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24話

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昨日の一言でゼギウスは私の正体に気づかせたはずなのに特に変わった様子もなく食事をとっている。もしかしてまだ気づいていないのだろうか。七英雄ともなれば厄介事にも多く首を突っ込まなければならず、まだ私が誰なのか断定できていない可能性はある。

昨日の同じ判断をするというのも大抵のことに当てはまる言葉だ。いや、ゼギウスの人柄を考えればそんなことはしない。分かっていてこの変わらずの対応?

それはそれで許せない。

「ルル?ご主人様の方をずっと見ていますがどうかしたのですか?」

ゼギウスに目を向け過ぎていたのかララにそんなことを言われる。適当なことを言って誤魔化そうとするが先にララに追い打ちをかけられた。

「あっ、もしかしてルルもご主人様を狙っているのですか?ダメですよ。ご主人様はただでさえロリコンの容疑が掛かっているのにルルが行っては完全にアウトです」

「アホは黙ってろ」

そうゼギウスはララの口にパンを投げ込み塞いだ。

こればかりはゼギウスに同意だ。ララはゼギウスが絡むと頭が悪くなる。私は確かに小柄で幼い顔立ちをしている自覚はあるが、ロリータではない。決してロリータではない。

「先に腐れのとこに行くけどいいよな?」

「構わない。その方が都合がいい」

「ゴクン。どこかに行く予定があるのですか?」

パンを飲み込むとララがそう割って入ってくる。小さい頃からその気はあったがゼギウスの元に来てから少し行儀が悪くなった。

柵から解放されたのなら嬉しい。だけど、ララは私と違って帰る場所がある。その時にこれでは追い出されかねない。

「昨日ルルが行きたい場所があるって言ってたんだよ。ララも行きたいとこがあるなら1箇所くらいはいいぞ」

「ご主人様が優しい!?でしたら私は新しい服が欲しいです」

「あのなぁ…連れてくとは言ったが買うとは言ってねぇぞ。まぁ、腐れから巻き上げるか」

ゼギウスの言う腐れ、闇商人とはどういう関係なのだろうか。ゼギウスからの扱いはぞんざいに見えるが、あの闇商人がゼギウスの事を悪く言っているのは聞いたことがない。寧ろいつも褒めていた。

「戻ったのじゃ」

そうアルがボロボロの姿で部屋に入ってきた。服はボロボロだが肌に傷はなく、戦い方が下手なのが伝わってくる。

そこに今日1日とはいえ、この城の防衛を任せても大丈夫なのだろうか。と不安を覚えるがそれはゼギウスも同じようだ。

「面倒くせぇけど行くか。アル、スーと四獣を使えば持つとは思うがヤバくなったらこの剣に魔力を流せ」

「お主が我に期待しておらぬことだけは分かったわ。でも了解したのじゃ」

ゼギウスが大剣を2本の剣に分けると片方をアルメシアに渡すと出発した。

「歩くの面倒くせぇ」

そうゼギウスは怠そうに歩いている。私とララはゼギウスの剣に乗っているが、剣の半分をアルメシアに渡したことでゼギウスが座る場所はない。

私とララが歩いたら今日中には街に着けないから仕方ないのだが、申し訳なくなる。しかし、そんなことを思っているのは私だけのようでララはテンションが高くゼギウスを急かす。

「ご主人様、そんなことを言わずに早く行きましょう!街に行くのは久しぶりで楽しみです!」

「街があればいいけどな」

歩いている苛立ちからかゼギウスがそんなことを言うとララはしょんぼりとしてしまう。

「そう、ですよね…浮かれ過ぎました……」

「まぁ、フロンはドラルの正面だし比較的無事だろうな。少なくとも壊滅するような軍が動けばドラルに居ても分かる」

「もう!驚かせないでください!」

そうララは元気を取り戻して再びゼギウスを急かせていた。

しかし、街に着くとゼギウスが言うように壊滅はしていないものの、普段ならあるはずの露店や行商人による賑わいがない。もう大半は避難しているのだろう。

「閑散としていますね…」

「いつ戦争が始まるか分からねぇからな。ここに留まる方がおかしい。まぁ、腐れはまだ居るだろうけどな」

ゼギウスはそう一直線に闇商人のテントへと向かう。テントは既に潰れていて闇商人はもう居ないように見えるがゼギウスはコンコンと地面を足で叩く。すると、テントが独りでに立ち上がった。

「ゼギウス様、お待ちしておりました」

少しするとテントの中から闇商人が出て来て地下へと案内される。

「約束を守って」

ゼギウスが要件を言うよりも先に私の要件を言う。反故にされる訳にはいかない。

「ゼギウス様の要件を先に聞きたかったのですが約束ですからね、分かりました。貴方の母と姉は今、皇国内の第2別荘に居ます」

「そう」

「先に言っとくが無理だぞ」

「分かっている」

ここまで待ったのだから焦る必要はない。ゼギウスには昨日釘を刺したのだから逃げられる心配もない。焦らず仕留める時は確実な準備を整えてから。

「それで腐れ、今の状況は?」

「そうですね…人間からすると最悪と言って差し支えないかと。先日、傲慢様が魔物にやられその影響か他の七英雄も姿を隠しました。ですが、七英雄の拠点は戦力が整いつつありますので進攻を遅らせる程度はできるかと」

傲慢、ザリュー・P・ユーキが魔物にやられた?闇商人は何の動揺もなく淡々と話しているが事は重大だ。

七英雄の1人が魔王でもない魔物にやられた。それは人間と魔物の圧倒的な戦力差を意味している。

数に劣る人間が魔物に勝つには質が重要だ。七英雄の1人1人が魔王に勝てるのは当たり前のこと、その上で他の主力となる戦力も魔物を上回ることが絶対条件。それなのに七英雄の1人が魔王でもない魔物に負けたとなれば最早人間に勝ち目はない。

それなのに闇商人は驚くほど冷静だ。ゼギウスと同じようにこの闇商人も人間を見限っているのだろか。

「要するに英雄共は自分の街以外は捨てたんだな」

「おそらくゼギウス様を除く七英雄はこの戦争で仕分けをするつもりかと。ただ、傲慢様の死は想定外だったようですね」

仕分け、という言葉にララが反応する。

「仕分けということはわざと見捨てるということですか?」

「そういうことだ」

これで合点がいった。

何故父は騙され殺されたのか、全てはこのための前準備だった。

そうなるとゼギウスは都合よく利用された?でも、ゼギウスが現れる保証などなかったはず……ということは本当はあの時、始めるつもりだった…?

自分の中の最大の謎が解けたことで芋づる式に謎が解けていく。しかし、そうなるともうゼギウスに責任があるとは言えない。それどころか争いを遠ざけたことになる。

でも、目的を果たすためにはゼギウスの協力が必要不可欠だ。ゼギウスには悪いけどこれからも責任を問わせてもらう。

そんなことを考えているとララの荒げた声で現実に戻される。

「どうして七英雄がそのようなことをするのですか!?」

「七英雄は元からそういう奴等の集まりだ。英雄だから無償で全てを守とでも思ってたのか?寧ろ逆だ。七英雄ほど身勝手で我が儘な奴等は居ない。自分の利にならない奴は切り捨てる。それが七英雄だ」

「ご主人様も、そうなのですか?」

ララが縋るような目でゼギウスを見るが、ゼギウスは表情1変えない。

「俺ほど身勝手で我が儘な奴はいないだろ。七英雄の招集は無視するは今も魔物の城に居る。まぁ、七英雄なんてなりたくてなったんじゃねぇけどな。ってこれは言い訳にはならねぇか」

「ですが、ご主人様は見捨てません。ですよね?」

もう答えは出ているのも同然なのにララはまだ縋るような目でゼギウスを見ている。が、やはりゼギウスの表情は変わらない。

「買いかぶるな。俺も必要のないものは切り捨てる。だから他の七英雄と何ら変わらない。腐れ、話があるから少し来い」

そうゼギウスは闇商人を連れて奥へと行く。そんなゼギウスをララは見つめ続けていた。
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