怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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26話

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ゼギウスたちが出発して10分も経たないうちにその忙しさを実感していた。

働いてはいるが寝ている時間も長く大丈夫かと思っていたら大間違い。四獣を前線に送ってはいるものの以前のような強さはなく絶え間なく全方位から魔物が攻めてきてその対応で精一杯だ。

攻めてきた魔物の大半は野良の魔物だが、それに混じってどこかの配下の魔物も居る。時折見える戦略的な動きに惑わされながらも何とか城を護っていた。

防衛を続けること1時間、もう疲れてきた。魔力的には問題ないが体力的な限界だ。

「彼奴はいつもこんなことをやっておったのか」

ゼギウスの凄さを実感していると急に南西、人間界と魔界の境界線近くからの魔物が急激に減る。その方向にはスーが居てスーが頑張っているのかと思ったが、すぐに違うと気づく。

スーが脱兎の如き逃げようで戻って来たからだ。

スーよ、どうしたのじゃ?

そう魔力を送って念話をすると、スーからは短く「七罪」と返事があった。一瞬、メナドールが頭を過ったが、それならスーがこんな反応をするとは考えにくい。

よってゼギウスでもメナドールではない七罪がここに向かっている。その目的は言うまでもない。我の首を取りに来た。

そう考えていると木の間から筋肉の塊が現れ…た?凄まじい筋肉が木々の間を通るには多すぎて引っ掛かったのだ。そのまま木々を無いもののように歩いて薙ぎ倒すとその者は目の前に現れた。

鎧を着ていると思うほど全身が溢れる筋肉で覆われた巨漢。身長は我の2倍以上、横幅は翼を広げた時と同じくらいに見える。人間でこれ程の巨躯は珍しい。

その特徴を見る限りエストラル・W・ラクル、《憤怒の鬼人》と見て間違いない。

「我の目が合っておればお主は憤怒の鬼人じゃな。七罪自ら赴くようになるとは我も強くなったということかの?」

四獣から魔力を回収して本来の力とでも言うべき魔力を取り戻して数日、七罪の1人が来たということは我が七罪からも脅威と取れるほど強くなったということだ。

それは嬉しくもあり、成長を実感できる。何より今の自分の力を試したい。そう思っていたがラクルに嘲笑するような眼差しを向けられた。

「自惚れるでない。貴様程度、魔王の末端になど興味ない。多少魔力が上がったからと言って我輩の脅威には成り得ぬ」

「ほぉ、では何故ここに来たのじゃ?我以外にここに来る理由など……」

失念していた。ゼギウスが今不在なのに加え、直近で魔力が増え強くなった実感があったから惑わされていたが、七罪がここに来る理由などゼギウスに決まっている。

説得か報復か、どちらにせよ大戦が始まる前に片を付けに来るには十分な理由だ。

「残念じゃったな。ここにゼギウスはおらぬぞ」

「そのようだな。では本来の目的とは違うがゼギウスが帰るまで暇潰しをするとしよう」

やはりゼギウスに用事があったようだが、魔王である我は捨て置けないようだ。

ラクルは動き始めると視界から消え、次の瞬間には懐に潜り込まれていた。筋肉の塊だからか動き始めさえすれば信じられないほど速い。

魔力で防御を張っていたはずなのに「グゥッ」と声が漏れ、吹っ飛ばされる。どんな攻撃をされたのかも分からないが、木々を何本も倒しながら吹っ飛ばされると巨大な木に衝突して止まった。

流石は七罪の1人、スキルを使わなくとも並大抵の者がスキルを使ったよりも威力が高い。何本か骨にヒビが入ったようだ。

空を飛び城の戻るとラクルが腕を組んで待っていた。我は敵にすらならぬという意思表示だろうか。

「弱いな。暇潰しにすらならぬ」

「そう思っておれるのも今だけじゃ。《龍王の咆哮》」

背後に現れた父上を彷彿とさせる気高く立派な龍の顔から咆哮を放つ。いくら七罪と言えどこれを受ければ無事では済むまい。

咆哮はラクルに直撃し傷を負わせた、はずだった。しかし、咆哮が消えると一切姿の変わらないラクルがそこに立っている。まるで攻撃などされなかったようだ。

「ただの魔物として見れば威力だけは立派であるが、戦いというものを分かっておらぬ。言い出せばキリがないが、所作で攻撃が来るのが丸分かり、予備動作が長い。魔力を分散させ過ぎておる」

的確な指導だ。全て自分の課題としていることで未だ解決できていない。流石に七罪にはこの欠点を隠すことはできない。

しかし、いくら力の差があっても七罪が魔王に戦闘を教える理由はない。もしあるとすれば取るに足らない存在だと判断されたくらいだ。

「お主、何故我に指南をするのじゃ?」

「言ったであろう、暇潰しだと。取るに足らぬ雑魚に何を教えようが雑魚は雑魚のままであろう?何か間違っているか?」

どうやら予想は当たっていたようだ。分かってはいても腹が立ち皮肉の1つでも言いたくなる。

「お主が傲慢でないのが驚きじゃ」

今度は接近戦を仕掛けようと地を蹴りラクルに肉薄するが、ラクルの様子が変わった。

「傲慢…ユーキ…貴様は触れてはならぬものに触れた…我輩の怒りは満ちたぞ…」

声のトーンが下がりラクルの肌が赤色に変わる。頭には2本の角が生え、その姿は二つ名にある通り鬼人のようだ。

人間であるはずのラクルが鬼人の姿になった。そのことに驚きを隠せず勢いが弱まると、気づいた時には片腕が無くなっていた。

「!?!?」

何が起きたのか分からないが、ひとまず距離を取ろうとすると腕を掴まれ阻まれる。そのまま地面に叩きつけられ蹴り飛ばされた。

今度は最初にくらった攻撃とは比較にならず、何十本と木々を貫通していく。以前なら既に意識を失い倒れていただろうが、今は違う。まだ体が動かせる。

何故急にラクルの様子が変わったのかは分からないが、さっきまでのように会話ができるような雰囲気ではなかった。例えるならば暴走しているようだ。

これからは生存戦略に切り替えなければならない。とはいえ、隠れることも逃げることもできない。城の近くにラクルが居る以上、破壊される危険を考えれば戻って戦う必要がある。

そう城に飛んで戻るとラクルは立っていた。が、視界に捉えられると動き始める。

空に居るからといって油断したつもりはないが、ラクルを視界から見失う。その直後、背中から鈍い衝撃が伝わってくる。そのまま地面に叩きつけられ、追撃に背中に鈍い衝撃が走った。

意識を失いそうになるが、何とか気を強く持つ。情けないが、ゼギウスに助けを乞わなければあと数分と持ちそうにない。

しかし、剣は今手元にない。あるのは城の入り口、大扉の前だ。ここからそこまでは十数歩だが、今は何千何万歩と感じるほどに遠い。

骨が折れているのか体が思うように動かず立ち上がれない。這いつくばって向かおうとするが片腕なのに加え、ラクルを前にそんなことが許される訳もなく絶え間ない攻撃に襲われる。

自分の不甲斐なさ、判断の悪さに嫌気が差す。これはその代償だと思えば少しは耐えられる。そう匍匐前進で進んでいると急にラクルからの攻撃が止んだ。

アルメシア様、私が時間を稼ぎます。その間にゼギウス様に助けを。

そうスーからの念話が入る。どうやらラクルの鬼を逸らしたのはスーのようだ。ゼギウスに育てられ本当に逞しくなった。

それでも我よりは弱く、ラクルを前にしては数分と持たない。もう一踏ん張り二踏ん張りと進んで手を伸ばす。そして剣に魔力を送る。

スーよ、ゼギウスに知らせは送った。退避するのじゃ。

そうスーに念話を送った直後、何かが弾けるような音がする。それとほぼ同時に我の意識も沈んでいった。
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