125 / 286
周遊編
124 ナタリアの誕生日 01
しおりを挟むエラーレ王国がオルニス国に侵攻しようとしている証拠となるビラは簡単に集まった。
フェリックスは平民たちに慕われているため、街を歩いているだけで国民から気さくに声をかけられる。
そのため、国王がばら撒いているビラを持っていないかとフェリックスが尋ねれば簡単に集めることができた。
ハンナさんも噂好きのメイドたちに話を聞けば、彼女たちがお茶出しを行った会議での王と貴族たちの会話まで聞くことができた。
スパイ行為を行われるかもしれないというのに会議室にメイドを気軽に入れるのだから悠長なものである。
私は、私たちが集めたビラとハンナさんが録音してくれた魔導具を持ち、魔塔主と一緒にルシエンテ帝国の城へと転移した。
「私が使っていた部屋に転移してくださいって言ったじゃないですか!」
「わざわざそこでメイドや執事を捕まえて、オーロ皇帝に面会を求めてとか、面倒ですから」
オーロ皇帝は突然執務室に現れた私と魔塔主のやり取りを憮然とした表情で見ていた。
ネグロの表情は無表情でその感情は読み取り難いが、その目が冷たい気がする。
「……よく来たな。リヒト」
国政の中心部に他国の子供が入り込んだというのに、オーロ皇帝が怒ることはない。
こうした余裕を見せられると、執務室に近づいただけでナタリアのことを怒ってしまったことが少し恥ずかしい。
今回の転移先は魔塔主が決めたことではあるが、もう少しナタリアに対して配慮すべきだったかもしれない。
「執務室に許可もなく侵入してしまい、すみません。こちらに落ち度があることは重々承知なのですが、なぜそのように余裕なのですか? 暗殺者とかだったらどうするのですか?」
「この城の結界は魔塔主が張ったものだ。入ってこられるのは魔塔主と魔塔主の許可がある者だ。万が一、魔塔主が暗殺者だとしたら魔法では勝ち目はないからな」
だから諦めるというのだろうか?
潔いのか、投げやりなのかわからないが、帝国の皇帝というのはこれくらいどっしりと構えていなければやっていられないものなのかもしれない。
「それで、用件はなんだ? 少し忙しいのでな、手短に頼む」
オーロ皇帝が執務机からソファーに移動すると、すぐに夕食と思われる食事が運び込まれた。
「食堂で食べないのですか?」
「食堂でゆっくりと食事をする時間も惜しいのだ」
それほど忙しい時に来てしまったとは、申し訳ない。
「では、早々に本題を」と、私はオーロ皇帝の食事時間に話を終えられるように、すこし早口でエラーレ王国の王子であるフェリックスの現状とオルニス国侵攻の計画について説明した。
そして、街で集めたビラとハンナさんが集めた噂話が録音された魔導具をオーロ皇帝に提出した。
「末の王子に対して過不足のない生活環境や教育の場を与えない状況と、オルニス国への侵攻計画か」
オーロ皇帝は私の話を聞きながらも夕食を食べすすめていた。
大柄な体格で豪快に食べるような姿が似合いそうだが、そこは皇帝。
優雅な所作でナイフとフォークを使い、ステーキを切り分ける。
ちなみに、ネグロには私たちも夕食を食べるかと聞かれたが、私は食事をしながらプレゼンできるほど器用ではないため断った。
隣では魔塔主が例の甘ったるいお菓子を頬張っている。
私の話を聞いたオーロ皇帝は「ん~」と難しそうな表情で唸った。
「王子が蔑ろにされているのは確かだが、食事を与えられずに飢えるような状態でもないし、はっきりと暴力を振るわれるような状況でもない。侵攻計画も、まだ実行されていないため、仮想敵国を作ることによって国民をまとめている政治的戦略だと捉えることもできる。頭が悪い国ほどこうした手法がよく見られるからな。さらには、実際に侵攻されてオルニス国が困るかと言えば……」
そこでオーロ皇帝は魔塔主へ視線を向けた。
魔塔主は微笑んで言った。
「困りますよ。反撃でエラーレを吹き飛ばしたら我々が責められるのでしょうから」
「これに対して帝国側から対処するのはかなり難しい」
「なるほど」と私も頷くしかなかった。
侵攻する側は自身の優位を確立し、勝てるという確かな自信があるから侵攻を行うものだろうと思っていたし、勝てないにしても、攻め入られた側はある程度の大きな損害を負うものだと思っていたのだ。
しかし、オーロ皇帝の話を聞けば、確かに魔塔主が首長という立場にいるオルニス国が負けることなどありえないだろう。
魔塔主だけでもエラーレ王国を滅亡させることは容易く、侵攻の際に魔塔主がいなくても、魔法の才覚に優れたエルフたちが力を合わせれば、十分にエラーレ王国に対抗しうると思われた。
「フェリックスの乳母であるハンナさんからはフェリックスを国から連れ出して消息不明の状態にし、保護してほしいと言われているのですが、それではエラーレ国内で当然得られるはずだったフェリックスの権利を失ってしまいます」
「その乳母はなかなか面白いことを言うな」
オーロ皇帝は面白そうにクックックッと笑う。
「まぁ、そんなにリヒトが気にするのなら、私がエラーレへと視察に行ってやってもいいぞ。そこで面白い研究結果でも見せてくれれば私が目をかけるきっかけにもなるだろう」
帝国の皇帝に目をかけてもらえれば、帝国傘下の国のトップはどこの国であっても皇帝が目をかけた者を無下に扱うことはできなくなるだろう。
「エトワール王国の前王の問題といい、今回のことと言い、オーロ皇帝に頼りすぎですね。すみません」
「気にするな。全て、将来への投資だからな」
「そう言われると少し怖い気がします」
私が成人する頃には投資の対価は一体どれくらいのものになっているのだろう……
正直、返せる気がしない。
「しかし、今回の手助けについては今すぐにでも対価を支払ってもらいたい」
食事を終えたオーロ皇帝が顎鬚を撫でて言った。
「私にできることならば構いませんが、一体何をすればいいのでしょうか?」
「ナタリアの誕生日パーティーに出席してくれ」
「それくらい、お安いご用です」
オーロ皇帝の目が意地悪く細められた。
「そんな安請け合いをしてもいいのか? ただ誕生日パーティーに出席するだけではなく、ナタリアのパートナーとして出席してほしいのだが?」
「それならばカルロを連れてきますね」
そう言えば、オーロ皇帝は呆れたような表情をし、魔塔主は穏やかな作り笑いをした。
697
あなたにおすすめの小説
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
応援ありがとうございます!
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる