不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】

はぴねこ

文字の大きさ
125 / 292
周遊編

124 ナタリアの誕生日 01


 エラーレ王国がオルニス国に侵攻しようとしている証拠となるビラは簡単に集まった。
 フェリックスは平民たちに慕われているため、街を歩いているだけで国民から気さくに声をかけられる。
 そのため、国王がばら撒いているビラを持っていないかとフェリックスが尋ねれば簡単に集めることができた。

 ハンナさんも噂好きのメイドたちに話を聞けば、彼女たちがお茶出しを行った会議での王と貴族たちの会話まで聞くことができた。
 スパイ行為を行われるかもしれないというのに会議室にメイドを気軽に入れるのだから悠長なものである。

 私は、私たちが集めたビラとハンナさんが録音してくれた魔導具を持ち、魔塔主と一緒にルシエンテ帝国の城へと転移した。



「私が使っていた部屋に転移してくださいって言ったじゃないですか!」
「わざわざそこでメイドや執事を捕まえて、オーロ皇帝に面会を求めてとか、面倒ですから」

 オーロ皇帝は突然執務室に現れた私と魔塔主のやり取りを憮然とした表情で見ていた。
 ネグロの表情は無表情でその感情は読み取り難いが、その目が冷たい気がする。

「……よく来たな。リヒト」

 国政の中心部に他国の子供が入り込んだというのに、オーロ皇帝が怒ることはない。
 こうした余裕を見せられると、執務室に近づいただけでナタリアのことを怒ってしまったことが少し恥ずかしい。
 今回の転移先は魔塔主が決めたことではあるが、もう少しナタリアに対して配慮すべきだったかもしれない。

「執務室に許可もなく侵入してしまい、すみません。こちらに落ち度があることは重々承知なのですが、なぜそのように余裕なのですか? 暗殺者とかだったらどうするのですか?」
「この城の結界は魔塔主が張ったものだ。入ってこられるのは魔塔主と魔塔主の許可がある者だ。万が一、魔塔主が暗殺者だとしたら魔法では勝ち目はないからな」

 だから諦めるというのだろうか?
 潔いのか、投げやりなのかわからないが、帝国の皇帝というのはこれくらいどっしりと構えていなければやっていられないものなのかもしれない。

「それで、用件はなんだ? 少し忙しいのでな、手短に頼む」

 オーロ皇帝が執務机からソファーに移動すると、すぐに夕食と思われる食事が運び込まれた。

「食堂で食べないのですか?」
「食堂でゆっくりと食事をする時間も惜しいのだ」

 それほど忙しい時に来てしまったとは、申し訳ない。
「では、早々に本題を」と、私はオーロ皇帝の食事時間に話を終えられるように、すこし早口でエラーレ王国の王子であるフェリックスの現状とオルニス国侵攻の計画について説明した。
 そして、街で集めたビラとハンナさんが集めた噂話が録音された魔導具をオーロ皇帝に提出した。

「末の王子に対して過不足のない生活環境や教育の場を与えない状況と、オルニス国への侵攻計画か」

 オーロ皇帝は私の話を聞きながらも夕食を食べすすめていた。
 大柄な体格で豪快に食べるような姿が似合いそうだが、そこは皇帝。
 優雅な所作でナイフとフォークを使い、ステーキを切り分ける。

 ちなみに、ネグロには私たちも夕食を食べるかと聞かれたが、私は食事をしながらプレゼンできるほど器用ではないため断った。
 隣では魔塔主が例の甘ったるいお菓子を頬張っている。

 私の話を聞いたオーロ皇帝は「ん~」と難しそうな表情で唸った。

「王子が蔑ろにされているのは確かだが、食事を与えられずに飢えるような状態でもないし、はっきりと暴力を振るわれるような状況でもない。侵攻計画も、まだ実行されていないため、仮想敵国を作ることによって国民をまとめている政治的戦略だと捉えることもできる。頭が悪い国ほどこうした手法がよく見られるからな。さらには、実際に侵攻されてオルニス国が困るかと言えば……」

 そこでオーロ皇帝は魔塔主へ視線を向けた。
 魔塔主は微笑んで言った。

「困りますよ。反撃でエラーレを吹き飛ばしたら我々が責められるのでしょうから」
「これに対して帝国側から対処するのはかなり難しい」

「なるほど」と私も頷くしかなかった。

 侵攻する側は自身の優位を確立し、勝てるという確かな自信があるから侵攻を行うものだろうと思っていたし、勝てないにしても、攻め入られた側はある程度の大きな損害を負うものだと思っていたのだ。

 しかし、オーロ皇帝の話を聞けば、確かに魔塔主が首長という立場にいるオルニス国が負けることなどありえないだろう。
 魔塔主だけでもエラーレ王国を滅亡させることは容易く、侵攻の際に魔塔主がいなくても、魔法の才覚に優れたエルフたちが力を合わせれば、十分にエラーレ王国に対抗しうると思われた。

「フェリックスの乳母であるハンナさんからはフェリックスを国から連れ出して消息不明の状態にし、保護してほしいと言われているのですが、それではエラーレ国内で当然得られるはずだったフェリックスの権利を失ってしまいます」
「その乳母はなかなか面白いことを言うな」

 オーロ皇帝は面白そうにクックックッと笑う。

「まぁ、そんなにリヒトが気にするのなら、私がエラーレへと視察に行ってやってもいいぞ。そこで面白い研究結果でも見せてくれれば私が目をかけるきっかけにもなるだろう」

 帝国の皇帝に目をかけてもらえれば、帝国傘下の国のトップはどこの国であっても皇帝が目をかけた者を無下に扱うことはできなくなるだろう。

「エトワール王国の前王の問題といい、今回のことと言い、オーロ皇帝に頼りすぎですね。すみません」
「気にするな。全て、将来への投資だからな」
「そう言われると少し怖い気がします」

 私が成人する頃には投資の対価は一体どれくらいのものになっているのだろう……
 正直、返せる気がしない。

「しかし、今回の手助けについては今すぐにでも対価を支払ってもらいたい」

 食事を終えたオーロ皇帝が顎鬚を撫でて言った。

「私にできることならば構いませんが、一体何をすればいいのでしょうか?」
「ナタリアの誕生日パーティーに出席してくれ」
「それくらい、お安いご用です」

 オーロ皇帝の目が意地悪く細められた。

「そんな安請け合いをしてもいいのか? ただ誕生日パーティーに出席するだけではなく、ナタリアのパートナーとして出席してほしいのだが?」
「それならばカルロを連れてきますね」

 そう言えば、オーロ皇帝は呆れたような表情をし、魔塔主は穏やかな作り笑いをした。




感想 30

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております) ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。