スカーレット・オーディナリー・デイズ

mirage

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1年生、春

中学生になって

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遅咲きの桜が舞う校門をくぐって、中学校に入る。空は青く晴れている。まだ少し冷たい四月の風を受けながら、中庭に貼りだされたクラス名簿を見に行く。今日は中学校の入学式だ。
順に見ていくと、七組に自分の名前があった。吉田緋彩よしだひいろ、こういうときは下の方だけ見れば済むからラクだ。
「緋彩~!また一緒のクラスだ!やったねー」
せいも七組だっけ?今年もよろしくー」
クラス名簿の前でウロウロしていたら聖に話しかけられた。聖こと宮本聖みやもとせいは私の昔からの友達。家が近く、児童クラブでも同じだったのもあって仲がいい。
「行くよっ、みんなあっちで集まってるから」
聖に引っ張られるようにクラスの列に並んだ。小学校の時とは違う、セーラー服や学ランに身を包んだみんなの姿はまだ見慣れない。本当に中学生になったんだなぁって自覚する。



入学式、4月テスト、オリエンテーション…と着々と行事は進んでいき、やってきたのは仮入部。1週間の仮入部の後、入部届を提出して本格的に部活が始まる。
「緋彩ー、何部見に行く?」
放課後の教室、体操服に着替えようとしていたら聖が話しかけてきた。
「うーん、決めてないけど、卓球部見に行ってみようかなーって」
「へー意外、てっきり美術部見に行くのかと思ってた。緋彩、賞とかいっぱい貰ってたし」
「親が運動部にしとけって言ってくるからさ…。聖は?」
着替えながら聞く。
「バドミントン!」
「そっか、小学校のときからバド部にするって言ってたもんね」
「うん!でも吹奏楽とバスケとテニスは見に行きたいなー」
「多いな~。1個に絞れるの?」
「まぁ本命はバドだから!あ、そろそろ4時だ、じゃーね!」
「またね~」
そう言って聖は駆け足で教室を出ていった。私も下にいかなくては。
私は卓球部に入るつもりだ。運動部の中で1番楽そうだし、緩そうだし、何より朝練がないから。不純な動機だと自分でも思う。でもたかが部活だし、そんなもんでいいいと思ってる。

6時間目の部活動紹介で、体育館2階が卓球部の練習場所だと言っていた。本当にあの狭い体育館の2階なんかでやってんのかな。部活紹介のしおりを見る限り、先輩はたくさんいたし。
「おーい!緋彩ちゃんも卓球部?」
「そうだよー。ってことは海未うみちゃんも?」
そう声をかけてきたのは海未ちゃんこと齋藤海未さいとううみ。去年同じクラスで、家も近くて仲良くしてる子だ。
「イエッサー!ここだよね、入ろうよ。あれ、紫乃しのがいなくなってる。紫乃ー」
紫乃こと戸倉紫乃とくらしのも去年同じクラスだった子だ。小学校のお絵描きクラブで一緒だった。
「さいとーちゃん早いってー。あ、吉田ちゃんも卓球部いくの?」
「そうだよー…って話をさっきしてたんだよねー」
「そうそう、紫乃が来る前に。一緒に来てたのにすぐどっか行くからさ」
「ごめんってー」
戸倉さんが両手を顔の前で合わせた。
「ねぇ、卓球部興味ないですか?」
体育館前で話していると、赤い名札の体操服を着ている人が声をかけてきた。赤だから多分2年生だ。
「あ、あります!」
「2階に他の人たちいるから、その人たちのところに行ってきて~」

2階に上がると、卓球部の先輩がたくさんいた。同じ黄色名札の1年生も既に何人か仮入部に来ていた。
「じゃあこのラケット使ってやっていこうかー。3人は卓球やったことある?
先輩に聞かれた。名札にはそれぞれ西野、福原と書いてあった。
私と戸倉さんはないと答え、海未ちゃんはあると答えた。
「ラケットの持ち方は2通りあって、こんな風に裏側に人差し指を置いて、三本の指でグリップを握るのがシェイクハンドっていうやつね。ペンを持つみたいに、人差し指と親指で掴むのがペンホルダーってやつ。そう、えーと…齋藤さんが今やってる持ち方がペンホルダーね」
「とりあえず最初はシェイクでいいんじゃないかな?」
「そうだね。じゃあ戸倉さんと吉田さんはこの持ち方してみて?」
渡されたラケットを言われた通りに握る。
「じゃあ、球突きやっていこっか。球突きはこんな感じで、ラケットの面でボールを跳ねさせてみて。高く上げた方がやりやすいと思う」
先輩2人に教えられながら、見様見真似で球突きとやらをやってみる。
「そう!そんな感じ~。10回目標にやってみよ!」
「はいっ」
球突きをやりながら、周りを見る。狭い2階にはたくさんの人がいる。楽しそうな雰囲気で、この先輩たちも優しい。
他の部活は見に行ってないけど、運動部ってもっと怖そうなイメージがあったからいい部活だなと思った。
「どっか他の部活も見に行くの?」
球突きをしながら、西野先輩が聞く。
「見に行く予定はないです」
「そうなんだ。卓球部、よかったら入部してね?朝練ないのはほんっといいよ」
「はいっ」
5、6、7、8、9、10、11…でも、11回続いた!
「おっ、すご~い!10回いけたね!」
西野先輩がそう言ってくれた。おだてられると調子に乗ってしまうのは私の悪いくせ。
球突きは、昔バレーボールやってたから、なんとなくそれに似てる気がする。アンダーやオーバーで自分ひとりで続けるやつに。本当になんとなくだけど。
「吉田ちゃん、どうしてそんなに出来るのー?初めてなんでしょ?紫乃、全然出来ないんだけどー、ほんと球技難しーい」
「私も全然出来ないよ」
「紫乃よりマシじゃん…ね、吉田ちゃん、あれ見て」
戸倉さんの視線の先には、卓球台でラリーをしている人がいた。片方、名札黄色ってことは1年生じゃん…?
「やばー」
「ね、やばいね。同級生だよ」
「何がやばいの?」
そう話していたら後ろから海未ちゃんがやってきた。
「ほら、あれ。同級生だよ」
「え、すごいねー」
先輩が、教えることないよーって言っているのが聞こえた。
「さいとーちゃんもあれくらい出来るの?」
「うちは遊びでやってただけだからなー」
そんなことを言いながら私たちは球突きを続けた。
「あ、もうすぐ5時だ。1年生は5時までだからね。じゃあみんな帰る準備して!ラケットは私に渡してー」
ありがとうございましたとお礼を言って帰った。
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