怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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96話

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シアンは見落としていたような驚いた反応をしているが、ゼギウスにその様子はない。どうやら見落としていた訳ではないようじゃ。

「そうだな。狙われるな」

「なっ、ならどうするのじゃ!」

淡々と言うゼギウスに思わず大声を出してしまう。何があったのかは分からないが、今のゼギウスはいつものような余裕がないように見える。それが原因なのか言葉が荒い。

だから負担をかけたくなかったが、今のは抑えられなかった。

「迎え撃つ。ただそれだけだ」

「相変わらずお主は…簡単に言うでないわ!だが、分かったのじゃ」

さっき咄嗟に出た言葉が原因かいつものような言葉遣いに戻る。

明らかに言葉は足りないが、冷静に考えれば確かにそうだ。相手の強大さに見失いかけていたが、我も戦うのじゃ。それが早いか遅いかだけ。それが大事なのだが、それ以上に大事なのは心構えじゃ。

いつまでもゼギウスにおんぶにだっこではいけないのに、心のどこかで自分はゼギウスに責任を押し付けて責任の無い立ち位置に逃げていた。だからあの程度のことで慌ててしまった。情けないのじゃ。

「分かったならいい。まぁ、今のアルじゃ瞬殺されるだけだけどな」

「お主はいちいち一言余計じゃ」

ようやくいつものゼギウスに戻ってきたような気がする。何があったのかは分からないが、ゼギウスはこうでないとやりにくい。

「でも、どうするのさ。柱にも七英雄の真継承みたいな底上げがあるの?」

「ねぇよ、七英雄の対は七罪だ。七英雄が弱過ぎて対が柱みたいになってただけ、柱にまである訳ねぇだろ」

ゼギウスが言うからすんなりと呑み込めるが、ゼギウスでなければ呑み込めなかった。実際に、七英雄と柱は長きに亘って均衡を保っている。それこそ、その均衡が崩れたのはゼギウスがハオを倒した辺りからだ。

だからゼギウス以外の七英雄が柱に勝っているとは思っていないし、その認識は今も変わってはおらぬ。

だが、それは真継承とやらが馴染む前、それが馴染めばその均衡は崩れることも想像に易い。

それはさて置き、庭の七罪はその真継承を終えた七英雄よりも強い。そんな数段上の領域に上らなければならない。

当然、それは無策に鍛えたからといって辿り着ける領域ではない。そこに追い打ちをかけるように時間までないときた。

「それではどうするのじゃ?普通にやっていては到底間に合わぬぞ」

「ナナシ、出てこい」

ゼギウスがそう言うとゼギウスの体内からナナシが出てきた。なっ、体内からじゃと!?どういうことじゃ!?

「なっ、お主、どういうことじゃ!今、お主の体から出てき、えっ!?」

「あー、言ってなかったか?ナナシは俺の一部だ」

「そんなこと言っておらぬわ!」

本当にゼギウスは言葉が足りぬ。だが、そうなると気になることがある。

「今のお主は庭の七罪は同等なのじゃな?」

「あぁ、俺も庭の七罪の1人だからな。正真正銘、同等だ」

それは我にとって大きな意味を持つ。色んな言葉で庭の力を説明されようが、体感できなければそれは分からぬ。それはいざ戦う時に大きな障害になる。

だからゼギウスが庭の七罪と同等ならゼギウスを通してそれを体感できる。

「本当、ゼギウスって何者なのさ…」

シアンは驚きを通り越して呆れているようだ。他にもララは開いた口が塞がらず、ルルもいつもの無表情が崩れている。我もその事実には驚きだが、何故かゼギウスだからというだけで納得できてしまう。だが、流石にナナシがゼギウスの一部というのには驚いたのじゃ。

これで敵が6体ということの意味も分かった。ゼギウスが相手をするからという訳ではなく、その1席をゼギウスが担っていたからなのじゃな。

「そんなことはどうでもいいです!ご主人様の得体が知れないのはいつもの事ですから。ですが!それはどういうことですか!」

そうララが大声でゼギウスを指さす。ナナシのことにも驚くには驚いていたようだが、どうやらゼギウスが庭の七罪ということに対してではなかったようだ。

ララの指さす先、ゼギウスの膝の上にはナナシが座っていた。それもゼギウスに後ろから手を回されて抱えられてじゃ。

「どういうことも何もナナシがこうしないと出てこねぇって言ってんだよ」

「じゃあ私もそうしてくれないと料理を作らないって言ったらそうしてくれるんですか!」

「そしたらルルかスーが作るだけだろ。メナが目を覚ませばメナも作れるし他に頼むだけだ」

「あ……でも、納得いきません!」

ゼギウスのいつもの流しにララが食い下がる。すっかりいつもの空気だ。ララはこれを狙って……いた訳ではなさそうじゃな。顔が本気で不満そうじゃ。

「お主等の漫才はいいのじゃ。それでナナシを呼び出してどうするのじゃ?」

「アルが死ぬまでナナシと戦い続ける。いいな?」

物騒な言葉だが、それくらいやって当然じゃ。生涯を懸けても届かない領域、その高みへ行こうとしているのだから無茶をするしかない。

だから迷わず返事をする。

「うむ、分かったのじゃ」

「そういうことだからナナシ、行ってこい」

「はいはい、死んでも知らないよ。今の私、凄く機嫌が悪いから」

そうナナシから殺気が溢れてくる。当てられただけで意識を失いそうになるほどの圧、それは我を鍛えるとかではなく本気で殺そうとしている殺気だ。

しかし、怯むわけにはいかない。ここで退いたら一生、その高みへは辿り着けなくなる。

「望むところじゃ」

そうゼギウスの膝から下りたナナシと城から少し離れた場所へ移動する。すっかりこの場所は戦闘用に変わってしまったのじゃ。昔は散歩道だったのに残念でならぬ。

ナナシに向き合うとさっきまでは抑えていたのかゼギウスの部屋に居た時よりもナナシの殺気が強くなる。

「そっちからいいよ」

「では、遠慮なくいくのじゃ。《龍王の咆哮》」

力の差を確認するためにも今持てる全力で撃つ。

「《絶風》」

しかし、それはナナシにいとも簡単に消される。これが今の力の差、それをどこまで縮められるか。それが課題じゃ。

「はぁ…何でゼギウスがこの程度に期待してるんだろ。本気で戦っていいし消してもいいって言われてるけど、アドバイスもしろって言われてるから言うよ。まず溜めが長いし無駄が多い。しかも溜めの時に敵から視線を離すなんて以ての外。もう1回撃ってみてよ」

今ナナシに指摘されたことを意識しながらもう1度《龍王の咆哮》を撃つ。すると、撃った先にナナシの姿がない。

しかし、左右に躱された様子はなかった。

どこ……下!?いつの間にか懐に潜り込まれていた。

「相手が速いとこうやって躱されるよ。そしたらこうやって無防備な所に攻撃をくらう」

そう指摘をされながら腹に膝蹴りを入れられる。グハッと口から息と胃酸が一緒に漏れる。この体格からは想像できないほどに重い。

「この程度で怯まない。立て直しが遅い」

また指摘されながら今度は俯いた体の背中に肘を落とされる。そのまま地面に倒れ込むと蹴り飛ばされた。

木々を薙ぎ倒しながら吹っ飛ぶ。木に背中を撃ち続けられているのにそこからの痛みを全く感じない。それほどまでにナナシの肘の痛みが強い。

「ゴホッ、ゴホッ…バケモノじゃな」

我の方が劣っているのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった。単純な力の差は天と地ほど開いているのは分かっていたが、その他の面での差も大きい。

てっきりナナシは天賦の才だけで戦っていると思っていた。ナナシの戦いは数回しか見たことがないが、その全てが力任せで圧倒していただけだ。

だけど、それだけな訳がなかった。ゼギウスの元に居てそんなぬるい戦い方が許される訳がない。我の考えが甘かったのじゃ。

そう頬を叩いて甘い考えを消す。強さには全て理由がある。それを見て学び、吸収する。それが、ゼギウスが我とナナシを対峙させた理由だ。

翼を広げて飛び立ち、ナナシの元に戻る。

「遅いよ」

そうナナシは待ちくたびれたように欠伸をする。余裕を見せているようで隙が無い。

「すまぬな。少し考え事をしていたのじゃ」

「ふーん。じゃあここからは何をやってもいいよ。私も自由に戦うから」

そこからのナナシは比べ物にならないくらい強かったのじゃ…
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