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線香花火
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彼の手に持つ線香花火の小さく赤い玉が落下した。したと思った玉は、彼の手によって見事キャッチされていた。
「ちょっ……」
私は驚いて声を上げ、自らの手にしていた線香花火を取り落とすと彼の手首を掴みながら立ち上がった。拍子に開かれた彼の手の平から小さな玉が零れ落ちるのが視界の端に映ったが、それどころではない。そのまま掴んだ手首を引っ張り、走り出した。
私がマネージャーを務める野球部の夏は先日終わった。甲子園で敗退したのだ。この後は受験のために勉強漬けの日々が控えている。気持ちの切り替えと打ち上げを兼ねて三年部員だけ集まろうという話になった。ファミレスで打ち上げ会をした後、まだなんとなくそれぞれ別れがたく、誰が言い出したのか花火をやろうということになった。スーパーで花火を買い、河川敷に赴いた。
部員たちが手持ち花火ではしゃぐ中、ピッチャーだった彼が線香花火を手に近づいてきた。
「一緒にやらん?」
二つ返事で応じる。
「私これ得意なんよ。大抵最後まで落とさないよ」
自信満々な顔で告げると、彼もいたずらっ子のような表情で言ってきた。
「勝負する?」
「いいよー。じゃあ、残ってたほうが相手のお願い一つ聞く、ってのはどう?」
彼はにっと笑った。
「いいね」
これが彼が火の玉を捕らえた発端の話だった。
他愛ないやりとりで本気になるような勝負ではないはずだった。
水辺へ彼を引っ張っていきながら思い出す。一球一球を真剣な表情で投げていた彼を。思いが報われず腕で隠すように涙していた彼を。もう投げることはないかもしれないが、大事な手が損なわれてしまうことは嫌だった。
彼の手を川の水の中につけ、しばらく冷やした後手の平を開かせた。思ったよりも火傷痕は小さくほっとする。
「もうほとんど消えかけの小さいやつだったから」
へへっと悪びれず笑う彼に怒りが湧く。
「そういう問題じゃないでしょ。なんでこんなことしたの?」
怒りは言葉にする内に心配へと変わり、語尾が萎む。
私の心配に気づいたらしく、彼の笑みも消えてまじめな顔つきになる。
「この勝負はどうしても勝ちたかったんだ」
「なんで?」
「お願い事聞いてほしくて」
「そんなに聞いてほしいお願い事があるの? なに? 確かに私のほうが先に落ちたから聞くよ」
ノーカンとしたいところだが、そこまでして何か聞いてほしい願いがあるなら内容にもよるが叶えなくもない。
「彼女になってほしい」
勝負の一球を投げるときのような真剣な表情で彼はそう言った。
「馬鹿ね」
「え?」
おそらく私は困ったような笑みを浮かべていたと思う。彼の火傷した手を見ながら告げる。
「そんなことしなくても、そのお願いなら聞いてあげられたのに」
「それって……」
私はついっと顔を逸らす。今は見られたくないからだ。
それが答えであることに気づいた彼も顔を隠すように腕で覆ったが、はしゃいでいる部員たちの花火の光で耳まで真っ赤なのが見て取れた。
「火傷しそう」
彼は呟くようにそう言った。
「ちょっ……」
私は驚いて声を上げ、自らの手にしていた線香花火を取り落とすと彼の手首を掴みながら立ち上がった。拍子に開かれた彼の手の平から小さな玉が零れ落ちるのが視界の端に映ったが、それどころではない。そのまま掴んだ手首を引っ張り、走り出した。
私がマネージャーを務める野球部の夏は先日終わった。甲子園で敗退したのだ。この後は受験のために勉強漬けの日々が控えている。気持ちの切り替えと打ち上げを兼ねて三年部員だけ集まろうという話になった。ファミレスで打ち上げ会をした後、まだなんとなくそれぞれ別れがたく、誰が言い出したのか花火をやろうということになった。スーパーで花火を買い、河川敷に赴いた。
部員たちが手持ち花火ではしゃぐ中、ピッチャーだった彼が線香花火を手に近づいてきた。
「一緒にやらん?」
二つ返事で応じる。
「私これ得意なんよ。大抵最後まで落とさないよ」
自信満々な顔で告げると、彼もいたずらっ子のような表情で言ってきた。
「勝負する?」
「いいよー。じゃあ、残ってたほうが相手のお願い一つ聞く、ってのはどう?」
彼はにっと笑った。
「いいね」
これが彼が火の玉を捕らえた発端の話だった。
他愛ないやりとりで本気になるような勝負ではないはずだった。
水辺へ彼を引っ張っていきながら思い出す。一球一球を真剣な表情で投げていた彼を。思いが報われず腕で隠すように涙していた彼を。もう投げることはないかもしれないが、大事な手が損なわれてしまうことは嫌だった。
彼の手を川の水の中につけ、しばらく冷やした後手の平を開かせた。思ったよりも火傷痕は小さくほっとする。
「もうほとんど消えかけの小さいやつだったから」
へへっと悪びれず笑う彼に怒りが湧く。
「そういう問題じゃないでしょ。なんでこんなことしたの?」
怒りは言葉にする内に心配へと変わり、語尾が萎む。
私の心配に気づいたらしく、彼の笑みも消えてまじめな顔つきになる。
「この勝負はどうしても勝ちたかったんだ」
「なんで?」
「お願い事聞いてほしくて」
「そんなに聞いてほしいお願い事があるの? なに? 確かに私のほうが先に落ちたから聞くよ」
ノーカンとしたいところだが、そこまでして何か聞いてほしい願いがあるなら内容にもよるが叶えなくもない。
「彼女になってほしい」
勝負の一球を投げるときのような真剣な表情で彼はそう言った。
「馬鹿ね」
「え?」
おそらく私は困ったような笑みを浮かべていたと思う。彼の火傷した手を見ながら告げる。
「そんなことしなくても、そのお願いなら聞いてあげられたのに」
「それって……」
私はついっと顔を逸らす。今は見られたくないからだ。
それが答えであることに気づいた彼も顔を隠すように腕で覆ったが、はしゃいでいる部員たちの花火の光で耳まで真っ赤なのが見て取れた。
「火傷しそう」
彼は呟くようにそう言った。
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