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8・博愛主義者の神官が距離をつめてきます②
しおりを挟むいやいや私はそんなつもりはありません!
悪役令嬢にならなければ、それでいいのです!
地味に生きてそこそこの幸せが掴めれば満足なのです!
どこにいるか分からない転生の神様に訴えてみる。
だが、残念ながら返事はない。
「まあ、そういうことだ」とエルネストはジスランに言う。「お前は遠慮をしろ」
「どうしてだ。俺が先に目をつけたんだぞ」
「飽きっぽいお前だ、どうせ来週には他の人妻としっぽりやってる」
「それとこれとは別だ!」
「お前、本当に最低だな。親友しているのが恥ずかしくなるぞ」
「なにを! このむっつり!」
「貞操観念が崩壊しているお前に言われたくない!」
低レベルなケンカに夢中なふたり。
私はこの隙にそろりそろりと距離をとる。
「あ、こら。どちらへ行くのかな?」
しまった、ジスランに見つかった!
「待ってくれ!」とエルネストが歩み寄る。「その、よかったら少し話さないか。頭突きの攻撃力を最大限に活かす方法を教えるから」
「バカかお前は。仕方ない。アニエス殿。そちらでゆっくり三人で寛ぎましょう」
「お前は鼻が折れているのだろう! 医師の元へ行け!」
「うるさいぞ脳筋! 攻撃力についてなんて誘い文句に食いつく女なんていないぞ。気を使ってやっているのだろうが!」
この人たちって、こんなにおバカだったっけ? ゲームの中ではフツウにイケメンだったはずだけど。
「落ち着いて下さい。あなた方と寛ぐつもりはありません。どうぞエルネストさんは、ジスランさんを医局へ連れて行ってあげて下さい」
「私はあなたに付き添ってもらいたいな」
鼻を押さえたジスランが妖しい流し目をする。さすが女たらし。顔の下半分はマヌケなのに、色っぽい。全然ほだされないけどね。
だけどケガをさせたのは私だ。過剰防衛だったような気もするし。
「分かりました。ですがあなたとふたりきりはイヤです。エルネストさんもご一緒して下さいますか?」
「ああ、無論だとも」
「三人で語り合いながら行きましょう」
と、攻略対象たちはそれぞれうなずいた。
そこへ。
「付き添いは私が行きます!」
との声とともに女の子が現れた。ジスラン担当の悪役令嬢、巫女カロンだ。
彼女も神職で、ジスランの後輩に当たる。エンドは修道院に幽閉か処刑かで私と同じ末路だ。
彼女は先輩に歩み寄ると、その頭をバチンと叩いた。鼻血を出しているのに。
「いい加減遊び歩くのをやめないと切り落とすと言われているのに、先輩という人は! 今度は年下美人ですか? 本当に節操がない!」
「切り落とす……って」思わず呟くと、
エルネストが
「もちろん、あそこだ」
と答えて身震いをした。
「遊んでなどいません。今回は本気です」澄まし顔のジスラン。
「はいはい、聞きあきました」カロンは私たちを見た。「コレは私が回収しますから、エルネストさんはそちらのお嬢様をお願いします」
「ずるい」
「了解」
ふたりの青年の声が重なる。
一方で私はカロンに向けて、にこりと笑みを浮かべた。
「助かります。彼には大変困っていました」
アニエスはジスランなんかにこれっぽっちも興味がないよ、と印象づける。
「すみませんね。この人、病気なんです」とカロン。
「ぜひ神殿内に隔離しておいてほしいです」
「長に伝えましょう」カロンもにこり。
そして彼女は文句たらたらの先輩の腕をがしりと掴んで、去って行った。
となると、残るはひとり。となりのエルネストを見上げる。彼の頬がまた赤い。騎士さま、純情すぎじゃないかな?
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