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60話
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マルスが庭から出ると屋敷の中へ向かう。庭に来た主目的の原初に会うためだ。マルスはそれを偽装するのに利用したに過ぎない。まぁ、あれだけ戦えたのは嬉しい誤算ではあったが。
そう歩いていると黄色い光が近づいてくる。流石に何の弁明も無しでは許されないようだ。
「どういうつもりだ?」
「何のことについてだ?」
惚けている訳ではない、思い当たる項目が多すぎて分からない。
「庭に来る前、来てからのことだ」
来る前ということは枷が外れたことも気づかれているようだ。ここで使ったスキルを考えれば当然か。
少し考えていると焦れたのか黄色い光が圧を強めて確認してくる。
「小細工をしていたようだが、話は聞こえていた。人間につくということでいいんだな?」
「目的は庭と同じだ。ただ、庭に戻るつもりはねぇ」
偽装の防音をやって原初に防音をしろと合図をしたはずだが、聞かれていたようだ。原初がサボったか、それとも原初の力も大分弱っているのか。どちらにしても面倒になる。
「つかねぇよ。俺は俺だ。別にここの座標を教えたところで入れるかどうかは別だし、入ってきたところで都合がいいだろ」
「座標の記憶を消した我々の意思に反するが、それはまだいい。何故倒さなかった?」
「今マルスを倒すってことは人間を滅ぼすことになる。庭の目的は飼い慣らすことだ。だったら感謝されてもいいくらいだろ」
「物は言いようだな。だが、いいだろう。昔に免じてゼギウスの相手は七罪を葬ってからにしよう。どの道、ナナシが庭に居る限り、ゼギウスとて俺たちの脅威には成り得ない」
忠告とばかりにそう告げると黄色い光は消えて行った。
ナナシを人質に出している間はマルスたちを優先、ねぇ。ナナシ無しの俺の戦力はマルス以下ってことか。有難い反面、状況の厳しさを嫌にも教えられる。
しかし、それについての対策は今でなくてもいい。今1番優先すべきは原初だ。そう屋敷の中に入っていき原初の部屋に入る。
「どういうつもりだ?」
挨拶もせず分かるように不機嫌さを表す。ここに来た目的を原初も分かっているようだ。
「私ではありません。世界の導きです」
さっきの防音のことといい、原初の行動にしては引っ掛かる部分が多い。世界の導きというのも事実で、今の原初にはそれに抗う力はないと判断していいようだ。
しかし、そうなると困ることがある。
「そうか。じゃあ予定を早めるのか?」
そう確認をする。外の会話は聞かれていたとはいえ、ここの会話は聞かれないため遠慮なく聞く。
「ゼギウスにお任せします。私が生きている間、私の力が使える間はゼギウスに尽くすことを約束します。願わくば、またゼギウスと暮らしたいですが、それが難しいことは分かっています」
「なら長生きしろ。全てが終わった後に生きてりゃできるだろ」
この言葉は気休めに過ぎない。俺も原初もそれが叶わないということは察している。
「そうですね。では、その時を信じてもう少し頑張りましょう。ナナシのことは任せてください。ゼギウスの合図があればいつでも望むようにします」
望むように、か。あくまで俺の判断に任せると。
「用も済んだし俺は帰るわ」
「待ってください。ゼギウスには渡すものがあります」
原初がそう言うと頭の中に知識が流れ込んでくる。それは賢王が研究していた庭の再現に関する知識で庭には程遠いが場所を隠し、護りを固める参考にはなりそうだ。腐れにでも伝えればドラルの城に合うように修正してくれるだろう。
どうやらナナシが賢王を倒しに行った時に回収させたようだ。その時にはこうなると薄々気づいていたということか。
「改めて庭の凄さが分かるな。ありがとな」
「庭はあの子たちが造り上げた場所ですからね。ではお礼にお母さんと呼んでくれませんか?」
「アホか」
そう言い残して、後ろ向きに手を掲げて原初の部屋を出て行く。それからは誰と話すこともなく庭を出た。
庭を出てドラルの城に向かって歩いて行くとナナシたちを見つけた。どうやら俺を待っていたようでララが手を振っている。
「私は帰るからね。バイバイ、ゼギウス」
俺が何か言うよりも前にナナシはそう言うと俺の来た方向へ飛んでいく。どうやらナナシは怒っているようだ。まぁ、当然か。
「帰るか。それと帰ったら話がある」
シアンとグラにはマルスが話しているだろうから放置でいいだろう。そうドラルの城へ帰ろうとするとララに呼び止められる。
「あの…メナドールさんはどうするのですか?」
すっかり忘れていた。メナはララとルルの近くに寝かされており、まだ意識は戻っていないようだ。ナナシに運ばせればよかったな。さっきの怒りようからすると無理か。
「はぁ…面倒くせぇけど俺が運ぶ」
ララとルルに運ばせるのは難しいから仕方なくメナを抱える。2人はなんとなく事態を察しているのか無言でついてきていた。
話がある、と言った時点で察することはできるだろうが、普段はうるさいララがおとなしいと気持ち悪い。何だよ、うるさくても静かでも支障があるって新手の侵蝕じゃねぇか…
2人が無言だからそんなことを考えながら歩いているとすぐにドラルの城に着いた。
俺の部屋に入りメナをベッドに寝かせてからララとルルに腐れとスーを呼んできてもらう。その間に俺は「起きろ」と言ってアルの体を強引に起こす。
「ん~、何じゃ?わりぇは疲れているのじゃ…話なら後に…」
アルは起き上がったものの疲れもあってか目はほとんど開いておらず首はカクカクと揺れている。スカー戦を考えれば寝かせてやりたいが、これは後回しにはできない。
「今後に関わる真面目な話だ」
「……うむ、分かったのじゃ。少し待っておれ」
言葉のトーンから事の重大さを悟ったのかアルは目を覚ましにどこかへ行く。大方顔を洗いに行ったのだろう。
それから少し待っているとララとルルが腐れとスーを連れて戻って来る。スーはさっきのことを気にしてか俺の足元には来ない。しっかりと反省しているようだ。
それから更にもう少しするとアルも戻ってきた。
「話とは何なのじゃ?」
「俺は七英雄にも庭にもつく気はねぇ。だが、それは考え得る中で1番困難で全員の安全は保障できねぇ。だから生きたい奴は俺から離れろ。今ならシアンにでも頼んで身の安全は保障する」
「待て、お主が七罪にも柱にもつかぬのは前から言っておったから知っておるが、庭とは何なのじゃ?」
そう言えばアルは庭に行ったことがないのか。こうなるならあの時、連れて行くべきだったな。言葉よりも直で見せた方が脅威を肌で感じられる。
「庭ってのはナナシより強いバケモノがいる場所だ。庭を前にすれば七英雄も柱も虫けら程度の強さって言えば分かるか?」
「なっ……そのような者たちを相手に勝てるのか?」
「勝てるか勝てないかで言えば勝てないだろうな」
庭は俺を育ててくれた場所、俺の強さは全て庭に由来する。だからこれが正直なところだ。
「そうまでさせるお主の目的は何なのじゃ?」
「質問が多いな。世界には覇権を握る種とそれを奪おうとする種がいる。その2つの種は争い、どちらかの種は滅びる。そしてまた次の種が現れる。そうやって世界は回ってきた」
これはスカーに聞いた話だが、七英雄の立場を利用して調べても同じ結論に至った。
しかし、唐突にこの話を聞かされても咀嚼できないのか全員、真剣な顔をしているものの頭にはハテナが浮かんでいる。だが、それを気にせず話を続けた。
「俺はそれが嫌いだ。消えた種は世界からその記憶がなくなる。その文明に関する技術、どんな種だったか、どれくらいの期間存在していたのか、そういったことが全て分からなくなる。残るのは何かしらの種が存在し、その種から世界の覇権を奪い取ったという事実だけ」
ララとルルは国の歴史書でも読んだのか少しは理解できているようだ。腐れは闇商人として情報を扱っていた分、全く知らない事実を聞かされて呑み込めないでいる。アルとスーは言うまでもなく理解できていない。
「俺は人間という種に生まれたが、魔物に育てられた。人間という種が滅びるのは当然、俺という存在が滅びる。かと言って魔物が滅びれば、俺は七英雄になるより前の人生を失う。それって悲しいだろ。だから俺は世界の種を人間と魔物に留めるために動く。これは俺の我が儘だ。だからお前たちを無理に巻き込むつもりはねぇ。どうするかは自分たちで決めてくれ」
そう全員に判断を委ねた。
そう歩いていると黄色い光が近づいてくる。流石に何の弁明も無しでは許されないようだ。
「どういうつもりだ?」
「何のことについてだ?」
惚けている訳ではない、思い当たる項目が多すぎて分からない。
「庭に来る前、来てからのことだ」
来る前ということは枷が外れたことも気づかれているようだ。ここで使ったスキルを考えれば当然か。
少し考えていると焦れたのか黄色い光が圧を強めて確認してくる。
「小細工をしていたようだが、話は聞こえていた。人間につくということでいいんだな?」
「目的は庭と同じだ。ただ、庭に戻るつもりはねぇ」
偽装の防音をやって原初に防音をしろと合図をしたはずだが、聞かれていたようだ。原初がサボったか、それとも原初の力も大分弱っているのか。どちらにしても面倒になる。
「つかねぇよ。俺は俺だ。別にここの座標を教えたところで入れるかどうかは別だし、入ってきたところで都合がいいだろ」
「座標の記憶を消した我々の意思に反するが、それはまだいい。何故倒さなかった?」
「今マルスを倒すってことは人間を滅ぼすことになる。庭の目的は飼い慣らすことだ。だったら感謝されてもいいくらいだろ」
「物は言いようだな。だが、いいだろう。昔に免じてゼギウスの相手は七罪を葬ってからにしよう。どの道、ナナシが庭に居る限り、ゼギウスとて俺たちの脅威には成り得ない」
忠告とばかりにそう告げると黄色い光は消えて行った。
ナナシを人質に出している間はマルスたちを優先、ねぇ。ナナシ無しの俺の戦力はマルス以下ってことか。有難い反面、状況の厳しさを嫌にも教えられる。
しかし、それについての対策は今でなくてもいい。今1番優先すべきは原初だ。そう屋敷の中に入っていき原初の部屋に入る。
「どういうつもりだ?」
挨拶もせず分かるように不機嫌さを表す。ここに来た目的を原初も分かっているようだ。
「私ではありません。世界の導きです」
さっきの防音のことといい、原初の行動にしては引っ掛かる部分が多い。世界の導きというのも事実で、今の原初にはそれに抗う力はないと判断していいようだ。
しかし、そうなると困ることがある。
「そうか。じゃあ予定を早めるのか?」
そう確認をする。外の会話は聞かれていたとはいえ、ここの会話は聞かれないため遠慮なく聞く。
「ゼギウスにお任せします。私が生きている間、私の力が使える間はゼギウスに尽くすことを約束します。願わくば、またゼギウスと暮らしたいですが、それが難しいことは分かっています」
「なら長生きしろ。全てが終わった後に生きてりゃできるだろ」
この言葉は気休めに過ぎない。俺も原初もそれが叶わないということは察している。
「そうですね。では、その時を信じてもう少し頑張りましょう。ナナシのことは任せてください。ゼギウスの合図があればいつでも望むようにします」
望むように、か。あくまで俺の判断に任せると。
「用も済んだし俺は帰るわ」
「待ってください。ゼギウスには渡すものがあります」
原初がそう言うと頭の中に知識が流れ込んでくる。それは賢王が研究していた庭の再現に関する知識で庭には程遠いが場所を隠し、護りを固める参考にはなりそうだ。腐れにでも伝えればドラルの城に合うように修正してくれるだろう。
どうやらナナシが賢王を倒しに行った時に回収させたようだ。その時にはこうなると薄々気づいていたということか。
「改めて庭の凄さが分かるな。ありがとな」
「庭はあの子たちが造り上げた場所ですからね。ではお礼にお母さんと呼んでくれませんか?」
「アホか」
そう言い残して、後ろ向きに手を掲げて原初の部屋を出て行く。それからは誰と話すこともなく庭を出た。
庭を出てドラルの城に向かって歩いて行くとナナシたちを見つけた。どうやら俺を待っていたようでララが手を振っている。
「私は帰るからね。バイバイ、ゼギウス」
俺が何か言うよりも前にナナシはそう言うと俺の来た方向へ飛んでいく。どうやらナナシは怒っているようだ。まぁ、当然か。
「帰るか。それと帰ったら話がある」
シアンとグラにはマルスが話しているだろうから放置でいいだろう。そうドラルの城へ帰ろうとするとララに呼び止められる。
「あの…メナドールさんはどうするのですか?」
すっかり忘れていた。メナはララとルルの近くに寝かされており、まだ意識は戻っていないようだ。ナナシに運ばせればよかったな。さっきの怒りようからすると無理か。
「はぁ…面倒くせぇけど俺が運ぶ」
ララとルルに運ばせるのは難しいから仕方なくメナを抱える。2人はなんとなく事態を察しているのか無言でついてきていた。
話がある、と言った時点で察することはできるだろうが、普段はうるさいララがおとなしいと気持ち悪い。何だよ、うるさくても静かでも支障があるって新手の侵蝕じゃねぇか…
2人が無言だからそんなことを考えながら歩いているとすぐにドラルの城に着いた。
俺の部屋に入りメナをベッドに寝かせてからララとルルに腐れとスーを呼んできてもらう。その間に俺は「起きろ」と言ってアルの体を強引に起こす。
「ん~、何じゃ?わりぇは疲れているのじゃ…話なら後に…」
アルは起き上がったものの疲れもあってか目はほとんど開いておらず首はカクカクと揺れている。スカー戦を考えれば寝かせてやりたいが、これは後回しにはできない。
「今後に関わる真面目な話だ」
「……うむ、分かったのじゃ。少し待っておれ」
言葉のトーンから事の重大さを悟ったのかアルは目を覚ましにどこかへ行く。大方顔を洗いに行ったのだろう。
それから少し待っているとララとルルが腐れとスーを連れて戻って来る。スーはさっきのことを気にしてか俺の足元には来ない。しっかりと反省しているようだ。
それから更にもう少しするとアルも戻ってきた。
「話とは何なのじゃ?」
「俺は七英雄にも庭にもつく気はねぇ。だが、それは考え得る中で1番困難で全員の安全は保障できねぇ。だから生きたい奴は俺から離れろ。今ならシアンにでも頼んで身の安全は保障する」
「待て、お主が七罪にも柱にもつかぬのは前から言っておったから知っておるが、庭とは何なのじゃ?」
そう言えばアルは庭に行ったことがないのか。こうなるならあの時、連れて行くべきだったな。言葉よりも直で見せた方が脅威を肌で感じられる。
「庭ってのはナナシより強いバケモノがいる場所だ。庭を前にすれば七英雄も柱も虫けら程度の強さって言えば分かるか?」
「なっ……そのような者たちを相手に勝てるのか?」
「勝てるか勝てないかで言えば勝てないだろうな」
庭は俺を育ててくれた場所、俺の強さは全て庭に由来する。だからこれが正直なところだ。
「そうまでさせるお主の目的は何なのじゃ?」
「質問が多いな。世界には覇権を握る種とそれを奪おうとする種がいる。その2つの種は争い、どちらかの種は滅びる。そしてまた次の種が現れる。そうやって世界は回ってきた」
これはスカーに聞いた話だが、七英雄の立場を利用して調べても同じ結論に至った。
しかし、唐突にこの話を聞かされても咀嚼できないのか全員、真剣な顔をしているものの頭にはハテナが浮かんでいる。だが、それを気にせず話を続けた。
「俺はそれが嫌いだ。消えた種は世界からその記憶がなくなる。その文明に関する技術、どんな種だったか、どれくらいの期間存在していたのか、そういったことが全て分からなくなる。残るのは何かしらの種が存在し、その種から世界の覇権を奪い取ったという事実だけ」
ララとルルは国の歴史書でも読んだのか少しは理解できているようだ。腐れは闇商人として情報を扱っていた分、全く知らない事実を聞かされて呑み込めないでいる。アルとスーは言うまでもなく理解できていない。
「俺は人間という種に生まれたが、魔物に育てられた。人間という種が滅びるのは当然、俺という存在が滅びる。かと言って魔物が滅びれば、俺は七英雄になるより前の人生を失う。それって悲しいだろ。だから俺は世界の種を人間と魔物に留めるために動く。これは俺の我が儘だ。だからお前たちを無理に巻き込むつもりはねぇ。どうするかは自分たちで決めてくれ」
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