君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった

白羽天使

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夢でありますように

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 元兵士団長である父の口癖は、「とにかく強くなれ」だった。
 
 物心ついた時には父直々に武術を教えられて、厳しい特訓を受けていた。
 おっとりした性格の母は「頑張るわね」と笑っていて、訓練の合間によくお菓子を持ってきてくれた。

 女の子らしい暮らしはしていなかったが、私はそれを特別不快には思わなかった。
 訓練を終えてから見上げる青空は、解放感と達成感に満ち溢れていて、見ていて心が気持ち良かった。

 フロイドと婚約する少し前に、向かいの家にモラルの一家が引っ越してきた。
 彼の父も軍隊の指揮官を務めていたみたいで、私の父とすぐに仲良くなり、自然に私とモラルも仲良くなった。

 彼は昔からどこか大人びていて淡々としていたけど、ちゃんと優しい一面もあった。
 同年代のやんちゃな男の子たちとは違い、蟻を踏みつぶしたりはせず、私には読めないような難しい本をたくさん読んでいた。
 そんな姿に憧れは抱いていたものの、それ以上のものを抱くことはなかった。

 フロイドとの婚約が決まり、それからはフロイドも含めた三人でよく一緒にいた。
 フロイドとモラルはたまに喧嘩をするけれど、大抵は私がいつも強引に仲裁をしていた。
 父から教えられた武術がこういうことにも役に立つのだなと思って、私は少し嬉しかった。

 しかし時が経つにつれて、私は周囲の人間から心無い誹謗中傷を受けるようになった。
 女のくせに髪が短い、女のくせに鍛えてる、女のくせに……数えだせばキリがないので、私は全部無視することに決めていた。
 
 だが、そんな私の態度が癪に障ったのか、石を投げてくる子もいた。
 私にはそれを簡単に避けることが出来たので、たいして恐怖にも感じなかったが、そんな時には決まってフロイドとモラルが駆け付けた。
 結局石を投げた男の子は私がコテンパンにしたが、二人はボロボロになるまで、私に頼ることは決してしなかった。
 
 抱く気持ちは違えど、そんな二人が私は大好きだった。

 学園に入学すると、ペティという女の子と仲良くなった。
 彼女は私をかっこいいと褒めてくれて、毎日一緒に行動するようになった。
 
 ペティの母は国を護る聖女であったみたいで、今は亡くなっているらしかった。
 彼女は母の思いを継いで自分も聖女になるのだと意気込んでいて、毎日、魔法の特訓に励んでいた。
 そんな彼女を傍目で見ながら、いつか聖女になれますように……と私は祈っていた。

 ペティの努力を知り、時が経つと、彼女は親友になった。
 最後の第三学年は、ペティ、フロイド、モラルと同じクラスになって、楽しい日々を送ることができた。

 私はとても幸せだった。
 こんな自分にはもったいないくらいに幸せだった。

 しかしそんな現実は、結局は理想の産物で、霧に紛れるように消えていった。
 絵に描いたような幸せは仮初と化したのだ。

 ……フロイドに愛していないと言われた日。
 家に帰った私は、自室に籠りたくさん泣いた。
 モラルの前で見せた涙で全部だと思っていたが、それは私の勘違いだった。

 四人で撮った写真には、満面の笑みを浮かべる私が映っていた。
 しかし今の私はその表情とは程遠い。
 鏡を見ることすらも嫌になって、私はただベッドに籠り泣いた。

 今まで休みなく続けてきた武術の訓練も、この日初めて休んだ。
 父が扉を叩き、何か言っていたが、私は大丈夫としか言えなかった。
 父はそれ以上追及してはこず、足音だけが遠ざかる。

 私は枕をぎゅっと抱きしめると、必死に祈る。
 どうかこれが夢でありますように……明日には全て元通りになっていますように……
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