怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
37 / 185

35話

しおりを挟む
まさかゼギウスが自ら庭の出身だと言うとは思わなかった。

今までゼギウスは自分の出自に関しては適当にはぐらかし時には空から降ってきたとまで言っていたのに、この判断の早さは流石と言える。今からする話で後出しに庭の出身だと言えば即座に戦闘が始まっていただろうに相変わらずの嗅覚だ。

「へぇ、その話も気になるけどまずは庭について教えてよ。ゼギウスへの詰問の度合いはその後で決めるからさ」

「詰問は決定かよ…」

そうゼギウスは面倒くさそうに溜息を吐く。その様子からはまだ余裕が窺えた。

「庭については僕から話すよ。もし違っている部分があったらゼギウスが訂正してくれ」

庭についてはゼギウスの方が詳しい。だが、ゼギウスは自ら庭について語ることはないだろう。余程間違っているか隠したいことがない限りゼギウスは口を挟まないはずだ。

「庭というのはこの世界にしてこの世界に非ず。魔界のどこかにこの世界と繋がる部分を持っているが普段は繋がっていない。要するにほとんど分からない訳だけど、そこには僕たち七英雄のように魔物の七罪が居る。ユーキはその1人に負けた」

これは魔物との対戦に置いて根底から揺るがす話だ。七英雄と柱の戦いだと思っている者も多いが、それは違う。七英雄と七罪の戦い、それがこの大戦の大局図だ。

それを今のうちに七英雄で共有しておかなければならない。

「それってかなり不味くない?今まで大将だと思ってた相手が実は下っ端でしたって話でしょ。どうするのさ」

「シアンー、おいら難しい話は分からないよ」

昔からそうだが、グラは何を話しているか分かっていないようだ。普段なら呆れながらも笑っていられるが今そんな余裕はない。

「柱よりも強い魔物が7体居るってことさ」

「強い魔物がいっぱい居るの?おいら戦いたい」

グラの扱いはシアンが居ないと成り立たないな。と改めて思いながらもグラの単純さが羨ましく思える。

「焦らなくてもその場は近い内にあるよ。だけど、その前にゼギウスは庭出身って言ったけどどっちにつくのかな?」

返答如何ではここでゼギウスを倒す。犠牲は最悪でも1人か2人に留めたい。

そういつでも戦闘に移れるように身構えながらゼギウスを見つめる。ゼギウスもこの答え次第でどうなるのか分かっているようで真剣な表情に変わった。

「何回も答えてるが俺はどっちもつく気はねぇ。ついでに言うなら庭には触れるな。庭は余計なことをしなければ関与してこねぇ」

「それを信用できると思っているのかい?柱の城に住み着いていながらどちらにもつかないは無理があるよ」

「何を勘違いしてるのか知らねぇが、俺がドラルの城に住んでるのは元を正せば冒険者をクビになったからだぞ」

「だったら帝国でも皇国でも人間界に選択肢はいくらでもある。特に帝国はゼギウスの事を気に入っているじゃないか」

そう。何もドラルの城に行く理由はない。ゼギウスのことだから近いというのも考えられるが、それだけで敵対している魔物の城の行くのは無理がある。

「アホか。帝国でも皇国でも面倒事に巻き込まれるだけだろ。それに俺はそこまで人間に尽くす気はねぇ」

「それは君の生い立ちの話かな?」

そう探りを入れるとゼギウスの雰囲気が変わる。命を感じさせないような体が凍り付くような冷たさだ。やはりゼギウスは底がしれない。

「知ってるか?この世には触れていいことといけないことがある。それが庭の事であり、俺の過去の事だ」

「だったら納得がいくように説明してくれないかな?」

「はぁ…そもそも俺とお前たちでは大きく価値観が違ぇ。お前たちは魔物を敵と思ってるのかもしれないが、俺はそうは思ってねぇ」

やはりそうだったのか。噂ではゼギウスは魔物に育てられたと聞いたことがある。そもそもこれだけ強い人間が人間界に居て無名な訳がなく、だから魔界に居たのではないか。というのは推測の1つとしてあったけど、どうやら庭で育ったようだ。

そうなると味方につけるのは厳しいか。しかし、ゼギウス無くしては魔物の七罪に勝つことは不可能だ。

「なるほど。確かに根本の価値観が違えば僕たちには不信に見えても君には普通ということもある。だけど、この状況でそれだと納得できないかな」

「なら付け加えてやろうか。今は人間側に味方するのは100%ねぇな。お前は俺を悪意ある利用をした。無駄に面倒事に巻き込み嵌めた。そんな奴と戦うのはあり得ねぇな」

そうゼギウスは苛立ちを露わにして言う。恐らく王国の1件のことだろう。

しかし、それで苛立っているのはこちらの方だ。あのせいで計画が狂った。

本当はあの時、魔物との大戦を起こし魔物が成長し切る前に全滅させる予定だった。そうしなければ人類は滅んでしまう。それなのにゼギウスの登場によって全てが狂った。

あの時は嬉しい誤算だとも思ったが、今の状況からはそう思うことはできない。

「王国の事を言っているのなら怒っているのは僕の方だよ。僕の計画を狂わせて置いてよくそんなことが言えるね」

おっと、今のは失言だったかな。リースレットが口を塞がれながらも声を上げている。

確かにあの1件についてはリースレットには悪いことをした。だけど、謝る気はない。僕には僕の正義、譲れないものがありそれを軸に行動している。

全てを守り全てを助ける。そんなことは不可能だ。

「王国を滅ぼしておいてよく言えるな」

「王国を滅ぼしたのは君だよ。僕はフロンの街辺りまで犠牲になってくれればそれでよかった。中立だった王国が大戦を始めれば帝国も皇国も睨み合いを中断して戦力を魔物に向けた」

「それは俺には関係ねぇ」

「そうかもしれない。だけどあの時の僕にも君の登場は想像できなかった。だから王国の滅亡は運が悪かったとしか言えないね」

ゼギウスには後付けの言い訳に聞こえるかもしれないが、これが真実だ。別に僕が滅ぼしたということになっても構わないが今は真実を話しゼギウスが味方につく可能性の高いことをする。

「俺たちの事情を知った上でルルがどう判断するか。それが全てだと思うけどな」

ゼギウスは強いがまだ子供だな。この大局に置いてもうリースレットがどう思うかなんて関係ない。今更そんな小さなことを気にしている余裕はない。

「ゼギウスは七英雄の1人なんだからもう少し大を見て判断した方がいい。身近で思い入れのある小さなものよりも時には興味もない大きなものを守らなければならない時もある」

「勝手に押し付けといてよく言えたな。俺はそんな肩書に興味はねぇ。だから剝奪するなら剥奪しろ」

「そういう訳にはいかないよ。今、ゼギウスの手には2つの選択肢がある。リースレットやレイネシア、この闇商人にメナドール、この4人を見捨てて自分だけ帰るか、僕に協力するかの2つだ」

あまりこの手は使いたくなかったが仕方がない。ゼギウスは優しいから絶対にこの4人を見捨てられない。今はその優しさにつけこむ。

「その脅しは意味ねぇだろ。この4人が居なくなればお前を守る盾はなくなる。その状況で俺に勝てると思ってるのか?」

痛いところをついてくる。だが、その覚悟はもう決めている。

「厳しいかな。だけど僕はもう覚悟を決めているしゼギウスもこの4人を見捨てられない」

僕が自分の命に拘っているのならこの脅しは成り立たないが、どのみちここでゼギウスを味方にするか消さなければ人類に可能性はなくなる。

そう覚悟が伝わるように真剣な眼差しを向けていると全員が光に包まれどこかへ飛ばされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...