怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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56話

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命を懸けて戦うのはどれくらいぶりだろうか。七英雄になってからは便利屋のように扱われ、マルスの呪いによって命を握られていた。

そんな私を表では見下していなくとも他の七英雄たちは心の中で見下していたように思える。これは私のコンプレックスで過剰にそう感じていただけかもしれない。でも、私にはそう思えた。

そんな中、ゼギくんだけは私を見下していなかった。そもそも私に何かを頼んでくることがなく話しかけても面倒くさそうにあしらわれていたが、私を便利屋とは思っていなかったのは間違いない。

七英雄以外には崇められ、七英雄には見下される。だから私に興味がなくても対等で居てくれたゼギくんとの時間は凄く心地よかった。

いつしかゼギくんのためには進んで情報提供をしたり手伝ったりするようになった。まるで恋する乙女のようにゼギくんの気を惹こうと色々やったのが懐かしく思える。

それでもゼギくんは変わらずに面倒くさそうだったが、拒絶もせず目の色も変えなかった。それがまた卑怯だ。益々心地良くなってゼギくんの元に居る時間が増えた。

それをマルスに怪しまれゼギくんに迷惑をかけないために業務連絡以外はゼギくんに近づき過ぎないようにした。必要以上にゼギくんの嫌がる面倒事を押し付けてしまったかもしれない。だけど、それはマルスの毒牙にゼギくんを巻き込まないようにするため。

それなのに私が巻き込む形でゼギくんに迷惑をかけてしまった。ハオの時で終わりにしようと思っていたのにその後も。ゼギくんはララちゃんとルルちゃんを助けただけと言うかもしれないがそれは関係ない。

自分のことも自分で対応できず、守りたいものも守れず何が七英雄だ。

ゼギくんのおかげで呪いも解かれ五分の状況になった今、片を付ける時だ。前は呪いを発動され戦う前に意識を奪われ拘束されたが、今回は失敗しない。

これ以上、ゼギくんに迷惑をかけないためにもここで断ち切る。

そうマルスを離れた場所から尾行しているとマルスは立ち止まった。私の尾行に気づいたようだ。

私の居る方を向き私を待っているように見える。流石に見張りに付けていた蠍に気づかれたか。

気づかれているのならもうコソコソとする必要はない。この辺りに罠が仕掛けられていないのは確認済みだ。

それならと堂々とマルスの前に姿を現す。

「僕に何か用かな?」

白々しい。分かっていてゼギくんに気づかれないくらい離れたくせに。

「そうね、貴方を殺しに来た。と言えばいいかしら?」

マルスの言葉遊びに付き合わされないように冷静に答える。この安易な挑発で心を乱されては戦闘が始まる前から戦いに負けてしまう。

「ゼギウスのおかげで呪いの全てを解除されて勘違いしたのかな?今この状況で僕を殺す。その重みを分かっているのかい?」

本当に人を見下したり逆撫でしたりするのが得意な人。この期に及んで重みとは…

七英雄と柱の戦いはアルメシアちゃんがスカーを倒したことで数では負けているものの五分以上にはなった。だからマルスの重みなどあまりない。寧ろ庭を刺激する可能性が高く人間側にとって悪影響まである。

「嫉妬が貴方である必要はないわ。七英雄は揃っていれば誰でも構わない。どうせ傲慢と憤怒の替えは用意しているのでしょう?」

「ははは、そうだね。憤怒は候補止まりだけど傲慢は継承済みだよ。でも僕に歯向かうよりおとなしく飼われていた方が君のためだと思うけど、甘やかし過ぎたかな」

傲慢は継承、済み?ユーキはただの捨て駒にされた?それなら私の私怨だけでなくマルスを生かしておくことは人間の損失になる。

そう自分の行動を正しい判断だと思い込ませる。別に正しくなくても止める気はないが、最後のところで迷いが生じたら足元を掬われかねない。マルスは言葉で惑わせてくる。

「ゼギくんには迷惑をかけ過ぎたからね。これ以上は迷惑をかけられないの」

「そうか、教育が足りなかったんだね。もういい、使えない駒は必要ない。でも、君のスキルは継承させたいから息の根までは止めないよ」

私って凄い下に見られているな。今更、気にはならないけど、いつまでも下だと思ったら大間違いということを分からせる。

「その余裕があるといいわね。《絡繰り人形》」

そう被っている帽子を投げて蠍の姿に変形させる。

これは対マルス用に仕上げたスキルだ。命ある者は全てマルスの呪いによって使えなくされるため、生命の無い絡繰り人形を魔力の糸で操ることにした。

これなら私自身は距離を取ってマルスの呪いを躱しながら戦える。そう絡繰り人形を操りマルスに突撃させた。

「呪いが効かなければ僕に勝てると思ったのかな?馬鹿馬鹿しい、《呪風》」

そのスキルは辺りに鎌鼬のような風を発生させ木々を伐採していく。それは簡単に躱せるが、私と絡繰り人形を繋ぐ魔力の糸を切られた。

絡繰り人形は力なく文字通り糸が切れたように脱力する。が、これも計算の内だ。

辺りに配置していた偵察用の蠍を経由して魔力の糸を繋ぎ直す。これなら中継地点が複数あり、再接続も速い。

そこから一気に畳みかける。

「《蠍の猛毒》」

この再接続の速さを利用した不意打ちで尻尾の毒を打ち込もうとするが簡単に躱される。魔力の糸を通して操作する分、操作に遅れがあり、それは距離が空くほど大きい。

「いい戦い方だとは思うけど僕に怯え過ぎかな」

バックステップしたかと思えば今度は正面から突っ込んでくる。その動きを追わせようとするがもう遅い。後ろから蠍に追わせる形になってしまった。

マルスの言うように私がマルスの呪いを警戒し過ぎたが故に踏み込めず、それを利用された。

絡繰り人形の操作に気を取られ反応が遅れた分、もう逃げ切るのは厳しい。

呪いをまた埋められる……

そう私が思っているとマルスは思っているだろう。そんな余裕のある表情を浮かべている。

しかし、それは全て計算の内だ。今更、マルスの呪いに怯えたりはしない。道連れでもいいからマルスを倒すと決めている。

私の方からマルスに向かっていき絡繰り人形に繋いでいた魔力糸を切断する。そして奥に居る蠍から魔力の糸を伸ばして絡繰り人形に再接続し、そのまま私から伸びている魔力の糸を針にして武器に変化させた。

常に数万の蠍を操り情報を探っている私からしたらこの程度の同時操作は造作もない。

マルスは一瞬、驚いたような表情を浮かべたがすぐにいつもの冷静な表情に戻る。どうやら引く気はないようでそのまま衝突した。

振り抜かれる拳を魔力の針で受け止めるが硬度が足りず割れそうになる。それを逆に軟化させて糸に戻して絡めとって受け流す。

しかし、即座に次の拳が飛んでくる。それを躱そうとするが、接近戦では分が悪く躱し切るのがやっとで反撃ができない。

だけど、それでいい。

前方から絡繰り人形が追いつきマルスの背後から尻尾に仕込んである毒を刺そうとする。スキルを唱えていないため、読まれないと思ったが読まれているように躱された。

絡繰り人形は私の手元に戻り、振り出しに戻る。

「予想以上に準備してきたみたいだけど、あくまで想定の範囲内だね」

「そう?ならさっきの戦いで終わらせればよかったんじゃないかしら?」

「知っているとは思うけど僕は慎重なタイプだからね、様子見をしたんだよ。それに自力は僕の方が上だから様子見すればするほど僕の勝ちは確実になる」

減らず口を…だけどその通りだ。こっちは相手の目が慣れれば慣れるほど不利になる手を使い続けている。対してマルスは変わったことをしている訳じゃない。

だけど、まだ不利になった訳じゃない。使っていない手はある。それにこの周辺の蠍はマルスを囲うように配置し直した。どこからでも絡繰り人形を接続して動きを変えられる。

始めと同じように絡繰り人形で攻撃を仕掛ける。
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