怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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8話

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状況を過剰に考えているアルが城を飛び出したせいで俺も城を出ざるを得なくなっていた。アルが単騎で出たところで勝ち目はなく尻拭いをさせられているのだ。

ドラルの城で迎え撃てば面倒な移動を挟まず一網打尽に出来たものをアルは面倒なことをしてくれたものだ。周りに味方のいないアルは出歩くだけで無駄に他の勢力を刺激して戦闘の規模が大きくなりかねない。

今はララとルルを大剣に乗せアルメシアと4人で森の上を飛んで敵地へ向かっている。

「お主、本気でララとルルを連れて行く気なのか?」

「本人たちが来たいって言うんだから仕方ねぇだろ」

「今から行くのは最前線なのじゃぞ!分かっておるのか!スーと同じように城に残して来た方が安全じゃろ!」

そう思うならお前も城で待機してろよ。と思ったが言ったところで聞く耳を持たないだろうと諦める。

「どうせ絶望的ならゼギウス様と居た方が生き延びれそう」

「ご主人様の傍以上に安全な場所はありませんから」

3人ともこれが深刻な状況とでも捉えているような言い方だ。ララとルルはまだしも、仮にも魔王が一柱のアルメシアが千人程度の戦いで冷静でいられないとは情けない。ドラルの死後、戦力が減ったのも頷ける。

少し進んでいくと拓けた場所に出て、骸骨の群れに囲まれ攻撃されている巨大な獅子がいた。

獅子はアルの従える四獣の1体で、どうにかここで食い止めようとしているようだがスケルトンの群れは獅子を甚振っているように見える。目的は俺たちをここに誘き寄せることか。そういった意味ではまんまと引っ掛かった訳だ。

「アルはララとルルをここで見張ってろ」

「なっ、おぬ___」

そう言い残してスケルトンの群れの中心に下りる。アルが何か言おうとしていたがどうでもいい。下に来られても邪魔なだけだ。

獅子の体に手を置き「よくやったな」と撫でて獅子を眠らせる。傷の数の割に致命傷になるような部位は一箇所もなく“俺たち”ではなく“アル”を誘き出そうとしていたようだ。

自分の配下がやられて感情的になるのは分かるが、それで判断をしているようではまだまだだ。四獣は契約獣で死ぬことはないのだから尚のこと。まぁ、ドラルもそうだったから似るのは遺伝か。そこにどこか懐かしさのようなものを覚える。

「まずは雑魚を片付けるか」

近くに落ちている手ごろな枝を拾って横に振る。その一撃は伝説の武器を使ったかのような斬撃を生み出し正面に居るスケルトンを視界の限り真っ二つにした。

同じように左右と後ろにも振ってスケルトンを倒すが、奥の方から次々と現れてくる。少なくとも千体なんて規模ではない。既に倒した数が千を超え、向かってくるスケルトンの数も考えるに軽く万は超えている。

アルメシアの雑な索敵に溜息が出つつ、もう1度枝を構えるが奥から魔力を圧縮した魔弾が飛んでくる。それを軽く振り払うと枝が折れた。

そこらにある武器よりは丈夫だったはずだが折れたということは単なる数の寄せ集めではなくそこそこ戦える奴も来ていることになる。

スケルトンの軍勢という時点で敵の大方正体は分かっていたが、今の魔弾で確信する。その確信が間違っていないことを証明するようにスケルトンを掻き分け異質なスケルトンがやって来た。

そのスケルトンはスケルトンにしては珍しく黒いローブに身を包んでいて、一見すると下位の魔物が着飾っているだけに見えるがローブの奥に見える濁った赤色の揺らめく眼がそうでないことを表している。

そのスケルトンには見覚えがあった。十魔王が一柱、スカー・ムクロ・スケルトンの分身体だ。斬ったところで数が減らないのはここで生み出していたからか。

反人間派の代表格がお出ましとは厄介なことだ。この数だけ揃えた構成で今すぐ本格的に事を構えるつもりはなさそうだが、宣戦布告くらいはしに来たと見ていい。

「ドラルの城が人間の手に落ちたと聞いて来てみれば貴様だったか、デュアル・S・ゼギウス」

その声には嫌悪と憎悪が滲み出ているが戦闘をするつもりはなさそうだ。

「別に俺の物になった訳じゃねぇよ。居候してるだけだ」

「それは人間の手に落ちたのと変わりない。しかし、貴様のような怠惰が動き出すとはどういう風の吹き回しだ?とうとう人間も本格的に動き始めたということか?」

そうスカーは思考を整理しながら問いかけてくる。

「アホか、俺がそんな面倒な事に手を貸す訳ねぇだろ」

「なら何故ドラルの城に居る?……そうか、貴様はドラルと交友があったな。小娘では頼りないから手を貸しているのか。それで己の種族を見限るとは貴様も大概罪な者だ」

「俺は1度でも人間に忠誠を誓った覚えはねぇよ。まぁ、怠け過ぎて冒険者をクビになったし向こうからも用済みってことだ」

「それは愉快愉快。愉快ついでに1ついいことを教えてやろう。他の英雄共は動き始めた。人間と魔物、どちらが世界の覇者に相応しいかを決める戦いは始まった。貴様もどちらにつくか決めることだな。こちらにつくと言っても歓迎はしないがな」

表情の分からないスケルトンでも声色で気持ちが高ぶり興奮が抑えられなくなっているのが伝わってくる。

ドラルの城の内情を知れて満足したのか退くつもりのようだがそうはいかない。

「もう帰るつもりか?」

「貴様を倒すのにこの戦力では足りないからな。安心しろ、近い内にドラルは落とす」

「ただで帰す訳ねぇだろ。《愚鈍なる世界》」

そうスキルを唱えると辺り一帯にある全てのものが倒れた。それはアルメシアやララとルルを含め対峙していたスケルトンの群れやスカー、そして植物に至るまでの命のあるもの全てを不自然に倒れさせたのだ。その全てが一様に、何が起きているのか理解できていないどころか立ち上がることも動くことも出来ずにただ倒れている。

その空間でただ1人、自分だけは平然と歩きスカーに近づく。

「分身体のお前には肉体的なダメージはない。だが、精神的なダメージは入る。油断したな」

「あ、い、お、い、あ?」

精神に異常を来たしているのは間違いなく、それは意味不明な言葉からも分かる。出ている症状は言語能力の低下に体の自由の喪失といったところか。

それでも大したものだ。他のスケルトンは体が曲がらない方向に曲がり砕け散ったというのに分身体で耐えているのは流石、魔王の一柱といったところか。

称賛の意味も込めてスカーの頭を踏みつけ「無様だな」と見下ろす。表情がなくとも喋れなくとも腸が煮えくり返っているのが伝わってくるが、スカーは何もできない。その無様をいつまでも晒させてもいいが眠いから終わらせる。

頭を踏み潰し頭蓋骨を砕くとスカーの体は塵となって消えっていった。

それにしても面倒な事になったものだ。七英雄が動き始め魔王たちもそのことを知っているということは面倒な事に衝突は避けられない。それは緩衝地帯とでも言うべきドラルの城が主戦場となり巻き込まれることを意味している。当然、そんな大規模な戦いに耐えられるだけの余力はない。

《愚鈍なる世界》を解除して空を見上げるがアルたちはいない。嫌な予感がしつつも辺りを見回すと、そこには意識を失って倒れているアルメシアたちがいた。

すっかりアルたちの存在を忘れていた。スカーとの再会に心躍ってついやり過ぎてしまったようだ。

それでも大剣に守護をかけていたおかげもあってか3人の体は正常な方向を向いていた。

「げ、やり過ぎたか…」

そう後悔しながらダメ元でララとルルと一緒に伸びているアルメシアを剣で突き起こして帰ろうとするが目を覚ます様子はない。生きているだけで御の字と思うべきか。

それでも面倒くささは拭えず「はぁ…」と溜息を吐き仕方ながら全員を大剣に乗せて帰っていった。
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