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転生、そして女神との出会い
初戦闘
しおりを挟む森に入るまでは、村の門を通らなければならない。
いくら小さな自治体とはいえ、安全管理はしっかりしているのだ。
(魔物が生息している森が近くにあるということもあって、こういうところもしっかりしているな。)
門番もいる。
俺は、彼の身体をまじまじと見てしまった。
腕の筋肉は丸太のようにパンパンに腫れ上がっているし、胸筋は女性のそれよりも大きいのではないかと感じさせるほどだった。
終いには、首が頭と一体化していた。
首の筋肉を鍛えすぎたようで、服の上から見ることが出来なかった。
筋骨隆々だしボディビルの大会にでもでれば優勝かそれに近いところまでいけるんじゃないかと思った。
それに加えて、なぜか上半身に着ているものはなかった。
(見せつけたいのか?カッコいいとは思うけど、それだけの筋肉をどこで使うんだろう。)
門番の風格はあるから、それで問題ないのかもしれない。
「お、坊主。大きな袋を持ってどうした?森に採取でもしに行くのか。」
「はい。今日は誕生日で10歳になったので村の外に散策に行ってみようと思って。」
顎に手をあて、考える男になる門番。
数秒の沈黙の後、
「まあ、大丈夫だろ。魔物にだけは気をつけろよ。あいつら最近気性が荒くなっているって報告があったからな。」
「分かりました。絶対に魔物には近づきません。ご忠告有難うございます。」
そんなところで、俺は門番から解放され森へ向かった。
村から森までは、1kmあるかないかの歩いて行ける距離にある。
(この世界、車なんてないからな。どちらにしろ歩くしかないことには変わりない。)
10歳の子供が歩いていくには少し長いなと思うくらいだ。
ただ歩くのは暇だから、森の生態系について考える。
前世とは違って、魔物が存在している。これがまず、一つ決定的な違いである。
ということは、ほかにも植物進化にも特徴的な変化があるのではないかと思う。
魔物に食べられないように嫌なにおいを出したり、見つからないよう風景に擬態できる植物があってもおかしくはない。
とにかく、未知の世界に入ろうとするのは楽しみだ。
俺は、一人で森に入って行った。
森の中は、言うまでもないが木がたくさんあった。見たことのない草や、キノコがいっぱいあった。
その中に美味しそうでたまらないキノコがあって、口にしたら小一時間強制的に踊らされてしまった。
(踊り草なんてものもあるのか。
外の世界は知らないことばかりだな。)
8年間村の中でしか生活していなかったから、身体だけでなく心も踊ってしまう。
(いやぁ、異世界って最高だ!)
俺は、森の中をステップしながら歩いた。
幸運にも魔物に出会わなかっただけだというのに……
俺は、正直この森を舐めていたのだろう。
このあと起きる事件に巻き込まれるなんて考えても見なかった。
その後も、キノコ採集だったり、見たことのない動物を捕まえたりして楽しんだ。
ホクホク顔で家に戻ろうとすると……
少女がゴブリンに襲われていた。
(まじかよ……何だよ、いるじゃねえか。
しかも、女の子が襲われているなんて、漫画みたいな展開付きだし。)
少女は、前世でであったどの女性よりも美しかった。
まるで、二次元の世界から飛び出してきたような見た目をしていた。
赤い色の髪の毛に、大きく開いたぱっちりとした目、鼻は高く俺の鼻の二倍くらい高いんじゃないかと錯覚したくらいだ。
唇はバラの花のように赤く、彼女の声は人をひきつけるようなものだろうと感じた。
身体は、まだ”少女”という感じだったが、均整のとれたプロポーションで将来とんでもない美人になるだろうことは、想像するのは簡単だった。
会社員時代、最後に好きになった女性もとてつもなく美人だったが、少女はそれよりもずっと……俺の目には輝いて見えた。
(って、のんきに見とれている場合じゃねえだろ!
女の子が襲われているんだぞ!しかも、ゴブリンに。ゲームとか小説では最初のストーリーでよく出てくるモンスターだったけど、意外と強いんだよな。
確か、スタート時点では割と頑張らないと倒せなかったはずだったよな。)
魔物が出るということは聞いていて、なるべく見つからないようしていたが、こんな帰宅する直前で遭遇するなんて俺は、相当運が悪いみたいだ。
(しかも、この状況。見逃せるわけねえ!)
ゲームや小説の世界では、残念ながら捕まってしまった女性はゴブリンの餌とされる。
最初は、身体をもてあそばれいたぶられて、たっぷりと堪能されるのだ。やつらは、運動してさんざん楽しんだら、次に腹が減ったといわんばかりに女性を食い物にする。
一息に殺してくれればまだ楽なのかもしれないが、少しづつちぎられながら食べられていくのだ。
身体をちぎられるなんて感覚は分からないし、分かりたくもないが想像を絶する痛みなのだろう。あの少女も捕まってしまえば、そんな運命をたどることになる……
(それはだめだ。目の前で女の子が今にも襲われる寸前なんだ。
誰かが助けなきゃ……。誰か周りに大人は居ないのか?)
見渡す。しかし、人がいるような様子はない。ここは森の入口付近。恐ろしい魔物がいると知っているならば、誰もここに来ようとは思わないだろう。
もし用事があって来るとしても、子供一人できていい場所ではないのは確かだ。
(だけど、きちまった。こんなことになるなら森に近づかなきゃ良かった。
ちょっと中に入ってすぐ帰れよ!俺はバカだ!)
助けは多分来ない。放っておけば少女はゴブリンに慰み者にされる。
(助けに行くべきか?)
でも、俺はまだ10歳で身体も鍛えていない。それに、身長も気持ち高くなったくらいで身体も小さくて自分でも思うが頼りない。
そんなやつが、小さくても人よりも強い力を持つ魔物と戦ってもまともな戦闘になるとは思えない。
助けたい。その気持ちはあるけど、俺ごときがあいつらと戦うっていうならちょっと骨が折れるくらいは覚悟しなきゃならない。
それで済めばいいが、下手をすれば死んでしまうかもしれない。
(俺が行っても意味ないんじゃないか?だって助けられる保証はないし、普通に考えて人間と魔物だぞ?勝てるわけねえ。)
俺は異世界最強の魔法使いでもないし、剣を持たせれば一騎当千。なんてわけでもない。
昔も今も変わらない、ただの男だ。何もできなわけじゃない、けれど誰からも羨望されない。
見なかったことにして、俺はまだ見つかっていないから今逃げれば大丈夫。安全だ。
このまま家に帰って、採取した草やキノコを両親に見せてあげよう。
彼らは、森に入ったことがないって言っていたから喜ぶだろう。
言いつけを守らなかったから、少し怒られるかもしれない。父親に殴られるかもしれない。
森は危険だとさんざん言われていたからな。
それでも、ここで勝てない勝負に挑んで無様に死ぬよりはいいだろう。
今のままいけば、普通に生きて普通に成長して普通に幸せな人生を送ることは可能だろう。
友人だって出来たしな。いつかは恋人もできるだろう。俺は転生して、変わったんだ。
少女には申し訳ないけど、あとで必ず誰か強い大人を連れて助けに来るから、少し待っていてほしい。
最後に、一目見て踵(きびす)を返そうとする。
形だけでも謝っておこう。そんな気持ちだった。
彼女の目を見た。怯えた目だった。何かに疲れてしまって、生きる希望が見つからなくて自分はどうなってもいいといいたいような生気のない目だ。
だけど、俺には見えた。重ねてしまった。いつか見た目だ。
色々頑張ったけど、何者にもなれなくて適当に生きていた俺だった。
鏡でいつも見ていた、つまらない人生を送っていた俺だった。
(俺は普通になりたかったわけじゃない。)
普通に生きるだけじゃなくて、誰かにとっての”特別”になりたかったんだ。
ここで逃げたら、俺は……。
今度は、困っている人も助けることができない、そんな”つまらない普通の男”になってしまう。せっかく転生しているのに、それで終わってしまうのは嫌だ。
(彼女を助けることが出来たら、もう少し頑張ってみよう。)
前世ではあきらめてしまった。投げ出してしまった。
叶うことのなかった、夢を追いかけることを。
俺は、ヒーローになりたかったのだ。
誰かに必要とされ、頼られ、自分に自信を持っている、そんな人間に。
俺には何もなかった。他人より秀でているもの。他人には負けないもの。
ある程度なんでも出来たから、人に頼ることはなかったし、頼られることもなかった。
俺じゃなくてもほかにもっとできる奴がいたからだ。
大抵の人間は、自分が得意とするものがある。
センスとも才能ともいうのだろうか。
勉強であれば、公式も知らないのになぜか問題が解けたりすること。
運動であれば、理屈は分からない知らないけれど、体が勝手に動くとか。
俺は、頑張らないと人並みにできるまで時間がかかったし、得意なことなんてなかった。
全部、普通。平凡だ。秀才でも何でもない。凡人だった。
本当は、あいつみたいに、得意な科目があってそれを人に教えたかった。
あいつみたいに、みんなの前で自分の得意なスポーツをして見せて、頼られたかった。
何で俺は、こんなに普通のことしかできないんだ。
幾度も恨んだ。自分の才能に。でも、努力しても結果は変わらなかった。
神様がいるというのなら、もう少し俺に才能を恵んでくれなかったのか。
”努力した奴が報われる”。なんて、そんなもんは嘘だ。
現に、みじめにも一人の女の子すらも救えない俺がいるではないか。
だけど……。
一歩……。これまで、怖くて辛くて見たくなくて踏み出せなかった一歩だ。
自分の醜さを認めて、踏ん張るときだ。
(行け!俺!)
自分を鼓舞した。上手くいかないかもしれない。
それでいいじゃないか。頑張った結果だめなら。でも、絶対にあきらめるな。
彼女のためにも、そして自分のためにも。
踏みとどまろうとする脚を無理やり、手で動かす。
(動けよ!くそっ!)
脚はどうにも動かない。地面に根を張ったようだ。
脚がだめなら、遠距離から何かできないか。
足元に木の枝があった。細くて頼りない、今の俺のようだった。
でも、
(これなら、ゴブリンの注意を引ける!)
こつん。__ギョロっ
ゴブリンが枝の飛んできた方を見る。目が合った。俺が投げたのだからそれはそうだ。犯人は俺だった。
ならばと、俺は一歩踏み出し地面を駆ける。このときは、不思議と脚が軽かった。
そして、ゴブリンの目の前まで走っていき……。
「お前ら全員ぶん殴ってその子を助けてやるよ、ゴブリン野郎!」
生死をかけた戦闘が始まった。
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