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53話
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アルは相当に疲れていたようだ。目の前で意識を失うように倒れ込んで眠ってしまった。
当然と言えば当然だ。初陣で柱を相手にする者などそうそういない。だが、これくらいしなければアルの成長は促せない。
とは思いつつも色々と秘策を授けていた。それが全て上手く嵌まったのだろう。そうでなければこれだけ早く帰ってくることはできなかっただろうし無事でもいられなかったはずだ。
しかし、とうとうスカーも逝ったか。この短い人生の中で少しは親交のあった柱が3体も先に逝った。それは100年以上も生きている柱が多い中では思うところもある。
この時代が、人間の世が終わろうとしている。
今は七英雄が5人で柱が7体、同数になれば庭が動くだろう。まぁ、動くのはナナシだろうが何れにしても終わりが近い。選択を迫られている。
そんな現実から目を背けようとスーを撫でる。アルと違ってスーは元気があるようだ。
「上手く戦えたか?」
短期間で教えられる中ではスーの力を格段に上げたが、ムクロに通用するかは怪しかった。
しかし、想像以上に戦えたのかスーは元気よく体を震わせる。それにしてもスーは元気が有り余っているようだ。
ここは俺の部屋で騒いだところで今のアルは起きないだろうが、スーをベッドから下ろしてアルを中央に寝かせる。そして布団を被せるとスーを抱えて部屋を出た。
表に出てスーを下ろす。まだ元気が有り余っているようだし色々と確認したいことがある。
「スー、《愚鈍なる世界》を使ってみろ」
どういう戦闘が展開されスーがどれだけ戦局に影響を及ぼしたか。それを見るために要求するとスーはすぐに俺の姿に《変身》する。
直後、体が少し重くなった。
耐性のある俺でも体が少し重くなったということは何もない状況で使っても一瞬の時間稼ぎくらいはできただろう。予定ではムクロとの1対1を3回やるはずだったが、この帰りの早さにこの威力で効果的な結果を出したところを見るに3体同時に相手にしたようだ。
アルを思ってのことだろうが無茶をし過ぎだ。
「無茶し過ぎだ。今回はたまたま上手くいったってことを忘れるなよ」
スーはラクルの攻撃から生存した実績から格上を相手に生存できる自信がつき過ぎている。それはアルが頼りないという部分が大きく、アルの責任でもあるが、それは死を早めるだけだ。
強くなってはいるが、あくまでスライム。驕れば簡単に死ぬ。
だから怒るべきところはしっかりと怒っておかなければならない。アルはまだ後続や配下を育成できるほど知識も力もない。
しかし、スーは俯いているものの反省しているというよりかは拗ねているように見える。アルが無茶をするよりかは自分が無茶した方がいいと思ったのだろう。そして、それが褒められるとも。
ラクルからアルを生存に導いたのは自分という自負がそうさせた。
「分かってないなら魔力の供給はもうしねぇ」
俺が過剰な力を与えたのもそうさせた要因だから厳しいようだが甘やかせない。
すると、スーは「!?!?」と驚いたような反応を示す。俺がここまで言うとは思っていなかったのだろう。飛びついてきて謝るように体を曲げている。
正直、今どれだけ言おうと同じ場面になれば同じことをするだろうし痛い目を見てもそれが変わるかも怪しい。まぁ、その痛い目は=で死を表すから知ったとしても遅いか。
ただ、最低限どれだけ危ないかは伝えておかなければならない。
「分かったならいい」
普段のように甘やかすことはせず冷たくそう言い残すとスーから離れていった。
ベッドは占拠されているため木の下で昼寝でもしようと歩いていると厄介な先客がいた。
シアンだ。無視して寝ようとするが邪魔するように話しかけられる。
「スライムに七英雄のスキルを教えるなんて随分と気に入ってるんだね」
「俺の中でそれだけ価値が低いだけだ。それに俺が魔力を供給しなくなれば使えなくなるから問題ねぇだろ」
一応、七英雄のスキルを他者に教えるのは問題がある。アルの《龍王の咆哮》のようにその称号に継承されるスキルの類で他者に教えるのは禁止されていた。
俺やシアン、メナもか。この3人は継承ではなく新たに発現させた。
だから他者に教えたところで文句を言われる筋合いはないが、マルスに知られたらまた面倒な取引を持ち掛けられる。
「だったらアタイにも教えてよ。《強奪》じゃなくて使えるようにしたいのさ」
「その前に言うことがあるだろ。スカーを始末したんだから礼の1つくらい言え」
誤魔化すためにも話を逸らす。この手の話題は深く言及されると面倒くさい。
しかし、シアンは逃がしてはくれない。
「なら後でアルメシアに言っとくよ。だから教えな」
「何がだからかは知らねぇけど断る。俺は昼寝の時間だ」
「ふ~ん。そういうこと言うんだ。ならマルスに報告するよ?」
「言いたきゃ勝手に言っとけ。どうせ知ってるだろ」
おそらくマルスには知られていない。知られていたら既に交渉を持ち掛けられているはずだ。
「どうせってことはまだ交渉を持ち掛けられてないんだろ?なら知らないってことさ。アタイを騙すならもっとマシな嘘を吐きな」
完全に見破られている。しかし、スーに教えるよりもシアンに教える方が面倒くさい。
スーは俺の魔力を供給しているから俺がスーに供給した魔力を練ってそれを真似させればいいだけだが、魔力系統の違うシアンにはどう教えればいいか分からないほど面倒くさい。
それでもシアンは他者のスキルを奪えて色々なスキルを扱ってきた分まだマシな方ではある。だが、教えてやる義理はない。
どう断るか考えているとシアンが真面目な表情に変わる。
「準備ができたら行くつもりだから頼むよ。次は長旅になるからゼギウスのスキルが必要なのさ」
柱でも倒しに行くのだろう。ついでにその配下の軍勢も。
長旅になるのと俺のスキルが必要になる関連性は全く分からないが、シアンにここまで真剣に頼まれたことはない。
「はぁ…その見返りに何をするんだ?」
どれだけ珍しくてもタダで教えると同じような状況が増えるだけだ。その辺りシアンを信用していない訳ではないがそういったことを徹底しないと面倒くさいことになる。
「アンタは金銀財宝ってタイプじゃないからね。何がいいのさ」
「知るか。自分で考えろ」
特に何がって考えていた訳でもなく考えるのは面倒くさい。
「要求しといてそれってどうなのさ。じゃあ3回アタイを自由に使えるってのでどう?」
「3回か、1回じゃないんだな」
「アンタと一緒にするな。アタイは適切な報酬を出すさ」
凄く心外な言われようだが、今は無視をする。
「なら5回だろ。俺のスキルは雑用3回分の価値か?」
適切な報酬と言われると3回というのは引っ掛かる。5回でも少ないと思うが、それ以上あったところで邪魔なだけだ。それを理由にここに来られても鬱陶しい。
だから本当に嫌だろう雑用をさせる。
「雑用って…何させるつもりさ」
嫌な予感を感じ取ったのか、少し表情を歪めて聞いてくる。
「そらトイレ掃除とか城の外壁の掃除とか、雑草取りに木の剪定とか色々だろ」
「それ3回超えてるでしょ!」
思いつく限りの雑用を提案したが、1つ1つを1回分だと勘違いしているようだ。そんな訳がない。
「アホか、全部纏めて1回分に決まってんだろ」
「アホはどっちさ!それを3回って、アタイを小間使いにする気!?」
「他に頼むことねぇし仕方ねぇだろ」
「だったら無償で教えてくれてもいいじゃないか!」
シアンは寝惚けているのかそんなことを言っているが、これくらいの提案は当然だ。単純に面倒事を押し付けるだけだと割に合わない。
七英雄には戦闘系の面倒事を押し付けるより慣れていないことを押し付けた方が負担になる。
「俺のスキルはそこまで安くねぇよ」
そう互いに無駄な駆け引きをしてから雑用4回に決まると、シアンにスキルを教えることにした。
当然と言えば当然だ。初陣で柱を相手にする者などそうそういない。だが、これくらいしなければアルの成長は促せない。
とは思いつつも色々と秘策を授けていた。それが全て上手く嵌まったのだろう。そうでなければこれだけ早く帰ってくることはできなかっただろうし無事でもいられなかったはずだ。
しかし、とうとうスカーも逝ったか。この短い人生の中で少しは親交のあった柱が3体も先に逝った。それは100年以上も生きている柱が多い中では思うところもある。
この時代が、人間の世が終わろうとしている。
今は七英雄が5人で柱が7体、同数になれば庭が動くだろう。まぁ、動くのはナナシだろうが何れにしても終わりが近い。選択を迫られている。
そんな現実から目を背けようとスーを撫でる。アルと違ってスーは元気があるようだ。
「上手く戦えたか?」
短期間で教えられる中ではスーの力を格段に上げたが、ムクロに通用するかは怪しかった。
しかし、想像以上に戦えたのかスーは元気よく体を震わせる。それにしてもスーは元気が有り余っているようだ。
ここは俺の部屋で騒いだところで今のアルは起きないだろうが、スーをベッドから下ろしてアルを中央に寝かせる。そして布団を被せるとスーを抱えて部屋を出た。
表に出てスーを下ろす。まだ元気が有り余っているようだし色々と確認したいことがある。
「スー、《愚鈍なる世界》を使ってみろ」
どういう戦闘が展開されスーがどれだけ戦局に影響を及ぼしたか。それを見るために要求するとスーはすぐに俺の姿に《変身》する。
直後、体が少し重くなった。
耐性のある俺でも体が少し重くなったということは何もない状況で使っても一瞬の時間稼ぎくらいはできただろう。予定ではムクロとの1対1を3回やるはずだったが、この帰りの早さにこの威力で効果的な結果を出したところを見るに3体同時に相手にしたようだ。
アルを思ってのことだろうが無茶をし過ぎだ。
「無茶し過ぎだ。今回はたまたま上手くいったってことを忘れるなよ」
スーはラクルの攻撃から生存した実績から格上を相手に生存できる自信がつき過ぎている。それはアルが頼りないという部分が大きく、アルの責任でもあるが、それは死を早めるだけだ。
強くなってはいるが、あくまでスライム。驕れば簡単に死ぬ。
だから怒るべきところはしっかりと怒っておかなければならない。アルはまだ後続や配下を育成できるほど知識も力もない。
しかし、スーは俯いているものの反省しているというよりかは拗ねているように見える。アルが無茶をするよりかは自分が無茶した方がいいと思ったのだろう。そして、それが褒められるとも。
ラクルからアルを生存に導いたのは自分という自負がそうさせた。
「分かってないなら魔力の供給はもうしねぇ」
俺が過剰な力を与えたのもそうさせた要因だから厳しいようだが甘やかせない。
すると、スーは「!?!?」と驚いたような反応を示す。俺がここまで言うとは思っていなかったのだろう。飛びついてきて謝るように体を曲げている。
正直、今どれだけ言おうと同じ場面になれば同じことをするだろうし痛い目を見てもそれが変わるかも怪しい。まぁ、その痛い目は=で死を表すから知ったとしても遅いか。
ただ、最低限どれだけ危ないかは伝えておかなければならない。
「分かったならいい」
普段のように甘やかすことはせず冷たくそう言い残すとスーから離れていった。
ベッドは占拠されているため木の下で昼寝でもしようと歩いていると厄介な先客がいた。
シアンだ。無視して寝ようとするが邪魔するように話しかけられる。
「スライムに七英雄のスキルを教えるなんて随分と気に入ってるんだね」
「俺の中でそれだけ価値が低いだけだ。それに俺が魔力を供給しなくなれば使えなくなるから問題ねぇだろ」
一応、七英雄のスキルを他者に教えるのは問題がある。アルの《龍王の咆哮》のようにその称号に継承されるスキルの類で他者に教えるのは禁止されていた。
俺やシアン、メナもか。この3人は継承ではなく新たに発現させた。
だから他者に教えたところで文句を言われる筋合いはないが、マルスに知られたらまた面倒な取引を持ち掛けられる。
「だったらアタイにも教えてよ。《強奪》じゃなくて使えるようにしたいのさ」
「その前に言うことがあるだろ。スカーを始末したんだから礼の1つくらい言え」
誤魔化すためにも話を逸らす。この手の話題は深く言及されると面倒くさい。
しかし、シアンは逃がしてはくれない。
「なら後でアルメシアに言っとくよ。だから教えな」
「何がだからかは知らねぇけど断る。俺は昼寝の時間だ」
「ふ~ん。そういうこと言うんだ。ならマルスに報告するよ?」
「言いたきゃ勝手に言っとけ。どうせ知ってるだろ」
おそらくマルスには知られていない。知られていたら既に交渉を持ち掛けられているはずだ。
「どうせってことはまだ交渉を持ち掛けられてないんだろ?なら知らないってことさ。アタイを騙すならもっとマシな嘘を吐きな」
完全に見破られている。しかし、スーに教えるよりもシアンに教える方が面倒くさい。
スーは俺の魔力を供給しているから俺がスーに供給した魔力を練ってそれを真似させればいいだけだが、魔力系統の違うシアンにはどう教えればいいか分からないほど面倒くさい。
それでもシアンは他者のスキルを奪えて色々なスキルを扱ってきた分まだマシな方ではある。だが、教えてやる義理はない。
どう断るか考えているとシアンが真面目な表情に変わる。
「準備ができたら行くつもりだから頼むよ。次は長旅になるからゼギウスのスキルが必要なのさ」
柱でも倒しに行くのだろう。ついでにその配下の軍勢も。
長旅になるのと俺のスキルが必要になる関連性は全く分からないが、シアンにここまで真剣に頼まれたことはない。
「はぁ…その見返りに何をするんだ?」
どれだけ珍しくてもタダで教えると同じような状況が増えるだけだ。その辺りシアンを信用していない訳ではないがそういったことを徹底しないと面倒くさいことになる。
「アンタは金銀財宝ってタイプじゃないからね。何がいいのさ」
「知るか。自分で考えろ」
特に何がって考えていた訳でもなく考えるのは面倒くさい。
「要求しといてそれってどうなのさ。じゃあ3回アタイを自由に使えるってのでどう?」
「3回か、1回じゃないんだな」
「アンタと一緒にするな。アタイは適切な報酬を出すさ」
凄く心外な言われようだが、今は無視をする。
「なら5回だろ。俺のスキルは雑用3回分の価値か?」
適切な報酬と言われると3回というのは引っ掛かる。5回でも少ないと思うが、それ以上あったところで邪魔なだけだ。それを理由にここに来られても鬱陶しい。
だから本当に嫌だろう雑用をさせる。
「雑用って…何させるつもりさ」
嫌な予感を感じ取ったのか、少し表情を歪めて聞いてくる。
「そらトイレ掃除とか城の外壁の掃除とか、雑草取りに木の剪定とか色々だろ」
「それ3回超えてるでしょ!」
思いつく限りの雑用を提案したが、1つ1つを1回分だと勘違いしているようだ。そんな訳がない。
「アホか、全部纏めて1回分に決まってんだろ」
「アホはどっちさ!それを3回って、アタイを小間使いにする気!?」
「他に頼むことねぇし仕方ねぇだろ」
「だったら無償で教えてくれてもいいじゃないか!」
シアンは寝惚けているのかそんなことを言っているが、これくらいの提案は当然だ。単純に面倒事を押し付けるだけだと割に合わない。
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