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57話
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ははは、本当に憎まれ役だなー。
メナドールの操る絡繰り人形を躱しながらそんなことを思う。ゼギウスみたいにやりたいことをやっていればそれは好かれるだろう。だけど僕にはそんなことは許されない。
代々、七英雄の嫉妬は七英雄の統括や人間界を裏で動かすことを任されている。
それは何故か。憤怒は怒りに身を任せ冷静な判断ができず、強欲は己が欲するがままに全てを望む。傲慢はその不遜な態度から民衆を動かせない。暴食も己の満ちない空腹で他を考えられず、色欲も己の欲に忠実だ。そして怠惰は必要な時にも怠けて動かない。
だから常に日の目を羨望し、奪われ続けてきた嫉妬しかいないのだ。奪われ続けてきたが故に、それ以上奪われないように尽くす。どれだけ裏切られても尽くしてきた実績から任されているのだ。
「いつまで様子見するつもりかしら?」
攻撃を躱し続けるだけの僕に対してメナドールがそんなことを言う。少し他所事を考え過ぎたかな?
逆を言えば他所事を考えていても躱し続けられるほどに僕とメナドールには自力の差がある。そのことをメナドールは分かっているはずなのに僕に立ち向かってくる。あれだけ恐怖を植え付けたというのにだ。
愛の為せる業だ。妬けるなー。
「そんなに死を望むなら叶えてあげるよ」
最初と同じように絡繰り人形を躱してメナドールに接近する。メナドールが離れている分、どれだけ反応よく対応しようとしてもフェイントをかける毎に誤差は大きくなり、5回も仕掛ければ振り切れてしまう。
懐に潜り込み最初と同じように接近戦を仕掛ける。
触れて《呪印》さえ仕込めば僕の勝ちだ。後は意識を奪う程度に呪いを強め皇国に連れて行き継承させる。
ラクルの広範囲高威力スキルが無くなったのは惜しいが、今の七英雄のスキルは理想に近い。
シアンの《強奪》で相手のスキルを奪い、グラの《暴食》で相手のスキルを無力化できる。ゼギウスの《愚鈍なる世界》は相手の自由を奪い、僕の《呪印》は相手を支配する。メナドールの《人形》は庭のような目を持つ。
失われたラクルの《憤怒の豪雷》や継承したユーキの《傲慢な態度》は力を示す。持つ力が単純な故に強大だ。それは長年継承し続けなければ強大には成長しないが、ラクルの力だけなら僕で事足りる。
庭を叩くならこの世代しかない。淘汰される側として檻に囚われていることを知らない家畜のように扱われてきた時代を終わらせる。
だからメナドールには悪いけど、退場してもらう。
拳を振るい針に防がれ糸に変わり絡めとられる。そして背後から絡繰り人形…
同じだ。無駄に手の内を明かさないつもりのようだね。
上手い戦い方だ。僕の《呪印》が決定打になるようにメナドールの毒も決定打になる。相打ちになれば共倒れでいいと思っているメナドールに分がある。だからメナドールの手の内を全て引き出す。
後ろから来る絡繰り人形を今度は躱さず《呪風》を使って糸を切る。しかし、すぐに違う蠍から繋ぎ直された。
厄介だな。あんまり力任せの戦い方は好きじゃないけど仕方がない。ここにいる蠍を全て倒さないと次の手の内は明かしてくれないようだ。
しかし、全ての手の内を見てあげるほど優しくはない。
「《嫉妬の業火》」
その炎はこの辺り一帯、存在するもの全てを燃やし尽くしていく。
生えている木々や蠍、視界に入るもの全てを燃やしていくが、そこにメナドールの姿はなかった。
「《絶炎》」
炎の奥からゼギウスのスキルを唱える声が聞こえてくると炎は全てかき消された。
派手に戦い過ぎたかな。
空にはリースレットとレイネシアを両腕に抱えたナナシがいて、地上にはメナドールを抱えたゼギウスがいた。
「ゼギくん?どうして?」
そうメナドールは不思議そうにゼギウスの顔を見つめている。
どうやらメナドールが呼んだ訳ではなさそうだ。それもそうか。メナドールはゼギウスに迷惑をかけないように戦っているのだからゼギウスに助けを求めては本末転倒だ。
「これだけうるさく戦ってりゃ気づくだろ」
嘘だ。今さっき《嫉妬の業火》を使って、それがメナドールに届くよりも前に駆けつけることなど、それよりも前にここへ向かっていなければ流石のゼギウスと言えど不可能だ。
「ゼギくん、これは私の戦いだから手出ししないで」
「そういう訳にもいかねぇんだよ。ルルどうするか決まったか?」
ゼギウスから下ろされたメナドールは自分の手での解決を望んだが、ゼギウスは断った。リースレットの名前を出したところを見るに僕への復讐の終着点をどうするか決めるといったところかな。
ゼギウスとは対照的に僕は多方面に怨まれているものだ。
「私は他の誰かが倒すなら私の手で止めを刺したい」
「ゼギくん、これは私の戦いなの。いくらゼギくんであっても邪魔すると怒るよ」
2人の言葉にゼギウスは困ったような表情を浮かべている。
リースレットとの約束にメナドールの強い意志、その2つのどちらを優先するべきか迷っているようだ。どこにでもいい恰好をするからそうなるんだよ…
「ルルとの約束は守ってやりたいしメナの要望も分かる。だが、マルスは生きてれば《呪印》を打ち込めるしメナの力じゃマルスには勝てねぇ。だから俺がやる」
「それなら聞いた意味がない。でも、ゼギウスがやるならいい。それも責任の取り方」
「そんな重い責任を背負った記憶はねぇけどな。メナもいいか?」
「ダメだよ。さっきも言ったけどこれは私の戦いなの。ゼギくんが戦うつもりなら私が負けてからにして。ゼギくんだって戦うのが面倒でしょ?」
メナドールの強い意志にゼギウスはどうするべきか考えているようだ。
「はぁ…メナじゃ勝てねぇって言ったよな?それは分かってるんだろ?」
「分かってるよ!でも!もう私のせいでゼギくんには迷惑かけたくないの!」
まるでお互いを守ろうとしている恋人のような会話だ。何で僕が悪役の立場でそんなのを聞かされなければならないんだ。他所でやってほしいものだね。
「それなら生きて今までの迷惑分を返せ。どうせ俺がマルスと戦うことになる。そうなれば俺に面倒事押し付けただけの最低な奴だぞ」
「…ゼギくんって本当に気遣いを知らないよね。でも、これだけは譲れないの!」
「そうか、悪いな《愚鈍なる世界》」
ゼギウスはそうスキルを唱えメナドールの意識を途絶えさせた。そのまま優しく寝かせると僕の方を向く。
強い意志の宿った瞳だ。
そうは分かっていながらも無駄な質問をぶつける。
「僕と戦うことの意味を分かっているのかい?君の嫌いな面倒事に体を沈めることになる」
「巻き込もうとしといてよく言えるな。それに残念ながらもう沈んでる、お前よりも深いとこにな」
ははは、ようやく怠惰が動かざるを得なくなったか。今まで怠けていた分、働いてもらわないと困る。
だけど、その覚悟を問おう。
「それはいいことだね。だけどそれは僕たちに、かな?庭に、かな?」
「どっちでもねぇよ。俺は俺だ」
この期に及んでその答えを出せるとはどれだけ愚かなのだろう。ゼギウスに任せる訳にはいかないようだ。
「ナナシ」
「はいはい。でも、これが最後だよ。これが終わったら私は庭に戻るからね」
ナナシは地上に居るメナドールを足で拾い上げると空に退避した。
それにしてもゼギウスと本気で戦うのは初めてかな?それが世界の命運を決める戦いになるとは互いに重いものを背負ったものだ。
しかし、ゼギウスには負けられない。選ばず逃げた者に人類を託すことなどできない。
「始めようか」
そうゼギウスに向かい合う。
メナドールの操る絡繰り人形を躱しながらそんなことを思う。ゼギウスみたいにやりたいことをやっていればそれは好かれるだろう。だけど僕にはそんなことは許されない。
代々、七英雄の嫉妬は七英雄の統括や人間界を裏で動かすことを任されている。
それは何故か。憤怒は怒りに身を任せ冷静な判断ができず、強欲は己が欲するがままに全てを望む。傲慢はその不遜な態度から民衆を動かせない。暴食も己の満ちない空腹で他を考えられず、色欲も己の欲に忠実だ。そして怠惰は必要な時にも怠けて動かない。
だから常に日の目を羨望し、奪われ続けてきた嫉妬しかいないのだ。奪われ続けてきたが故に、それ以上奪われないように尽くす。どれだけ裏切られても尽くしてきた実績から任されているのだ。
「いつまで様子見するつもりかしら?」
攻撃を躱し続けるだけの僕に対してメナドールがそんなことを言う。少し他所事を考え過ぎたかな?
逆を言えば他所事を考えていても躱し続けられるほどに僕とメナドールには自力の差がある。そのことをメナドールは分かっているはずなのに僕に立ち向かってくる。あれだけ恐怖を植え付けたというのにだ。
愛の為せる業だ。妬けるなー。
「そんなに死を望むなら叶えてあげるよ」
最初と同じように絡繰り人形を躱してメナドールに接近する。メナドールが離れている分、どれだけ反応よく対応しようとしてもフェイントをかける毎に誤差は大きくなり、5回も仕掛ければ振り切れてしまう。
懐に潜り込み最初と同じように接近戦を仕掛ける。
触れて《呪印》さえ仕込めば僕の勝ちだ。後は意識を奪う程度に呪いを強め皇国に連れて行き継承させる。
ラクルの広範囲高威力スキルが無くなったのは惜しいが、今の七英雄のスキルは理想に近い。
シアンの《強奪》で相手のスキルを奪い、グラの《暴食》で相手のスキルを無力化できる。ゼギウスの《愚鈍なる世界》は相手の自由を奪い、僕の《呪印》は相手を支配する。メナドールの《人形》は庭のような目を持つ。
失われたラクルの《憤怒の豪雷》や継承したユーキの《傲慢な態度》は力を示す。持つ力が単純な故に強大だ。それは長年継承し続けなければ強大には成長しないが、ラクルの力だけなら僕で事足りる。
庭を叩くならこの世代しかない。淘汰される側として檻に囚われていることを知らない家畜のように扱われてきた時代を終わらせる。
だからメナドールには悪いけど、退場してもらう。
拳を振るい針に防がれ糸に変わり絡めとられる。そして背後から絡繰り人形…
同じだ。無駄に手の内を明かさないつもりのようだね。
上手い戦い方だ。僕の《呪印》が決定打になるようにメナドールの毒も決定打になる。相打ちになれば共倒れでいいと思っているメナドールに分がある。だからメナドールの手の内を全て引き出す。
後ろから来る絡繰り人形を今度は躱さず《呪風》を使って糸を切る。しかし、すぐに違う蠍から繋ぎ直された。
厄介だな。あんまり力任せの戦い方は好きじゃないけど仕方がない。ここにいる蠍を全て倒さないと次の手の内は明かしてくれないようだ。
しかし、全ての手の内を見てあげるほど優しくはない。
「《嫉妬の業火》」
その炎はこの辺り一帯、存在するもの全てを燃やし尽くしていく。
生えている木々や蠍、視界に入るもの全てを燃やしていくが、そこにメナドールの姿はなかった。
「《絶炎》」
炎の奥からゼギウスのスキルを唱える声が聞こえてくると炎は全てかき消された。
派手に戦い過ぎたかな。
空にはリースレットとレイネシアを両腕に抱えたナナシがいて、地上にはメナドールを抱えたゼギウスがいた。
「ゼギくん?どうして?」
そうメナドールは不思議そうにゼギウスの顔を見つめている。
どうやらメナドールが呼んだ訳ではなさそうだ。それもそうか。メナドールはゼギウスに迷惑をかけないように戦っているのだからゼギウスに助けを求めては本末転倒だ。
「これだけうるさく戦ってりゃ気づくだろ」
嘘だ。今さっき《嫉妬の業火》を使って、それがメナドールに届くよりも前に駆けつけることなど、それよりも前にここへ向かっていなければ流石のゼギウスと言えど不可能だ。
「ゼギくん、これは私の戦いだから手出ししないで」
「そういう訳にもいかねぇんだよ。ルルどうするか決まったか?」
ゼギウスから下ろされたメナドールは自分の手での解決を望んだが、ゼギウスは断った。リースレットの名前を出したところを見るに僕への復讐の終着点をどうするか決めるといったところかな。
ゼギウスとは対照的に僕は多方面に怨まれているものだ。
「私は他の誰かが倒すなら私の手で止めを刺したい」
「ゼギくん、これは私の戦いなの。いくらゼギくんであっても邪魔すると怒るよ」
2人の言葉にゼギウスは困ったような表情を浮かべている。
リースレットとの約束にメナドールの強い意志、その2つのどちらを優先するべきか迷っているようだ。どこにでもいい恰好をするからそうなるんだよ…
「ルルとの約束は守ってやりたいしメナの要望も分かる。だが、マルスは生きてれば《呪印》を打ち込めるしメナの力じゃマルスには勝てねぇ。だから俺がやる」
「それなら聞いた意味がない。でも、ゼギウスがやるならいい。それも責任の取り方」
「そんな重い責任を背負った記憶はねぇけどな。メナもいいか?」
「ダメだよ。さっきも言ったけどこれは私の戦いなの。ゼギくんが戦うつもりなら私が負けてからにして。ゼギくんだって戦うのが面倒でしょ?」
メナドールの強い意志にゼギウスはどうするべきか考えているようだ。
「はぁ…メナじゃ勝てねぇって言ったよな?それは分かってるんだろ?」
「分かってるよ!でも!もう私のせいでゼギくんには迷惑かけたくないの!」
まるでお互いを守ろうとしている恋人のような会話だ。何で僕が悪役の立場でそんなのを聞かされなければならないんだ。他所でやってほしいものだね。
「それなら生きて今までの迷惑分を返せ。どうせ俺がマルスと戦うことになる。そうなれば俺に面倒事押し付けただけの最低な奴だぞ」
「…ゼギくんって本当に気遣いを知らないよね。でも、これだけは譲れないの!」
「そうか、悪いな《愚鈍なる世界》」
ゼギウスはそうスキルを唱えメナドールの意識を途絶えさせた。そのまま優しく寝かせると僕の方を向く。
強い意志の宿った瞳だ。
そうは分かっていながらも無駄な質問をぶつける。
「僕と戦うことの意味を分かっているのかい?君の嫌いな面倒事に体を沈めることになる」
「巻き込もうとしといてよく言えるな。それに残念ながらもう沈んでる、お前よりも深いとこにな」
ははは、ようやく怠惰が動かざるを得なくなったか。今まで怠けていた分、働いてもらわないと困る。
だけど、その覚悟を問おう。
「それはいいことだね。だけどそれは僕たちに、かな?庭に、かな?」
「どっちでもねぇよ。俺は俺だ」
この期に及んでその答えを出せるとはどれだけ愚かなのだろう。ゼギウスに任せる訳にはいかないようだ。
「ナナシ」
「はいはい。でも、これが最後だよ。これが終わったら私は庭に戻るからね」
ナナシは地上に居るメナドールを足で拾い上げると空に退避した。
それにしてもゼギウスと本気で戦うのは初めてかな?それが世界の命運を決める戦いになるとは互いに重いものを背負ったものだ。
しかし、ゼギウスには負けられない。選ばず逃げた者に人類を託すことなどできない。
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