怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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69話

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押して駄目なら引いてみろ。そうメナドールさんに教わったのですが、ご主人様に変わった様子はありません。食事も少し手抜き気味で接触機会も減らしているのに私の有難さに気づく様子がありません。

このままでは私は忘れられてしまうのでは……そんなことが頭を過ります。ここには魅力的な方が多くご主人様を狙っている方も多いです。

あっ!メナドールさんは私を嵌めたのですね。メナドールさんもご主人様を狙っている筆頭なのに油断していました。

「どうすればよいのじゃ?」

そうアルメシアさんに聞かれる。そうでした。今はアルメシアさんに魔力の練り方を教えてくれとご主人様に言われていました。

「えっと最初は小さくていいので丸い形になるように意識してください。丸が1番バランスと魔力制御を必要とする形だそうです」

自分よりも強い人に教えるというのは複雑な気持ちだ。それはアルメシアさんも同じようで難しい顔をしている。

「こうか?」

そうアルメシアさんは改めて魔力を練るが、小さくはなっているものの相変わらず形は定まっていない。そうなると原因は大きさのせいで魔力制御ができない訳ではなく方法が間違っているようだ。

「内側ではなく外側を意識してください。魔力の主流を外側にして魔力を抑え込むようにします」

「うむ、分かったのじゃ」

再びアルメシアさんは魔力を練るが、それでも形は定まらない。おそらくアルメシアさんはルルと同じ系統なのだろう。魔力量の多さからもそうだと思う。

だから私よりもルルが教えた方が伝わりやすいはずなのにルルは自分の練習に必死だ。

「ルルも自分のことばかりやっていないで教えてください。アルメシアさんの系統はルルと同じだと思います」

「私もできないから教えられない」

ルルの練っている魔力もアルメシアさんほどではないが綺麗な丸とは言えない。

私もまだ完璧にはできないのにどう教えろというのですか!そう怒りをぶつけるようにメナドールさんが顔を出した部屋を見ると、ご主人様はこちらを見ていた。

お手上げです、と両手を上げてご主人様に助けを乞うが気づいていながら何かをする様子はない。もしかして最近の態度を改めさせるための罰なのですか?それなら仕方ありません。

そう改めてアルメシアさんに向かい合う。相変わらず定まっていない形ながらも綺麗な形にしようと悪戦苦闘している。

おそらくアルメシアさんは感覚型、その人に言葉で説明しても伝わらない。何か、いい方法……あっ、ありました。

思いつくと近くに落ちている枝を拾って地面に直線や直角、弓、といった色々な線を描く。

「何をしておるのじゃ?」

「今、私が描いた線に魔力を流してください。線からはみ出さないようにお願いします」

「うむ、分かったのじゃ」

アルメシアさんは言われた通り線に魔力を流していく。それは魔力の中心、主流は線を通っているものの横にはみ出していたり高さがバラバラだったりと目に見えて不器用なのが分かった。

「これを見て分かるようにアルメシアさんの魔力は元気です。先ずはこの線から魔力がはみ出ないように、それができたら高さも一定になるように練習してください」

「うむ、分かったのじゃ」

こうやって改善点を目に見える形にしないと分からない。だけど、ご主人様やメナドールさんは魔力制御が得意だからそういったことが分からなかったのだろう。ご主人様が私たちに任せた理由が分かった。

まだまだ完璧に熟すには遠そうだが、先程よりも線からはみ出す量が減った。

「そうやって主流を抑え込み膨張する魔力も制御できるようになれば綺麗な球に魔力を練ることができるはずです」

アルメシアさんができるようになっていくのが自分の事のように嬉しい。今なら自分もできる気がして魔力を球に練る。すると魔力は綺麗な球を保ち自分の手からはあまり離せないが動かせた。

「おぉ、凄いのじゃ!」

「私も初めてできました」

「なら我も負けてはおられぬな」

そうやって互いの成長を促すように練習していく。

気づけば昼近く、ご主人様の食事を作る時間には疲れていて眠ってしまいそうだ。アルメシアさんは魔力が多く大丈夫そうだが、ルルは寝ている。

「アルメシアさん、私は昼食を作りに行くのでルルのことをお願いしてもいいですか?」

「うむ、食堂の隣の部屋に寝かせておくのじゃ」

そうルルのことをアルメシアさんに任せて食事を作りに行く。

今日は奮発するぞー。最近、ご主人様に素っ気なくしていた分も甘えるために腕によりをかけて作る。それにルルは寝ていて私1人で作るから褒められるのは全て私の料理だ。

「えへへー」と褒められることを想像してだらしない顔になってしまう。最初は私が作ったことを伏せておいてご主人様が美味いと言ったら私が作ったと言いましょう。そうすればいつもみたいにご主人様のツンデレで私が褒められないことはないはずです。

そんなことを考えながら作っているとあっという間に料理が完成した。

食堂に食事を並べ、ルルを起こしてからご主人様たちを呼びに行く。これでルルも作ったと思うはずだ。

「今日は豪華じゃな。何か祝い事でもあるのか?」

「誕生日、という訳ではないし人間界でも今日は祝日ではないわね」

アルメシアさんとメナドールさんが机に並ぶ食事をみてそう言う。確かに今日は少し気合いを入れて作ったが、使う食材自体は普段の量と変わらず最近どれだけ手を抜いていたかが分かる。

「何でもいいだろ」

ご主人様は入り口から1番近い席に座る。その反応はその反応で寂しいが、真っ先にご主人様の隣の席に座った。

「今日からまたご主人様に甘える記念です!」

そうご主人様に抱き着くと初めて拒絶されなかった。もしかして距離を置く作戦が効いていたのだろうか。メナドールさん、疑ってごめんなさい。

「はぁ…何でもいいから食うぞ」

「「「「「「「いただきます!」」」」」」」

全員で手合わせたそう言うと食べ始める。

「ご主人様、あーん」

そう近くのサラダを箸で掴みご主人様の口に近づける。それをご主人様は食べるともういいと手で合図をした。始めは食べてくれなかったが、素っ気なくする少し前あたりからは一口は食べてくれるようになったのだ。メナドールさんの言っていたように根勝ちした。

「味はどうですか?」

「ん、普通」

ここまでは想定済みだ。私が作ったと分かっている物をご主人様は手放しで美味いとは言わない。だから勝負はここから。

そうご主人様の一挙手一投足に注目する。

ご主人様はメインの肉料理を一口、二口と口へ運ぶ。これは好感触だ。

「味はどうですか?」

「普通」

予想に反してご主人様は美味しいと言わない。そこに声を荒げてしまう。

「何でですか!美味しかったですよね?ご主人様が二口食べる時は美味しいって言うって決まっています!」

「何だ、その訳の分からん理屈は。ここにあるの全部ララが作ったことくらい見た目で分かってるんだよ」

「だから美味しいって言わないのはおかしいと思います。私の料理が下手だって言うのですか?」

「だから普通だって言ってんだろ」

「むー」と口を尖らせて不満を態度で抗議する。

しかし、言葉こそ聞けなかったものの、ご主人様が美味しいと思っているのは箸の進みようで分かった。それに味付けは似たり寄ったりにしている私とルルの料理を見抜いてくれたことが嬉しい。

そこからは緩む頬を抑えられないままご主人様に引っ付いて食べた。ご主人様には「鬱陶しい」「離れろ」と言われたが全てがツンデレにしか聞こえなかった。
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