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第六章 王都テルフレイラ

暁斗VSヘイスト①

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「《水の付与アクア・エンチャント》!」
暁斗がエンチャントを唱えたら、ヘイストが口の端を上げた。

「では私も。《水の付与アクア・エンチャント》」
両者の剣が、水の魔力で青く染まった。


暁斗がヘイストとの距離を一気に詰めた。
そのまま剣を振り下ろす。が、受け止めて弾かれる。
その流れに逆らわず、左から横なぎに振るった剣はかわされた。

しかし、それを予想していたかのように、暁斗は一歩踏み込み、右下から切り上げるように剣を振るう。

ヘイストの剣に止められ、暁斗は無理せず一歩下がった。


「……ふむ。剣の扱いは慣れているのか。召還されてから剣を使いだしたわけではなさそうだ」

「それが何?」
語りだしたヘイストに、暁斗は短く返す。

「ただの確認だ。何せ、今までは強くなった勇者しか知らないからな。旅立ってそう経っていない勇者がどれほどの強さなのか、その確認だ」

確認してどうするんだ、と思うが、聞くことはしない。
舌戦などできる気はしないからだ。

『情けないな、アキト』
(だったら、グラムがやってよ)
聖剣の茶々に言い返すと、少し緊張が解れた。



「では、今度は私から攻めてみよう」

鋭い突きが繰り出される。かわして攻撃しようとするが、さらに連続で突きが来たので、攻撃はやめて、かわして、時には剣で弾く。

ヘイストがニヤリとしたのが見えた。
突きしかしてこなかった動きが変わる。一転、袈裟懸けに振り下ろしてきた動きを、暁斗は見逃さなかった。

ためらうことなく、前に出る。
剣を振るおうとして……一瞬にも満たないわずかな時間、ためらいを見せたが、すぐにそれを振り切る。

左脇腹に攻撃。剣を振り抜こうとして……ガキ、と硬い石に攻撃したかのような嫌な音がした。

暁斗が軽く目を見開く。ヘイストから距離を取った。
聖剣を見る。間違いなくエンチャントは掛かっている。それなのに、通じない。


「なぜ、という顔をしているな」
ヘイストが嗤う。
「それが分からぬ以上、貴様は勝てぬ。降参するならしても良いぞ」

「するもんか!」
反射的に言い返す。

再び剣を構える。パールやポールはエンチャントで通じた。それがヘイストに通じないのは、なぜなのか。

(……なんか違和感はあったんだけど)
その正体を突き止めることが先決だった。


再び暁斗がヘイストと距離を詰める。
振り下ろす剣を再び弾かれそうになるが、暁斗はそれをさせず、剣同士をかち合わせる。鍔迫り合いの形になった。

お互いに押し合う、力の対決になるかと思いきや、暁斗が左手を剣から離す。

「――何を!?」
ヘイストが驚きの声をあげる。

ヘイストが両手、暁斗が片手となり、一気にヘイストが押し込もうとする。が、暁斗は左手の人差し指を真っ直ぐ伸ばした。

「《火炎光線ファイヤーレイ》!」

かつて、リィカがパールに放った魔法。それを暁斗も放った。
ヘイストの右脇腹が、貫かれた。


「――ぐっ、き、貴様……!」
ヘイストが血走った目で暁斗を睨む。傷を押さえつつ、片手で剣を構える。

一方、暁斗は大きく目を見開いていた。
ヘイストの体の内側全体に、魔力が流れていた。今までは、その流れが均一で気付かなかった。
だが今は負傷したせいか、流れが乱れている。

(もしかして、固い体の正体って……)
その推測を確認するため、暁斗はエンチャントを解除する。
剣を構えた。



「貴様、何のつもりだ……!」
暁斗が首を傾げる。
「そう言われても……。別にエンチャントを使う使わないは、オレの自由……」

「剣の勝負に魔法を使ってくるとは、何のつもりだと聞いているのだ!」
「えっ、そっち!?」
エンチャントを解除したら言われたので、てっきりそれかと思ったら、全然違った。

(……というか、剣の勝負のつもりだったの?)
唖然とする。

死ぬか降伏かの決闘を仕掛けてきたのは、魔族側だ。命の掛かった勝負に、剣だけも何もないだろう。使えるものは全部使う気でいた。
それが当たり前だと思っていたのだが。

『間違っておらぬぞ。だが、言ったように魔族は一対一の決闘を好む者が多い。正々堂々の戦いを好むのだ。互いが剣の打ち合いで始めたなら、それで決着をつけるべし、と思ったのだろう』

「……意味分かんないんだけど」

命のやり取りなど知らずに育った、この世界の人たちに比べれば甘い考えの持ち主だろう自分でさえ、魔族の言い分はどうかと思う。

『一言で言えば、馬鹿というか、脳筋、と今までの勇者たちは言っておったな。それが魔族だ』
聖剣の語るあまりの評価に、暁斗から力が抜ける。

『なればこそ、これまで真っ正面からしか攻めて来なかった。今回は、色々変わっておるので脳筋が治ったのかと思っていたが、変わらぬようだな』

(……脳筋って治るの?)
『知らぬ』

いささかズレた暁斗の質問に、聖剣は大真面目に返す。力が抜けるのを感じながら、暁斗は自分の傷に《回復ヒール》をしているヘイストを見た。
水魔法だからか、劇的な回復は見られていない。

(正々堂々戦いたいなら、こんな強引な決闘、仕掛けて来ないでよ)
そう思いながら、口を開く。

「オレは勝つつもりだから。剣だろうと魔法だろうと、自由に使うよ」
「……卑怯者が!」

(卑怯……かなぁ? 大体エンチャントだって魔法だけど)
またも首を傾げた。
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