怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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2話

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「相変わらずここの飯は不味いな」

ベッドの上で寝転びながら部屋に入りきらないほどの焼いた肉や焼いた魚、切っただけの野菜を食べながらゼギウスはそう文句を言う。確かにそれらは人間界にあるような色ではなく紫だったり黒だったりが淀んだ色をしていた。

「お主、何もしておらん癖によく食べるのぉ」

「何もしてなくても腹は減るからな」

「お主が職を失った理由が分かった気がするわ」

ゼギウスは約束通りこの城に外敵を一切踏み入れさせてはいない。しかし、それは敵がここまで進攻していないだけでゼギウスが居る効果ではない。いくらここに居る魔物が弱くても落とそうとすれば準備が必要だ。それこそゼギウスのように単騎で来ない限りは気づく。

だからゼギウスが何もしていないと確信を抱ける。何もしていないのだから食事の量を抑えるか配下の練兵や戦術指導をしてくれてもいいだろうにゼギウスは何もしない。寧ろ食事の量は日に日に増えている。現状だけで見ればただの穀潰しだ。

おまけに食事の時以外は寝ていて話も聞かない。強引に起こそうものならその者が致命傷を負う。これではどれだけ強くても職を失ったのが頷ける。

「それじゃあ俺は寝るから起こすなよ」

食事を終えたゼギウスは空いた皿を床に放置したまま眠ろうとする。今の言葉は“おやすみ”の代わりのような言葉で“うるさくするなよ”という脅しまがいの挨拶なのだが、今日ばかりは引き下がる訳にはいかない。

そう、今この城は危機を迎えている。それは___食料問題だ。

ゼギウスが来る前から食料事情が潤っていたとは言えないが、周りの状況を見極め比較的安全な日に調達しに行く。今まではそれで何とか回っていたのだが、ゼギウスが来たことによってそれが崩れた。

ゼギウスは1人でアルメシアとその配下全員を合わせたよりも多い量を食べる。だから必要な食料は今までの倍以上だ。それでもゼギウスの力は他に代えられないほど魅力的で今のこの奇跡のような状況を崩したくはない。そう今までよりも少し無茶をして食料を調達していたのだが、今日備蓄を含め食料が尽きた。

だから言わなければならない。

「言いにくいのだが、食料の備蓄が尽きたのじゃ」

意を決して伝えたのだが、ゼギウスに簡単に切り捨てられる。

「知るか。それを管理するのはアルの仕事だ。俺はこの城に敵を入れないとは言ったが他のことは俺の仕事じゃない」

「それは…そうなのじゃが、お主はその…今は何もしておらぬだろう?だから食事の量を抑えるか調達を手伝ってほしいのじゃ。お主が居ればもう少し食料集めに効率のいい場所に行けると思うのじゃ」

「アホ抜かせ。それよりも問題なのは飯が不味すぎることだ。そこを先に改善しろ」

この状況下においてあまりにも実現不可能なことを言われ、今まで溜まっていた怒りも合わせて爆発する。

「無理じゃ!食料調達も安定しない今、他のことに目を向ける余裕などない。馬鹿なことを言うのも大概にするのじゃ!」

言ってからはっ!と思い身構える。睡眠を遅らせた挙句、怒りをぶつけたのだから何が返って来るか分からない。そう思っていたのだが、ゼギウスが怒っている様子はない。

「何やってんだ?もう飯の問題を解決するには料理人を拉致るしかないか。なぁ、どうにかなんねぇの?」

「我にはお主が分からぬ」

会って数日、それも基本的に寝ていて食事の時以外は話すことすらないから当然と言えば当然なのだが、アルメシアにはゼギウスのことが理解できていなかった。だからこうやって無駄に身構えてしまうことが多い。これは最初の時の印象が拭えていないからだろう。

「はぁ…動くのは面倒だがこの先のことを考えれば仕方ねぇか。俺が出る間は四獣を呼び戻せ。そうすりゃ多少はもつだろ」

「確かに四獣を呼び戻せば城はもつかもしれぬが、1度下げた戦線を上げるのは無理じゃ。今よりも生活圏が狭まって更に食料集めが困難になるのじゃ」

2人の話している四獣とはアルメシアの配下の中で唯一戦力になると言っていい4体の魔物のことでこの城の守りの生命線だ。四獣は城を中心に四方に点在しており、それを直線で結んだ内側が今のアルメシアたちの生活圏となっている。

「料理人と戦線どっちが大事だと思ってんだ?」

「戦線に決めっておろうが!ついでに言うなら食材確保も重要じゃ!」

「我が儘だなぁ」

「お主なぁ___」

アルメシアの言葉を遮るようにコンコンコンと扉が3回ノックされる。

3回のノック、それは急用を知らせる合図でありアルメシアは「入ってよいぞ」と入室を促す。

部屋に入って来たのは1匹のスライムだった。

スライムは定まった形をしていない粘着質でゲル状の魔物だ。自分だけではノックできないが、ゼギウスに与えられた石を使ってノックしている。

石を与えられていることからも分かるようにこのスライムはどういう訳かゼギウスに気に入られている。自分の世話係に任命しスーという名前を与えるほどだ。

魔物の多くは名前を持たず高位の魔物でなければ名前はない。それは無数と言えるほどの個体が生まれては死に生まれては死にを繰り返す弱肉強食で競争率の高い魔物のしきたりだ。というか高位の魔物は常時千を超える魔物を配下に置くため全員に名前を与え記憶していてはキリがない。だから名前を与えられるのは極一部と限られている。

その魔物のルールをゼギウスは知っていた。その上でスーに名前を与えたのだ。別にゼギウスは人間で魔物のルールなど関係ないと言えば関係ないのだがアルメシアはどこか嫉妬のような感情を抱いていた。

スーはぽよん、ぽよんと床を跳ねて移動するとゼギウスの足元に納まると体の中から瓶を吐き出す。ゼギウスはそれを受け取ると中に入っている紙を広げた。

“久しぶり~ゼギくん元気にしてる?
ゼギくん面白いことしてるみたいだから私が1つお手伝いしてあげる。
東西の戦線を一時的に止めてあげるから自由に出かけていいよ。

お礼は今度貰いに行くね“

紙にはそう丸文字で書かれており下の空いている部分にはサソリのマークが描かれていた。

それを読み終えるなりゼギウスは「はぁ…」と溜息を吐く。

「アル、四獣を早く城に戻せ」

「急にどうしたのじゃ?その手紙には何が書かれておったのじゃ?」

ゼギウスは紙をアルメシアに渡し、アルメシアはその内容を確認する。

「そういう訳だから行くぞ。俺は料理人確保でアルは食材調達だ」

「この手紙の差出人は信用できるのか?」

手紙を読み終えた時の反応からも差出人とはいい関係ではないのは伝わってくる。だからアルメシアは当然の疑問を口にしたつもりだったのだがゼギウスに一蹴される。

「そんなこと確認できる立場か?食料が底を尽きたんだろ?」

「お主が言うな!だがそうじゃな。食料が尽きた今、迷っている余裕はないか」

アルメシアは目を瞑り、念を送る。それから数分経つと城の四方でズドンと大きな音が鳴り響く。四獣が城に戻って来たのだ。

「戻って来たし行くかの」

「そうだな」

そう返事をするがゼギウスが動く気配はない。四獣が来るまでアルメシアは準備をしていたがゼギウスは眠っていただけだった。

その奇妙な行動に思考が巡る。

「はっ、さてはお主、我を城から追い出してその間にこの城を乗っ取るつもりじゃな!?」

「アホか。んな面倒なことしなくても奪えるわ。しかもそれなら四獣呼び戻す意味ねぇだろ」

そう冷静に返されるが全く以ってその通りだ。それでもそんな訳の分からない考えが浮かぶほどにはゼギウスの行動の意図は理解できない。

「だったら何故動かぬ?」

「動くのが面倒くさい。ということで運んでくれ」

シンプルな理由だった。

「お主と行動したら我が食料調達できなくなるじゃろうが。それにお主の料理人の当ては人間界であろう。我が行ったら争いになりかねぬぞ」

「大丈夫だろ。適当にペットってことで話を通す」

「餌付けされておるのはお主の方じゃけどな!」
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