97 / 185
95話
しおりを挟む
ゼギウスとマルスが靄の中に入ってから1時間くらい時間が経っていた。
不安で仕方がないのかララとルルはそわそわとしている。対して闇商人は冷静、信じているというのも大きいのだろうが目を背けるようにメナドールの治療をしていた。
アルメシアも内心では焦っているのが丸分かりだが、ララとルルを見てか冷静を装っている。逆に配下のスライムは立場が逆なんじゃないかと思う程、冷静だ。
エストとメビスは言うまでもなくゼギウスには興味がなく、エストはメナドールに目を向けメビスは我関せずと言うように明後日を見ている。そしてカイゼルは感情がないように目を瞑っていた。
そんなこの場に居る全員の様子を見てアタイも冷静を装っていた。内心ではゼギウスに勝ってほしいと思いながらも自分勝手で止めなかったことに負い目を感じている。だから1つ決めていることがあった。
それは、どっちが勝つにせよ、勝った方に従う。マルスが勝てば《暴食》は取り上げられるだろうけど、我が儘を言える状況じゃない。それに自分勝手で止められなかったことに対するせめてもの償いだ。
それから少しするとゼギウスだけが戻ってきた。中傷といったところだろうか、体が重そうに歩いている。
「ご主人様~!」
そう涙を流しながらララが抱き着く。言葉は発していないがルルとスーも抱き着いていた。それだけ安堵が大きかったのだろう。ゼギウスは何も言わず受け入れている。
それが意味するところは分かっている。あの場では揉めていたとはいえ、戦うことは本意ではなかったのだろう。結果がどうなれ気分の良くない戦いというのはある。
それを見るとやはり止めなかったことに負い目を感じる。だけど同時にゼギウスが帰ってきたことに安堵していた。
「アタイはアンタについて行くよ」
「…そうか」
反応が鈍い。これはマルス以外にも何かがあったようだ。気分の良くない戦いというのは分かるが、ゼギウスとマルスの関係を考えればこの沈みようは異常だ。
何があったのか気になるが今はそれよりも先にやることがある。
「ララ、ルル、今はゼギウスを1人にしてやりな」
「…分かりました」「分かった」
2人もゼギウスの反応に異変を感じていたのか、スーも含めておとなしく離れる。
今のゼギウスには1人になる時間が必要だ。アタイと同じように今にも壊れそうな雰囲気がある。だけどゼギウスは誰かといると冷静を取り繕って自分の感情を無視してしまう。
「悪いな。戻ってきたら今後について話しがある」
「分かった。それまではアタイが見とくよ」
「任せたぞ」
そう気力なく歩くゼギウスを見送る。これは重症だ、少しの時間程度で立ち直れるとは思えない。それはララも感じ取っていたようで不安そうに疑問を口にする。
「ご主人様に何があったのでしょうか?」
「触れないであげな。あそこまでゼギウスが沈んでるのは初めて見たし余程の事があったのさ」
「そう、ですね…」
ララが返事すると沈黙が訪れる。元々、ゼギウスが戻って来るまで何1つ会話がなかったから元に戻っただけだが、空気が重い。
しばらくしてゼギウスが戻ってきても空気は重いままだった。それはゼギウスに気力が戻っているもののピリついているからだ。
「まず確認するが、赤頭と黄頭とカイはどうするんだ?七英雄の称号を置いてくなら逃げてもいいぞ」
今回の戦いで痛感しただろう戦力差を考えて言っているのだろう。足手纏いなのは言うまでもないが、戦意がないなら話にならない。
だが、ララやルルもいるのに言葉が刺々し過ぎる。それだけゼギウスの精神状態は危うい。
「私はゼギウスが戦力になると判断するなら残る。足手纏いなら消える」
「生きれそうなら残る。無理そうなら消えさせてもらう。だが、七英雄の称号は返さねぇ。俺のものだ。お前に指図される謂われはねぇ!」
「なら七英雄の称号は返してもらう。それから消えろ」
「断___」
メビスがそう言おうとするとゼギウスがメビスの口を押える。その様子にララやルルが怯えているが気にしている様子はない。いや、気にする余裕もないようだ。
荒事にならないように止める準備をする。これ以上、危なくなるなら止めに入る。
「あのなぁ、ガキの我が儘を聞いてる余裕はねぇんだよ」
一瞬、ゼギウスの雰囲気が変わってメビスに触れるとメビスの魔力が一気に弱くなった。どうやら今の間に《憤怒》を回収したようだ。
「チッ、馬鹿らしい。出てけばいいんだろ!」
そう吐き捨てるとメビスは出て行く。荒事にならなかったことに安堵するが、まだ安心はできない。
「黄頭はどうするんだ?」
「私もアンタの判断に任せるよ。残っても足手纏いなだけだと思うけど」
そう自信なさげにエストは言う。エストもアタイと同じように自分の無力さを痛感したのだろう。戦意が折れているように見える。
だが、戦力の面を考えれば今からエスト以上の人材を探すのは難しい。
「自分で決めろ。重要な決断を他人に委ねるな」
そんなエストにゼギウスは無情にも見えるように冷たくあしらう。
「でもカイゼルはアンタに任せるんでしょ?」
「カイは違う。カイの中で答えは出てる。その上でどうするかの判断を俺に任せてる。この差が分かるか?」
「…分かるよ。ごめん、少し考える時間をくれない?」
「いいぞ。ただ、答えが出るまでは話は聞かせられねぇぞ」
短く「分かった」とだけ返事をするとエストも部屋を出て行く。これでゼギウスと衝突しそうなものはなくなった。
「じゃあ今後について話すぞ。庭との戦いまで時間がねぇ。七英雄は全員、真継承を済ませる。それで各自の戦力を上げる」
「それだと今回みたいに柱に攻められるんじゃないの?」
ゼギウスがそんな初歩的なことを見落としているとは思えないが、確認と今は聞きにくいだろう周りのために聞く。
「柱は庭が潰す。だから考えなくていい」
「柱を庭が倒すってどういうことさ」
庭は謂わば柱の上位互換だと思っていた。それがなくても柱も庭も魔物、アタイたちって言う敵が居ながら潰し合う意味が分からない。
「庭が本気を出すには柱が邪魔になる仕掛けをしてある。その仕掛けを解かねぇと庭は俺に勝てねぇ。だから庭は柱を倒さざるを得ねぇってことだ」
その仕掛けが気になるがゼギウスに説明する気はなさそうだ。
「それは分かったけど敵の戦力と期間はどのくらいなのさ」
「戦力は説明が難しいな。ナナシを3倍くらい強くした奴が6体って感じか?期間はあって半年、短くて1ヶ月だな」
ナナシがどれくらい強いのか、その底がアタイたちじゃ見えないくらい深かった。それの3倍、戦力に置ける3倍なんて言うのは人数以外ではそもそも当てにならないけど、余計に想像がつかない。
その強さにゼギウスを除いて5人もっていかなければならない。それも1ヶ月から半年で…無理がある。だけど、それをどうにかしないといけない。
戦力として数えるならゼギウスとアタイ、カイゼルにアルメシア、それに復帰できるかも分からないメナドールと来るか分からないエスト…6人にするならそうなるが、どう考えても間に合わない。
だけどゼギウスはそれをやろうとしている。少なくともアタイはその最前線に居なければならない。それが最低限の条件だ。
「アタイはやるよ。ゼギウスに全部任せる」
「私は元からゼギウスに任せている」
カイゼルもアタイに続いて乗ってきた。これでこの場に居るのはアルメシアだけ。
そうアルメシアの方を見ると深刻そうな顔で疑問を口にする。
「1つ、よいか?庭が柱を潰すのであれば我も狙われるのではないか?」
あ…そこは見落としていた…
不安で仕方がないのかララとルルはそわそわとしている。対して闇商人は冷静、信じているというのも大きいのだろうが目を背けるようにメナドールの治療をしていた。
アルメシアも内心では焦っているのが丸分かりだが、ララとルルを見てか冷静を装っている。逆に配下のスライムは立場が逆なんじゃないかと思う程、冷静だ。
エストとメビスは言うまでもなくゼギウスには興味がなく、エストはメナドールに目を向けメビスは我関せずと言うように明後日を見ている。そしてカイゼルは感情がないように目を瞑っていた。
そんなこの場に居る全員の様子を見てアタイも冷静を装っていた。内心ではゼギウスに勝ってほしいと思いながらも自分勝手で止めなかったことに負い目を感じている。だから1つ決めていることがあった。
それは、どっちが勝つにせよ、勝った方に従う。マルスが勝てば《暴食》は取り上げられるだろうけど、我が儘を言える状況じゃない。それに自分勝手で止められなかったことに対するせめてもの償いだ。
それから少しするとゼギウスだけが戻ってきた。中傷といったところだろうか、体が重そうに歩いている。
「ご主人様~!」
そう涙を流しながらララが抱き着く。言葉は発していないがルルとスーも抱き着いていた。それだけ安堵が大きかったのだろう。ゼギウスは何も言わず受け入れている。
それが意味するところは分かっている。あの場では揉めていたとはいえ、戦うことは本意ではなかったのだろう。結果がどうなれ気分の良くない戦いというのはある。
それを見るとやはり止めなかったことに負い目を感じる。だけど同時にゼギウスが帰ってきたことに安堵していた。
「アタイはアンタについて行くよ」
「…そうか」
反応が鈍い。これはマルス以外にも何かがあったようだ。気分の良くない戦いというのは分かるが、ゼギウスとマルスの関係を考えればこの沈みようは異常だ。
何があったのか気になるが今はそれよりも先にやることがある。
「ララ、ルル、今はゼギウスを1人にしてやりな」
「…分かりました」「分かった」
2人もゼギウスの反応に異変を感じていたのか、スーも含めておとなしく離れる。
今のゼギウスには1人になる時間が必要だ。アタイと同じように今にも壊れそうな雰囲気がある。だけどゼギウスは誰かといると冷静を取り繕って自分の感情を無視してしまう。
「悪いな。戻ってきたら今後について話しがある」
「分かった。それまではアタイが見とくよ」
「任せたぞ」
そう気力なく歩くゼギウスを見送る。これは重症だ、少しの時間程度で立ち直れるとは思えない。それはララも感じ取っていたようで不安そうに疑問を口にする。
「ご主人様に何があったのでしょうか?」
「触れないであげな。あそこまでゼギウスが沈んでるのは初めて見たし余程の事があったのさ」
「そう、ですね…」
ララが返事すると沈黙が訪れる。元々、ゼギウスが戻って来るまで何1つ会話がなかったから元に戻っただけだが、空気が重い。
しばらくしてゼギウスが戻ってきても空気は重いままだった。それはゼギウスに気力が戻っているもののピリついているからだ。
「まず確認するが、赤頭と黄頭とカイはどうするんだ?七英雄の称号を置いてくなら逃げてもいいぞ」
今回の戦いで痛感しただろう戦力差を考えて言っているのだろう。足手纏いなのは言うまでもないが、戦意がないなら話にならない。
だが、ララやルルもいるのに言葉が刺々し過ぎる。それだけゼギウスの精神状態は危うい。
「私はゼギウスが戦力になると判断するなら残る。足手纏いなら消える」
「生きれそうなら残る。無理そうなら消えさせてもらう。だが、七英雄の称号は返さねぇ。俺のものだ。お前に指図される謂われはねぇ!」
「なら七英雄の称号は返してもらう。それから消えろ」
「断___」
メビスがそう言おうとするとゼギウスがメビスの口を押える。その様子にララやルルが怯えているが気にしている様子はない。いや、気にする余裕もないようだ。
荒事にならないように止める準備をする。これ以上、危なくなるなら止めに入る。
「あのなぁ、ガキの我が儘を聞いてる余裕はねぇんだよ」
一瞬、ゼギウスの雰囲気が変わってメビスに触れるとメビスの魔力が一気に弱くなった。どうやら今の間に《憤怒》を回収したようだ。
「チッ、馬鹿らしい。出てけばいいんだろ!」
そう吐き捨てるとメビスは出て行く。荒事にならなかったことに安堵するが、まだ安心はできない。
「黄頭はどうするんだ?」
「私もアンタの判断に任せるよ。残っても足手纏いなだけだと思うけど」
そう自信なさげにエストは言う。エストもアタイと同じように自分の無力さを痛感したのだろう。戦意が折れているように見える。
だが、戦力の面を考えれば今からエスト以上の人材を探すのは難しい。
「自分で決めろ。重要な決断を他人に委ねるな」
そんなエストにゼギウスは無情にも見えるように冷たくあしらう。
「でもカイゼルはアンタに任せるんでしょ?」
「カイは違う。カイの中で答えは出てる。その上でどうするかの判断を俺に任せてる。この差が分かるか?」
「…分かるよ。ごめん、少し考える時間をくれない?」
「いいぞ。ただ、答えが出るまでは話は聞かせられねぇぞ」
短く「分かった」とだけ返事をするとエストも部屋を出て行く。これでゼギウスと衝突しそうなものはなくなった。
「じゃあ今後について話すぞ。庭との戦いまで時間がねぇ。七英雄は全員、真継承を済ませる。それで各自の戦力を上げる」
「それだと今回みたいに柱に攻められるんじゃないの?」
ゼギウスがそんな初歩的なことを見落としているとは思えないが、確認と今は聞きにくいだろう周りのために聞く。
「柱は庭が潰す。だから考えなくていい」
「柱を庭が倒すってどういうことさ」
庭は謂わば柱の上位互換だと思っていた。それがなくても柱も庭も魔物、アタイたちって言う敵が居ながら潰し合う意味が分からない。
「庭が本気を出すには柱が邪魔になる仕掛けをしてある。その仕掛けを解かねぇと庭は俺に勝てねぇ。だから庭は柱を倒さざるを得ねぇってことだ」
その仕掛けが気になるがゼギウスに説明する気はなさそうだ。
「それは分かったけど敵の戦力と期間はどのくらいなのさ」
「戦力は説明が難しいな。ナナシを3倍くらい強くした奴が6体って感じか?期間はあって半年、短くて1ヶ月だな」
ナナシがどれくらい強いのか、その底がアタイたちじゃ見えないくらい深かった。それの3倍、戦力に置ける3倍なんて言うのは人数以外ではそもそも当てにならないけど、余計に想像がつかない。
その強さにゼギウスを除いて5人もっていかなければならない。それも1ヶ月から半年で…無理がある。だけど、それをどうにかしないといけない。
戦力として数えるならゼギウスとアタイ、カイゼルにアルメシア、それに復帰できるかも分からないメナドールと来るか分からないエスト…6人にするならそうなるが、どう考えても間に合わない。
だけどゼギウスはそれをやろうとしている。少なくともアタイはその最前線に居なければならない。それが最低限の条件だ。
「アタイはやるよ。ゼギウスに全部任せる」
「私は元からゼギウスに任せている」
カイゼルもアタイに続いて乗ってきた。これでこの場に居るのはアルメシアだけ。
そうアルメシアの方を見ると深刻そうな顔で疑問を口にする。
「1つ、よいか?庭が柱を潰すのであれば我も狙われるのではないか?」
あ…そこは見落としていた…
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる