老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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クルムロフ城

第89話:全滅

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――一時間前。

 螺旋階段が崩れ落ちたことで、アズライトたちは薄暗い灯りだけを頼りに地下を進んでいた。

 幸いにも一本道だったので、迷うこともなかったが、ついに二本の別れ道が現れたことで、足が止まってしまっていた。
 階段の件もあり、左右のどちらにするかの話し合いをしていた。

「だーかーらー、ぜってぇ左だって!」

 グレースが根拠もなく、直感で左と叫ぶ。それに対して、アズライトは冷静に頭を悩ませていた。

「階段のことを考えると、感で決めてしまうのはどうかと思いますが」

 こういうときは左だって決まってんだよ、とグレースはアズライトに突っかかる。
 インザームはそんな二人をなだめつつ、

「やめんか、左右のどちらも罠という可能性もあるのじゃぞ。しかし……”何か”似ておるな」

 ヒゲをワシワシと触りながら暗い細道を見つめる。その言葉に違和感を覚えたアズライトが、

「”何か”とは? なんでしょうか?」

 インザームの言葉を繰り返すように質問した。

「ふむ、お主は”ダンジョン”に入ったことはないか? ワシはある。ちょうどこんな道が現れたりするんじゃ」

 あのさ~、とグレースが大きなため息をついてから、

「どっちを選んでもわかりゃしね~よ、それより早く左の道に行こうぜ。時間は待ってくれないんだ」

 居ても立っても居られないといった様子で、立ちながら貧乏ゆすりをしている。
 それをあえて無視するように、アズライトが口を開く。

「その時はどうやって道を決めるんですか? 多数決でしょうか?」

 インザームは、その言葉でハッとしたような表情を浮かべると、その場でしゃがみ込んだ。

「……そうじゃ。――レムリに任せきりで、忘れておったわ」

 両手を地面にぴったりつけると、呟くように魔法を詠唱した。すると、赤い光が飛び出し、地面を這うように分かれ道に進みはじめた。

「これは……?」

 それは徐々《じょじょ》にスピードをあげながら進み、左の光だけが突然に消えた。

「レムリが編み出した探索魔法じゃ、どうやら左に罠が仕掛けられていたようじゃの」
「……ふん」

 少し納得がいかない様子で、グレースは不機嫌そうに右の道を進んだ。ヴェルネルとセーヴェルと話してから、いつもの陽気な姿は一切ない。

 インザームとアズライトは、少しだけ呆れ顔で視線を合わせてから、グレースに続いた。

 それを皮切りに、分かれ道が何度も何度も現れた。それは二本だけではなく、三本、四本と数を増やしていくように。

「これだけ分かれ道があるのは、さすがに違和感を感じますね」
「ふむ……ますますダンジョンに似ておる。警戒は怠らんようにせにゃならんな、グレース離れすぎるんじゃないぞ!」

 少し先を歩いているグレースに向かって、インザームが注意する。地下ということもあり、声が響く。

 その返事に、前を向いたまま、わかりましたよと言わんばかりに、無言で右手をぶんぶんと振る。

「ヴェルネルたちが現れてから、ずっとあの調子ですね」
「仕方あるまい、家族を殺されたようなもんじゃ、その気持ちは痛いほどよくわかる……」

 インザームが、ヴェルネルとレムリのことを思い返したとき、グレースが叫び声をあげた。何があったと、二人がすぐに駆け付ける。

 道を抜けた先にあったのは、とても大きな部屋だった。ここにも同じような石の柱が立っていて、それ以外は何も見当たらない。その入口付近で、グレースはまるで龍のような化け物の攻撃を受けていた。口から炎を噴きだし、その姿は巨大で、低空を浮遊しながら、うねうねと蛇のように這っている。

「な、なんじゃこいつは!?」
「魔物……ですか……?」

 遠距離から一方的に弓を構えて攻撃を仕掛けるのを得意するグレースは、そのため、近距離戦があまり得意ではない。炎の攻撃をかろうじて避けていたが、突然により威力の高く、範囲の広い攻撃を噴き出した。
 それにいち早く気が付いたアズライトがグレースの前に立つ。

「下がってください!」

 魔力を漲らせた剣を盾にして構えると、炎の攻撃を防ぐ。しかし、しかしその左右から漏れる熱波はすさまじく、アズライトもグレースも身体中が熱で覆われてまるで火傷したかのように顔を歪ませる。
 そして炎が一旦途切れた瞬間を見逃さず、

「グレースさん、援護を頼みます――」

 アズライトは距離を詰めるように駆けた。
 そのまま魔力を込めた剣を鋭く前に突き出すと、龍の身体を貫通させようと、脇をしめながら一撃を狙った。
 しかし龍はそんなアズライトの攻撃を避けようともせず、そのまま叫び声をあげながら、大きな口をあんぐりと開けて突進してきた。

「おもしろい、力比べですか」

 しかしアズライトの剣は龍の体を貫通するどころか、そのまま通り抜けるように空を斬った。 

「な、どういうことですか!?」

 龍はアズライトの体を通り抜けてから、すぐに振り返ると、口を大きく膨らませて炎を吐いた。間一髪でインザームがそれを魔法防御で防ぐが、完全に守ることはできずに、アズライトの身体に炎が降りかかる。

「――ぐうううっ」

 身体が焼けるように熱い。左右に分かれた炎はその部屋の全体の空気の温度を大幅に上昇させた。

「トカゲ野郎が! 氷《アイス》の矢《アロー》」

 その隙を見逃さず、少し離れた場所から、グレースが魔法の矢を放った。魔物の属性を理解した上で、その対となる氷でダメージ増加を考えながらも、急所となる頭部を狙った。

 しかし魔法の矢ですら、攻撃は当たることなく、そのまま龍の体を通り抜けると、後ろの壁に直撃した。その部分だけが氷漬けになり、大きな穴が開く。

 その様子にアズライトたちは目を見開いて驚いた。これでは打つ手がない。龍はふたたび柱を旋回しながら、徐々《じょじょ》にその速度を上げていった。

「だめだ、攻撃が当たらない!」

 グレースが舌打ちをしながら叫び、アズライトがふたたび剣を構える。

「……実体がない」

 速度を大幅にあげた龍は大きなかぎ爪を鋭く構えると、金切声をあげながら、アズライトに向かって突進した。

「直接攻撃!?」

 予想外の攻撃に戸惑いながら、アズライトは剣で防いだが、その衝撃はすさまじく、身体を浮かせたまま壁に激突する勢いで突進を緩めない。

「――今です!」

 その瞬間、二人に向けて叫んだ。攻撃を受けているということは、当てることもできるはず。グレースとインザームは、それを理解して攻撃を仕掛けた。

 しかしそれもまた、同じく体を通り抜けるだけで、ダメージは一切与えられなかった。

「だめじゃ!」
「ちくしょう!」

 そのままアズライトは、猛スピードで壁に挟まれそうになったが、間一髪、剣で爪を滑らすようにかわすと、回転しながら横に移動する。
 龍はそのまま壁に突撃すると、もの凄い威力で壁を抉った。

「やはりこれは……」

 アズライトは何かに気づいたように囁《ささ》いた。龍は頭を振って壁から飛び出ると、ふたたび浮遊して柱を旋回した。すると、その姿は残像のように三つに分かれると、それぞれ全く同じ姿形《すがたかたち》で、同時に叫び声をあげた。止めをさすように、前と左右からアズライトを挟み込む。これでは、逃げ道は一切ない。

 真正面の龍が、鋭い爪を光らせながら、アズライトの身体をふたたび壁に押し込むと、その瞬間に左右の龍が脇腹を抉《えぐ》った。

「アズライト!!!!!」
「アズライト!!」

 グレースとインザームが同時に名前を叫んだ。
 龍がその場から離れると、アズライトは腹部あ抉《えぐ》れていた。そのまま吐血すると、前のめりに倒れる。

 そして三つの龍はふたたび旋回しながら速度をあげると、次は四つに分かれ、グレースとインザームに向かって炎を吐きながら突進した。
 二人は炎に身を焼かれながら、壁に叩きつけられると、同じように血を吐きながら、地面に倒れこんだ。

 そして、その様子を遠くから眺めていたアイが、ゆっくりと柱の裏から姿を現した。

 「なーんだ、よわっちぃ」

 感情の起伏がないような、淡々とした声で呆れながら、三つの死体を眺めた後、壁を通り抜けるようにその場から消えた。

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