怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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77話

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私ってこんなに弱かったのかと改めて自覚する。ゼギくんはきっとカイゼルの方が強いと分かっていて戦わせたのだろう。それで私の今の力を理解させて成長を促そうとした。

そういう考えがあるのだろうけど、流石に落ち込むなー。

「僕の方の準備はできたよ」

「元からだろ。無駄に演技だけしやがって」

「そう言われると辛いな」

そうマルスとゼギくんが話している。その近くにはカイゼルも待機していた。

そうだ、これから真継承をして私は強くなれる。それで今よりも役に立てるようになろう。

そう頭を切り替える。落ち込んでいては駄目だ。

私が足を引っ張っているのならその分、頑張って少しでも差を埋める。これもゼギくんからの激励、言うなれば愛の鞭だ。愛の…えへへー、って違う違う。またゼギくんに変態だと思われちゃう。

確認するようにゼギくんの方を見るとカイゼルの頭をポンポンと叩いていた。私もそんなことされたことないのに…うー!

「大丈夫だって、アレはそういうのじゃないさ」

私の目つきに気づいたのかシアンにそう励まされる。けど、そんなことは分かっている。あれは言うなれば妹にするような接し方だ。

それはそうとシアンには聞きたいことがある。

「真継承ってどんな感じなの?」

「切り替え早いね。そうだなー、七英雄になる時と同じ感じかな」

七英雄になる時と同じ。それは外面だけ盛大にやって中身は大したことがないということだろう。七英雄になった強さの恩恵を感じたのはしばらく戦った後だった。

「そうなの?もっと特別な何かがあるのかと思った」

「意外とそういうものなんじゃない?」

そんなことを話しているとマルスとカイゼルが近づいてくる。どうやらカイゼルもついてくるようだ。

「それじゃあ行こうか」

「えぇ」

そう短く返事をすると移動を始めた。

先頭を走るマルスに続いてカイゼル、シアン、私の順番で走っている。戦っている時から思っていたが、カイゼルの動きには無駄がない。まるで機械のように無駄がなく正確無比に急所だけを狙ってきていた。

「ねぇ、カイゼルって何者なのかしら?」

「さぁ?メナドールが知らないことをアタイが知ってる訳ないでしょ。残念ながらアタイもこの間、会ったばっかりだから分からないのさ。ただ、アタイがエストとメビスと同時に相手にした時はあっさりやられてたけどね」

「嫌味?」

「違うってば。勝ちに執着してない変わった奴ってこと。さっきみたいに戦われてたらアタイだって勝てたか分からないさ」

多少、私を気遣っている部分もあるだろうけど、戦闘要員のシアンもそう判断するということはやはりカイゼルは強い。そんな人が埋もれていたというところにあの強さの深さ、不気味さを感じた。

そんなことを話しながら移動しているとマルスは旧王国、王城の前で止まる。真継承をするのは皇城からの転移先だと思っていたが、王城からでもできるようだ。そうなると帝城でもできるということになる。

「入るよ」

そうゼギくんが七英雄になった要因、王国とドラルの大戦時に一部崩壊したままの王城に入っていく。

風通しのいい城の中を歩いていき謁見の間に入るとマルスが《転移》と唱える。するとどこかへ飛ばされた。

暗い空間、円形に席が広がっている場所で私たちはその中央に居る。席数から考えるに情報の隠匿を行い続けるのは不可能な規模だ。表立っては隠せても王国、皇城、帝城という3ヶ所に繋がる場所があり、それが一般人は立ち入らない場所とはいえ城に居る人が比較的目に触れられる場所のことを考慮すれば少なくとも私は気づいているはずだ。

それもこの規模の人が会するのであれば、生者ではない。

そう考えているとマルスが各席に魔力を飛ばしていく。するとまばらではあるものの席に光が現れた。

そうか。ここは七英雄の眠る墓。魔力によって一時的に魂を呼び戻す場所。

それなら人の移動は行われないし情報も洩れない。知っているのは管理していたマルスだけというのが成り立つ。

「また招集するとは何事だ」

偉そうな威厳のある声が聞こえてくる。気づけばマルスやシアン、カイゼルは跪いていた。それに慌てて私も跪こうとするがマルスたちは立ち上がる。

「メナドールに真継承を済ませる承認を得たいと思い集めさせていただきました」

「同日にシアン、カイゼルの両名にしたばかりであろう。1度に複数人継承する危険性を訴えたのはマルス、貴様だ。それを翻すとはどういうことだ?」

偉そうな威厳のある声に続いて「そうだ」というように周りからも同調する声が上がる。同調している声は情けないものの、マルスに上から言っているところからも英霊で間違いなさそうだ。

「それは重々承知しております。ですが、状況は流動的で判断を変えるほどの事態が起きました。ゼギウスから真継承の慣らしを手伝うという申し出があり、それを使えば障害は減ると考えております。加えて、ゼギウスと協力することは庭に対する牽制にもなります」

「マルスよ、ゼギウスは既に七英雄ではない。ましてや敵対位置にいる存在だ。そのゼギウスと取引を行い信用するのは些か軽率ではないか?」

「ゼギウスはこれまでの行動からも取引を反故にしたことはなく、現状の立ち位置からも我々を敵に回したくはないはずです。加えて私は失うものよりも得るものの方が大きいと考えています」

そのマルスの言葉に光たちは納得していない。その多くが反対のようで「軽率だ」「責任はどう取るつもりだ」といった声が浴びせられている。

本当に大丈夫なのかしら?

そう先行きに怪しさを覚えるがマルスに焦っている様子はない。

「静まれ。マルスよ、その判断の責任を負う覚悟はできているのだな?」

「はい。私は常に私に打てる最善の手を打ち続けています。その判断が間違っているのなら私の力不足、その責任を全て負う覚悟はできています」

責任を負う。それは表面的な言葉だけでなく何かありそうだが、それは知りようがない。何よりマルスがどうなろうとどうでもいい。

「分かった。ではメナドールに真継承を行うことを許可する」

さっきまで否定的だったかと思えば大した議論もなく結論を翻す。その上、この威厳のある声がそう言うと周りは何も言わなくなった。

結局は責任の所在の押し付けがしたかっただけのようだ。

決定が下されると光は消えていく。真継承にあの光たちは必要ないようだ。

「始めるよ。かつて色欲を担った英霊たちよ、その力を現色欲、アリスティア・L・メナドールに与え給え」

マルスがそう言うと席からだけでなく天井や壁、色んな所から光が集まってくる。それらは私の体に近づいてくると1つ1つ体内に取り込まれていく。

しかし、確かにシアンが言っていたように体感では特に変化はない。これで本当に強くなっているのだろうかと不安になるくらい変わった気がしない。

それでもこれだけで終わりのようで光が全て体内に取り込まれると王城の謁見の間に再び転移させられる。

「シアンの言った通り特に何もないわね」

「だけど、スキル使ったらビックリするよ。ってメナドールは見てたから分かってるか」

「そうね」

シアンと軽く話しているとマルスが割って入ってくる。

「じゃあ僕とカイゼルはここで失礼するよ。エストとメビスはシアンに任せるから。シアンの用事が済み次第、柱の元に連れてってくれるかな?」

「はいはい。メナドール行くよ」

「えぇ」

マルスとカイゼルとはここで別れるとシアンと一緒にゼギくんの元へ戻った。
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