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65話
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うーん、やっぱりシアンにも勝てないか。
言ってもこの3人は名の知れた冒険者で巷では英雄扱いを受けている身だ。そのため死線を何度も潜ってきているはずだが、回数が足りなければ浅かったか。
それは柱との戦闘で経験させればいい。この3人には丁度いい死線になる。それに今の戦いを見るにシアンに教育係をさせるのもいいだろう。
そんなことを考えているとシアンの短剣が飛んでくる。髪を掠めるように短剣は通過すると後ろの壁に刺さった。
「不意打ちかい?」
「ちゃんと外したよ。声をかけたのに返事しなかったから投げたのさ」
どうやら考え事に集中し過ぎていたようだ。纏める立場は考えることが多くて困る。それでもこれだけ深く考えられたということはシアンが相手にならないと僕の本能が判断したということ。それくらいには力の差がある。
「どこからでもいいよ」
「いつ振りだろうね、アンタと戦うのは!」
「君たち戦闘狂は誰彼構わず戦闘を挑むけれど、僕とゼギウスとは戦ったことがないんじゃないかな?」
そうシアンの投げる短剣を躱しながら挑発する。
「それは格が違うって言いたい訳?」
「そうだね。僕だけの力なら互角だろうけど嫉妬としての僕とは勝負にならないね」
おっと、これは喋り過ぎかな?別にいいか。僕の力の正体が分かったところでどうこうなる話じゃない。
「勝負にならないかどうかは自分で確かめるさ」
シアンは短剣を投げるのを止めない。僕の《呪印》を警戒しての戦い方だろうけど、これでは話にならない。
「《怨嗟》」
中遠距離での戦いでも分が悪いことを教えるためにそうスキルを唱える。
「この程度がアタイに効くとでも?」
「僕には効いているように見えるよ」
強がっている言葉とは裏腹にシアンは頭を押さえ辛そうに片目を細めている。これで中遠距離での戦いは無駄だと分かっただろう。そう《怨嗟》を解除した。
僕はこの戦いで圧倒的な力の差を見せて服従させなければならない。だからシアンのやること全てを受け止めそれ以上で返す必要がある。
「何で解いたのさ。アタイを甘く見てるのか?」
「違うよ。この3人には耐えられないと思ってね。そんなことにも気づかないとは相当辛かったみたいだね」
「何とでもいいな。仕掛けは整った、《起爆》」
そうシアンが唱えると後方が爆発する。投げていた短剣で陣を描いていたようだ。
しかし、その爆発は僕には当たっていない。窓が割れ城の外からも爆発が見えているだろう。後で皇や民衆への説明が必要になるが、その程度問題にはならない。
「僕の立場を悪くする作戦かな?この程度、戦闘訓練だって言えばどうとでも言い訳はできる」
「そんな訳ないだろ。後ろを見なよ」
促されるがままに振り返ると爆発の起こった場所には青色の煙が漂っていた。それはこの部屋の中と城の外へ流れ……毒か。そう煙から距離を取る。
しかし、奇妙だ。僕に毒を当てたいのなら何も言わなければよかったし、部屋中に蔓延させたいのなら窓を割るべきじゃなかった。そこまで余裕がなくなっているとは、僕がシアンを鍛えないと駄目かな?
「その程度の毒から逃げるって滑稽だね」
「君が使ったから警戒しただけだよ。あの程度、いくらでも解毒はできるよ」
「なら試してやる、よ!」
今度は1度に10本の短剣を投げる。言葉からして同じように陣を描くつもりだろう。分かっていて付き合う必要はない。
陣を形成させないために向かってくる短剣を数本叩き落とす。すると、叩いた手が痺れた。
今度は麻痺か。小細工を…
「敵の言葉は信じるなって後輩たちに教えたばっかりなんだけどね。同じ手を使う訳ないでしょ」
「僕はいつまで君の隠し芸大会に付き合えばいいのかな?」
「そりゃ、アンタが倒れるまでさ。攻めてくる気がないのならやりたい放題やらせてもらうよ」
そうシアンは煙玉を床に落とす。部屋中はあっという間に煙に覆われ自分の手元すら見えなくなった。
面倒な事にシアンは《隠密》を使って魔力を使った気配探知から身を隠している。これでは下手に動けない。シアンが向かってくるところに《呪印》を植え付ける。
「本当は君も勝てないって気づいているんだろう?今まで通り僕の指示に従って戦ってくれればそれでいいんだけどな…」
語り掛けるが返事はない。もしかして逃げたのだろうか?いや、流石にそれはないか。
しばらく動きがないまま時間が過ぎ、再び逃げたのではないかと頭を過る。
「もう1度言うけど、今まで通りでいい___」
「それが嫌なのさ」
そう背後から声が聞こえる。やっと来たか。
《呪印》を埋め込もうと相打ち上等の攻撃を仕掛けるとシアンではない柔らかい体に手が触れた。しかし、今更止めることはできない。
「いただきます」
「《強奪》《呪印》」
《呪印》を解こうと同じ体に触れようとするとシアンに体を触れられた。それにこの声は……
逃げられる前にシアンに《呪印》を埋め込もうとするが《軽業》で躱されて逃げられる。《呪印》を1回、植え付けられた程度では何ともないがしてやられた。
「グラ、来ているなら言ってくれないかな?」
「おいら今来たところだよ?」
そういうことか。さっきの青色の煙はグラへの合図。いや、必ずしもグラが見える範囲に居るとは限らない。なら何だ?シアンからのメッセージを受け取り、グラをここに呼べる者……皇か。
無能な道具までも僕に牙を剥いたか。本当に敵が増える一方だね。僕ほど人類に尽くしている人はいないのに何でだろう…
理由は分かっていてもそんなことを考えてしまう。
「グラ、全部吸いな」
「はーい。いただきまーす」
離れたところからシアンとグラの声が聞こえてくると煙は全てグラに吸い込まれていく。煙の漂う状況はシアンに有利だったのに、それを放棄するなんて…
そう思っていたが、煙が晴れるとその理由が分かった。
足元や壁には短剣や投げナイフ、呪符が仕掛けられていた。それらは不規則に雑に敷き詰められているように見えてシアンはそれらで陣を構築し発動することができる。
動かなかったことが仇となった。いや、僕の気配はシアンには察知されていたから動かないのを分かって仕掛けたのか。
「これで勝ったつもりかい?」
「いいや、場を整えただけさ。《起爆》」
直後、短剣とナイフ、呪符が別々に爆発した。短剣は大きな爆発を起こしナイフは弾けるように飛び散り、呪符は煙を生み出す。
短剣の爆発は躱すことができてもナイフを全て躱すことができない。太腿が少し切り裂かれ血が出る。麻痺毒が仕込まれていたのか切り裂かれた方の足が重くなった。
まずは煙をどうにかしようと《呪風》を使う。もう3人を気遣っている余裕はない。多少、呪いに蝕まれようとも後でどうにかすればいい。
煙が晴れ、短剣やナイフ、呪符も全て吹き飛ばすとシアンは笑っている。
「その程度、何の意味もないさ。吐き出せグラ」
シアンの指示に従ってグラは先程吸い込んだ煙を吐き出す。そしてシアンが再び《起爆》を使う。
小道具は散り散りにさせたというのに即座に陣を見つけ爆発を起こしたようだ。小細工もここまでくると脅威になる。
今回は運よくナイフが当たらなかったが、そう何度も幸運は続かない。再び《呪風》で煙を晴らそうとするが、その前にグラに煙を吸い込まれた。
仕方がない。この場所で本気を出せないのなら場所を変えるしかない。庭に見られる可能性があるが、煙で隠れて見られないことを祈ろう。
ここで僕が倒れる訳にはいかない。
そうシアンが再び煙で部屋が満たすのを待ってこの場に居る全員に《転送》をかけた。
言ってもこの3人は名の知れた冒険者で巷では英雄扱いを受けている身だ。そのため死線を何度も潜ってきているはずだが、回数が足りなければ浅かったか。
それは柱との戦闘で経験させればいい。この3人には丁度いい死線になる。それに今の戦いを見るにシアンに教育係をさせるのもいいだろう。
そんなことを考えているとシアンの短剣が飛んでくる。髪を掠めるように短剣は通過すると後ろの壁に刺さった。
「不意打ちかい?」
「ちゃんと外したよ。声をかけたのに返事しなかったから投げたのさ」
どうやら考え事に集中し過ぎていたようだ。纏める立場は考えることが多くて困る。それでもこれだけ深く考えられたということはシアンが相手にならないと僕の本能が判断したということ。それくらいには力の差がある。
「どこからでもいいよ」
「いつ振りだろうね、アンタと戦うのは!」
「君たち戦闘狂は誰彼構わず戦闘を挑むけれど、僕とゼギウスとは戦ったことがないんじゃないかな?」
そうシアンの投げる短剣を躱しながら挑発する。
「それは格が違うって言いたい訳?」
「そうだね。僕だけの力なら互角だろうけど嫉妬としての僕とは勝負にならないね」
おっと、これは喋り過ぎかな?別にいいか。僕の力の正体が分かったところでどうこうなる話じゃない。
「勝負にならないかどうかは自分で確かめるさ」
シアンは短剣を投げるのを止めない。僕の《呪印》を警戒しての戦い方だろうけど、これでは話にならない。
「《怨嗟》」
中遠距離での戦いでも分が悪いことを教えるためにそうスキルを唱える。
「この程度がアタイに効くとでも?」
「僕には効いているように見えるよ」
強がっている言葉とは裏腹にシアンは頭を押さえ辛そうに片目を細めている。これで中遠距離での戦いは無駄だと分かっただろう。そう《怨嗟》を解除した。
僕はこの戦いで圧倒的な力の差を見せて服従させなければならない。だからシアンのやること全てを受け止めそれ以上で返す必要がある。
「何で解いたのさ。アタイを甘く見てるのか?」
「違うよ。この3人には耐えられないと思ってね。そんなことにも気づかないとは相当辛かったみたいだね」
「何とでもいいな。仕掛けは整った、《起爆》」
そうシアンが唱えると後方が爆発する。投げていた短剣で陣を描いていたようだ。
しかし、その爆発は僕には当たっていない。窓が割れ城の外からも爆発が見えているだろう。後で皇や民衆への説明が必要になるが、その程度問題にはならない。
「僕の立場を悪くする作戦かな?この程度、戦闘訓練だって言えばどうとでも言い訳はできる」
「そんな訳ないだろ。後ろを見なよ」
促されるがままに振り返ると爆発の起こった場所には青色の煙が漂っていた。それはこの部屋の中と城の外へ流れ……毒か。そう煙から距離を取る。
しかし、奇妙だ。僕に毒を当てたいのなら何も言わなければよかったし、部屋中に蔓延させたいのなら窓を割るべきじゃなかった。そこまで余裕がなくなっているとは、僕がシアンを鍛えないと駄目かな?
「その程度の毒から逃げるって滑稽だね」
「君が使ったから警戒しただけだよ。あの程度、いくらでも解毒はできるよ」
「なら試してやる、よ!」
今度は1度に10本の短剣を投げる。言葉からして同じように陣を描くつもりだろう。分かっていて付き合う必要はない。
陣を形成させないために向かってくる短剣を数本叩き落とす。すると、叩いた手が痺れた。
今度は麻痺か。小細工を…
「敵の言葉は信じるなって後輩たちに教えたばっかりなんだけどね。同じ手を使う訳ないでしょ」
「僕はいつまで君の隠し芸大会に付き合えばいいのかな?」
「そりゃ、アンタが倒れるまでさ。攻めてくる気がないのならやりたい放題やらせてもらうよ」
そうシアンは煙玉を床に落とす。部屋中はあっという間に煙に覆われ自分の手元すら見えなくなった。
面倒な事にシアンは《隠密》を使って魔力を使った気配探知から身を隠している。これでは下手に動けない。シアンが向かってくるところに《呪印》を植え付ける。
「本当は君も勝てないって気づいているんだろう?今まで通り僕の指示に従って戦ってくれればそれでいいんだけどな…」
語り掛けるが返事はない。もしかして逃げたのだろうか?いや、流石にそれはないか。
しばらく動きがないまま時間が過ぎ、再び逃げたのではないかと頭を過る。
「もう1度言うけど、今まで通りでいい___」
「それが嫌なのさ」
そう背後から声が聞こえる。やっと来たか。
《呪印》を埋め込もうと相打ち上等の攻撃を仕掛けるとシアンではない柔らかい体に手が触れた。しかし、今更止めることはできない。
「いただきます」
「《強奪》《呪印》」
《呪印》を解こうと同じ体に触れようとするとシアンに体を触れられた。それにこの声は……
逃げられる前にシアンに《呪印》を埋め込もうとするが《軽業》で躱されて逃げられる。《呪印》を1回、植え付けられた程度では何ともないがしてやられた。
「グラ、来ているなら言ってくれないかな?」
「おいら今来たところだよ?」
そういうことか。さっきの青色の煙はグラへの合図。いや、必ずしもグラが見える範囲に居るとは限らない。なら何だ?シアンからのメッセージを受け取り、グラをここに呼べる者……皇か。
無能な道具までも僕に牙を剥いたか。本当に敵が増える一方だね。僕ほど人類に尽くしている人はいないのに何でだろう…
理由は分かっていてもそんなことを考えてしまう。
「グラ、全部吸いな」
「はーい。いただきまーす」
離れたところからシアンとグラの声が聞こえてくると煙は全てグラに吸い込まれていく。煙の漂う状況はシアンに有利だったのに、それを放棄するなんて…
そう思っていたが、煙が晴れるとその理由が分かった。
足元や壁には短剣や投げナイフ、呪符が仕掛けられていた。それらは不規則に雑に敷き詰められているように見えてシアンはそれらで陣を構築し発動することができる。
動かなかったことが仇となった。いや、僕の気配はシアンには察知されていたから動かないのを分かって仕掛けたのか。
「これで勝ったつもりかい?」
「いいや、場を整えただけさ。《起爆》」
直後、短剣とナイフ、呪符が別々に爆発した。短剣は大きな爆発を起こしナイフは弾けるように飛び散り、呪符は煙を生み出す。
短剣の爆発は躱すことができてもナイフを全て躱すことができない。太腿が少し切り裂かれ血が出る。麻痺毒が仕込まれていたのか切り裂かれた方の足が重くなった。
まずは煙をどうにかしようと《呪風》を使う。もう3人を気遣っている余裕はない。多少、呪いに蝕まれようとも後でどうにかすればいい。
煙が晴れ、短剣やナイフ、呪符も全て吹き飛ばすとシアンは笑っている。
「その程度、何の意味もないさ。吐き出せグラ」
シアンの指示に従ってグラは先程吸い込んだ煙を吐き出す。そしてシアンが再び《起爆》を使う。
小道具は散り散りにさせたというのに即座に陣を見つけ爆発を起こしたようだ。小細工もここまでくると脅威になる。
今回は運よくナイフが当たらなかったが、そう何度も幸運は続かない。再び《呪風》で煙を晴らそうとするが、その前にグラに煙を吸い込まれた。
仕方がない。この場所で本気を出せないのなら場所を変えるしかない。庭に見られる可能性があるが、煙で隠れて見られないことを祈ろう。
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