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周遊編
124 ナタリアの誕生日 01
エラーレ王国がオルニス国に侵攻しようとしている証拠となるビラは簡単に集まった。
フェリックスは平民たちに慕われているため、街を歩いているだけで国民から気さくに声をかけられる。
そのため、国王がばら撒いているビラを持っていないかとフェリックスが尋ねれば簡単に集めることができた。
ハンナさんも噂好きのメイドたちに話を聞けば、彼女たちがお茶出しを行った会議での王と貴族たちの会話まで聞くことができた。
スパイ行為を行われるかもしれないというのに会議室にメイドを気軽に入れるのだから悠長なものである。
私は、私たちが集めたビラとハンナさんが録音してくれた魔導具を持ち、魔塔主と一緒にルシエンテ帝国の城へと転移した。
「私が使っていた部屋に転移してくださいって言ったじゃないですか!」
「わざわざそこでメイドや執事を捕まえて、オーロ皇帝に面会を求めてとか、面倒ですから」
オーロ皇帝は突然執務室に現れた私と魔塔主のやり取りを憮然とした表情で見ていた。
ネグロの表情は無表情でその感情は読み取り難いが、その目が冷たい気がする。
「……よく来たな。リヒト」
国政の中心部に他国の子供が入り込んだというのに、オーロ皇帝が怒ることはない。
こうした余裕を見せられると、執務室に近づいただけでナタリアのことを怒ってしまったことが少し恥ずかしい。
今回の転移先は魔塔主が決めたことではあるが、もう少しナタリアに対して配慮すべきだったかもしれない。
「執務室に許可もなく侵入してしまい、すみません。こちらに落ち度があることは重々承知なのですが、なぜそのように余裕なのですか? 暗殺者とかだったらどうするのですか?」
「この城の結界は魔塔主が張ったものだ。入ってこられるのは魔塔主と魔塔主の許可がある者だ。万が一、魔塔主が暗殺者だとしたら魔法では勝ち目はないからな」
だから諦めるというのだろうか?
潔いのか、投げやりなのかわからないが、帝国の皇帝というのはこれくらいどっしりと構えていなければやっていられないものなのかもしれない。
「それで、用件はなんだ? 少し忙しいのでな、手短に頼む」
オーロ皇帝が執務机からソファーに移動すると、すぐに夕食と思われる食事が運び込まれた。
「食堂で食べないのですか?」
「食堂でゆっくりと食事をする時間も惜しいのだ」
それほど忙しい時に来てしまったとは、申し訳ない。
「では、早々に本題を」と、私はオーロ皇帝の食事時間に話を終えられるように、すこし早口でエラーレ王国の王子であるフェリックスの現状とオルニス国侵攻の計画について説明した。
そして、街で集めたビラとハンナさんが集めた噂話が録音された魔導具をオーロ皇帝に提出した。
「末の王子に対して過不足のない生活環境や教育の場を与えない状況と、オルニス国への侵攻計画か」
オーロ皇帝は私の話を聞きながらも夕食を食べすすめていた。
大柄な体格で豪快に食べるような姿が似合いそうだが、そこは皇帝。
優雅な所作でナイフとフォークを使い、ステーキを切り分ける。
ちなみに、ネグロには私たちも夕食を食べるかと聞かれたが、私は食事をしながらプレゼンできるほど器用ではないため断った。
隣では魔塔主が例の甘ったるいお菓子を頬張っている。
私の話を聞いたオーロ皇帝は「ん~」と難しそうな表情で唸った。
「王子が蔑ろにされているのは確かだが、食事を与えられずに飢えるような状態でもないし、はっきりと暴力を振るわれるような状況でもない。侵攻計画も、まだ実行されていないため、仮想敵国を作ることによって国民をまとめている政治的戦略だと捉えることもできる。頭が悪い国ほどこうした手法がよく見られるからな。さらには、実際に侵攻されてオルニス国が困るかと言えば……」
そこでオーロ皇帝は魔塔主へ視線を向けた。
魔塔主は微笑んで言った。
「困りますよ。反撃でエラーレを吹き飛ばしたら我々が責められるのでしょうから」
「これに対して帝国側から対処するのはかなり難しい」
「なるほど」と私も頷くしかなかった。
侵攻する側は自身の優位を確立し、勝てるという確かな自信があるから侵攻を行うものだろうと思っていたし、勝てないにしても、攻め入られた側はある程度の大きな損害を負うものだと思っていたのだ。
しかし、オーロ皇帝の話を聞けば、確かに魔塔主が首長という立場にいるオルニス国が負けることなどありえないだろう。
魔塔主だけでもエラーレ王国を滅亡させることは容易く、侵攻の際に魔塔主がいなくても、魔法の才覚に優れたエルフたちが力を合わせれば、十分にエラーレ王国に対抗しうると思われた。
「フェリックスの乳母であるハンナさんからはフェリックスを国から連れ出して消息不明の状態にし、保護してほしいと言われているのですが、それではエラーレ国内で当然得られるはずだったフェリックスの権利を失ってしまいます」
「その乳母はなかなか面白いことを言うな」
オーロ皇帝は面白そうにクックックッと笑う。
「まぁ、そんなにリヒトが気にするのなら、私がエラーレへと視察に行ってやってもいいぞ。そこで面白い研究結果でも見せてくれれば私が目をかけるきっかけにもなるだろう」
帝国の皇帝に目をかけてもらえれば、帝国傘下の国のトップはどこの国であっても皇帝が目をかけた者を無下に扱うことはできなくなるだろう。
「エトワール王国の前王の問題といい、今回のことと言い、オーロ皇帝に頼りすぎですね。すみません」
「気にするな。全て、将来への投資だからな」
「そう言われると少し怖い気がします」
私が成人する頃には投資の対価は一体どれくらいのものになっているのだろう……
正直、返せる気がしない。
「しかし、今回の手助けについては今すぐにでも対価を支払ってもらいたい」
食事を終えたオーロ皇帝が顎鬚を撫でて言った。
「私にできることならば構いませんが、一体何をすればいいのでしょうか?」
「ナタリアの誕生日パーティーに出席してくれ」
「それくらい、お安いご用です」
オーロ皇帝の目が意地悪く細められた。
「そんな安請け合いをしてもいいのか? ただ誕生日パーティーに出席するだけではなく、ナタリアのパートナーとして出席してほしいのだが?」
「それならばカルロを連れてきますね」
そう言えば、オーロ皇帝は呆れたような表情をし、魔塔主は穏やかな作り笑いをした。
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