怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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27話

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ドラルの城に戻ると鬼人の姿になったラクルが居た。

どう刺激したらアル程度の力でラクルを鬼人の姿にできたのかは分からないが、すぐに止めないと不味い。アルは片腕を失いスーは体が散っている。早い回復が必要だ。

「久しぶりだな、ラクル」

そう声を掛けるが、理解できている様子はない。というか聞こえているかも怪しいが、憤怒で自我を喪失している。

ラクルはこちらに目も向けずアルの方へ向かっていく。心底面倒くさくて溜息が出る。

「《爆ぜろ》」

ダメージ目的ではなく注意を引くために即席のスキルでラクルの顔に爆発を起こす。まともなスキルを使ってはアルにも届き息絶えかねない。

ラクルは首を傾げながら振り返るとこちらに向かってくる。速いが、ただ速いだけで正面から突進してくるだけだ。

カウンターを入れるように剣を突き出すが、剣は筋肉に弾かれどこかへ飛んでいく。勢いが収まらないままラクルの突進を受けるが、受け止め切れる訳もなく地面を滑りながら押されていった。

これだからラクルの相手は面倒くさい。

木々を倒しながら押されることしばらく、アルとスーからは十分に離れることができた。

「アホ、面倒な事すんな」

後ろ向きに回転するように足を浮かせてラクルの首を足で絞めて後ろに投げ飛ばす。追撃をするように肉迫してラクルの角を掴む。そして魔力を送って角を砕くと小さな爆発が起こった。

これが離れなければならなかった理由だ。ラクルは怒りでその姿が鬼人に変わり、怒りを全て放出するまで人に戻ることはない。強引に角を折って鬼人を解けばその怒りが爆発に変わり膨大な魔力を放出する。

爆発の範囲としてはドラルの城も含まれていたが、ラクルを覆うように《障壁》を張ってそれを防いだ。しかし、アルとスーの安全を重視したため《障壁》の中に自分も囚われ、もろに爆発をくらった。

「ゴホッゴホッ…後で覚えてろよ」

爆発の反動で意識を失っているラクルを引き摺ってアルとスーの元に戻る。爆発で体中が痛いが、痛い程度で大きな怪我はない。

相手がアルだったから憤怒の効果も弱かったようだ。その点、アルが弱くて助かったかもしれない。

「アルは後回しで大丈夫か」

状態を見るにアルは片腕を失い意識も失っているが、少量の魔力が現状維持に努めている。それよりも問題は弾けたまま戻っていないスーだ。

ラクルをアルの傍に放置してスーの散っている場所に行く。スライムはジェル状の体のほとんどが生命の維持には関係なく核さえ残っていれば問題ない。

手のひらに余裕で収まる大きさの格を拾い上げ魔力を送る。

「スーがアルを守ったんだな。よくやった」

圧倒的に相手の方が強いと分かっていながら立ち向かうことは難しい。それも自身の生存も諦めず戦ったのだから並大抵のことではない。無駄に戦いを挑み倒れているアルとは天と地ほどの差だ。

魔力を送り続けるとスーの核は手のひらに収まり切らない大きさになり、散っているジェル状の体が集まってくる。スーの核を地面に置くと集まってきたそれらを全て吸収していつもの大きさに戻った。

ぷるぷると体を震わせるとスーは飛びついてくる。それを受け止め腕で抱えるとアルの場所に戻る。

「んー、どうやって治したもんかね…」

特別回復系統のスキルに精通している訳でもなく、ナナシくらいしか治したことがない。ナナシは魔力を流すだけで治せるが、アルは違う。自己修復能力がどこまであるか分からなければどこまで強い回復に耐えられるかも分からない。

強い回復には強い反動が伴う。肉体、魔力、精神が強くなければ寧ろ死へ近づく。

これだったら腐れを連れてくるべきだったか?いや、ララとルルだけでここまで来るのは不可能だし、腐れだけを連れて来たところで戦闘では足手纏いになる。だからその判断は間違ってなかったが、こうなると面倒くさい。

とりあえずアルの触れている剣を握らせ、刃の方から少しずつ魔力を流す。通常時のアルの魔力許容量は分かるが、今の状態でどれくらい耐えられるかは分からない。剣を通してアルの魔力に変換して通しているから拒絶反応は起こさないだろうが、このミリ単位とも言える魔力操作が面倒くさい。

「スー、飛んでった剣を拾ってきてくれ」

体内にある程度魔力が溜まったところで今度は放出して循環させなければならない。ナナシが俺にやっていたように剣を刺してやった方が楽だが、今のアルでは耐えられない可能性もある。何で魔王ともあろう奴がこんなに脆いんだか…

「スー、空いてる手に握らせて俺がアルに流してる魔力と同じ量を吸い取れ」

剣を拾って戻ってきたスーにそう指示をすると、指示通りアルの空いている手に握らせ剣の先端から魔力を吸い取り始める。これができるのだからスーは総合的に見たらアルよりも優秀かもしれない。いや、かもじゃない、優秀だ。

そんなことを思いながら延命措置を取っていると馬車が近づいてくる音がした。

「ゼギウス様、ただいま到着しました」

「ただいま戻りましたご主さ___」

いつものように飛びつこうとするララを腐れが押さえつけ荷馬車から降りてくる。この状況を察したようだ。

「ゼギウス様、代わります」

「あぁ。スー、もう止めていいぞ」

スーを抱えてアルから離れて座ると先程とは違い、落ち着いた様子でララが隣に座る。流石のララでも弁えたようだ。

「何があったのですか?」

「ラクルが来たんだよ。それでどう自惚れたのかアルがラクルと戦って死にかけた。それだけだ」

「ですがラクル様も倒れています。アルメシアさんが善戦したのではないですか?」

「んな訳ねぇだろ。相手がアルだったおかげか鬼人も大した強さじゃなくて止めれたってところだな」

大体の説明に納得したのか腐れが「始めます」と言ってアルの治療を始めたのに意識が向いたのかララもルルも腐れに目を向ける。

「《修復》《治癒》《循環》」

腐れは懐から包帯を取り出すとアルの肩から無くなった腕があるように巻きつけ、そう3つのスキルを連続で唱えた。すると無くなったはずのアルの腕が少しずつ生えてくる。が、すぐに止まった。

今度は懐から小瓶を何本も取り出すと空けては飲み空けては飲みを繰り返す。

回復系統のスキルに精通しているとはいえ、腐れの魔力はたかが知れている。だから魔力に即変換される薬を飲んで魔力を足しているのだ。

空の小瓶が20本ほどになるとアルの腕は再生していた。他の傷も治り息も安定している。

「終わりました。憤怒様の治療もした方がよろしいですか?」

「勝手に起きるからほっとけ」

「分かりました」

そう返事をすると腐れは空いた小瓶を拾って荷馬車に入っていく。それを確認するとルルが小声で話しかけてくる。

「ゼギウス様、あの闇商人は何者?普通の商人じゃない」

医術師のような手際の良さに疑問を抱いたのだろう。だが、闇商人は表では生きていけない者がなるのであって、ルルはそこのところを分かっていない。

「闇商人が普通の商人な訳ねぇだろ。スー、アルを寝室に運んでやれ。それにララとルルも城内に入ってろ。ラクルにお前たちの姿を見られると面倒事になりかねねぇ」

ララは「分かりました」とルルは「分かった」と返事をすると城の中へ入っていく。スーも体を平たく広げるとアルを上に乗せて運んでいった。

ここまで素直だと面倒事が起こりそうな気もするが、七英雄の1人を前にすればこれが普通か。だったら俺に対しても少しは敬意を払えよ…

そう思っているとラクルが目を覚ました。
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