怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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10話

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外から大きな声が聞こえて目が覚めるが、2日酔いのような気持ち悪さがある。隣を見るとルルも同じように目が覚めたようだ。

「おはようございます、ルル」

「おはよう、頭が痛い」

ルルも頭が痛いということはこの気持ち悪さは意図的に引き起こされたもののようだ。

「私もです。ところでルルは何があったか覚えていますか?」

「ゼギウス様が無双していた」

こう答えるということは最後の記憶はゼギウスの戦闘ということになる。それは私も同じでお互いの記憶に大差はないようだ。

自分たちの部屋に運ばれ寝かされていたということはそのままゼギウスが圧勝したようだ。外から聞こえてきたのもアルメシアの声だったから間違いない。

相変わらずゼギウスに弄ばれていたようだが、2人は仲が良すぎる。決して相容れない人間と魔物という種族間では異常だ。それにゼギウスとアルメシアには覆りようのない力の差がある。それは一方的な脅威になり馴れ合うことを妨げるはずだ。

それなのにアルメシアはそれを受け入れてゼギウスに頼っている。それを気にせず対等に接しているのも気になるが、それ以上にゼギウスが魔物の揉め事に深入りしたのが気になった。

「ルルはどう思いますか?」

「何のことか分からないけど、分からない」

言葉が足りなかったようだ。

「ご主人様が魔物の争いに介入したことです。いつも面倒くさがって寝ているご主人様ならアルメシアさんを見限って違う場所に行くという選択をしそうではありませんか?」

「ゼギウス様ならここで寝てそう。だからアルメシアについて行ったのは不自然」

流石にゼギウスと言えどあの状況で寝ているほど怠け者ではないと思うが、あの強さを見せられては強ちそれでも勝てそうと思えてくる。

「そうなるとご主人様とアルメシアさんには何か特別な繋がりがあるということになりますが、それを探るのがご主人様に協力していただく1番の近道になりそうですね。色仕掛けを始め献身的にしていても意味がないようですから」

「同意するけどララは献身的の意味を調べた方がいい」

酷い言われようだ。十分献身的に尽くしてきたつもりなのに…

「ってもうご主人様のご飯を作る時間じゃないですか!」

窓から外を見るともう昼近くで普段ならゼギウスの食事を作り始めている時間になっていた。

スーに教えながら急いで食事を作ってゼギウスの部屋に運ぼうとすると、スーは外へ運ぼうとする。それについて行くと大きな獅子にもたれ掛かるアルメシアがいた。反対側にはゼギウスがいて寛いでいるよだ。

「ご主人様、御食事をお持ちしました」

ゼギウスを中心に食事を並べる。外で食べるのはピクニックをしているようで少し楽しい。外で食べるならサンドイッチでも作ればよかった。

いつも通りスーがゼギウスの足に納まると食事が始まる。

「2人とも頭痛とか吐き気とかないか?」

珍しくゼギウスが心配そうに聞いてくる。確かに起きた時はその症状があったが今は何ともない。

「起きた時は少し気持ち悪かったですが今は何ともありません」

「私も」

「ならいい」

「あれ、もしかして心配してくださったのですか?ご主人様ってば優し___」

言い切る前にゼギウスに唐揚げを投げられ口を塞がれる。

もぐもぐ…うん、美味しい。

「今更ですけどご主人様ってその小さい体でどうやってそんなに食べているのですか?」

「小さい言うな。俺は生きるだけで膨大なエネルギーを消費するんだよ。そのエネルギー量を1回で賄おうとするとこのくらいになるんだよ」

「確かにご主人様から溢れる魔力は冒険者じゃない私でも感じます。スーちゃんがその場所が好きなのもそのせいかもしれませんね」

少し羨望を込めた眼差しをゼギウスに向けるとスーが勝ち誇ったような顔をしている。

ほう、私を煽るとはいい度胸だ。その勝負乗らせてもらう。

隙を窺うようハイエナになったつもりで機を待つ。

「実戦積ませてないから何と言えねぇけどそこらの魔物くらいなら簡単に倒せると思うぞ」

「じゃあ私もご主人様の魔力をもらいまーす」

ここぞとばかりにゼギウスに飛びつくが、いつも通り弾かれる。弾かれた先は獅子の背中で柔らかく着地した。

毛がモフモフしていて気持ちいい。でも勝負には負けた。

毎回拒絶はするもののこういった気遣いはしてくれる。実はツンデレなのではないかと疑いたくなる。そう思うと寧ろ私の勝ちかもしれない。

そんなことを考えながらモフモフを続ける。

食事を終え片付けも終えて自由時間になると、ルルと一緒にアルメシアの部屋に来ていた。

「何の用じゃ?」

部屋に入るとアルメシアは何やら地図と睨めっこをしている。食料調達のいい場所でも探しているのだろう。相変わらず食料不足は改善されていない。

「アルメシアさんとご主人様のことを知りたくて。アルメシアさんとご主人様って仲がいいですけど昔からの知り合いなのですか?」

「我ではなく我の父上と交友があったようじゃな。我は知らぬから戦場で打ち解けたのであろう」

色々と納得できないところが多い。

アルメシアの父と交友があったからと言っていつ滅びてもおかしくないような勢力に加勢するのだろうか。それに戦場で打ち解けるなんてことがあり得るのか。それを疑問とも思わないアルメシアの思考はどうなっているのか。

様々な疑問が浮かんでくるがルルは納得しているようだった。

「そういうこと。やっと分かった」

何がそういうことなのかはさっぱり分からないがルルは適当に納得しているような様子はなく腑に落ちたような言い方をしている。

「アルメシアさんが私たちに敵意がなく受け入れたのもお父様の影響なのですか?」

「うむ、そうかもしれぬな。魔界には穏健派、統一派、反人間派の3つの派閥があって父上は穏健派にいたのじゃ。穏健派は戦争がしたくない可能な限り平和に過ごしたいという派閥で、中でも父上は変わり者でその対象を魔物だけにせず人間とも争いをしたくないと常日頃言っていたのじゃ。だから我も人間に対して抵抗が薄いのかもしれぬな」

反人間派と統一派は聞いたことがあるが穏健派というものが存在するのは初耳だ。

反人間派は人間に対して強い恨みを持つ魔物の集まりで統一派は全魔王の統合を目指す集まりだ。統一派も全魔王の統合をした後は人間界に攻め入るつもりだから早いか遅いかの話だと思っていたが穏健派もいるとなると話が変わってくる。

いくらゼギウスがいるからと言って人間に対する本能的な敵意は隠し切れないはずだ。それなのにアルメシアからは敵意を感じない。それは本当に穏健派が存在することを示している。

そうなると気になるのは何故人間界には穏健派の存在が知られていないかだ。魔物=敵と判断して戦っていた可能性はある。穏健派と言えど攻撃されれば攻撃し返すだろう。

だけどゼギウスは穏健派の存在を知っていて仲良くしていた。それなら人間界に広まっていてもいいはずだ。

どこか不自然さを感じるがパーツが足りないのか上手く結びつかない。

魔物に関する知識を書物でしか蓄えていないのはこういった時に仇となる。それでも自分の出自は魔界から遠く直接触れる機会はなかったから仕方がないと言えば仕方がない。

そんなことを考えていると今度はアルメシアから尋ねられる。

「お主たちこそ我に対して敵意を感じぬが、それにも何か訳があるのであろう?」

「私は魔界から遠くの地で生まれ育ったのでそのせいかもしれませんね。日々人間同士の争いが絶えないので寧ろ人間に対しての方が警戒心はあるかもしれません」

「それよりも果たしたい目的がある。そのためなら魔物と暮らすのも厭わない」

ルルの返答にアルメシアは少し悲しそうにしている。アルメシアからしたら少し仲良くなれたと思っていたのにこう言われて残念なのだろう。ルルはそういったところをあまり気遣えない。

ルルがこうしてここに居るのは魔物のせいだから仕方ない部分もある。寧ろここまで抑えられているのが凄いくらいだ。

そこからは和気あいあいと話せるような空気ではなく部屋を後にした。
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