老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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エルフの集落

第42話:スタンピード

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「この村に……ありえない程の大勢の魔物が押し寄せてきてる

 フェアの真剣な表情にアイレは驚きを隠せなかった。ふとヴルダヴァ街を思い出したが、あの時と違いフェローもいなければ
こんな小さな村で戦える人は恐らくほとんどいないだろう。

「大勢の魔物ってどういう事なんだ? なんでこの村に入ってきてない?」

「スタンピートってのは過去にも見られた謎の現象で魔物が目的もなく大勢で移動するのよ。
ダンジョンから溢れたモンスターが急に動き回るって説が一番有力と言われているけど……近くにダンジョンがあるかどうかもわからないわ。村に入ってきてないのは……わからないけど――」

「結界だな。気が付かなかったか?」

 ロックが悪ぶれるわけもなく二人の話の間に入ってきた。

「てめぇ! よくもカナリアを!」

 アイレが再びロックに突っかかろうとした所をフェアが制止して話を続けて聞いた

「――結界って?」

「わかんねえのか? この村を覆うようにかなり強固な結界が張られてる。だが、それもいつまで持つかわからねえ。
しっかし、魔物はどこから湧きやがったんだ」

「レムリ様です」

 カナリアが扉から出てくると話を聞いていた様で横から割って話した。そのまま続けて

「30年以上前に大魔法使いレムリ様がこの村を守るために強固な結界を残してくれました。この村では誰もが知っているのでそれだと思います」

 ロックの事を少し怯えた目でみつつ、スラスラと話した。アイレとフェアはレムリの名前を聞いて少し思う所があったが、黙っていた。

「なんもしにゃーせんよ。さてどうすっかな。エルフの嬢ちゃん、魔物がどのくらいいるか具体的にわかるか?
俺達にも感知できる奴はいるが、もっと正確な情報がほしい」

 フェアは再び目を瞑り、深く深呼吸した。頭の中で白黒で魔力の姿形がまるで千里眼の様に見える。強大な魔力を持つ程それは明確に形となって視覚化されたように
脳内に映る。

「……。正確かどうかはわからないけど、大勢の魔物が結界に攻撃をしかけてるみたい。 数はおおよそ……100体は下らないと思う」

「絶望的だな。……村の嬢ちゃんひとまず全員を集めてくれるか? 時間がねえ」

 ロックはカナリアに指示をして右手を顎に触れながら考えていた。カナリアは急いで飛び出ると村人に知らせる為に走った。それを見たアイレが

「てめぇ、何様のつもりだ? 散々好き勝手にして次は偉そうに」

「お前みたいな口だけのガキよりは俺が猿山のボスをするほうが生存率は上がると思うぜ」

 ロックはアイレを上から見下ろし、アイレは下からロックを見上げてお互いに睨みあった。

「やめなよロック!」「今は喧嘩はやめてアイレ」

 ロックをグレースが、アイレをフェアが止めた。するとそこにお腹が出ている男が

「僕達が悪いのは事実だし、ちゃんと謝らないと。ごめんね、僕の名前はフルボだ」

 フルボは続けて

「あっちの体格がいいのがワイズで、痩せてるのがミック。君と喧嘩したのがロックでそれを止めた青い髪がグレースだ」

「……私はフェア。 それで、この怒ってるのがアイレよ」

「僕は感知能力が得意なんだ。戦闘にはあまり自信がなくて……でも、ロックの言う事を聞いていれば何とかなると思う。だから今は協力してほしい」

 フルボはロック達の仲間とは思えないほど丁寧で優しい物言いをした。

「……わーったよ! でも、後で決着つけさせろ」

 アイレはロックに向かって言ったが、今は協力しようと矛を収めた。

「いいねぇ。若者は血気盛んで。 ――まずは一か所に固まろうか」

 ロックは絶望的な状況にも関わらず、心なしか嬉しそうな顔をしながら言った。カナリアと合流して村長を含めた村人達と現在の状況を説明した
いつ結界が壊されるかもわからないとのことで、誰もが不安な表情をしていた。

 戦闘に参加できるのはロック達5人とアイレとフェアと元冒険者の村人が二人。後は農業しかした事がなく、子供も数名。
 家の中いると火事で逃げられなくなる可能性があるからと、全員を外で一か所に集めた。ロックのテキパキとした行動にアイレとフェアは関心しながら不思議に思っていた。

「私達の事、山賊とか盗賊だと思ってる?」

 それに気付いたのか、青い髪のグレースがアイレとフェアに声をかけた。背中には矢のない弓を背負っていて、綺麗な長い脚がすらりと伸びている。

「お前らはフェアの魔法のブレスレッドを盗ろうとしてたじゃないか」

「……私達は傭兵だったのよ。 でも、仕えていた領主が何者かに殺されて私達が殺したと疑われて追われるようになった。 今はどこの国も警戒が強くて仕事もないし、それで魔物を狩ったり、生きる為に必死だっただけよ」

 アイレはグレースの発言に少しインザームを重ねた。フェアはそれ以上に当時の自分を思い出した。インザームと逃亡して、生きるために汚い事もした。一概にグレース達を責める事はできない。

「……まぁ、私はあなた達の案に賛成するわ」

「まぁ、今はしょうがないな」

 アイレとフェアがグレースの言葉を受け止めて、少しだけ信用した。そしてロックが皆の前で話し始めた。

「これで全員だな。もう既に理解してると思うが、この村の入り口に魔物が大勢いる。恐らく、スタンピートだ。だが、統率は取れちゃいねえ。
焦らず、全員で一直線に群れを抜ければ何とかなると思う。 その為には協力が必要だ。 いきなり現れた俺みたいなおっさんが指示するのは気に食わねえと思うが
死にたかねえって気持ちは同じだ。一丸となってこの危機を乗り越えよう」

 ロックは今から危険な事が起きるとは思えないほど淡々と平常心で現状の説明と安心感を与えた。その佇まいはまるで軍のリーダーの様に見える。ロックの話を聞いて小さな男の子が
母親の手を離れてロックの元へとぼとぼと歩いた。母親は制止しようとしたが

「おじちゃん。ぼくたちたすかる?」

「ああ、絶対にな。約束だ」

 ロックは小さな男の子と同じ目線の高さまで足を曲げて満面の笑顔で頭を撫でた。その様子を見てアイレとフェアは気を引き締めたと共に
ロックの事を信用した。

 家に留まるのは火事の危険もあり、隠れていたとしても魔物に囲まれると更に逃げられなくなるので、全員がひと塊となって一直線に走り抜ける作戦となった。
戦えない子供や村人は真ん中で、重要な前方にはアイレとフェア、ロックとワイズが担当する。左右にはミットと元冒険者の村人二人。そして後方にはフルボとグレースが遠距離攻撃と全体の支援を担当する事になった。

 スタンピードは大勢の魔物が移動をする謎の行動だ。その群れを一直線に抜けるというのが作戦だった。フルト村は山の下った所にあり、外壁にも覆われているが、あまり役に立ちそうにはない。
 村の後方は大きな崖になっておりそこから逃げる事はできず、左右は高い山に囲まれている。

 つまり実質逃げ道は入口の一つしかない。そこを一直線で駆け抜けるという訳だ。予め結界の近くに待機していて自ら壊して逃げるのはどうか?という話も出たが、人間が魔物の目に触れるだけで襲いにかかってくる可能性が高く
結界が破られた瞬間に走り抜けたほうがいいとロックが決めた。

 全員が村の真ん中の広場でそれぞれ武器を構えた。すると、不思議な音が聞こえ始めた。まるで黒板を爪でひっかいている様な
頭に響く妙な音。

 子供を不安にさせないようにと、村人は全員悲鳴を押し殺した。そして目を瞑っていたフェアとフルボが殆ど同時に大声を出した。

「結界が破られる!」
「来る! 物凄い数だ」

 そして結界が破られたであろう高い破裂音が村中に響いた時にロックが

「いいか、魔物に止めを刺す必要はない。 全員死ぬ気で走り抜けろ!」

 そして魔物の叫び声と地鳴りが村中を襲った。

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