怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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20話

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ゼギくんではない声が聞こえてきたものの、そこにはゼギくんの姿もありアルメシアちゃんたちと警戒しながら外に出る。途中、喜びのあまりかアルメシアちゃんとララちゃんが壁にぶつかったり棚にぶつかったりして皿を落としていたが気にしない。

外に出てすぐ、警戒から戦闘態勢へと切り替える。この魔物の少女は強さの桁が違う。

「下がって!」そうララとルル、スーを城の中へ戻す。

声を掛けてきた少女が剣の刺さったゼギくんを抱え足にはハオを突き刺している。それだけでも戦闘態勢を取るには十二分だ。

「やめといた方がいいよ。君たちを殺したらゼギウスに怒られそうだから手を出さないでね」

口ぶりから察するにゼギくんの敵ではないようだが、油断はできない。それはゼギくんとハオの状態が物語っている。

「貴方は何者なのかしら?ゼギくんの敵ではないようだけれどハオは貴方がやったの?」

「ハオはゼギウスがやったよ。私はゼギウスに送り迎えを頼まれてハオはまだ生きてたから連れて来ただけだよ」

そう少女は簡単に告げるが、それは簡単な事じゃない。

運ぶにしてもハオが居たのは魔界の奥、そこから意識のない2人を運んできたと言うのだ。道中、魔物に遭遇するのは勿論のこと、魔王に目を付けられてもおかしくはない。

ハオもゼギくんもビッグネームだ。それが死にかけの状態で居るのに他の魔王が止めを刺しに行かない訳がない。

「ゼギくんは無事なのかしら?」

とても無事には見えないがそう聞く。ゼギくんの生命力なら生きているだろうがほとんど魔力を感じない。

「生きてるっていう意味では無事だよ。でも私から離れると死ぬよ。ゼギウスは今、私の魔力を循環させて体の修復をしてるから」

「それは貴方じゃなくてもよいのではないかしら?」

この少女を近くに置いておくことは脅威だと判断してそう言ったのだが、癇に障ったようで少女の目つきが変わる。

「無理だよ。君たち程度の魔力じゃゼギウスの回復に必要な魔力を供給できない。ゼギウスをそこまで見下してるなら捻り潰すよ?」

その目は冷たく命の温度を感じない。その圧に体が動くことを拒否しようとする。それでも言葉だけはどうにか振り絞った。

「見下している訳じゃないわ。ただ、貴方を信用し切れていないだけよ。ハオをここに連れてくる意図もゼギくんがそうなっているのも不自然だもの」

「じゃあ約束してあげるよ。ハオがゼギウスよりも早く回復してゼギウスの許可なく何かをしようとしたら私が止める。それでいいでしょ?」

「…分かったわ」

こんな口約束に意味はないがこれ以上話しても無駄だ。アルメシアちゃんと協力してもこの少女には勝てない。だから交渉にすらならない。

「じゃあゼギウスを寝かせてあげたいからベッドのある部屋に案内してよ。あー、これはどうでもいいから預けるね」

少女はそう足で刺しているハオを靴飛ばしでもするようにこちらに飛ばす。

「いいかしら?アルメシアちゃん」

アルメシアちゃんに声を掛けるが返事はない。投げられたハオに目を引き寄せられ、憎しみのあまり私の声は届いていないようだ。

それよりも脅威が目の前に居るというのに、アルメシアちゃんはまだまだ青い。それだとこの先、生きていけない。

「こっちよ」

人の城に勝手に招き入れるのもどうかと思うが今のゼギくんの状態を見れば致し方ない。そう少女をゼギくんの部屋へ連れて行く。

「ここがゼギくんの部屋よ」

ゼギくんの部屋に入ると少女はゼギウスをベッドに寝かせて近くに座る。私は少女に近づきすぎない程度の距離に座った。

さっきまではハッキリとは見えなかったが少女がゼギくんの体内に魔力を循環させているのは本当のようだ。

片方の剣から少女の魔力が入り、もう片方の剣から老廃した魔力が出てくる。入れた魔力がすぐに老廃しているところを見るに先程少女が言っていた自分でなければ死ぬというのも嘘ではない。これ程の魔力を常に注ぎ続けることは私とアルメシアちゃんが協力しても無理だ。

少しして安全だと判断したのかララちゃんとルルちゃん、スーちゃんが部屋にやって来た。

「ご主人様!」とララちゃんが声を上げ駆け寄り、それにスーちゃんも続く。が、ルルちゃんだけは歩いてゼギウスに近づいた。

「ご主人様、すぐに剣を抜きますね」

そうララちゃんがゼギくんに刺さっている剣に手を掛けると少女が止める。

「今抜くと死ぬよ?」

「貴方は何者なのですか?」

「そう言えば名乗ってなかったね。私はナナシ。ゼギウスの昔馴染みって言えばいいのかな?」

ゼギくんの知り合いと言われればこれだけ強いのもまだ頷ける。しかし、私が見たことも聞いたこともないのは疑問が残る。

「ナナシ?聞いたことのない名前ね。魔王ではないようだけれど貴方ほどのバケモノがどこに姿を隠していたのかしら?」

「隠れてなんかないよ。君たちが見つけられなかっただけ」

「これでも私、人間界では1番情報収集に長けているのだけれど、それでも見つけられなかっただけと言うのかしら?」

鎌をかけているのならこれで少しは動揺が見られるはず。そう思って聞くがナナシに動揺は見られない。

「うん。えーっと誰だっけ…そうそう賢王、あれの居場所も見つけられないんでしょ?」

「そうね。賢王の姿が最後に確認されたのは50年以上前、今では存在しているのかも分からないという位置付けになっているわ。貴方の居場所はそこよりも見つけにくいと言いたいのかしら」

「そうだよ。賢王が作ろうとしてるのは庭の再現で私はその庭に住んでる…ってあれ?これ話していいんだっけ?ゼギウスが教えてくれたことだし何かあったらゼギウスのせいにしとこ」

庭、その単語には聞き覚えがあった。

マルスが探そうとしていた場所の名前で私が見つけられなかった場所。魔界にあるそうだが、私が見つけられなかったということは私の捜索が行き届かない奥地である可能性が高い。

まさか、その庭の住人が出てくるとは驚きだ。

そうなると気になるのはゼギくんとの接点だが、そもそも謎の多いゼギくんだからどう繋がるのかも分からない。ゼギくんは元々庭とやらの住人なのだろうか。

そう庭を探していたことを悟られないように冷静に考えているとナナシが思い出したように「あっ」と言う。

「何かしら?」

「庭のことについて嗅ぎまわるのはやめた方がいいよ。庭についてだけはゼギウスの知り合いっていう理由じゃ言い逃れできないから。えーっと、傲慢だっけ?庭に入ったから私が始末しないといけないんだよ。そういった面倒事が私に回ってくるんだから止めてよね」

その言葉は脅しではなく本気で言っている。どうやら開けてはいけない箱を開けてしまったようだ。

それにしても気になるのは、私は見つけられていないのにユーキが入ったということだ。ユーキが単体で見つけられる訳もなく、マルスはとっくに見つけていたことになる。私は表立って探す囮に使われたってことね。

庭が何なのかは分からないが、触れてはいけないことだけは分かった。

「あー、安心していいよ。私が始末を頼まれたのは傲慢だけで貴方は対象に入ってないからこれ以上、深入りしなかったら大丈夫。ゼギウスと知り合いで良かったね」

「私が探していたような言い方ね」

私が庭を探していたと言っても自分の操る人形を使ってでしか調べていない。誰かに聞いた訳でもその単語を発したわけでもない。だから私が探していたという事実は分からないはず。

そう鎌をかけるように聞いたのだが、再びナナシの目つきが変わり命の温度を感じなくなる。

「あんまり舐めない方がいいよ。庭は全て見えてるし分かってるから。って今のは表情を見て分かっただけだけどね」

それ以上、踏み込むことも立ち止まることも出来ず目を背けた。
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