怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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64話

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「用って何なのさ」

ドラルの城から半ば強引に連れて帰られてから数日、皇城の謁見の間へ呼び出されていた。まだ皇はおらず、この部屋に居るのはアタイとマルスだけだ。そこに嫌な予感がする。

「空席だった七英雄の戴冠式をやろうと思ってね。その顔合わせだよ」

「へぇ、それならそう言えばよかったのに…」

他に何か目的があるに決まっている。そう返事をしながら辺りを見回すが、何も見つからない。

「そんなに警戒しなくてもここには何もないよ」

「ここには、ね。まぁ、いいさ。顔合わせするなら早く連れてきなよ」

「そうだね。入って来ていいよ」

マルスが扉の向こうに向かって声を掛けると見覚えのない人が3人入ってきた。3人?今空席の七英雄はユーキの傲慢とラクルの憤怒の2つのはずだ。それなのに3人やって来た。そこに嫌な予感がする。

「紹介するよ。今日から僕たちと同じ七英雄になった左から傲慢のエスト、憤怒のメビス」

2人ともオーラに欠けるがエストは派手に装飾された服を着ている金髪の女性、メビスは獣の皮から作った野生を感じる服を着た赤い髪の男性だ。

今はこの2人のことはどうでもいい。問題は3人目、パジャマを着ていて眠そうにしているこの黒髪の女性だ。

「そして怠惰のカイゼルだ」

「怠惰ってどういうことさ。怠惰はゼギウスの席だろ」

グラがこの場にいないからてっきりアタイから強欲を剥奪するのかと思ったが違ったようだ。

マルスの片腕からも仲良く話し合って剥奪したという訳ではないのは分かる。そうなるとマルスがゼギウスを倒した?ゼギウスから仕掛けるとは思えないから必然的にマルスから仕掛けたことになるが、仲間にまで直接手をかけるとは。

「ゼギウスには退いてもらった。彼は僕たちに協力する気はないと言ったからね。それなのにいつまでも怠惰の称号を預けておくのは勿体ないだろう?」

「だから力尽くでってのはマルスらしくないね。メナドールはどうしたのさ?色欲が居ないってことはメナドールは生きてるんだろ?」

「メナドールはゼギウスの元にいるよ。メナドールを見逃がす代わりにゼギウスから怠惰を返してもらったからね」

それにしては違和感がある。ゼギウスなら話せば渡したはずだ。あれ程までに七英雄の地位に興味の無い人間は見たことがない。そうなるとマルスの腕は違う奴が?

「じゃあその腕はどうしたのさ」

「これはゼギウスにやられてね。やっぱりゼギウスはバケモノだったよ」

そうマルスは苦笑いを浮かべている。やはり何かおかしい。

「ならアタイはゼギウスのところに行かせてもらうよ。アンタの言葉は信用できない」

「シアンならそう言うと思ったよ。だけどそうはさせない。君がゼギウスの元に行くのなら君の故郷を反逆者の根城として軍を差し向ける」

「腐ってるね。それでアタイに執着する理由は?別にアタイから強欲を剥奪すればそれで済むだろ」

「そうもいかなくてね。君がゼギウスの元へ行くとグラまで行きかねない。それに君はゼギウスの《愚鈍なる世界》、いや、《愚歪なる世界》だったね。それを使える以上、君に離れられると困るんだよ」

そういう理由か。だからここにアタイだけを呼んだ。

「それでアタイが従うとでも思ってるの?」

1度何かを盾に脅されると生涯それを盾に脅され続ける。だからタダで従うつもりはない。向こうがアタイを欲している以上、抵抗して勝てればそのまま逃げればいい。駄目なら従う。それでもあそこは守れる。

「思ってないよ。だから戦闘訓練も兼ねてこの3人を連れて来たんだよ」

「なら遠慮くやらせてもらうよ。《愚歪なる世界》」

挨拶代わりの先制攻撃にゼギウスから教わったスキルを使う。慣れていないスキルには発動までの無駄が多く、開幕くらいにしか使えない。

「うざいわね。《傲慢な禁止事項》」

そうエストに打ち消される。なるほど、そういうことか。

《傲慢な禁止事項》はユーキに継承されていた傲慢のスキル。それをエストが使えるということは継承を済ませてからユーキは死んだということ。傲慢の称号を剥奪された状態で庭へ送り込まれた。

アタイたちは捨て駒ってことか。

「ここまでの屑、初めて見たよ」

「誉め言葉として受け取っておくよ」

マルスには意味の無い言葉をかけるとメビスに接近されていた。

「余所見するな、おばさん」

「おばっ、アタイはどう見てもお姉さんだ。クソガキ」

振り抜かれる大剣に上体を反らして躱し距離を取る。こういったところで詰め切れない辺り未熟だ。そう思っていると背後に巨大な熊が現れた。

「《怠惰な荒熊》」

「《軽業》」

一時的に身のこなしを人間離れさせて熊の爪を回避する。そして、今度こそ距離を取った。

大技だけじゃなくてやっぱりこういった小技も大事だねー。さて、この1対4の状況をどうするべきか。いや、1対3でいいかな。今のところカイゼルは熊を召喚しただけで攻撃してきた訳ではないから頭数から外してもよさそうだ。

正直、1対1でなら負ける気は微塵もしないが3人も居ると厄介だ。スキルはエストに打ち消され、接近戦はメビスと熊に対応される。そうなるとメビスと熊を掻い潜ってエストを倒してからスキルでメビスとカイゼルを倒す。

うん、これでいいね。

作戦を考えながら熊の攻撃を回避していたが、単体なら回避するのは簡単だ。

「調子に乗るのもそこまでだ、おばさん!」

回避した先にメビスが大剣を構えて待ち構えている。ここだ。

「《軽業》」

「《傲慢な禁止事項》」

回避し切る前にスキルを打ち消され、エストの大剣に体を着られる。しかし、途中までは《軽業》が発動していたため致命傷は避けられた。

「ゴハッ、ゴホッ…どんな反応してるのさ」

あんな一瞬のスキルを打ち消すなんて発動前から分かっていなければできない芸当だ。どうやら私の起こりを見切られているらしい。

思っていたよりも厄介だ。マルスが選んだ人材だからこの程度は当然か。次に控えているマルスとの戦闘に気を向け過ぎて侮っていたが、マルスに動く気配はない。だから全力でこのガキ共を倒す。

「おっ、目つきが変わったな。ようやく本気ってことか」

「1つ先輩としてアドバイスしてあげる。格上との戦闘中は無駄口を叩くな。《応急手当》」

傷口を軽くなぞって出血を抑えると、全力でエストに接近する。それを防ぐように大剣が振るわれるが遅い。短剣使いのアタイにこれだけ接近を許した時点で勝負はついている。

減速しないようにスライディングで大剣を躱し勢いのまま立ち上がって懐に潜り込むと短剣に《麻痺》を付与して1度、2度と斬った。この速さでなら打ち消すのは間に合わないようだ。

倒れたエストは鋭い眼光をこちらに向けているが、当分は動けない。そのまま悔しそうな目で見てな。

「次はそこの熊を始末するよ」

そうメビスを守るように立っている熊に短剣を向けた。

その宣言通り熊に近づき爪の攻撃を躱して斬りつける。しかし、メビスの方へ押してはいるものの致命傷には至らない。

「《愚歪___」

「《傲慢な禁止事項》」

掛かった。スキルの詠唱を途中で止め、熊を躱してそのままメビスを斬りつける。《愚歪なる世界》を打ち消そうとしていてアタイの攻撃に反応できなかったようだ。

「熊から倒すって……」

「敵の言葉を信じるなんて以ての外。それと、その反応の速さはフェイントにも引っ掛かるから気を付けな」

残るカイゼルの方を向くと両手を上げて降参のポーズを取っている。

「どういうつもりさ」

「見たまんま、降参する。貴方と1人で戦うのは面倒くさい」

「そう。ならおとなしく斬られな」

短剣に《麻痺》を付与して3回斬るとカイゼルは倒れた。

これで前座は終わりだ。そう静観していたマルスの方を向く。
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