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「世界中の人が石になった」つづき(おまけ)
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※前話「世界中の人が石になった」の続きの話になります。
本編のみで完結はしておりますので、続きは不要だという方は飛ばしてください。
少し血の表現あります。
座り込んだ足元から床の冷たさが伝わってくる。心を支えていた希望の最後の糸がぷつりと切れた。
こみ上げてくる色々な感情に耐え切れなくなり、目から溢れた涙が一つ頬を伝って零れ落ちた。
一つ落ちたのをきっかけとして涙は止まらなくなり、声を上げて泣き始めてしまった。耳に届く自分の声がさらに気持ちに拍車をかけてついには大きな声で泣いてしまう。
「う、うわああああん」
世界の人たちが石になるという現象が起きてから初めて泣いた。現実感があまりにもなさすぎたのと、なさすぎるが故のどうにかなるだろうという楽観視と、自分が世界に一人だと決めつけるのはまだ早いという逃げとが恐らくずっとあって、泣かずにいた。泣かないことでどうにか持ちこたえていた面もあった。
どうせ誰かに泣き声を聞かれることも、見られることもない。そう思うとしばらく泣くことを止められそうになかった。
泣き続ける内に膝の上で握りしめていた注射器を思い出し、今となっては無用の長物となり果てたそれに半ば怒りのようなものを抱き、反射的に投げつけていた。その先にあったのは石になった医師だった。投げつけた注射器は医師の顔面に直撃し、砕け散りその顔を血まみれにしてしまったが今更どうでもよかった。ただの石が血まみれになっただけだったからだ。
腕で涙を拭いながら泣きじゃくっていたが、腕がびしゃびしゃになったので、反射的にショルダーバックからハンカチを取り出し腕を拭い、顔を拭い泣き続けていると声がした。
「え?」
反射的に顔を上げると、石だったはずの医師と目が合った。
「え?」
医師の顔はもう石ではなかった。白衣の袖から伸びた手はまだ石だったが、見ている内にみるみる人肌へと変化した。人肌へ変化したことで、血まみれの顔に意識が向く。咄嗟に駆け出して、手に持っていたハンカチで拭き取る。石だった時の話とは言え、自分が他人の血で顔を汚されたと考えたら、冷や汗が噴き出た。
「えっ?」
椅子に座っていた医師は顔を一生懸命に拭く私を見上げて戸惑いの表情を向けてくる。
「えっ?」
改めて今の状況を見つめ直すと、医師は椅子に座った状態で診察室のドア側を向いていたので恐らく患者が入ってくるところだったのだと思う。患者が入ってくるはずが、気づいたら大泣きしている女がいて、急に顔を拭き出したら恐怖以外の何ものでもないのではないか。血の気が引く気がした。慌てて事情を説明する。最初は不信感をあらわにしていた医師も、説明を重ねるうちにに次第に態度を軟化させ、他の部屋の石になっている看護師や患者を確認し、ついにはすべて信じてくれたようだった。納得してくれた後、まずはものすごく怒られた。自分で自分を採血、しかも医療行為がよくわからない中行ったことかつその血液を適合が分からない他者に注入しようとしたことがいかに危険かを切々と訴えられた。ごもっともだと思うのでうなだれてただただ頷いていた。言われる言葉の端々に心配が含まれていたので、嫌ではなかったのだ。
医師は一つ息を吐いて、言った。恐らくひとしきり危険性を伝えたことで心配が落ち着いたのだと思う。
「ごめん。選択肢なんてなかったよね。偉かったよ。ありがとう」
なだめるようにねぎらうように医師は私の腕をさすってくれた。不安からの解放、達成感、もう世界に一人だけではないという安堵感、様々な感情がないまぜになっていつの間にか止まっていた涙が再び溢れてくる。
俯いた視界にタオルが割り込んでくる。見上げると医師が差し出してくれていた。病院に備え付けてあるものだろう。
「ちょっと顔洗ってくるからね」
血でべたべたの自らの顔を指さしながら医師は言った。一つ頷いて差し出されたタオルを受け取ると医師は診察室を出て行った。タオルに顔をうずめ、もう大丈夫なのだと改めて認識し、医師が戻ってくるまでの間ひとしきり泣いた。
その後はイケメン医師の怒涛の救国劇の幕開けとなったのだが、それはまた別のお話。
そう。顔を洗って戻ってきた医師が思った以上のイケメンで恋の幕開けともなったのだがそれもまた別のお話。
本編のみで完結はしておりますので、続きは不要だという方は飛ばしてください。
少し血の表現あります。
座り込んだ足元から床の冷たさが伝わってくる。心を支えていた希望の最後の糸がぷつりと切れた。
こみ上げてくる色々な感情に耐え切れなくなり、目から溢れた涙が一つ頬を伝って零れ落ちた。
一つ落ちたのをきっかけとして涙は止まらなくなり、声を上げて泣き始めてしまった。耳に届く自分の声がさらに気持ちに拍車をかけてついには大きな声で泣いてしまう。
「う、うわああああん」
世界の人たちが石になるという現象が起きてから初めて泣いた。現実感があまりにもなさすぎたのと、なさすぎるが故のどうにかなるだろうという楽観視と、自分が世界に一人だと決めつけるのはまだ早いという逃げとが恐らくずっとあって、泣かずにいた。泣かないことでどうにか持ちこたえていた面もあった。
どうせ誰かに泣き声を聞かれることも、見られることもない。そう思うとしばらく泣くことを止められそうになかった。
泣き続ける内に膝の上で握りしめていた注射器を思い出し、今となっては無用の長物となり果てたそれに半ば怒りのようなものを抱き、反射的に投げつけていた。その先にあったのは石になった医師だった。投げつけた注射器は医師の顔面に直撃し、砕け散りその顔を血まみれにしてしまったが今更どうでもよかった。ただの石が血まみれになっただけだったからだ。
腕で涙を拭いながら泣きじゃくっていたが、腕がびしゃびしゃになったので、反射的にショルダーバックからハンカチを取り出し腕を拭い、顔を拭い泣き続けていると声がした。
「え?」
反射的に顔を上げると、石だったはずの医師と目が合った。
「え?」
医師の顔はもう石ではなかった。白衣の袖から伸びた手はまだ石だったが、見ている内にみるみる人肌へと変化した。人肌へ変化したことで、血まみれの顔に意識が向く。咄嗟に駆け出して、手に持っていたハンカチで拭き取る。石だった時の話とは言え、自分が他人の血で顔を汚されたと考えたら、冷や汗が噴き出た。
「えっ?」
椅子に座っていた医師は顔を一生懸命に拭く私を見上げて戸惑いの表情を向けてくる。
「えっ?」
改めて今の状況を見つめ直すと、医師は椅子に座った状態で診察室のドア側を向いていたので恐らく患者が入ってくるところだったのだと思う。患者が入ってくるはずが、気づいたら大泣きしている女がいて、急に顔を拭き出したら恐怖以外の何ものでもないのではないか。血の気が引く気がした。慌てて事情を説明する。最初は不信感をあらわにしていた医師も、説明を重ねるうちにに次第に態度を軟化させ、他の部屋の石になっている看護師や患者を確認し、ついにはすべて信じてくれたようだった。納得してくれた後、まずはものすごく怒られた。自分で自分を採血、しかも医療行為がよくわからない中行ったことかつその血液を適合が分からない他者に注入しようとしたことがいかに危険かを切々と訴えられた。ごもっともだと思うのでうなだれてただただ頷いていた。言われる言葉の端々に心配が含まれていたので、嫌ではなかったのだ。
医師は一つ息を吐いて、言った。恐らくひとしきり危険性を伝えたことで心配が落ち着いたのだと思う。
「ごめん。選択肢なんてなかったよね。偉かったよ。ありがとう」
なだめるようにねぎらうように医師は私の腕をさすってくれた。不安からの解放、達成感、もう世界に一人だけではないという安堵感、様々な感情がないまぜになっていつの間にか止まっていた涙が再び溢れてくる。
俯いた視界にタオルが割り込んでくる。見上げると医師が差し出してくれていた。病院に備え付けてあるものだろう。
「ちょっと顔洗ってくるからね」
血でべたべたの自らの顔を指さしながら医師は言った。一つ頷いて差し出されたタオルを受け取ると医師は診察室を出て行った。タオルに顔をうずめ、もう大丈夫なのだと改めて認識し、医師が戻ってくるまでの間ひとしきり泣いた。
その後はイケメン医師の怒涛の救国劇の幕開けとなったのだが、それはまた別のお話。
そう。顔を洗って戻ってきた医師が思った以上のイケメンで恋の幕開けともなったのだがそれもまた別のお話。
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2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
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