怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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40話

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部屋に1人になるとすぐにベッドに寝転んだ。

「アタイはどうすればいいのさ…」

そう天井を見上げながら呟く。

ラクルの死や庭という謎の場所、柱よりも上の七罪という者の存在、と到底頭では処理し切れない。今までゴールだと思っていた相手が通過点、それも階段ではなく頂点が見えないほどの高い壁…もう考えたくない。

今はドラル・アルメシアがいい奴ということに目を向けよう。敵対している人間のアタイやグラにも分け隔てなく普通に接してくれた。

これならゼギウスが居着くのも分かる気がする。いや、ゼギウスが居たからここまで変わったのか。どちらかは分からないが、世界中の人間と魔物がこうであれば共存もできるかもしれない。

しかし、そんなことはあり得ない。

魔物に近しい人を殺された人が多ければ、人間に近しい魔物を殺された魔物も多い。だから共存共栄というものを否定する者は多いだろう。特に上層部はそういった恨みがなくとも共通敵を作るのに必死でそんなことを受け入れはしない。

結局は人間にも魔物にも屑は居て、たまたまその屑に遭っただけに過ぎないのだが、その事に目を向けられる者は少ない。というか目を向けられないように上層部が先導している。

「はぁ…」

違うことを考えようとしても結局は人間と魔物の事になり、七罪の事が頭に浮かぶ。

マルスはどうにかしようと考えているようだが、どうにかなるとは思えない。どうしたものか。

どうにもならないからと言って逃げることは許されない。それが七英雄の務めであり努めだ。

とりあえずは柱との戦いに意識を向けよう。今は想像できなくても柱との戦いが終われば自然と七罪との戦いは目の前に来る。

その時に備えてゼギウスに戦いを学ぶ。そして、その技術を盗む。何せアタイは盗賊だから。

ゼギウスは嫌がるだろうが、それしか今よりも数段強くなる方法は思い浮かばない。ゼギウスの方がアタイよりも強いのはあのナナシとか言う魔物とラクルとの戦いで分かった。おそらくゼギウスはあのナナシよりも強い。アタイたちと戦わない理由がようやく分かった。

戦うまでもなくアタイたちよりも強いと分かっていたからだ。

纏まらない頭でもやるべきことはハッキリとして、それに備えて今は眠ることにした。

5、6時間くらいだろうか。久しぶりに連続してこんなに眠れた気がする。それだけ疲れが溜まっていたのだろう。日々の激務に今日の色々、こんなことでしか眠れないとは皮肉なものだ。

そろそろゼギウスも起きているだろうし寝ていても起こす。そう決めてアルメシアがゼギウスの居ると言った部屋に向かう。

ゼギウスの部屋の扉を開けると驚いた。

男がゼギウス1人しかいないのに対し少女に女性、女が5人も同じベッドで寝ている。特に疚しい事をした形跡はないが、それでも驚きだ。もうゼギウスが色欲を担えばいいんじゃないだろうか。そうしたら今の怠惰さも少しはマシになるだろう。

「ゼギウス、起きな」

そう声を掛けるとゼギウスではなく皇国の次女、レイネシア様が目を覚ました。

「ん~、シアン様ですか。ご主人様は昼まで起きないと思うので用事があるのでしたら昼にした方がいいと思いますよ」

伸びをするとレイネシア様は起き上がりベッド横の椅子に腰かける。

ご主、人、様…?元とはいえ、皇位継承権第2位の方にそう呼ばせているとは…皇国で冒険者をやっている身としては想像できない。

「レイネシア様は皇国に戻って来ないのか?」

「そうですね、戻る気はないです。あっ、ご主人様が皇国に行くなら戻ってもいいかもしれません」

それは皇室には戻る気はないという意味か、勿体ない。レイネシア様は皇国をよりよく導けるだろう人だと思っていた。

民には分け隔てなく接していながら厳しいところはしっかりと厳しく時には非情な判断を下せる。周りの意見に耳を傾けることのできる珍しい人だった。

現実的な話、今の皇族を暗殺でもしなければレイネシア様を皇室に戻すことはできないからこの話には意味ないか。いや、それをやっても面白いかもしれない。

「では今度は私から。あの七罪という魔物に貴方は勝てますか?」

こちらの不安を見透かしたような瞳。これは王国の所有する別荘で見た時とは違い、皇室に居た時の目だ。

「正直に言うと勝てる景色は思い浮かびません。それはアタイだけでなく他の七英雄も同じことを感じたと思います」

「そうですか。辛いですね」

逃げられないことを分かっていての言葉だ。それは分かってくれるだけでも今は嬉しいというか有難い。世間は七英雄を万能な存在だと勘違いしている。

「だから今は七罪の事は考えないことにしました。先ずは目の前の柱との戦いだけに意識を向けます」

「流石は七英雄の1人ですね、私はどうすればいいか分からなくなりました。結局は圧倒的な力が全てだと教えられた気がします」

力が全て…それは人間なら七英雄が、魔物なら柱が実権を握っていることが表している。別にアタイはそういったことに興味はないが、マルスは裏で全てを操っていた。

しかし、それが見えているのは七英雄と操られている一部の人間だけということか。それだとレイネシア様は勘違いしているのかもしれない。

「レイネシア様はあれ以降、御母上と話しましたか?」

「いえ、暗い地下で過ごしていたので。地上に出たのはつい最近、ご主人様に拾われてからです。その後も色々あったので、この城を出たのも昨日が久しぶりです」

「でしたら1度、御母上と話してください」

「そのつもりで皇国に行ったのですが、貴方に邪魔されました」

これは怒っている。それもムスッとしたような可愛い怒り方ではなく声のトーンが落ちる静かな怒り方だ。これは悪いことをした。

「申し訳ありません。私が付き添うのでもう1度、御母上と話しに行ってはもらえませんか?」

「私にはここでの仕事があるので、その時間はありません」

誤解のせいか溝が深いようだ。それでも1度、話し合った方が双方のためになる。

どう説得しようか考えているとゼギウスが起きた。

「大した仕事もねぇだろ」

「あっ、ご主人様も起きたのですね。おはようございます。私はご主人様の食事を作るという大役が…」

「アホ、別にスーもルルも居るからいらねぇよ」

ゼギウスにしてはいいアシストだ。しかし、レイネシア様は頬を膨らませて怒っている。

「いらないとは何ですか!私の愛情の籠った料理が1番美味しいって言ってくださったではありませんか!」

「捏造すんな」

そうレイネシア様はゼギウスにチョップされた。

色々と気になるところは多いがどうやらレイネシア様はゼギウスに惚れているようだ。こんな怠惰な奴のどこがいいのかはアタイには分からないが、今に満足しているように見える。

「痛いです…あっ、これもご主人様なりの愛情ですか。ご主人様はツンデ___」

最後まで言い切る前にレイネシア様はゼギウスに再びチョップされる。ゼギウスが温厚なタイプとはいえここまでできるのは素直に凄い。恋は盲目ということか。

「アホ言ってねぇで行ってこい。シアンが送り迎えするだろ」

やけにいいアシストをくれると思ったらそういうことか。一時的にでもアタイにレイネシア様を押し付けたいようだ。ゼギウスらしい。

だけど、今は有難い。ここに長居することになりそうだから1度、皇国に戻って不在の間の指示をしておく必要があった。そのついでにレイネシア様を連れて行けるのなら都合がいい。

「…分かりました。ご主人様と約束したことですから会いに行ってきます。シアン様、送り迎えお願いします」

「お任せください」

そうと決まると日が昇ってから出発することにした。
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