怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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71話

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「シアン~おいらも行かなきゃダメなの?」

「運んでやってるんだから文句言うな。それにアタイもどれだけ制御できるか分からないからアンタにはストッパーになってもらいたいのさ」

アタイとグラは柱の1体、《風王》ウィンガルの居城に来ていた。って言ってもアタイがグラ引き摺っているからグラは荷物と変わらない。

何でもマルスにやられた後、真継承とか言うのをやられて能力が格段に上がったからその腕試しだ。アタイ自身どれくらい強くなっているかが分からないし下手をすれば暴走する危険だってある。その時のためのグラだ。

アタイとグラじゃなくてアタイと新人にしたというのも解せないが、それはアタイとグラの2人に真継承をしたらマルスだと確実に止められなくなるからだろう。今のアタイとグラでも勝てそうな気はするが、新人も1人マルスに付いていて真継承をしているとなれば勝つのは難しい。

それよりもこんな力を隠していた方が解せない。ゼギウスの強さもこの真継承の力なのだろうか?それなら怠惰を失ったゼギウスはアタイよりも弱くなった?隠していたならゼギウスもゼギウスで許せない。

それにしてもこの辺りは何度か来たことがあるが、《風王》の居城は凄まじい。辺り一帯に暴風が吹き荒れているだけでなく城の周りは巨大な竜巻が何個も回り続けている。

以前のアタイならこの竜巻を突破する術がなくグラが居なければウィンガルに会うことすらできなかった。だからどのくらい強くなっているのかを試すのにうってつけだ。

「でも、どうやって突破したもんかね」

意気揚々と来たのはいいものの、どうやってこの竜巻を突破するかは考えていなかった。この環境下だと陣は設置できないし《愚歪なる世界》も竜巻には影響しないだろう。

《軽業》で躱すことはできるかもしれないが、それだと意味がない。

「おいらが吸い込もうか?」

考えているアタイに焦れたのかグラがそんなことを言う。だからそれだと意味がないんだって!

しかし、グラに説明したところで無駄だ。その言葉の代わりに半ばヤケクソに魔力を込めて短剣を投げる。すると短剣は竜巻を貫通し通り過ぎていった。

これには驚きだ。魔力を込めただけの短剣があの竜巻を貫通できるとは思わなかった。

「シアン~もうおいらがやるよ?」

「ちょっと待ってな」

この竜巻も所詮はスキル、魔力の塊だ。だから核となる部分があり、そこを衝けば打ち破ることができる。まぁ、今まではその核にすら届かなかったんだけど…

《魔眼》を使い魔力の流れを見る。そして念のためさっきよりも魔力を込めて短剣を投げようとすると、短剣は砕けた。どうやら魔力量に耐えきれなかったようだ。

今までラクルは魔道具で使える物がないと嘆いていたが、その気持ちがやっと分かった。嫌味な力自慢にしか聞こえていなかったが、それが本当だったとは……

でも、これには困ったな。今は邪魔する物が何もない状況だから丁寧に魔力量を調整して投げられるが、戦闘時となれば話は別だ。咄嗟となれば今までのような魔力量の調整はできず魔道具が砕けてしまう。それは致命的だ。

それに今気づけてよかったが、今後は戦い方を考えなければならない。それを試すためにも早くウィンガルの元へ向かおう。

今度は込める魔力量を抑えて短剣を投げる。すると竜巻を貫通して通り過ぎ、それと同時に竜巻は消えた。それを4回繰り返し、全ての竜巻を消す。

「ねぇ、本当においらがいるの?シアンだけでも大丈夫だと思うけど」

またグラがそんなことを言う。自分が戦わないから不満なのだろう。

「いいから黙ってついてくる。そしたら後で魔力を食わせてあげるから」

「分かった。おいらシアンについてく」

グラを納得させ、城の中へ進んでいく。城の中は当たり前だが、外のように竜巻がなく魔物が大勢うろついていた。

それをいちいち倒すのも面倒で《愚歪なる世界》を発動させて歩いていく。視界の限り、その先も、魔物は全て倒れていった。それに十分だと思い《愚歪なる世界》を解く。

そのまま城内を歩いていき最上階に行くと、そこにウィンガルは居た。

緑がかった鷲のような人型の魔物。それが目の前にいるウィンガルだ。

「風が止んだかと思えば、七英雄か。2人も揃って私を倒しに来るとはご苦労なことだ。最近は柱がやられ配下の者たちも騒いでいるからな。ここで2人倒せるのならそれも静まるだろう」

「アンタと戦うのはアタイだけだよ。グラは万が一のための保険さ」

「笑わせる。貴様が私の風を止められないことくらい知っておるわ。その貴様が1人で戦うなど無謀にも程があるぞ」

「前まではね」

そう戦闘前の軽い会話を切り上げウィンガルに接近する。

しかし、ウィンガルは向かってくるのでも守るのでもなく距離を取るように後ろに飛び立つ。そのまま大きな窓から城の外へと出た。

それを追ってアタイも外へ出る。4、5階の高さだが、問題ない。着地に《軽業》を使って受け身を取る。

「追って来るとはな。貴様にこの風は止められまい。《暴風》」

そうウィンガルがスキルを唱えると城の外にあった竜巻と同規模の竜巻が出現しアタイを取り囲む。アタイにはこの竜巻を破れないと思っているようで奥に居るウィンガルの表情には余裕があった。

近づいてくる竜巻に《魔眼》使い格を見つけて短剣に魔力を込めて投げる。焦っているつもりはないが、やはり戦闘となると魔力量の調整が上手くいかずに短剣は砕けてしまう。

迫りくる竜巻を前に為す術がなく悪足掻きで魔道具を使わないスキル、《愚歪なる世界》を使う。するとどういう訳か竜巻が消えた。

「え…?」

予想外の事態に思わずそう声が漏れる。視界の先に倒れているウィンガルが居たのだ。

まだ意識はあり体は動いているが起き上がりそうにない。《愚歪なる世界》で精神を蝕まれたようだ。

そこへすかさず短剣を投げて陣を描き、《起爆》する。

爆発はアタイの想像を遥かに超える規模で起こりアタイも巻き込んで大きく吹っ飛ばされる。それは城をも優に呑み込む規模で広がっていった。

「あははー…これは凄いね……」

吹っ飛ばされた先、衝突した木から惨状を見て乾いた笑いが漏れる。

相手が柱ということもあり加減をせずに起爆したが、まさかここまでの規模になるとは思わなかった。これが真継承の力……これならマルスやゼギウスが柱に興味がないのも分かる。格が違う。

「シアン~!」

城の瓦礫からグラの声が聞こえる。どうやら《暴食》の準備をしていなかったようだ。

自分が戦わないからってそこまで気を抜けるとは……流石グラだね。

城の瓦礫の方へ行き辺りを見回すとグラの手が瓦礫から生えていた。いや、それなら自分で出られるでしょ。

そう思いながらグラの手を引き引っ張り出す。

「もうシアン!あんなスキル使うなら言ってよ!おいら食べる準備してなかったんだよ!」

「それはごめん。だけどアタイもあんな規模になるとは思わなかったのさ」

「もう1回やって。今度は食べるから」

グラらしいが爆発に巻き込まれたことではなくそれを食べられなかったことに怒っているようだ。そんなグラにもう1度、短剣での《起爆》を使う。

分かってはいながらも簡単に吸い込まれ飲み込まれるのは腹が立つ。こっちは真継承をして格段に強くなったのに真継承をしていないグラに効かないのは致命的だ。

しかし、その原因は分かっている。アタイがこの力を持て余しているのだ。

「グラ、ゼギウスのところに行くよ」

そう満足そうにお腹を叩いているグラを引き摺ってドラルの城へ向かう。
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