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76話
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「カイ、今度はお前がメナと戦え」
エストとメビスの解毒が終わるとゼギウスがそんなことを言う。私も2人と同じだと思われるのは不名誉だし成長した私を見せるいい機会だからやってもいいが、ここでは周りに被害が及ぶ。
「ここだと危険だけどいいの?」
「俺が防ぐからいいぞ」
ゼギウスがそう言うのなら大丈夫だろう。それなら遠慮なく戦える。
「さっきの2人の情けなさを見て戦う覚悟ができるのはいいことだね。だけど今度も失望させたらそのまま始末するよ?」
覚醒の話もあってメナドールはそんなことを言っているのだろう。だけど、それは不要な気遣いだ。何せ___
「私はもう覚醒してる」
「あれ、そうなんだ。じゃあ何で戦うの?」
「俺が見たいから」
至極単純な理由だ。しかし、その奥には私が戦力になるか確認したいという意図があるのだろう。ゼギウスを失望させる訳にはいかない。
「それならゼギくんが戦えばいいでしょ」
「淫___」
「分かった。戦うからもうそのことを掘り返さないで!」
何があったのかは分からないが聞いたところで面白くない話なのは分かる。ただ、戦う前に1つ確認を取らなければならない相手がいるのを思い出した。
「マルス、戦っていい?」
「覚えていたならよかったよ。僕もカイゼルの本気を見てみたいから戦うといい」
本気、それは恐らくメナドールを相手に出すことはない。私たちはそれほどぬるい育ち方をしていない。
相手を仕留めるためだけの無駄のない戦い方、それはスキルを主体とするメナドールにとっては相性が悪い。
「じゃあ始めよっか。先に仕掛けてきていいよ」
2人が不甲斐なさ過ぎたから見下されるのはある程度仕方がないが、先ずはその目を覚めさせる。この戦いはゼギウスに成長を見せるためのもの、ただ勝てばいいという訳ではない。
「《起動》」
1度、目を閉じてそう唱えると目を開ける。おそらく瞳の色が赤く変わっているだろう。
その雰囲気の変化に危機感を覚えたのかメナドールの顔つきが変わる。しかし、まだ不十分だ。
一気に距離を詰め手刀を首元に目掛けて放つ。少し反応に遅れてはいるものの、メナドールは上体を反らすだけでそれを躱す。
だが、まだ攻撃は終わっていない。体の構造を無視したように体勢を変え今度は逆の手で腱を狙う。てっきり首元への攻撃はあの変な蠍に変化する帽子で防がれると想定していたがいいだろう。
それは、温存された帽子に防がれた。そこで1度、距離を取り仕切り直す。
本当の殺し合いならそのまま優位を利用して止めまで持っていってもよかったが、ここで止めを刺しては意味がない。
ちゃんと本気になったメナドールを相手に圧倒することに意味がある。
「《色鮮やかな筆》」
さっき2人との戦いで決定打になったスキルをメナドールは使う。だが、さっき描いた装備に加え、まだ何かを描いている。それは蠍用ではなく人間用の装備、メナドール自身が着るものか。
そう思っていたが、その装備はメナドールには装着されなかった。突然、メナドールの傍に現れた人型の魔力体に着せられたのだ。
メナドール自身の接近戦では話にならないという判断は正しい。だけど、私がその気だったら描いている途中で止めを刺せた。わざわざ相手のスキルが完成するのを待つ必要はない。
いや、メナドールは私が退いたのを見て判断したのか。それなら特に警戒している様子もなくスキルを使ったのも頷ける。それに最悪の場合、蠍で対応できるという判断もあったのだろう。
私から仕掛けていいと言われたのだから私も待った。これで状況は五分。
そう再び接近戦を仕掛ける。
蠍は相手にせずメナドールに近づくと、それを防ぐように魔力体が立ちはだかる。装備は少し軽装備気味の剣士といったところか。私の動きについてくるために重装備にはできなかったのだろう。
さっきとは違いスキルの《手刀》を使って関節部を狙う。こういった人型で装備を着ている物を相手にする時は装甲の薄くなる関節部を狙うのが定石だ。関節部を破壊すれば動きはどうしても鈍くなる。
様子見を兼ねたその《手刀》は剣が振るわれるよりも早く肩、脇の辺りに当たる。それは刺さるとぬめっとした感覚になり抜けなくなった。
これが狙いか。魔力体は姿を変えスライムのようにドロドロになると私の体を包み込もうとしてくる。背後から蠍が迫って来ていることからも私の動きを鈍らせ確実に毒を注入する作戦だろう。
「《荒熊》」
背後にスキルで熊を出して蠍の動きを止めさせる。その間に私はこの魔力体の核を破壊してメナドールを倒す。
そう考えていたのだが、現れた熊は私の命令を聞かず暴れ始めた。
これがシアンの話していた力の制御の話か。仕方がない。
少し芸の無い力押しだが《手刀》で魔力体を粉々に切り刻んで核を破壊する。そして熊に向き合う。
私のスキルだから核の位置は把握している。鏡で見た心臓の位置、右胸の奥だ。
向かってくる熊の爪を上に跳んで躱し伸び切った腕の上に乗る。それを退けようと逆の手の爪が襲い掛かって来るが、熊の首を使って背中に回り掴まった。そこを攻撃しようと手を後ろに向けるのを見て股下を滑って前方に回り全力で右胸に《手刀》を刺す。
その《手刀》は熊の核に届くと、熊は消滅した。それから仕切り直すように初期位置に戻る。
「今のは私の力不足だから別に攻撃してもよかったのに」
そう熊を抑え込む数秒、何も手出しをしなかったメナドールに言う。が、私が熊と戦っている間にちゃっかり魔力体を描き直していたようだ。それも2体。
「あら、別に気を遣った訳ではないわ。暴走しているものは邪魔なのは私も同じこと。だから静観していたの。もし長引けば貴方を攻撃していたけれど、そうする前に事が済んだ。それだけよ」
メナドールの雰囲気が変わっている。今の間に何かしていたのだろうか。私のような戦闘形態への移行?もしそうなら危うい。
そう1段階警戒を強める。ここからの戦い方に《荒熊》のような魔力操作を必要とするスキルは使えない。その上で蠍と魔力体を掻い潜りながらメナドールに決定打を打つ。
メナドール自体には一瞬で終わるからいいとして問題は掻い潜り方、蠍を躱して如何に魔力体に時間を取られないか。それが重要だ。あとはメナドールの変化がどの程度戦闘に影響を及ぼす変化か。次も探り重視で決められるなら決める。
頭の中を整理して再びメナドールに接近を試みる。その動きに合わせて蠍も前進させてきた。
蠍はメナドールも挟み撃ちにできるからか躱しやすい行動をしている。だから両者合意で蠍を突破して魔力体2体に対峙した。
さっきと同じように核を切り刻めば2体になった分、その間に蠍に詰められる。その蠍を躱すこともできるが、魔力体が1体残ることになってしまう。その状態で対峙すれば躱すことはできてもメナドールまでは届かない。無理をすれば魔力体に掴まり蠍に毒を入れられる。
だからと言って蠍の体内にどれだけ毒があるか分からない以上、破壊することもできない。
いや、待てよ。それなら蠍を装甲で覆う意味がない。となると毒は尻尾にしかなく破壊されることを防ぐための装甲?それともあの場面は2人いたから破壊に対するケア?単純に破壊されるのが嫌だった?
そんなことはどうでもいい。そこに思考を向けるのが既に相手に乗せられている。現状で破壊せずに対応できる以上、そうする必要はない。
無駄な思考に切り替わりそうだった頭を停止させ斜め下に高速で移動して相手の視界から消えるように動く。それを咄嗟に対応しようとする動きを釣ろうとしたのだが、魔力体に動く気配はない。あくまでメナドールから離れず私を絡めとって蠍で止めを刺すつもりのようだ。
それならやることは決まった。もう決める。
後ろから接近する蠍を受け流すように躱して魔力体の方へ投げ飛ばす。それはどちらの魔力体にも躱されたが構わない。
その開いた道を通りメナドールの懐まで潜り込み首筋に手を当てる。
「チェック」
そう告げるとメナドールは両手を上げた。
不満の残る勝利だが、集中が切れかけていたから仕方がない。そう自分を納得させた。
エストとメビスの解毒が終わるとゼギウスがそんなことを言う。私も2人と同じだと思われるのは不名誉だし成長した私を見せるいい機会だからやってもいいが、ここでは周りに被害が及ぶ。
「ここだと危険だけどいいの?」
「俺が防ぐからいいぞ」
ゼギウスがそう言うのなら大丈夫だろう。それなら遠慮なく戦える。
「さっきの2人の情けなさを見て戦う覚悟ができるのはいいことだね。だけど今度も失望させたらそのまま始末するよ?」
覚醒の話もあってメナドールはそんなことを言っているのだろう。だけど、それは不要な気遣いだ。何せ___
「私はもう覚醒してる」
「あれ、そうなんだ。じゃあ何で戦うの?」
「俺が見たいから」
至極単純な理由だ。しかし、その奥には私が戦力になるか確認したいという意図があるのだろう。ゼギウスを失望させる訳にはいかない。
「それならゼギくんが戦えばいいでしょ」
「淫___」
「分かった。戦うからもうそのことを掘り返さないで!」
何があったのかは分からないが聞いたところで面白くない話なのは分かる。ただ、戦う前に1つ確認を取らなければならない相手がいるのを思い出した。
「マルス、戦っていい?」
「覚えていたならよかったよ。僕もカイゼルの本気を見てみたいから戦うといい」
本気、それは恐らくメナドールを相手に出すことはない。私たちはそれほどぬるい育ち方をしていない。
相手を仕留めるためだけの無駄のない戦い方、それはスキルを主体とするメナドールにとっては相性が悪い。
「じゃあ始めよっか。先に仕掛けてきていいよ」
2人が不甲斐なさ過ぎたから見下されるのはある程度仕方がないが、先ずはその目を覚めさせる。この戦いはゼギウスに成長を見せるためのもの、ただ勝てばいいという訳ではない。
「《起動》」
1度、目を閉じてそう唱えると目を開ける。おそらく瞳の色が赤く変わっているだろう。
その雰囲気の変化に危機感を覚えたのかメナドールの顔つきが変わる。しかし、まだ不十分だ。
一気に距離を詰め手刀を首元に目掛けて放つ。少し反応に遅れてはいるものの、メナドールは上体を反らすだけでそれを躱す。
だが、まだ攻撃は終わっていない。体の構造を無視したように体勢を変え今度は逆の手で腱を狙う。てっきり首元への攻撃はあの変な蠍に変化する帽子で防がれると想定していたがいいだろう。
それは、温存された帽子に防がれた。そこで1度、距離を取り仕切り直す。
本当の殺し合いならそのまま優位を利用して止めまで持っていってもよかったが、ここで止めを刺しては意味がない。
ちゃんと本気になったメナドールを相手に圧倒することに意味がある。
「《色鮮やかな筆》」
さっき2人との戦いで決定打になったスキルをメナドールは使う。だが、さっき描いた装備に加え、まだ何かを描いている。それは蠍用ではなく人間用の装備、メナドール自身が着るものか。
そう思っていたが、その装備はメナドールには装着されなかった。突然、メナドールの傍に現れた人型の魔力体に着せられたのだ。
メナドール自身の接近戦では話にならないという判断は正しい。だけど、私がその気だったら描いている途中で止めを刺せた。わざわざ相手のスキルが完成するのを待つ必要はない。
いや、メナドールは私が退いたのを見て判断したのか。それなら特に警戒している様子もなくスキルを使ったのも頷ける。それに最悪の場合、蠍で対応できるという判断もあったのだろう。
私から仕掛けていいと言われたのだから私も待った。これで状況は五分。
そう再び接近戦を仕掛ける。
蠍は相手にせずメナドールに近づくと、それを防ぐように魔力体が立ちはだかる。装備は少し軽装備気味の剣士といったところか。私の動きについてくるために重装備にはできなかったのだろう。
さっきとは違いスキルの《手刀》を使って関節部を狙う。こういった人型で装備を着ている物を相手にする時は装甲の薄くなる関節部を狙うのが定石だ。関節部を破壊すれば動きはどうしても鈍くなる。
様子見を兼ねたその《手刀》は剣が振るわれるよりも早く肩、脇の辺りに当たる。それは刺さるとぬめっとした感覚になり抜けなくなった。
これが狙いか。魔力体は姿を変えスライムのようにドロドロになると私の体を包み込もうとしてくる。背後から蠍が迫って来ていることからも私の動きを鈍らせ確実に毒を注入する作戦だろう。
「《荒熊》」
背後にスキルで熊を出して蠍の動きを止めさせる。その間に私はこの魔力体の核を破壊してメナドールを倒す。
そう考えていたのだが、現れた熊は私の命令を聞かず暴れ始めた。
これがシアンの話していた力の制御の話か。仕方がない。
少し芸の無い力押しだが《手刀》で魔力体を粉々に切り刻んで核を破壊する。そして熊に向き合う。
私のスキルだから核の位置は把握している。鏡で見た心臓の位置、右胸の奥だ。
向かってくる熊の爪を上に跳んで躱し伸び切った腕の上に乗る。それを退けようと逆の手の爪が襲い掛かって来るが、熊の首を使って背中に回り掴まった。そこを攻撃しようと手を後ろに向けるのを見て股下を滑って前方に回り全力で右胸に《手刀》を刺す。
その《手刀》は熊の核に届くと、熊は消滅した。それから仕切り直すように初期位置に戻る。
「今のは私の力不足だから別に攻撃してもよかったのに」
そう熊を抑え込む数秒、何も手出しをしなかったメナドールに言う。が、私が熊と戦っている間にちゃっかり魔力体を描き直していたようだ。それも2体。
「あら、別に気を遣った訳ではないわ。暴走しているものは邪魔なのは私も同じこと。だから静観していたの。もし長引けば貴方を攻撃していたけれど、そうする前に事が済んだ。それだけよ」
メナドールの雰囲気が変わっている。今の間に何かしていたのだろうか。私のような戦闘形態への移行?もしそうなら危うい。
そう1段階警戒を強める。ここからの戦い方に《荒熊》のような魔力操作を必要とするスキルは使えない。その上で蠍と魔力体を掻い潜りながらメナドールに決定打を打つ。
メナドール自体には一瞬で終わるからいいとして問題は掻い潜り方、蠍を躱して如何に魔力体に時間を取られないか。それが重要だ。あとはメナドールの変化がどの程度戦闘に影響を及ぼす変化か。次も探り重視で決められるなら決める。
頭の中を整理して再びメナドールに接近を試みる。その動きに合わせて蠍も前進させてきた。
蠍はメナドールも挟み撃ちにできるからか躱しやすい行動をしている。だから両者合意で蠍を突破して魔力体2体に対峙した。
さっきと同じように核を切り刻めば2体になった分、その間に蠍に詰められる。その蠍を躱すこともできるが、魔力体が1体残ることになってしまう。その状態で対峙すれば躱すことはできてもメナドールまでは届かない。無理をすれば魔力体に掴まり蠍に毒を入れられる。
だからと言って蠍の体内にどれだけ毒があるか分からない以上、破壊することもできない。
いや、待てよ。それなら蠍を装甲で覆う意味がない。となると毒は尻尾にしかなく破壊されることを防ぐための装甲?それともあの場面は2人いたから破壊に対するケア?単純に破壊されるのが嫌だった?
そんなことはどうでもいい。そこに思考を向けるのが既に相手に乗せられている。現状で破壊せずに対応できる以上、そうする必要はない。
無駄な思考に切り替わりそうだった頭を停止させ斜め下に高速で移動して相手の視界から消えるように動く。それを咄嗟に対応しようとする動きを釣ろうとしたのだが、魔力体に動く気配はない。あくまでメナドールから離れず私を絡めとって蠍で止めを刺すつもりのようだ。
それならやることは決まった。もう決める。
後ろから接近する蠍を受け流すように躱して魔力体の方へ投げ飛ばす。それはどちらの魔力体にも躱されたが構わない。
その開いた道を通りメナドールの懐まで潜り込み首筋に手を当てる。
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