怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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19話

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ようやくゼギウスが本気を出したようだ。2日間も無駄に待たされてイライラしていたが、そのイライラが消えるほどに今はワクワクしている。

ゼギウスは《絶炎》で炎を消してハオの頭を掴むと地面に叩きつける。

ハオは立ち上がろうとしているが何が起きたのか分からないように立ち上がれない。当たり前だ。ゼギウスの《愚鈍なる世界》を受け続けていたのだから無事でいられる訳がない。

ハオは《愚鈍なる世界》を単発の精神攻撃だとでも思っていたようだが、アレは使っている間広がり続け対象の体内を蝕み続ける。そして、さっきの倒れた衝撃が決定打となって立つことすらできなくなった。

倒れたハオにゼギウスは一方的に攻撃し続ける。無抵抗なハオに拳をぶつけ剣を刺そうとするが、拳は炎の鎧に防がれ剣は弾かれた。

どうやら本能が倒れる前に使った《炎王》とやらを継続させているようだ。並みの相手なら《愚鈍なる世界》を受けても魔力はなくならないが、魔力の使い方が分からなくなる。それなのにスキルを継続させられるということは腐っても魔王ということか。

「あれ?思ってたより硬いなー。それともゼギウスが弱いのかな?」

ここからではその真偽は定かではないが、この決定的な形勢は覆らない。そう思っていた。

「まだだ!まだ!」

驚異的な回復力でハオは自我を取り戻し立ち上がる。ゼギウスはそれに首を傾げるが、再び殴り始めた。

完全なる自我の喪失、暴走。ゼギウスの使う《解放》とは意図的に暴走させることだ。ただ、普通の暴走と違うのは自分の意思で発動させるのと、魔力が尽きた時に使うこと。

魔力が尽きれば暴走しても大した影響を及ぼすことはできず意識を失うだけだが、ゼギウスの場合は違う。普段は魔力で制限をかけている肉体を解き放つのだ。

体内に魔力がなければスキルは使えないが、暴走したゼギウスは外に溢れている魔力を利用してスキルを発動させる。おおよそ人間や魔物の領域を超えた戦い方だ。

ハオは仕返しとばかりにゼギウスの頭を掴んで全身を燃やしていく。ゼギウスは体をジタバタと動かして抵抗しているがハオに止まる気配はない。

そのまま頭を地面に叩きつけ両腕を膝で抑えると炎の拳でゼギウスを殴り続けていく。満足な抵抗も出来ないままゼギウスは殴られ続けた。

暴走のデメリットはこれだ。的確な対処ができなくなる。

「ゼギウスそのままだと負けちゃうよ?」

空から見下ろしながら独り言を呟く。暴走に身を任せて戦うなど戦略としては下の下と言っていたのはゼギウスだ。それなのにこのまま終わるなんて許せない。

しばらく殴られ続けるとゼギウスは動かなくなり、ハオは止めの一撃を加えようと今までよりも大きく拳を振りかぶりゼギウスの胴体を貫いた。

「今度はお前だ」

ハオは立ち上がると私の方を見てそう言う。

生意気で身の程知らずで今すぐにでも捻り潰したくなる。だけどその衝動をぐっと堪えた。

「ハオはゼギウスの獲物だから取ったら怒られるから嫌」

「そのゼギウスはもう死んだ。次はお前だ」

「うーん、本当にそうかな?」

「何を言ってる。暴走した体に戦力的な動きは取れない。つまり、動きを止めたら死だ」

ハオの言っていることは正しい。そんな騙し討ちみたいなことができるほど暴走している時は頭が回らず本能に身を委ねることしかできない。

「じゃあ振り返ってみなよ」

「何を馬鹿な___」

くだらないとばかりにハオは振り返るが、そこにゼギウスはいなかった。

ハオはゼギウスを探そうとするが無駄だ。魔力がないのだから魔力を頼りにした索敵では引っ掛からない。

あちこちと見回して、もう1度振り返るのと同時にハオの胴体はゼギウスの手刀に貫かれた。

体が危機に瀕したことでようやく本能も本気で動き始めたようだ。本能まで怠けているとは救いようがない。いや、本能だからこそ怠けていたのか。

ハオはなんとか反撃しようとするが、そこにゼギウスはおらず再び見失う。そして再び見つけた時には手刀に体を貫かれる。

そんなことを繰り返しているとようやくハオは倒れ込み動かなくなった。

それでもゼギウスは止まらずハオに馬乗りになると拳を握り殴り続ける。やられたことはやり返さないと気が済まないようだ。先に仕掛けたのはゼギウスだけど。

「さてと、やっと私も遊べる」

地上に下りて夢中でハオを殴り続けるゼギウスの肩をトントンと叩く。

「ゼーギーウース、意識ある?」

そう聞くが言葉での返答には期待していない。

その期待通りゼギウスは振り返るや否や拳を突き出す。それを、腕をクロスさせて受け止める。と、体は大きく後ろへ吹っ飛んだ。

「あー、ジンジンする!痛みがある!やっぱりゼギウスって最高!」

期待通りの返答に喜びを覚えながらゼギウスと拳だけでなく蹴りも使って打ち合う。その打ち合いはハオとゼギウスの打ち合いとは比較にならないほど激しく互いの身を傷つけていく。

「止めるためには仕方がないよね。《滅氷》」

今ならゼギウスに気づかれないと5割の威力でゼギウスの体を凍らせる。しかし、ゼギウスは《滅氷》の魔力を利用して内側から相殺した。

「あれれ?これも効かないんだ。じゃあ《滅火》」

今度は体を燃やすが、これも相殺される。

立て続けに《滅水》《滅風》《滅土》とスキルを使うが全て相殺された。

しかし、仕掛けは整った。

「いつもはゼギウスに頭を使われるからお返しだよ」

私が拳を振りかぶるとゼギウスも合わせるように拳を振りかぶる。その勢いのままに衝突させると、ゼギウスの拳が砕け散った。

全て相殺されたとはいえ、その身に4属性のスキルを受けた。その体が脆くなるのは当然のことだ。まぁ、昔ゼギウスにやられたから知ってるだけだけどね。

拳1つ分の優位を活かすために追撃を仕掛ける。が、既にゼギウスの拳は再生していた。

「速い!?」

再生した拳を再び粉砕させるつもりで振り抜くが相打ちに終わる。再生したばかりだというのに強度は元々生えていたものと変わらない。バケモノめ。

そのまま互いに決定打がないまま戦うこと1週間、とうとうゼギウスの体の動きは鈍くなり鼻や口、目から血を吹き出し始めた。肉体が暴走に限界を迎えたようだ。

「流石にもう限界か。もう少し遊びたかったけど終わらせないとね」

落ちている2本の剣を拾いゼギウスの体に突き刺す。そして魔力を流し込むとゼギウスは倒れて動かなくなった。

ゼギウスの暴走の条件は魔力が尽きること。だから魔力を流し込めば自然と体に枷が掛かり暴走は止まる。

「あー、楽しかった。また遊ぼうね」

倒れたゼギウスを抱えて飛ぼうとするが、止める。

「これの処分どうするのかな?まだ息があるし一応運んだ方がいいのかな?……後で連れてこいって言われるのも嫌だし運べばいいよね。いらないって言われたらその時始末すればいいだけだし」

そうハオの体に足を突き刺して飛び立つ。

途中何度もハオが落ちては突き刺して落ちては突き刺してを繰り返しながら飛ぶこと5日間、ドラルの城らしき場所に着く。腹が減ってもゼギウスが意識を失ったままで食べられず、休もうにもゼギウスが返事をしないから退屈で結局休まずに飛んでしまった。

「ここであってるよね?それにしても貧相な城だなー。おーい、誰かいないのー?」

大声で呼び掛けると城の中からガシャン!やドンッ!といった物が落ちる音や壁に衝突したような音が聞こえてくる。それから少しして1匹のスライムと4人の女性と少女が出てきた。
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