この大地に花束を

蘇鉄

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5 雨の中

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 しばらくして、ゆっくりと降り出した雨は大粒の雨となって地面を叩き出した。鬱蒼と生い茂る樹々の間を抜けて、葉を叩く雫の音が周りの音をかき消していく。
 ラスト・ニルなら他のドラゴン達と一緒に雨音を聴きながら微睡むところだが、此処にはいない。
 生まれてこの方、ドラゴンに囲まれていた時間の方が長かったので非常に落ち着かなかった。
 あと落ち着かない原因がもう一つ。
「……濡れるぞ」
 ガルシアである。
 張ったテントに入れば良いのに、この男、わざわざ外に出て俺を見上げている。
 馬鹿だろ。絶対風邪引くと思うけど。
 いや、馬鹿だから引かないのか?
「君も同じ事だ」
「このやりとり面倒くせぇなぁ、もう」
 少ししか行動を共にしていないがガルシアが頑固なのは嫌というほどわかってきた。
 俺は諦めて腰掛けていた大樹の枝から無造作に落ちる。
 難なく着地するつもりだったのに、俺の身体はガルシアにキャッチされていた。
 なんで?
 ガルシアを見下ろす。
 美丈夫は焦ったような顔をしていた。
「危ないだろう!落ちる時はちゃんと先に申告をしてくれ」
「マジかよ、俺の事なんだと思ってんだ?か弱い人間と一緒にすんなって言ってんだろうが」
 俺は深窓のご令嬢か?
 兄さん達に過保護にされるのとは訳が違う。ひくり、と自分の口の端が引き攣った。
 ぶん殴ってやろうか。本気で。
 そんな風に考え込んでいたら、ガルシアに抱えられたままテントの中に連れ込まれた。
 中には分厚い布が敷かれていて、クッションまで置かれている。
 とす、と降ろされてそのままガルシアが隣に座った。
 俺は、無防備そのものの相手に手を伸ばす。
 ガルシアの厚い胸元に手を置いて、力を込めれば思いの外、簡単に男は倒れ込んだ。
 俺は分厚い身体を跨ぐ。
 腹が立つほど端整な顔立ちに顔を寄せて、俺は囁いた。
「あまり俺を侮るなよ、人間。【貴様】の行動は侮辱行為と取られても反論できねぇぞ」
「侮辱しているつもりはない。誠実に対応している」
「はっ!誠実ね!便利な言葉だな、監視役だと言うならいっそのこと鎖でもつけたらどうだ?そちらの方がまだ気分はマシだろうよ」
 こちとらドラゴンだ。
 人ならざる目でもって覗き込んでやれば人間なぞあっという間に化けの皮を脱ぐ。
 そして俺の片方の目は視たものの深層心理や記憶を覗ける力があるのだが、覗き込んだガルシアからは俺に対して庇護欲のような、ふわふわしたものしか感じられなかった。
 感情はぼんやりとした色合いでしかわからないので、俺が勝手に予測するしかない。
 つか、こういう感情って子猫だの子犬だのに抱くものじゃねぇのか?
 やっぱり馬鹿にしてる?
 とはいえ悪感情であれば色が濁るのでわかりやすい。それが見当たらないとなると、ガルシアに俺に対して害意を感じていないことになる。
 思わず顔が歪んだ。
 そのまま身体を起こそうとするが、背中に回った太い腕に阻まれた。ぐ、とその胸に顔を押し付ける羽目になる。
 押し付けられた耳が、とくとくと心臓が動く音を拾った。
 ガルシアが話し出す。
 静かな言葉だった。
「不快にさせているのは理解している。君にとって、この状況は不本意なものなのだろう。誰だって監視されて良い気はしないからな。だが俺は、君の事を放っておけない。君の事を助けたい。それだけだ」
 ざあざあと雨の音が俺達を包む。
 俺は顔を上げてガルシアを見た。彼もまた、俺を見る。
「イかれた人間だ。心の底からそう思うぜ。初対面だろ、関係なんて何もないくせに」
「それでも、だ。君に何かを求める事はない。ただ、信じて欲しい。君を侮ることはしていない。君が強いのは理解しているが人間の世界は不慣れだろう?だから俺を利用すれば良い」
 人間は嘘をつく生き物だ。
 ドラゴンの中でも人間の凶暴さと、ずる賢さはよく伝わっていた。頂点の母さんも、人間の愚かだと見下しながらも油断していないのがその証拠だ。
 人間と契約しているのもその辺りに理由がある。
 実際、自分の夫を殺されている訳だしな。人間は、侮れない存在だと知っている。
 目の前にいるガルシアも、ドラゴンを殺せる。
 いる、という事実だけでドラゴン達を牽制できてしまえるほどの強者。
 有象無象の中から圧倒的強者が出る。
 その恐怖は、ドラゴン達にしかわからないだろう。
 俺は笑った。
 人間にとってもドラゴンは恐ろしいが、彼らにとっては利用できる存在だ。
 強かで大変結構。利用するのはお互い様だ。
 せいぜい俺に優しくすると良いさ。
 そうすれば女王陛下の母さんに口利きしてもらえる可能性があるからな。
「お互い様だ、ありがたく利用させてもらうとしよう」
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