怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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54話

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こういったくだらない話もあとどれくらいできるのだろうか。ガラにもなくそんなことを思ってしまう。

それだけ次の戦いが厳しいと悟っているのだろう。たとえ緩くても次の柱の場所に行き余裕を無くさなくてはならない。故郷に魔物を近づかせないためにもより多くの魔物を葬る必要がある。

次の戦いはそういった戦いだ。

しかし、アタイの使えるスキルの多くは気配を消したり相手のスキルを盗んだり、相手に化けたりと所謂小細工が多い。おまけに1対1を得意とする戦い方で柱は倒せてもその配下大勢を相手にするのは得意ではない。

軍勢を相手にするにはラクルの《憤怒の豪雷》のような広範囲高威力のスキルが必要になるが、《憤怒の豪雷》は魔力消費量が多ければ派手過ぎて離れている敵にも気づかれる。その点ゼギウスの《愚鈍なる世界》は威力を調整できて魔力消費量を抑え、木々や周囲に影響を及ぼしても周りには気づかれにくい。

七英雄の中で魔力量が多くないアタイにはゼギウスの《愚鈍なる世界》が必要になる。

「はぁ…試しに撃ってみろよ」

取引したはずなのに心底面倒くさそうにゼギウスはそう言う。しかし、そうは言いながらも真面目に教えようとする辺り周りが言っているようにツンデレにも見える。

頭を真面目に切り替えて体内でスキルの構築を始める。

《愚鈍なる世界》のような相手の内側に干渉するようなスキルは魔力を霧のようにして、でも薄くはしない。

パズルのピースを組み合わせるように《愚鈍なる世界》という外郭の枠に当てはめるように埋めていく。

「《愚鈍なる世界》」

そうスキルを唱えゼギウスに向けるが、ゼギウスは何ともないように平然と立っている。

「全然駄目だな。これが手本だ、《愚鈍なる世界》」

ゼギウスがそうスキルを唱えると体が重くなり両膝を地面についてしまう。相当手を抜いているだろうにこれだ。やはりこのスキルは必要になる。

しかし、手本を見せてもらったところでスキルの構造が分からない。

「って、見せたところで分からねぇか。どうやって教えたもんかね」

「あのスライムにはどうやって教えたのさ」

「スーには俺の魔力を供給してるって言っただろ?だから俺がスーに供給した魔力を練って構築の仕方を覚えさせたんだよ」

確かにそのやり方はアタイにはできない。それにしても自分の体から離した魔力を操作できるってどんな魔力制御しているのさ。

距離によってはあのスライムからゼギウスのスキルが飛んでくることになる。それは平然と言っているが、アタイに同じことはできない。

「それじゃあどうやってアタイに教えるのさ」

「知らねぇよ。簡単じゃねぇのは分かってたことだろ」

「じゃあゼギウスはどうやって《愚鈍なる世界》を作ったのさ」

「シアンもそうだろうけど七英雄を押し付けられて少しした時に勝手に頭に浮かんだんだよ。継承してねぇ奴は全員そうだろ」

言われてみれば確かにそんな気がする。勝手に頭に浮かんできて使ってみたら使えた。

アタイやゼギウス、メナドールは先代が亡くなって空席のところに入ったから継承ができなかった。今も継承が続いているのはマルスとグラくらいだろうか。ユーキとラクルも継承が続いていたが、途絶えた。

どうすれば習得できるか考えているとゼギウスが思いついたように立ち上がる。

「腐れ、少し来い」

「はい。何でしょうか」

特に大きい声で呼んだ訳ではないのにどこからか闇商人が現れる。少なくとも視界に入る場所には居なかったのにどこから現れたのだろうか。この闇商人も隠密スキルを高レベルで習得しているようだ。

少し油断していた。いや、ゼギウスの《愚鈍なる世界》の効果で索敵能力が落ちているのか。

「魔力系統を変化させる薬を作れるか?」

「ちょ、ゼギ___」

「黙ってろ。腐れ、作れるか?」

止めようとしたアタイの声はあっけなく遮られる。その方法ならアタイに教えられるかもしれないが、問題が多い。

「変化させたい魔力系統の魔力があれば可能ですが副作用があります。一時的とはいえ、体内の魔力を自分に適合していないものに変化させる訳ですから体が拒絶反応を起こすかもしれません。それによってスキル情報が乱れ、魔力系統を戻せてもスキルを使えなくなる可能性があります」

そう、問題とはこれだ。拒絶反応だけなら一時的なものでどうにかなるが、スキル情報が変に書き換わったら終わりだ。

汎用スキルを除けばスキルは個人に与えられたその人だけのもの。言語化できないが、その人に適合するようにスキルは形成されている。だから他者には教えられないが自分では使える。

《強奪》で他者のスキルを使えるアタイにはそのことがハッキリと分かっている。《強奪》を使っている間は他者のスキルを使えるが、その効果が切れるとそのスキルの構造は何も分からないように記憶が欠如したような感覚になった。

魔力系統が変わればその人に適合するようにスキルも書き換えられる。そうなれば元のスキルと同じ効果かも分からなければ、魔力系統を戻した時に元に戻るかも分からない。突然スキルが消える可能性もある。

魔力系統の変化やスキルについては昔から研究されているが、その多くは謎のままだ。人智を超えた何かによって管理され理解できないようにされていると思えるほど謎が解き明かされていない。

それなのにゼギウスには怯えた様子も不安そうな挙動もない。どうしてそこまでしてくれるのかも分からないが、今はその厚意に甘えるとしよう。

「問題ねぇ。試したいことがあるから用意しろ」

「分かりました。変化先のサンプルの採取をします」

反対はしなかったものの、事の重さを分かっているようで闇商人は複雑な表情で城の中へ道具を取りに行った。

「アタイが言うのも変だけど何でそこまでするのさ」

「は?お前たちが思ってるほど事は重くねぇよ。どうやって教えるか考える方が面倒くせぇ」

絶対にそんなはずはないが、ゼギウスからは嘘を感じない。普段はあれだけ分かりやすいのに今感じないということは本当の事を言っているのだろうか?いや、それは流石に無理がある。

そうなると庭が関係しているのだろう。アタイたちの知らない英知がそこにはあってゼギウスはそれを知っている。そう考えればゼギウスは嘘を吐いておらず、アタイとの反応の差も納得できた。

しかし、それは余計に庭との差を感じさせられる。やはりゼギウスには味方についてもらわなければ詰みのようだ。

「ならいいけどさ」

これ以上、言及したところでゼギウスは答えないだろうし面倒くさいから教えないと言われかねない。

少し待っていると闇商人は液体の入った小瓶に抽出機、布、等の入った小さい鞄を持って戻ってきた。

「強欲様の魔力を抽出してこの小瓶に移します。それをゼギウス様に飲んでいただければ一時的に魔力系統を強欲様と同じに変化させることができます」

指示に従って抽出機を使って魔力を抜き取る。それを透明の液体の入った小瓶に入れると液体は青色に変化した。

「ナナシ、分かってるな?」

「うん!ゼギウスがおかしくなったら殺すね」

「違ぇよ。治療しろ」

またもやどこからともなく、今度はナナシが木の上からぶら下がるように現れた。今回は警戒していたはずなのにそれを掻い潜って来るとは…

そんなことを思っているとゼギウスは小瓶を飲み干していた。

…………

無反応のまま少しするとゼギウスは立ち上がる。

「気持ち悪いから1回しかやらねぇぞ」

そうアタイの後ろに立つ。そのまま背中に手を置くとスキルの構築が始まった。

アタイの体の中のアタイの魔力が勝手に練り込まれていく。そこに不思議な感覚を覚えながらも意識をゼギウスの練る魔力に集中する。

内側のパズルが完成し枠に嵌められるのを待っている。

「《愚歪なる世界》」

半ば勝手に口がそう動くと闇商人が倒れた。辺りの一帯の木も捻じ曲がっていく。アタイの魔力に適合する形でスキルが変化したようだ。

喜ぶのは束の間、すぐに効果を解いて闇商人を治療するとゼギウスはお礼を言う間もなく倒れ込むように寝てしまった。やはり魔力系統を変化させた反動が大きいようだ。

これは大きな借りができたね。

そう心の中でゼギウスに感謝しつつこのスキルの練度を上げに行った。
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