追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん

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第9話 龍姫の誓いと仲間入り

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夜の森をしばらく歩いたあと、ようやく三人は焚き火を囲んで腰を下ろした。  
戦いの気配の残る山脈を離れても、空気の張りつめた緊張はなかなか解けない。  
リアナは静かに祈りの言葉を唱え、リュシアは膝を抱えて炎を見ていた。  
そしてカイルは、静かに自分の右手――火傷の痕を見つめていた。鍛冶場では何度も焼けてきた手だが、あの夜の戦いでできた跡は少し違う。まるで何かに刻まれた印のようだった。  

「その手……」  
リアナの声が響く。  
「もう痛くないけれど、理由はわからないんだ。ただ、あの時から鉄の音が鮮やかに聞こえるようになった」  
「それが“理鍛”の覚醒なのですね」  
リアナは優しく微笑む。「あなたの力は、人々が忘れてしまった“創造の原理”そのもの」  

「難しい話は苦手だ」  
カイルは片手で火をかき混ぜながら、少し照れくさそうに言った。  
「俺にあるのは職人の癖だけさ。目の前で壊れたものを直したくなる、それだけだ」  
「それこそが強さです」リアナの声が温かい。「壊れたものを恐れない人は、世界を作り直すことができる」  

「……人間は不思議ですね」リュシアが呟いた。瞳は炎を見つめている。  
「どうした?」カイルが聞く。  
「我ら龍種の“創造”とは、命に刻まれた記憶を次へ受け継ぐことです。だがあなた方人は、いま無きものを形にする。存在しない未来を打ち出す。……それが少し羨ましい」  

リアナは視線を上げた。「あなたも人を信じる日が来ると思いますよ」  
リュシアは微かに笑みを浮かべる。  
「もう信じました。あなたたちを。そして何より――」  
彼女は焚き火を跨ぎ、カイルの前に立った。  
「鍛冶師よ、今ここに我が名をもって誓います。龍族の血にかけ、あなたの刃となり、あなたの炉の火となる」  

カイルは目を丸くした。「誓うって……この前の“忠誓”ってやつか?」  
「ええ。だがこれは正式な誓いです。龍の炎はあなたの炉に繋がり、あなたの火は私の心臓に通じる」  
「それって、つまり……」  
リアナが口を挟む。「魂の契約、ですね。二人の間にお互いの力が流れ合う。片方が傷つけば、もう一方も痛みを共有するほどに」  

「そんなの危険じゃないのか」  
カイルが言うと、リュシアは静かに首を横に振った。  
「危険でも構わない。父が信じたあなたの火を、私も感じた。あの刃の強さは、争いのためではなく守るためのもの。ならば我が炎を賭ける価値がある」  

カイルは黙り込んだ。焚き火の火の粉が夜空に舞い上がり、しばらくの間、何も聞こえなかった。  
そして彼はゆっくりと立ち上がり、手を差し出した。  
「じゃあ、お前の火を預かる。“仲間”として」  
「仲間……?」  
「そうだ。俺は王国の誰からも否定されたけど、お前たちは俺を信じた。リアナも、リュシアもな。だから、これからは一緒に鍛えるんだ」  

リュシアは唇を震わせ、やがて微笑した。  
「……わかりました。人の言葉では、それを“絆”と呼ぶのでしょう?」  
「そうだな。俺たちはチームだ。聖女と龍姫と鍛冶師、悪くない組み合わせだろ」  
リアナが笑いをこらえながら言う。  
「ええ。でも村の人が見たら腰を抜かすと思いますよ。伝説の存在が“チーム”なんて」  

三人の笑い声が静かな森に広がる。  
それはまるで、新しい時代の始まりを告げるようだった。  



翌朝、彼らは村への帰路についた。山を下りる途中で、視界いっぱいに懐かしい緑が広がる。煙が上がっているのが遠くに見えた。  
「……嫌な予感がする」  
カイルの声が低く響いた。  
村の方向からは、かすかに魔導火薬の匂いが漂っていた。  

急いで駆け下りると、村は炎に包まれていた。  
結界を守るはずの青銀の剣が、誰かの手で引き抜かれている。  
その前で指揮を執っていたのは、あの男――ベルノート公爵だった。  

リアナが息を飲む。「あの人……王国の大貴族……!」  
ベルノートは冷たく笑い、彼らに気づくと声を張り上げた。  
「ようやく現れたな、化け物ども! 今度こそその神器と共に捕えさせてもらう!」  
背後には、黒衣の魔導師たちが並んでいた。王国直属の禁呪師団――かつて王の命を無視してまでも神器を追い求めた狂信的な術師集団。  

カイルの瞳が冷たく光った。  
「……またお前か。人を追い出しておいて、今度は剣を奪いに来るのか」  
「貴様の作った神器は、神の力を模倣する冒涜の産物! その力を管理するのが王国の義務だ!」  
「力を管理だと? 本当は欲しいだけだろう」  

ベルノートは唇を歪めた。「どう受け取ろうと構わん。今さら貴様らに選択肢などない」  
禁呪師たちが一斉に詠唱を始める。紫の光陣が村を覆い、空から無数の魔弾が降り注ぐ。  

「下がれ、リアナ!」  
カイルが剣を抜くと、リュシアの炎が彼の両腕に宿った。青銀の刃が紅に染まり、光の波を巻き起こす。  
斬撃が走り、空を裂いた。  
膨大な魔弾が一瞬で溶け、高熱の蒸気となって消える。  

リュシアが声を放つ。「カイル、力を貸す! 我が炎を完全に解放する!」  
「制御できるのか?」  
「あなたになら託せる!」  

次の瞬間、火炎が螺旋を描いた。空が夜のように赤く染まり、剣が龍の咆哮を上げる。  
ベルノートが目を見開く。「馬鹿な……神器が自ら意思を持つなど!」  

リアナが両手を合わせ、祈りの光を放つ。「今です、カイル!」  
踏み込み。衝撃。地面が割れ、光と炎が融合する。  

村を覆う結界が再び輝き、禁呪師たちの陣を打ち消した。  
突風が走り、あたりは一面の静寂。  
ベルノートが後ずさる。「貴様……本当に人間か……?」  
カイルは剣を肩に担ぎながら答えた。  
「俺はただの鍛冶師だよ。だが、“守る”と決めた火は誰にも消せない」  

静かに、村を照らす朝日が昇る。  
リアナが涙を拭いながら微笑んだ。  
「もう、あなたがどこにいてもこの世界の火は絶えませんね」  
「それは困るな。燃えすぎると寝られない」  
カイルの冗談に、リュシアが淡く笑う。  
「なら、私の炎で静かな夜を保ちましょう」  

戦いの傷跡が残る村で、それでも人々は彼らを見上げていた。  
誰もが理解していた。  
彼が本当に“守り火”の鍛冶師であることを。  

その日、聖女リアナと龍姫リュシア、そして鍛冶師カイルの名は――  
辺境を救う“三つ火の守護者”として語られ始めた。
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