この大地に花束を

蘇鉄

文字の大きさ
2 / 14

2 予感

しおりを挟む
 そこから数百年過ぎた。
 もうこの時点で人間から逸脱したし、色々諦めがついた。十年過ぎたあたりでなんかおかしいなとは思ったんだよ。
 手遅れだったけどな。
 オパール色のドラゴンはすごいドラゴンだったらしい。虹龍という最高位のドラゴンで、ドラゴンを纏める女王陛下という存在だ。
 そのドラゴンが連れて来たので、俺は人間でありながら息子という扱いになった。
 名前はシデン。
 ドラゴンの母乳で育っているので肉体はもう人間を逸脱している。というかほとんどドラゴンだ。人間の姿形をして、翼がないだけの。
 なにせ内臓関係に至るまでドラゴンのものと交換されている。だから心臓含めて丸っと全部、人間のものじゃない。
 おかげさまで両目はそれぞれ違う魔眼だし、身体に流れる血液でさえドラゴンだ。
 俺としては人間として勝手に死ぬだろ、ぐらいの感覚だったのだが虹龍含めた他のドラゴンが人間の脆弱さを嘆き、過保護になった。
 そりゃあドラゴンと比べたらダメだろって話なんだがドラゴン達にとっては虹龍が連れて来た息子がか弱い!なんとかせねば!って使命感が出ちゃったらしい。
 あらゆるドラゴンから少しずつ色んなものを提供してもらった結果、無事に人間を卒業した。
 免疫関係とか身体の拒絶反応とかあると思ったんだけどなぁ。ファンタジーって便利だ。
 そんなわけで俺は様々なドラゴンがミックスされたとんでもドラゴンである。相性がどうのこうのっていう問題で貰うやつは基本、虹龍が認めた優秀なやつだけ。
 そんな選定されしものをチマチマ貰っているのでとんでもねえハイブリットが爆誕した。
 とはいえそうでもしないと数年も生きられない場所だったからしょうがない。
 ドラゴン達が住んでいる場所はラスト・ニルと呼ばれる高く険しい山だ。
 その頂上に住んでいるものだから当然空気は薄いし、寒い。山の周りには常に雲海があるようなレベルだ。
 絶望的に人間が暮らせるような生活環境じゃない。赤子の俺がよく死なないでたどり着けたなと思うし、数年なら生きられるような状態だったのが奇跡だ。
 今じゃ走り回っても平気だけど。
 そんなわけで。
 俺は今、虹龍の末の息子としてドラゴン達と共に生活していた。
 相当な高度にある為、山には常に冷たい風が吹き抜ける。加えて遮るものがない強風が複雑な風の流れを生み出しているのでドラゴンのような強靭な肉体がないと山に降り立つことすらできないのだ。
 そんなドラゴン達の棲家である山の頂上はカルデラになっていて頂上を越えると下に降れる。
 だから一番高い場所はカルデラの端の部分だった。
 俺はそこをお気に入りの場所としている。
 雲海が広がる光景は何度見ても飽きないし、自然の風は心地よい。
 だから、今日も今日とて飽きもせず、いつもの場所で座っていたのだが。
 昼を少し過ぎたあたりだろうか、バッサバッサと風を叩く音が耳に届く。
 振り仰ぐと複数のドラゴンがこちらに降りてくるところだった。
 成熟したドラゴンよりは遥かに小さいドラゴン、幼獣のドラゴンだ。
 とはいえドラゴンの端くれであるので俺よりはデカい。象並みにサイズあるし。
『シデン、シデン』
 いつもならきゃらきゃらと俺にまとわりついてくるチビどもなのに今日は不思議と戯れついてこない。
 俺は小首を傾げた。
「どうした、チビども」
『たいへん、シデン。にんげんがきたよ』
「人間?」
 人間が来た。
 それは確かに非常に珍しい事だ。幼いドラゴン達は口々に言い募った。
『それもいっぱい、れつをならべてきたの』
『あれ、ごちそうかな。たべていいのかな』
『みんな、みんなきになってる!』
「うーん、物騒」
 ドラゴンにとって人間は下等生物だ。
 彼らにとって人間とは餌代わりに摘めるおやつみたいなもの。自分達と同じ目線に立つ事はない。
 脆弱で、時に鬱陶しい下等生物。
 ちなみに人間の姿形こそしているものの、人間からは逸脱しているシデンはドラゴン達にとっては自分と同じ、という認識になるらしい。
 だからシデンのことをドラゴンだと迷いなく言うし、人間と同一視はしない。人間の見た目なのに。
 明らかに見た目からして違うんだが、どういう認知方法なんだろうか。飛べない同族、ぐらいにしか思われていない。
 これが事情を知っているドラゴン達ならまだわかるが、生まれたての雛にすら同族認識されるのでもう完全に人間を逸脱しているんだろう。匂いとかも違うのかもしれないな。
 それはともかく。
「とりあえず飯じゃねぇから食うなよ。食ったら母さんや兄さん達にどやされるぞ。尻尾を引きちぎられたくなけりゃ、大人しく見てるんだな」
『えー、あんなにいるのに』
『でも、じょーおーさまおいかりになったらこわいよ』
『おこられるのやだなぁ』
 俺の母さん、虹龍はドラゴン達をまとめる女王陛下だ。チビどもにとっては身近だが恐ろしい相手だろう。
 ぶっちゃけ俺も怖い。
 怒られるような余計な事はしないのが一番だ。ドラゴンは恐ろしく厳しい上下関係の世界なので上の立場にいるドラゴンの怒りを買うと問答無用で殺されるし。
 その辺り野生的というか弱肉強食の世界なんだよなぁ。
 無事にチビどもをビビらせることに成功した俺の元に風を叩く大きな音がした。
 チビどもが来た時とは明らかに質量が違う。大きな影が俺達を覆った。
 上を見上げると一体のドラゴンが旋回しながら此方に向かってくる。
「あ?」
 チビどもが歓声をあげた。
『ヘルシングさまだー!』
『わーい、ヘルシングさまがきた!』
 それは嵐の色をしたドラゴンだった。濃い灰色と薄い灰色が複雑に入り混じった色味を持つ鱗。黄金の目をした美しく雄大なドラゴン。
 暴風のヘルシング。
 自然災害レベルの力を持つ、虹龍の息子。
『シデン』
 嵐のようなドラゴンは俺の目の前に降り立った。大きな顔が近づいて、犬か猫のように顔をこすりつけてきた。俺も応えるように顔を寄せて腕を伸ばしてその大きな顔を撫でる。
「どうしたんだよ、ヘル兄さん」
『お前を迎えに来た。母上が呼んでいる』
「母さんが?」
 ドラゴンの女王陛下が俺を呼ぶ。何の要件だろう?
 ヘルシングも何も知らされていないらしく、俺と同じように首を傾げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...