怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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25話

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「それでゼギウス様、話とは何でしょうか?」

奥の部屋に移動して腐れが紅茶を淹れるとそう聞いてくる。ソファに座っているが、この座り心地は久しく味わっていない。ドラルの城のベッドよりも寝心地が良さそうだ。

「あの2人に目的を果たすための情報と人材を斡旋してやれ」

「ゼギウス様の命令には従いたいところですが、情報はともかくとして人材の斡旋はこの時期無理かと」

「お前なら何とかなるだろ」

確かに今は有事で良い冒険者は既に高い報酬で雇われている。だが、己の身の安全を含め問題事を解決するためにいくつか当てはあるはずだ。

「ゼギウス様にそこまで評価して頂けるようになったのは嬉しいですが、私には無理です。2人の問題を解決できるのはそれこそ七英雄クラスの猛者でないと不可能かと」

遠回しに、いや、これはもう直接か。俺にやれと言っている。確かにルルの件はそれくらい根が深い。

「おい、ルルのことはまだ分かる。だが、ララもそこまで深いのか?」

「どちらがどちらかは分かりませんが、どちらも同じくらい深いです」

そう言えば腐れにはララもルルも名前を教えていなかったか。それにしてもララとルルが同じくらい深い?あれほど深いことと同等ということは根が同じということ。腐れは全部知っていて俺に2人を渡したな。

「おい腐れ、お前まで俺に面倒事を押し付けるようになったか」

「ゼギウス様はやがて真実に辿り着きます。その時、後悔される姿を見たくはありません。だから1つでも多くの選択肢は提示させていただきます。それが私にできる恩返しですから」

恩返し。何とも都合のいい使い方をしやがって。俺を何でも屋だと思ってやがるな。

大方、自分の事を重ねているのだろうが、いい迷惑だ。

「そうか。それでこの先はどうするつもりだ?」

「安全な場所に身を置くつもりです。この世で1番安全な場所に」

「そうか。達者でな」

嫌な予感がして後にしようとするが、止められる。

「はい。ゼギウス様もお元気で…ってなる訳ないでしょ!ゼギウス様の元に決まっているじゃないですか!」

「はぁ…」

分かってはいたが溜息が出る。腐れは情報筋としてはかなり優秀だが、生活を共にするとなると面倒くさい。

「何ですかその溜息は!」

「素が出始めてるぞ」

「ごめんなさい。ですが、ゼギウス様の元の他に安全な場所はないかと。勿論、これは信用や希望的観測込みの話ですが」

「その判断に希望的観測を入れるな。その甘さに足元を掬われるぞ」

成長したかと思ったが、まだまだ未熟だ。商人として人を見極める目があると言えば聞こえはいいが、俺に対して無償の信頼を寄せ過ぎている。

「ごめんなさい。でも信用できるのはゼギウス様だけです!」

こうなってはもう駄目だ。腐れに昔の弱さが戻っている。この脆さが無くなればまた1段成長できるのにな。

「少し頭を冷やせ。俺はララとルルに話がある」

そう腐れをこの場に残してララとルルの居る場所に戻った。

「話は終わったのですか?」

「あぁ、一旦な。今度はお前たちに話だ」

「何ですか?」

「今日でお前たちはクビだ。後はどこにでも好きに行け」

腐れに手配させれば人間界内どこへでも安全に向かわせることくらいはできるだろう。だからここが別れには丁度いい。

「どういうことですか?」

「スーが十分料理を覚えたからお前たちは必要ない」

「話が違う!」

珍しくルルが声を荒げるが、それは分かっている。

「約束した記憶はねぇが、それは手伝ってやる。だから好きな場所に行け」

「分かった」

「分かりません!」

ルルは納得したが、ララは声を荒げ納得していないようだ。ララはまだこの大戦の意味を分かっていない。教えてやる気もないが、強制的にでもここで選ばせる。

「俺は別に理解を求めてる訳じゃねぇ。今なら行きたい場所に行く手段を腐れが用意できる。だから聞いてる、分かるな?」

面倒だが、少し威圧を込めて無駄な問答を削ごうとする。しかし、ララは怯まない。

「分かりません!私はご主人様の元に居たいです!」

……は?そう来たか。この期に及んでまだ目的とやらに俺を利用したいのか。状況を理解できていないとはいえ、過度な欲は身を亡ぼすと分からないのだろうか。

「昨日ルルにも言ったがお前の目的に協力する気はない」

「ですが先程、ルルには協力すると言いました!」

「言ったな。だが、それはルルの1件に俺が関わってるからだ。ララとは事情が違う」

「同じです!」

ララはそう声を荒げるが、その心当たりはない。しかし、嘘を吐いているようにも見えない。そうなるとルルに巻き込まれてララも…あぁ、面倒くせぇ。

「面倒くせぇが、ルルのだけ手伝うっているのが不満ならララのも手伝ってやる。これでいいか?」

これが最大限の譲歩だ。

「ダメです。クビも撤回してください」

「別に監視する必要はねぇぞ。手伝うって言ったらしっかり手伝う」

「そこは心配していません」

「言ってる意味分かってるのか?」

ララは言っていることの意味を分かっていない。ドラルの城で今まで通り生活するというのは思っているほど単純じゃない。

まずドラルの城付近は激戦区になり、命の安全は保障できないのは当たり前のこと。そこに加え、捕虜であろうと何であろうと魔物に通じている者は処刑される。最前線に出てくるような奴等はその辺りを完璧に仕込まれていて情状酌量の余地はない。

つまり、ドラルの城で生活をするということは人間界での生活を諦めるということになる。そんなリスクを背負ってまでドラルの城で生活するほどあの環境がいいとは思えない。

今ならまだ間に合う。大戦前の今であればまだ避難民として逃げ込むことができる。メナは2人の事を知っているが洩らすような奴じゃない。

だからこれが最後のチャンス。そう説明するのが面倒くさくて瞳に力を籠めるが、ララはもっと強い瞳をしていた。

「分かっています!2度と人間界での暮らしができなくなるということですね?私も皇族の出、その辺りのことはご主人様よりも見てきました。ですが、私はもう皇族に居場所はなく戻りたいとも思いません。私はご主人様より受けた恩を返すまではご主人様の元に居ます」

「だったらララの目的には手伝わねぇ。これで俺に恩はねぇだろ」

さらりとララは爆弾発言をしたが、そこに触れている場合ではない。できるのであれば聞かなかったことにしたい。

「でしたら、ご主人様に手伝っていただけるよう私が恩を売らなければいけませんね」

そうララは満面の笑みで言う。俺がどう言っても引き下がる気はないようだ。ルルの方が意味を分かっているだろうと、ララを説得してくれと視線を向ける。

「ゼギウス様は行きたい場所に行けと言った。だったらドラルの城に行くのも自由。ゼギウス様の傍に居るのも自由」

なるほど。あっさり監視の提案もせずに納得したかと思えばそういうことか…俺は選択肢を与えた。2人は他者に選択を押し付けられるような歳じゃない。自分のことは自分で決めていい歳だ。それでこれを選ぶのであれば俺にはどうしようもない。

「はぁ…勝手にしろ」

そう降参です、と両手を上げるとララとルルはハイタッチをする。ララが強引にハイタッチをしているように見えたがそこは気にしないでおこう。

「ゼギウス様、出立の準備が整いました」

そう腐れが奥の部屋からではなく、階段を下りてやってくる。準備を済ませ表に馬車を回してきたのだろう。仕事が早いことで。

「じゃあ行くか」

ララとルル、腐れを連れて帰ろうとすると、剣からアルの魔力を感じた。その魔力は少量で、それは生命力の低さを表している。

「腐れ、俺は先に行く。ララとルルを任せたぞ」

「分かりました。私を含め、無事に辿り着くことを約束します」

わざわざ自分を入れたことは無視して全速力でアルの居る場所へ向かう。
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