怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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29話

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別れとも言うべき飲み会は朝になると終わりを迎えた。今は互いに時間がなくこれが限界だ。俺もラクルも大戦に備えての準備で身動きが取れなくなる。

思えばラクルは唯一と言っていいほど七英雄の中で面倒が無かった。他の奴みたいに戦いを挑んで来なければマルスみたいに面倒事も運んでこない。おまけにメナみたいに私生活に踏み込んでも来ない。

だが、ラクルがナナシと戦うなら勝ち目はない。だからこの飲み会は再会を祝すものではなく別れだ。

「時間だな…答えを聞こうか」

一晩中飲んでいたがラクルに酔っている様子はない。正確にはついさっきまでは酔っていたが、たった今酔いが醒めたようだ。

「取引に応じよう。だが我輩がここを護るのは3日だ。それ以上経てば柱を始末する。よいな?」

「皇国まで3日で往復か。馬車でも3ヶ月はかかるぞ」

「我輩は七英雄の権威を穢すのだ、これ以上の譲歩は許されぬ」

言葉の通りラクルはこれ以上、譲らないだろう。だが、困ったものだ。ラクルは俺1人で行く場合の計算をしている。実際はララとルルを連れて行くからその2倍か3倍、体の負担を考えるなら5倍はかかるだろう。

「分かった。ただ、俺が出発して3日にしろ。往復3日で面倒事の処理ともなれば流石に準備がいる」

「そうであろうな。では準備に3日やろう。但し、その間の防衛に我輩は力を貸さない。よいな?」

本当にこれが最大限の譲歩だろう。ラクルは七英雄に誇りを持っている。そのラクルがここまで譲ったということはもっと俺の命に関わりかねない面倒事があるということだ。

ラクルはどちらにも肩入れしていないようだから万全の準備をさせたいのだろう。

皇国でそれということはマルスか。これはかなり面倒事になりそうだ。

「あぁ。それと防衛についても魔界側、魔物と戦う前線を考えとく」

「それはよいな」

「腐れ、お前も来い」

そう腐れも連れて城の中へ行く。ラクルにはララとルルの存在、正体は気づかれていないし気づかせるつもりもない。幸いにもラクルは絶対に城の中には入ってこないから隠し通すのは容易だ。

「私は何を仕入れるフリをすればよろしいですか?」

腐れの荷馬車に2人を乗せて仕入れの名目で連れ出すつもりか。商売柄、隠匿に気を遣っているのだろうがそこまでする必要はない。

「別にフリもしなくていい。詳しい話はララとルルが来てからにする」

そう話していると話し声が聞こえたのかララとルルがコンコンと扉をノックして入ってくる。

「丁度いいとこに来た。皇国に向かうぞ」

端的に用件だけを言うとララもルルも表情が険しくなる。そこからは憎悪が滲み出ていた。

しかし、ララからはすぐに憎悪が薄れる。

「それは嬉しいのですが、ここは大丈夫なのですか?」

「期限は6日、それまではラクルがここを護る。それを過ぎればアルが始末される」

「随分と物騒な話じゃな」

そう言いながらアルが部屋に入ってくる。もう体は普段に近いくらい治っているようだ。

「不満か?」

「今更何を言っておるのじゃ。お主は言葉では我をぞんざいに扱うがその場でできる最善を尽くしておろう。そのお主がそう判断したのだから我は従うのじゃ」

アルにはララとルルの事情を話していないが、今までの生活とこの空気で察したのだろう。瞳には強い意志が感じられ、残ることの危なさも理解しているように見える。

「まぁ、6日もあればどうにかなるだろ。多分、きっと、おそらく」

「止めぬか!そう言われると不安になるじゃろ!」

久々にアルからの尻尾のツッコミが飛んでくる。が、届きはしない。この動きなら今日から前線に送っても問題なさそうだ。

「でしたらアルメシアさんも連れて行けばいいのではないですか?」

ララがそう聞いてくる。ルルのように自分の事で頭が一杯になって当然の状況なのにララは優しい。優しいだけではなく、もう前を向いている。

普段はアホだがこういう切り替えは上手いようだ。いや、アホだからか。

「それは無理だな。アルがここに残って人質になることが条件でラクルはここを護る。俺が約束を反故にしないためにな」

「ですが、ラクル様が約束を破る可能性もあるのではないですか?」

ララは躊躇なくそう聞いてくる。ラクルは誰よりも七英雄の座に責任を感じ職務を全うしていたのに何と気の毒な。

まぁ、それ故に魔物に力を貸すのがあり得ないと思われていることにしておこう。ララからは全くそんな気配は感じず単なる不信感にしか見えないが。

「ないな。6日後、俺がラクルに提供する物はそれだけ価値が高い。だからラクルも期限が過ぎるまではアルにもこの城にも手出しはできねぇ」

「ですが___」

「よいのじゃ。ララが心配してくれる気持ちは嬉しいが、我は我にできることをする。お主たちは復讐に行くのであろう?詳しいことは我には分からぬが、それをしなければ前に進めないこともあるのじゃ。我はそうであった」

ついこの前までアルも同じ気持ちだったから痛いほどその気持ちは分かるのだろう。ララの迷いを払拭しようと気丈に振舞っている。だが、つい昨日負けた相手で力の差は明らかで本当は怯えているのが伝わってきた。

「そういうことだ。時間もねぇしこれからの予定を言うぞ。2日で皇国まで行って2日で目的を達成する。それで2日で帰ってくる。これで6日だ」

「凄いハードスケジュールですね…」

流石は皇国の出身、この予定の無謀さに言葉を失いかけている。だが、ここから更に追い打ちを掛けなければならない。

「それとラクルとの取引の都合上、俺は3日後に出発する。だから合流は帰りになるな」

今度の無謀にも見える予定にはルルが食いつく。

「ゼギウス無しで目的を果たすのは無理」

それは御尤も。だが、そんな余裕はない。

「お前たちには腐れをつける。それで何とかしろ」

「それだと最後までたどり着けない」

「それは俺が対処する。マルスはそんなに甘くねぇ」

「分かった。でも真実は私も直接知りたい」

直接、要するに無力化したマルスに会わせろと。また随分と無茶なことを言う。だが、ルルにはそれを知る権利はある、か。

そう考えているとララが不思議そうに聞いてくる。

「あの…それだと私たちは何をすればいいのですか?」

根がマルスならそれ以外に興味はないか。ララの方は完全に吹っ切れているようだ。

「アホか。ルルは母と姉だったか?に会って話せ。ララも最後に親と話しとけ」

「私は最初からそのつもり」

腐れに居場所を聞いていたからルルは話して決別をするつもりなのは分かっていたが、ララは違うようだ。

「私は話すことなんてありません。あの人たちにはもう微塵も興味ありませんから」

普段のララからは想像もできないほど冷たい声が放たれた。

ララに何があったのかは分からないし普段なら面倒で引き下がる場面だが、これだけ面倒事が多いと多少の面倒は気にならない。

「だとしても話せ。話さなかったらここには連れて帰らない」

「……分かりました」

本当に渋々といった感じだが、ララは納得した。最終的な決定、ここで暮らすのかどうかは本人が決めればいいが、その判断材料は提示する必要がある。

…ん?それって俺がやることか?俺はいつからララの親になったんだよ…

「じゃあ大剣に乗れ。方向の指示は腐れに任せる」

フロンの街からとはいえ、1度ここまで俺抜きで来られたからか腐れに対する信用もある程度はあるようで2人ともすんなりと頷く。

城の表とは反対側の窓から《浮遊》をかけた大剣に3人を乗せて皇国に向けて送り出した。
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