を込めて結びつけた観世音菩薩様の護符がある。汗を吸って薄汚れて来てはいたが、そんなことは関係が無い。ここには愛するものを守る為の願いが込められているのだ。
嘉平はこの護符に改めて願いを込めた。どうか、鈴虫を山梔子のような体に変えないで下さい。どうか、この高熱から鈴虫をお守り下さいと…
コン、コン、と扉を叩く音がした。振り返るとお八重が戸口に立っている。どうやら薬湯が出来上がったようだ。
嘉平は辛い気持ちを押し隠し、出来る限りの笑顔を作ってお八重に挨拶をした。
「嘉平様、お邪魔しております。お妙様は余程お疲れの御様子、呼んでもお返事ありませんでした。眠ったまま起きてはくれませんね。こちらに薬湯、ご用意出来ました。さぁ、現身様に飲ませて差し上げましょう。」
「あぁ、この薬湯は相当に苦いので、あの、誰だったか…あの…薬を飲ませるのが上手だった…名前が出て来ん…」
「佐吉に御座います。佐吉は夜祭の進行に当たって貰っているのでおりません。…佐吉がいてくれたら、鈴虫は幸せに御座いましょうに…。ありがとう、お八重さん…本当に良く出来たお娘さんだ。喜一郎が馬鹿な真似をしなければ、こんな可愛らしくて気の利く娘さんが嫁に来てくれるはずだったなんてなぁ…。」
嘉平の口から思わず本音が漏れ出した。忌子の心配もあるが、嫁が来てくれないという心配もしなければならない。うんざりする程に心配事は積み重なってゆく。きっと、何もしなければ、何も変えなければ、この心配事は積み重なる一方で減ってゆくことは無いのだろう。思わず溜息が出た。
「嘉平殿!そんな訳で…どうでしょうか?この機会に村長を集めて、より強固な連帯を作り、悪質な噛み癖のある者の排除、そして忌子を失った村に対する相互救済策、忌子の年齢による制限などの新しい掟を作ろうじゃありませんか!」
嘉平の手を取り熱い口調で語る村長の目の中に、この十五年間の嘉平の苦労が過っていった。鈴虫とお八重は同じくらいの年頃だと言うのに随分と体つきが違うのだ。お八重のふくよかで健康的な美しさ比べると、素地は愛らしくとも窶れて血色の悪い鈴虫は哀れでしかない。きっと小さい頃から良い物を腹一杯に食べさせていれば、鈴虫ももっと丈夫な体になれはずだ。
何もしなければ何も変わらない、そう心の中で強く繰り返す。嘉平は上ノ村の長の手を握り返して頷いた。
「あぁ、それと…これ。こんな状態の時にお渡しするのは心苦しいのですが…これが無いともっとお困りになると思いますので差し上げます。」
上ノ村の長は掌ほどの木箱を差し出した。蓋を開けると赤い布にくるまれた何か乾燥した植物が入っている。嘉平はこれが何なのかすぐに理解したようだ。はっ、と息を飲んだまま何も言葉には出来ない。木箱を両手で恭しく受け取ると、唇を噛み締めて深々と頭を下げた。
※山梔子と五月雨=この「お伽話」、当初は「お伽話その壱」でした。その弐に書こうと思っていた登場人物なのですが、その壱が長くなりすぎてしまい、その弐がいつ書けるか分かりません。話の構想は出来上がってるんですが…。
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