怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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73話

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食事からしばらく寛いでいるとゼギウスからの招集が掛かった。外にシアンが来ていたことからも何かしら状況に変化があったのだろう。

嫌な予感がする。

そう思いながらもゼギウスの部屋に行くと闇商人以外は全員集まっていた。

「遅れてすみません。少しキリが悪かったもので…」

そう我が座ってから少しすると慌ただしく闇商人が入ってきて座る。黒く煤のついた服装やオイルの臭いからもこの城のために作業をしていたのだろう。それには頭が上がらない。

「それで話とは何なのじゃ?」

「そうだな、先ずはアルに謝らないといけねぇな」

その言葉に胸騒ぎがする。ゼギウスが謝るなど余程のことだ。それを示すようにゼギウスが頭を下げた。

「この城を護りながら戦うってのは無理になった。俺の力不足だ、本当に悪い」

「な……」

それ以上は言葉が出ない。

しかし、それは悪い意味ではない。ここまで我の護りたいものを優先して護ろうとしてくれたことに対する嬉しさからだ。本来は我が護らなければならないものにそこまで懸けてくれていた、その事実が嬉しい。

それは同時に本当にここを護るのが厳しいという現状を突き付けられる。だから悲しくもこの城と別れる覚悟を決めなければならない。我が我が儘を言って残ると言えばゼギウスも残るだろう。そうなればララやルル、他にゼギウスの助けのいる者に手が回らなくなってしまう。

それはやってはいけない我が儘じゃ。

「まぁ、納得いかねぇよな。だが、ここに居る全員の生存率を上げるにはそれしかねぇ」

「それって私の力不足が原因ですよね……私の力が及ばず、ごめんなさい」

「この件に関して腐れは悪くねぇ。腐れが関係してるなら進捗を聞いてから決めるからな」

そう闇商人からも頭を下げられ、ゼギウスは闇商人のフォローをする。2人とも勘違いをしておるな。

「怒ってはおらぬ。お主たちができ得る限り、持てる力を全て使っていたことは知っておる。そのお主たちに甘えていただけの我に何が言えようか。我はそこまでしてくれただけで嬉しいのじゃ」

「そうか。あんま下手な希望は持たせたくねぇが、護れないって言っても確実になくなる訳じゃねぇ。優先順位を落とすって話だ」

まだゼギウスはこの城を護ろうとしているように聞こえる。しかし、それは無謀にしか聞こえない。

「うむ。だが、無理はするでないぞ。この城を護るためにお主が散ったとあっては父上に顔向けできぬ」

しんみりとした空気になりかけるとメナドールが口を挟む。

「それだけ不味い状況って言うのは分かるけど何が起こるの?」

「庭と七英雄の全面対決。そこに俺たちも巻き込まれる可能性が高い」

「元より白を切り続けられることではないと思っておったが、どっちにつくのじゃ?」

「今の状況だと七英雄側につかざるを得なくなりそうだな」

まるでゼギウスに決定権がないような言い方だ。かと言ってここに居る誰かが決めたという様子もない。

「曖昧な返答じゃな。お主が決めるのであろう?」

「そうありたいところだが、そうもいきそうになくてな。ここに七英雄全員を呼んだ。それ次第でどうなるかが決まる」

城を護れないというのはこのことか。ここで七英雄と戦うつもりなのじゃな?いや、それなら七英雄につくというのが分からぬ。戦わず、それとは別でこの城が危険に曝されるということか?

そんな我の思考を読み取ったかのようにゼギウスが話す。

「ここで戦うつもりはねぇよ。まぁ、仕掛けられる可能性はあるけどな」

「ならなぜ呼んだのじゃ?」

「まぁ、色々と聞きてぇことがあるんだよ」

説明するのが面倒なくらい聞きたいことが多いのだろう。ゼギウスなら3つもあれば説明するのが面倒になる。

「その色々はゼギくんに任せるとして本題は?」

「今更、お前たちの覚悟を聞くつもりはねぇしどっか行けって言ったところで残るだろうから、少し俺の身の上話でもしようと思ってな」

「え?ご主人様のですか?」

そうララは驚く。興味がない訳ではない。自分のことを語らないゼギウスが自身の過去について話すという珍しさに驚いたのだ。それは我も同じじゃ。

「興味ねぇなら止めるか。腐れとメナは軽く知ってるしな」

「いえ!聞きたいです!」

「私も」「我もじゃ」

我とララ、ルルがそう言うとゼギウスは語り始めた。

「俺は生まれた時から記憶があった。だから捨てられた時のことは覚えてる。申し訳なさそうに母さんに頼まれた奴が俺を魔界の岩の上に置いて行った」

開始早々、想像を遥かに超える話じゃ。これは胃もたれすることは免れぬな。

「まぁ、魔界って言っても人間の集落の近い場所でそこの人に拾われた。だが、その集落は次の日には魔物の群れに襲われて壊滅した。今にして思えば俺が居たせいで襲われたんだろうな。あの時の俺は気づきもしなかったが」

ゼギウスが居たせいで、気になる言葉はあるがこの空気に口を挟める訳もなく静かに聞き入り続きを待つ。

「集落は壊滅しても俺は生き残った。生まれた時から魔力量が多くて魔物の攻撃が俺に届かなかった。それで適当に暴れたら魔力が暴走してその魔物の群れは全滅した。それからは壊滅した集落で襲い来る魔物を倒して飢えを凌いだ。歯もねぇし噛めねぇから血を飲んで生きながらえてたな」

そう話すゼギウスはどこか懐かしむような笑みを浮かべている。まるでいい思い出でも話しているような雰囲気だ。

「そんな生活を1週間くらいした頃か、その辺りを統括してる柱が不審に思ったみたいでな側近を送り込んできた。幼いながらに悟ったよ。今から死ぬんだってな。だけど、その魔物の攻撃が俺に届くことはなかった。別の魔物、庭の奴が現れて助けられた。それで俺は庭に連れていかれた」

これがゼギウスと庭との接点。しかし、何故、庭の魔物はゼギウスを助けたのじゃ?気になることはあるがやっぱり口は挟めぬ。

「全ては仕組まれたことだったんだが、それはいいとして俺は庭に帰ってきた。それからは七罪に戦闘を仕込まれた。戦闘って言っても大半は遊びで1日に1回くらいしか命の危険はなかったな。そうやって15歳くらいまでは育った」

壮絶な人生じゃ。ここまで人間との接点は集落に居た1日のみ、話していない部分もあるだろうから分からないが魔物の方が長い時間触れて育ったのは間違いない。

「それでまぁ、庭にずっといるのも退屈だったんだよな。だから外に出ることにした。だけど庭で育った俺の力が桁外れなのは当たり前で庭の存在を外に洩らさないためにも俺は力を封印されて庭を出た。腐れに会ったのはそれからすぐだったな。それからドラルに会って七英雄になった」

そこまで言うとゼギウスは話すのを止めた。そこからは魔界にも噂が聞こえてくるほど有名な話ばかりで話す必要がないと思ったのだろう。

ゼギウスは我の半分も生きていないというのに集落までの話で我の今までよりも壮絶だった。我がどれだけ恵まれているか思い知らされる。

「どうしてご主人様は庭の片に味方しないのですか?庭で育ち今でもナナシさんを始め仲が悪いようには見えませんでした。それなら庭に味方するのが自然だと思うのですが」

そうララが的確な質問をする。確かに今までの話ならゼギウスが迷う要素はない。

「そうだな、自分に何か使命が与えられて生まれて、それが自分に対する初めてで1番深い願いだったら叶えてやりたいと思うだろ?」

「私には分かりません」

「まぁ、差し詰め人間が魔物を魔物が人間を怨むようにできてるのと同じで俺はその使命を果たすようにできてるんだよ」

「分かりませんが、分かりました」

「何だそれ、まぁいいか。あいつ等が来たみたいだしメナ以外はここで待ってろ。絶対に部屋を出るな」

そう言うとゼギウスはメナドールと一緒に部屋を出た。
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