怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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63話

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色欲様もやることがないのだろう。ゼギウス様からの指示があるまでは私もやることがない。

ララさんとルルさんは多少嗜みがあるのかある程度剣は触れていたが伸びろはないように見えた。だから色欲様のスキルを教えるという提案は丁度いい。

スキルは戦闘だけに限らず生活を豊かにするものもある。申し訳ないが、2人が戦闘要員になる未来は想像できないため暇を潰せるスキルを教えられればいいだろう。

「まずは自分の扱えるスキルの系統を知りましょう」

そう色欲様はどこから取り出したのか水晶玉を手に持つ。魔力の系統を判別するための道具だ。

「この水晶に魔力を注ぐと中の色と靄の形が変わるの。それで扱えるスキルの系統が判別できるのよ」

色欲様が手本を見せるように水晶に魔力を注ぎ込む。すると水晶は紫色に変化して水晶の中には精巧な蠍が居た。

流石は七英雄の1人、靄がこれほどまでにハッキリとした形を持つのは見たことがない。それは魔力操作の器用さを表している。

「こんな感じに水晶の中が変わるから2人も試してみて」

「では私から」

冷静な言葉とは裏腹にララさんの表情はウキウキとしている。

ララさんが水晶に魔力を注ぐと髪の色と同じように金色の輝きを放つ。中の靄は少しぼやけてはいるものの龍と認識できる形になった。

これには驚きだ。何の形になるかは大事ではなくどれだけハッキリとその形になるかが大事なのだが、スキルを使ったこともない段階でこれ程の魔力操作ができるなら相当器用ということだ。

「ララちゃんは私と同じ系統だね。魔力操作が上手いから生物とかを生み出して操れるようになるよ」

「やりました!」

「次は私」

ララさんが喜んでいると自分も早く知りたいのかルルさんが奪い取るように水晶を受け取って魔力を注ぎ込む。すると水晶は髪の色と同じ銀色に眩い光を放つ。その光の強さから靄の中に何が形作られているのかが分からない。

「私のは中に何がいる?」

「うーん、これだと分からないね。もう少し魔力を抑えてみよっか」

「分かった」

魔力を抑えると光は弱くなり水晶の中が見えてくる。靄は獣のような形なのは分かるが何の動物かまではハッキリとは分からない。

「これはどういう意味?」

そう食い気味にルルさんが聞く。

「ルルちゃんは魔力量が多いみたい。ただ少し不器用で…ラクルみたいな高威力のスキルを使えるようになるよ」

「ルルは凄いですね。あんなに強い光、私には出せませんでした」

「ララも凄い。私は何が居るのか分からなかった」

手を取り互いに褒め合っている。その様子からは嬉しさが伝わってきた。

「次はスキルを覚えるために必要な練習ね。両手を自分の前に出して魔力を練るの。ララちゃんは何か形を想像してその形になるように、ルルちゃんは綺麗な丸になるように練ってみて」

2人は言われた通りに魔力を練っている。しかし、ララさんはルルさんが水晶に魔力を注ぎ込んだ時のように獣なのは分かるが何の動物かまでは分からず、ルルさんは歪んだ球体になっていた。

さっきは水晶という魔道具が魔力制御を手伝い魔力の範囲を限定してくれていたから簡単にできたが、支え無しでは難しいようだ。私もここで苦戦しました、と懐かしい気持ちになる。

「闇商人ちゃんの実力も知りたいからお手本を見せてあげて」

「分かりました。難しいことは考えず、無心で目の前に魔力を集めます。その後、その魔力を好きな形へ変えていく」

説明しながら目の前で魔力を動かし丸、三角、四角と形を変えていく。

「闇商人ちゃんは流動が得意なんだね」

私の形を変える速度を見て色欲様はそう言う。その通り、私は魔力を動かし続けることが得意だ。だからそれを活かせてゼギウス様の役に立てる治療系のスキルを習得した。

「あまり器用ではないので生き物はこの程度しかできません」

そう魔力の形を兎に変える。それは兎とは分かるもののブロックを組み合わせたように角ばっていた。

「ですが、ウサギって分かります!」「歪んでない」

フォローのつもりか純粋な尊敬か2人にそう言われる。

「この程度、御2人ならすぐにできるようになりますよ」

そう言葉をかけると2人は再び魔力操作の練習を始める。

「もしかして闇商人ちゃんって治療系統のスキルを覚えているのかしら?」

「はい。中の上程度なら使えます」

「だったらゼギくんの疲れが早く取れるように回復をかけてもらってもいい?」

さっき走っていった蠍たちに関係しているのだろう。あの量を色欲様が1人で生成したとは考えにくいからゼギウス様の魔力を借りて作り、それでゼギウス様は疲労で眠ってしまった。

しかし、ゼギウス様が魔力欠乏になるまで生成を続けるなんて初歩的なミスをするとは思えない。大方、眠くなったから寝ただけだろう。

「分かりました。自然回復を促すスキルをかけてきます。なので次の食事は多めにお願いします」

「うん。ありがとう」

「私は少し失礼します」

聞こえてはいないだろうがララさんとルルさんにそう声を掛けてからゼギウス様の部屋に向かう。

ゼギウス様の部屋に入るとゼギウス様は眠っていた。しかし、軽い診察をしても魔力欠乏の症状は出ていない。

「ん?腐れか。何かあったのか?」

起こしてしまったようで欠伸をしながらそう聞かれる。

「色欲様がゼギウス様は疲れているので自然回復を強めてほしいとお願いされまして。ただ寝ていただけのようですが」

「あー、魔力を送り続けるのが面倒で退屈で寝落ちしたみたいだな。だが、丁度いい。腐れ、ここの要塞化に関する資料だ」

そうおでこ同士を合わせられゼギウス様の記憶を見せられる。

見たことのない要塞だ。系統としては《光学迷彩》に近い。それでいて防御系統のスキルを何重にも張っていて攻撃を防いで、いや、逸らしている。

継ぎ接ぎのようにスキルを重ねていて…構造は分かるがこれを再現するのは難しい。それにこの城に合わせて調整するとなると時間がかかる。

しかし、それ以上の問題があった。

「ゼギウス様、初歩的な話ですが、人手とスキルが足りません。これは大勢で穴を埋めているのでうまく継ぎ接ぎが成立しています」

これに必要な魔力量という意味ではゼギウス様だけでもそれなりの形にはなるだろう。しかし、複数のスキルを同時に使い、重ねて穴を無くすとなると無理だ。穴を無くすということは反するスキルを合わせるということ、通常なら反発して消えてしまう。

だから少なくとも3人は居ないと形にすらならない。1人目と2人目が反発する防御スキルの端が重なるように使い、3人目がそれを反発させないように縫い合わせる。それを、城を覆うように、何枚も重ねて穴を無くさなければならない。

アルメシアさんくらいの魔力量を持つ人が千人近くは居ないと無理だ。

「魔力量と人手のことは考えなくていい。とりあえずこの結界の穴を見つけて修正しろ」

「穴…ですか…」

見たところ欠点らしい欠点は見当たらない。軸となる防御スキルを全て同時に攻撃するか、縫い合わせているスキルのみを無効化しない限りは破れないはずだ。

しかし、その2点は欠点というよりも仕方のない事。1つのスキルよりも強固になっているのだから穴とは言えない。だが、ゼギウス様はそれを穴と捉え改善を望んでいる。

「穴というのは破られてみないと分からないので何とも言えませんが、これよりも強固にすることはできると思います」

ゼギウス様の《障壁》を基軸に補完するように他のスキルを組み合わせればこの要塞よりも強固にはなる。しかし、言うよりも簡単ではなく相性のいいものや悪いものを全て調べ、最適解を見つけなければならない。

「なら、それでいい」

そんなことは知らずにゼギウス様は妥協したような返事をする。それでも私の答えは決まっていた。

「分かりました」

どれだけ困難であろうとゼギウス様がそう望み、私の手で実現可能なのであればやる。これは当分、研究室に籠りっぱなし確定ですね…
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