怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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28話

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「久しいな、ゼギウス。我輩の怒りを受け止められる数少ない者よ」

憤怒が発動した記憶はあるが、あの柱に負けるとは考えられない。そして目の前にゼギウスが居るのだから止めたのはゼギウスだ。流石は底の知れない者よ。

「何でここに来た?」

ゼギウスに恍けている様子はない。そもそもゼギウスは無駄な駆け引きを面倒だと嫌い、我輩がここに来た目的が不都合に働く訳でもない。だが、探りを入れるとしよう。

「何故とは異なことを。柱の居る場所に我輩が来て何がおかしい?」

「面倒な駆け引きをする気はねぇ。ラクルがアル程度を倒しに来る訳ねぇだろ」

どうやら見当もついていないようだ。マルスが謀ったとも思えないがゼギウスが偽っている訳でもない。

「そうであるな。では単刀直入に言うとしよう。ユーキが死んだ。その者の正体をゼギウスは知っているのであろう?」

端的に目的を言うとゼギウスは合点のいったような表情をする。マルスの情報通り全てを知っているようだ。

「知ってるな。だが、タダで教えると思うか?」

「思わぬな。だから取引をしようではないか。メナドールの居場所でどうだ?」

ゼギウスが取引に応じるものなど限られている。その数少ない内の1つがメナドールだ。2人とも七英雄になったのが遅く、そのせいかよく一緒に居た。

「アホか。俺はメナの保護者か何かか?何で俺がメナの居場所なんかを知らなきゃいけねぇんだよ。それより七英雄の目的を言え」

「我輩はマルスの企みには加担しておらぬ。だが、それを知りたくばメナドールに聞くといい。半分は知っているはずだ」

「加担してないねぇ…腐れ、出てこい」

ゼギウスがそう声を掛けると荷馬車の中から全身を黒いローブで覆われた者が出てくる。

「ゼギウス様、お呼びでしょうか?」

機械のような声にこの者の生業を察する。闇商だ。

「ラクルはマルスの企みに加わってねぇって言ってるが本当か?」

「帝国は既に皇国に向けていた戦力の8割を魔界に向けておりどこよりも戦争の準備が整っています。ですから他の国に比べると戦力は居ますが、帝国内という目で見れば憤怒様の拠点は特別戦力が集まっている訳ではありません。私が知っているのはこれくらいで、判断はゼギウス様にお任せします」

よく調べておる。数ではなく戦力で比較しているのが素晴らしい。だが、甘い。戦力1の者が100人で戦力が100になったところで戦力が100の者1人を打ち破ることはできぬ。

そう言った意味で見れば我輩の拠点としている街は帝国内でも突出して戦力が集まっておる。帝都の次に、だがな。

「なら交渉には乗ってやる。だからラクルの知ってる限りマルスの目的を言え」

「いいだろう。我輩が知っておるのは、マルスはゼギウスが七英雄に入る以前から大戦を起こそうとしておった。その目的は世界を作り変えること。選別はその前段階だ」

聞いてきた割にはゼギウスに驚いた様子はない。確証を得るために聞いたのか。

「ユーキを始末したのはナナシって魔物だ」

「メナドールはマルスの場所におる。皇国内、皇居の地下だ」

「ナナシは庭って場所に居る。まぁ、入るのは諦めるんだな」

庭、マルスが話しているのを聞いたことがある。人間界にも作りたいとかなんとか言っていた。

庭の場所が分からないのは言うまでもないが、ユーキが魔物にやられるとは何事だ。柱であればまだ分かるが、そうではないときた。

「ゼギウス、貴様はナナシとやらを何故知っておるのだ?」

「昔馴染みだ。俺がハオを倒しに行く時に会って話したらユーキの始末に行くって言ってたんだよ。だからユーキのことは想像がついたしやった奴も分かった。それだけだ」

俄には信じ難い話だ。人間と魔物が遭遇して話したのもそうだが、互いの種族の主力を倒しに行くと言って見逃すなどあり得ない。

しかし、ゼギウスならあり得る話だ。今現在、柱の城で共存しているのもそうだが、七英雄になった時も柱の肩を持っていた。あれは王が、いや、マルスが仕組んだことだが、それでも柱の味方をする理由には成り得ない。

魔物とは滅ぼすものでそこに情けを掛ける理由は如何なる場合でも在りはしない。

「取引は終わった訳だが、追加で取引をしたい」

「俺が提供するのは庭への行き方かナナシに会わせることか?」

話が早い。だが、その申し出はゼギウスがナナシとやらと深く通じていることを表す。当然、ゼギウスは我輩がそのことに気づくと分かって言っている。相手に思考を強制させ自らは端的に言う。何とも怠惰な男だ。

「左様。それで我輩は何を差し出せばいい?」

「俺が皇国に行く間のここの防衛だな。当然、ナナシに会わせるのは俺が戻ってからだ」

「これは異なことを。我輩に柱の城を護れと言うか。如何なる理由でも我輩は柱に手を貸す気はない」

メナドールの居場所に興味がないと言っていながら皇国に行くか。ツンデレとやらにも見えるがそうではない。これはゼギウスに表立って皇国に向かわせるための釣り針だ。

王国の亡霊エーデンガルム家の真相究明か、ゼギウスらしい。だが、行けば後悔する。唯一無実なリースレットはもう居ない。残るは憤怒だけだ。

「じゃあ交渉決裂だな。言っとくが、ナナシを呼び出せるのは俺だけだぞ」

それは分かっている。だからここに来たのだ。居場所までマルスが分かっているなら強引にでも聞き出していた。

しかし、七英雄の1人として魔物、それも柱に手を貸すなど以ての外。そんなことをしては七英雄の権威に関わる。七英雄は人類の希望でなくてはならない。

それでも、友の仇は取らなければならない。ましてやユーキを倒すほどの強者、今のうちに排除しておかなければ脅威となる。

「俺もラクルも時間がないだろうが、明日までは待ってやる。折角の再開だ、飲んでけ」

譲歩する気はないが取引は成立させたいと。何とも我が儘な男だ。

しかし、悪い話ではない。今後ゼギウスが脅威になるかを含めて話しておきたいことがある。それ如何ではここでゼギウスを倒す。

「いいだろう。ゼギウスとは久しく飲んでいなかったな。誘ったからには貴様も酒を飲むのであろうな」

「どうだろうな。腐れ、準備しろ」

「もう準備はできています」

予定調和かと疑いたくなるほどいい手際で酒と肴が出てきた。相変わらずゼギウスは酒を飲む気はないようで水を受け取っているが、それも懐かしくて少し顔が緩む。

ボトルの酒を受け取り口でコルクを開けて飲み始める。いい酒だ。この闇商はいい趣味をしておる。

「ゼギウスは何故魔物についた?待遇が不満という訳ではなかろう?」

ずっと疑問だった。ゼギウスほどの強者が地位も名誉も何も求めない。それなのに人間に味方する訳ではなく魔物についている。余程の恨みがなければできないことだ。

「魔物についた記憶はねぇな。俺はどっちにもつく気はねぇし、それはアルも納得してる」

「信じられぬな。双方を敵に回すだけであろう。それよりは魔物についたと見るべきではないか?」

面倒事を嫌うゼギウスが何よりも面倒な選択をする意味が分からない。だから深く踏み込む。

「おいおい、酔うには早いぞ。まさか取引で1-1交換したとか言い出すんじゃないだろうな?」

「それもあり得る話だ。七英雄と柱の交換であれば魔物側に有利に働く、手土産としては十分であろう。ハオは柱の中でも特異な存在と聞く。連携も取れなければ柱としての損失はないに等しい」

「信じるも信じないも勝手にしろ。まぁ、判断材料としてスカーは請け負ってやる」

踏み込んだ甲斐があった。スカーは柱の中で最も人間に対する憎悪が深く強い。そういった意味ではゼギウスにとって邪魔にはなる。だが、それ以上にスカーの首には価値があり、我輩が直接手を下す判断を遅らせてもいい。

皇国に行って生き延びられればだがな。

真面目な話はもう十分で再会を祝して朝まで飲み明かした。
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