悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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 父上は十五分後くらいに食堂へと来た。

「食べずに待っていたのか?」

 食事を目の前に手をつけずに待っていた俺の姿に父上はそう聞いてきたから俺は頷いた。
 食堂に着くとセバスチャンたちはすぐに俺の食事を用意してくれたけれど、俺は食べずに父上を待っていた。

 俺が先に食事を始めて、父上が来る前に食事を終えてしまえば、父上はそれでいいと思って今後は一緒に食事をしようと誘っても適当に流されてしまうかもしれないと思ったからだ。

 だから、小さな子供の体が食事を欲してお腹をぐーぐー鳴らしても待っていたのだ。

「セバスチャン、ルシファーの食事を温め直してくれ」
「かしこまりました」

 せっかく出してくれた食事を再び下げていくセバスチャンに俺はお礼を言った。

「ルシファーは私に何か話したいことがあったのか?」
 
 子供が食事を我慢して待っていたのだから、自分に何か直接話したいことがあるのではないかと父上は考えたようだ。

 俺はただ、父上まで倒れてしまわないように、少しでも休憩をとって、しっかりと食事をしてほしいと思ってのことだったのだが、何も話さないというのも気まずいので、客室で寝ている少年の話をすることにした。
 
「昨日、俺が拾った子供については詳しく聞きましたか?」
「ああ。自分の名前もわからないというし、体は打撲だらけだというから、もしかすると奴隷かもしれないな」
 
 どうやら、この世界は奴隷が許されている世界のようだ。
 前世の記憶がある俺には嫌悪感があるが、今はそうした社会的問題を指摘する時間ではない。

「回復するまでこの屋敷で世話をしてもいいでしょうか?」
「それは構わないが、元気になった後はどうするつもりなのだ?」
「彼にどうしたいか聞いてみたいと思います」
「彼がここに残りたいと言ったら?」
「俺にかかる衣食住の費用を削って、彼をこの屋敷で雇ってもらえませんか?」

 父上は驚いた表情をした。

「衣食住の費用などと……お前はどこでそのようなことを学んだのだ?」

 子供が衣食住の費用のことを考えるのはおかしかっただろうか? いや、少なくとも、六歳という年齢で考えることではなかったかもしれない。

「えっと……本で読んだのだと思います」
「……そうか」

 父上は顎髭を撫でながら少し考える素ぶりをする。

「費用のことはルシファーは気にしなくてもいい。彼がここに残りたいというのなら、彼をお前の従僕にすればいいだろう」
「俺の従僕ですか……」

 父上の言葉に俺は少し考える。それから、俺は首を横に振った。

「彼には、従僕のような仕事よりも騎士のような体を動かす仕事の方が向いているでしょう」

 最初のセバスチャンとのやり取りや俺のところに駆け寄ってくる時の身のこなしを思い出す。

 あれほど痩せ細っていても力強さを感じるような動きをしていたことを考えると、彼には体を動かす仕事の方がずっと向いていると思う。

「それならば、ぼっちゃま、あの少年のことはこのじいに任せてくださいませんか?」
「セバスチャンに?」
「はい。騎士になるにしても、貴族の元で働くための言葉遣いや礼儀を身につけることは必要でしょう」

 確かに、それはもっともだ。せっかく上級貴族の元で働いていても、言葉遣いや礼儀作法が身についていなければろくな仕事は任せてもらえないかもしれない。

 俺はセバスチャンにうなずきを返した。

「確かに、そうしたものを早く身につけておいた方が、出世もしやすいでしょう」

 セバスチャンに任せていれば、読み書きや計算、言葉遣い、礼儀作法も身につき、騎士であれ、それ以外の職であれ、勤めるのに有利になるスキルを身につけることができるだろう。

「そうだな。セバスチャンに任せておけば剣術以外の武術も学ぶことができるし、いざとなればルシファーの護衛にもなるだろう」
 
 父上がそんなことを言った。
 剣術や武術……セバスチャンは優秀な執事だと思っていたのだが、執事以外の役目も担っていたのだろうか?

 俺は思わずセバスチャンを凝視してしまったが、セバスチャンはにこりといつもの穏やかな微笑みで食事を促した。

 俺は気を取り直して食事を進め、そして、父上と母上に謝らなければと思っていたことを思い出す。

「俺、これまで、随分と父上と母上に対して親不孝だったと思います」
 
 俺の言葉に父上は驚いたようだった。
 
「お前は非常に内気な子供だから心配はしたけれど、親不孝などと思ったことはないよ」
「これからは、父上のことも母上のことも大切にしたいのです」
 
 俺の言葉に父上は驚きながらも少し考え、「それなら」と言葉を続けた。
 
「お前にはクレメンティアのことを頼みたい」
 
 クレメンティアは母上の名前だ。
 
「クレメンティアはきっと、お前の負担になるかと思って息子のお前に会うことを我慢しているはずだ。毎日、少しだけでも顔を見せてやってくれ」
「わかりました」
「しかし、ルシファーは人を助けたことによって急成長してしまったようだな」

 父上のその言葉に俺はどきりとする。

「言葉遣いまで急に頼もしくなって」

 言葉遣い? 前の俺はどんな言葉遣いだっただろうか? 内気ではあったが、気弱だったわけではないと思うが……

「さようですね」とセバスチャンまで言う。

「あの少年の看病の仕方まで事細かに指示を受けまして、とても感心いたしました」
「看病の仕方までルシファーが指示をしたのか?」
「はい。清潔にすることが大切だと、ご自身の服を少年に着せるように仰せになりました」
「そうか。それなら、クレメンティアの看病の仕方もルシファーに考えてもらうのがいいかもしれないな」

 もちろん、それは冗談だったのだろうが、あの少年の看病……というか、とりあえず寝かせておくという放置の仕方を考えると、この世界の看病の仕方と前世の俺がいた世界の看病の仕方ではかなりギャップがありそうだ。

 俺は父上たちに合わせて愛想笑いをしながら、明日は母上がどのような状態で療養されているのかをきちんと確認してみようと思った。

 その夜、自室のベッドで眠りについた俺は、ぐすりっと鼻をすするような音を聞いた。
 それから、寝ぼけながらも人の気配を感じ、「よかった……また、一人になっちゃったのかと思った」という小さな声を聞いたような気がしたけれど、まだ六歳の子供のまぶたは重く、さらに、何か温かいものが足元にくっついてきて、その温度で意識は再び眠りの中に引きずり込まれていった。
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