怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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59話

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ゼギウス、ゼギウス、ゼギウス、ゼギウス……

光に包まれ飛ばされたのは、以前同じことがあった時と同じように庭の中だ。

やってくれたな。箱が耐えられないほどのスキルを使うとは思わなかった。おまけにそれを庭への合図として使うとは、どこまで人間を見限っているんだ…

そう痛くもない元から存在しなかったかのように違和感すらない左腕の断面を押さえながら怒りを強くする。

「君は自分のやったことを分かっているのか!」

「使えるものは全て使う。当然の事だろ」

そう悪びれもせずゼギウスは言うが、事の重大さを分かっていない訳ではあるまい。分かっていないのであれば最初から使っていたはずだ。だからこそ腹が立つ。

しかし、今はゼギウスよりも目を向けなければならないことがある。ここは敵の本拠地、どこから何をされるか分からない。

「警戒する必要はない。人の獲物を横取りしたり格下相手に不意打ちを使ったりするほど無粋なことはしない」

以前来た時に話した声と同じ声が聞こえてくる。しかし、姿は見えない。それはこの庭の中からなら如何様にも干渉できるという警告だ。

今の僕の状態を見てもまだ格下と呼ぶとは、やはり全員が必要になりそうだね。いや、それよりも力を曝してしまったことの方が問題か。

だが、それらを考えるのはここを脱出してからだ。ここを出られないことには他の事は全て無駄になる。

「さて、思う存分続きをやるか。《滅雷》」

先程は範囲に配慮していたのか、今回は何筋もの閃光が走る。1度見ているが、詠唱以外に起こりがない。音がしなければ衝撃もない、光を見た時にはもう遅い。

今回はスキルの詠唱よりも前に動き始めていたから避けられたが、閃光を見て躱した訳ではなく、ただ運が良かっただけ。とてもじゃないがここからの脱出方法を考えている余裕はなさそうだ。

「《嫉妬の業火》」

後手に回らないようにこちらから仕掛ける。メナドールには重傷で留めるために加減したが、今回は加減しない。

ゴオォォォォオオオ!と燃える炎の音が妬み嫉みの嘆きに聞こえる炎の波をゼギウスの4方から呑み込むように押し寄せさせる。

躱すことはできない。塞がれていない上に逃げようと4方からの波がぶつかり上へも追いかける。

さぁ、どう動く?

ゼギウスの動向を窺っていると炎の波は《絶炎》によってかき消された。

想定外だ。加減した《嫉妬の業火》が防がれるのはまだ分かるが、本気の《嫉妬の業火》まで防がれるとは…それも一方的にかき消されたということはゼギウスの防御能力が僕の攻撃能力を上回っていることになる。

幸いなのは《呪印》を植え付けられていることか。それすらもなかったら正直、厳しかった。

「まさか防がれるとは思わなかったよ」

「そりゃ、俺は防御特化だからな。まぁ、今は攻撃もできるか。《滅土》」

今度は地面から円錐の土の柱が何本も生えてくる。それは数秒で足元を剣山に変えた。

しかし、地面は膨れ上がる起こりがあり《滅雷》に比べれば躱すのは容易だ。そう剣山を足場にして生えてくる円錐の土を躱して上へ上へと上っていく。

ようやく止まったと剣山の頂上に立つとそこは剣山ではなく棘で作られた1つの柱になっていた。

そこへゼギウスが上ってくる。上ってくるなり指を擦って音を鳴らす素振りをした。しかし、音は鳴っていない。何かのスキルの発動準備だろうか。

すると今度は手を横から振り上げた。それは柱の端から土を盛り上げさせ僕たちを覆うドームになる。そしてゼギウスがもう1度、指を鳴らす素振りをするとゼギウスの手元に火が点きドームの中を照らす。

それは明らかに攻撃の準備ではない。話し合いをしたいようだ。

「本当に君には驚かされるよ。それで僕をここに呼んだ理由は何かな?」

僕の回避は誘導されていた。剣山から逃がさないように剣山から剣が生え、それが積み重なって柱になっている。綺麗な円柱状ということは完璧に僕の回避を誘導したということだ。

「本気で庭に勝てると思ってるのか?」

そうゼギウスが真剣な顔つきで問いかけてくる。もしかしてゼギウスは揺れているのか?

「勿論。仮に勝てないと思っていたとしてもこのスキル構成の面子が次に揃うのは100年後か200年後か、その時にはもう人間はいない。だから僕の世代でケリをつけなければならない」

「そうはならねぇけど、なら取引するか?」

「内容によるかな。この状況でも妥協をするつもりはないよ」

ゼギウスの意図が分からない。敵の本拠地という場所に戦闘の形勢、見当たる要素は《呪印》以外ゼギウスが圧倒的に優位だ。その《呪印》ですらもまだ回り切るには時間が掛かるように見える。

そんな状況での取引、嫌な予感しかしない。

「呑まなきゃ死ぬだけだ。俺の要求は俺の体内の《呪印》を解くこと、メナに手出しをしないことだな。見返りは庭を出るまでの身の安全、これでどうだ?」

妥当、いや、少し遠慮し過ぎている要求だ。この状況の優位を考えればそれはあり得ない。しかし、ゼギウスは嘘を吐かない。

そうなると他に目的があることになる。それはゼギウスにとって都合のいい事……

そう頭を回転させる。戦闘に対する意識はもう2割も割いていない。

ゼギウスの立場と目的…どちらにもつかず、怠けた生活?それに必要な事は何だ?どちらにも恩を売ること?いや、違う。庭に僕を招き生きて返すことは庭に敵対することと同じ……

庭に僕を招いた?そうか。ゼギウスの目的はそれか。僕の力を見て庭と戦えると判断した。それで僕たちと庭が戦っている間に自分たちの戦力を整える。

第3勢力としての台頭か、面白い。それならゼギウスのどちらにもつかないという言葉もまだ納得できる。

そうなるとメナドールを要求したのは僕たちの戦力を削いだという庭へのいい訳か?メナドールは戦えなくても目というそれ以上の価値がある。ナナシも引き込めれば僕たちと庭の両方から戦力を削ぎながら自分は戦力を蓄えられるという算段か。

本当の取引内容は庭の座標と中立の容認、メナドールという訳だね。

それは適当なタイミングで反故にすればいいとして今はこの取引に応じるのが最善か。この面白い取引内容に免じてアシストしてあげよう。

「僕の《呪印》に相当侵蝕されているようだね。それならシアンとグラも渡してもらうよ」

「アホか。だが、本人たちが望めばそうしてやるよ」

この返答は想定済みだ。ゼギウスは去る者は追わず来る者は拒まない。だからこの問答は聞いているだろう庭の者に向けてのものだ。

「これでも僕はメナドールから色欲を継承させられない分、妥協しているつもりなんだけどな」

「勝手に言ってろ」

茶番はこの程度でいいだろう。これで状況も悪かったと言えるくらいの説明はしたはずだ。

ゼギウスの方へ歩いて行き、体に手を触れて「《解呪》」と唱えて《呪印》を解く。そのついでにゼギウスの体内から七英雄の怠惰の称号を回収する。

これで最低限、目的は達成できたと言っていいだろう。スキルの継承はできないが1人、覚醒させることができる。

「ちゃんと解くんだな」

「君は僕を何だと思っているんだい?確かにそれで勝てるならそうするけど、今は支配する前に僕も致命傷を負わせられるからね」

「冷静な判断なことで」

そう興味のない返答するとゼギウスはドームを開き土の柱を下りていき、僕もそれについていく。そのまま庭の入り口に行くとゼギウスは門扉に手をかける。

「《開け》」

ゼギウスがそう唱えると押す訳でもなく門扉は勝手に開いていく。そこから出て行くと人間界と魔界の境目付近、少し北側に出る。

これで座標は分かった。
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