怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
96 / 185

94話

しおりを挟む
(ゼギウスー!私の意識が残ってるじゃん!)

そう嬉しそうなうるさい声が体の内側から聞こえてくる。いや、俺が聞きてぇよ。原初の奴も知ってたなら先に言えよ。

(母様も知らなかったんだと思うよ。だって母様も泣いてたし)

そう平然とナナシが俺の思考に答える。おいおい、思考まで筒抜けなのかよ。面倒くせぇ。

だが、そうなると気になることがあった。それを確認するために念話で名無しに話しかける。

(ナナシは外も見えてんのか?)

(ゼギウスの目で見えてるものなら見えてるよ)

使えねぇな。後ろでも見えてりゃ索敵しなくても戦えたのによ。

(贅沢言うな!でも魔力を使っていいなら索敵くらいならできるよ)

わざわざ念話使ってんだから念話以外には返事するなよ…だが、それは使えるな。役割分担すれば1つのスキルに意識を集中できる。

そうなると高い精度を要求されるスキル、例えば医術系のスキルを使いながらでもナナシが攻撃のスキルを使える。まぁ、今回の戦いでは使わないが、それは便利だ。

「《絶雷》」

ナナシが降らせ続けていた雷を止めると改めて七罪と七獣と対峙する。どうやらご丁寧に待っていてくれたようだ。

「ナナシも原初もやってくれたな」

「結局はこうなるって分かってたんだろ?」

こいつ等は圧倒的優位を作りながら止めを刺してくる様子がなかった。隙を作らないためと言えばそこまでだが、それとは違う意図があったような気がする。

「こうなるだろうとは思っていた。ゼギウスも一筋縄でいかなければ原初もゼギウスをただでは死なせない」

「でも私の仕掛けをナナシが解けるとは思っていなかったわ」

それは俺も思った。俺がナナシから滅を取り出した時に入れた絶を使ったのだろうが、ナナシがそんな芸当を思いつくとは思えない。だから原初の入れ知恵だろうが、それでもナナシにできるとは驚きだ。

それに結果的にこうなったからいいが、絶は残しておいてほしかった。もし俺が負ける時、その死に際に俺の全ての力をナナシの体内の絶の場所に移すつもりだった。そうすればナナシは今の俺と同じ力を手にし、俺が死のうとも俺や原初の目的は繋がれる。

その目的は俺がメナを守る我が儘で絶えさせていいものではない。人間と魔物、この先、この世界に歴史を紡ぐ全ての種を守るためのものだ。

はぁ…それをこの不器用な奴に助けられるとは……俺もまだまだだな。

(私の事をどれだけ不器用だと思ってるの!)

(どうせナナシも原初に言われた時、不器用だから無理って言ったんだろ?今更、不器用を否定すんな)

(う……)

この反応を聞くに図星なのだろう。本当に分かりやすい。

「力が戻ればもう勝った気か?なめられたものだな」

ナナシとのやり取りで表情が緩んでいたのかもしれない。いつもこのアホには呆れさせられる。

「いや、ナナシがうるさくてな」

(うるさくない!)内側からそう訴えてくるナナシを無視して集中する。力が戻ったところで状況は何1つ変わっていない。同等の称号を持つ相手の魔力体が6体、決して気を緩めていい状況ではない。

「再開するか。《怠惰の砂時計》《100分の1》《スロウス》」

肩慣らしにさっきまでなら耐えられないスキルを使う。まだ《100分の1》の反動はあるものの他2つとの併用は問題なさそうだ。

《スロウス》で召喚したクマを暴れさせる。100分の1の速度で時が流れていく中で他の七獣は抵抗する間もなくクマの鋭く獰猛な爪で引っ掛かれて消えていった。

「《10分の1》」

時の流れを早くして体への負担を減らす。この感覚なら問題なく戦えそうだ。

「《地雷》」「《風氷》」「《風雷》」「《炎氷》」「《土氷》」「《水雷》」

さっきみたいに俺の許容量を超えさせようとしているのか2属性のスキルを多用してくる。だが、それは今の俺には通用しない。

「《絶》」

属性を指定せず、ただ絶とだけ唱える。それは向かってくる全てのスキルを一瞬で打ち消した。

昔の俺を思い出したのか心なしか魔力体が苦笑いしているように見える。スロウスの時の事でも思い出しているのだろう。あの時の驚いた顔に似ていた。

「相変わらず厄介なスキルだ。育てたことを後悔したくなる」

「それはお気の毒さま。これ以上、続ける意味もねぇし終わらせるぞ。《絶滅》」

そう唱えると派手に何かが起こる訳ではなく静かにこの場にある俺以外の魔力が全て消えた。

「ふぅ…」

ひとまずの安堵に溜息が漏れる。久しぶりに使った全力のスキルに体が耐えられるか心配だったが、体を動かせる範囲内には収まってくれた。

しかし、まだ気は緩められない。今倒したのは魔力体でまだ本体が居る。

(お疲れ、母様を迎えに行くよ!)

そう大して労う気のなさそうな声を掛けられる。このアホは俺の疲労もこの状況も分かっていなさそうだ。

(アホじゃないもん!ゼギウスの疲れなんてどうでもいいから早く行こ!早く早く!)

うるせぇな。体の内側から騒がれると防ぎようがない。そのうるささに耐えかねて魔力体を生成してそこにナナシを移す。魔力体の大きさ形は記憶にあるナナシを再現した。

「これができるなら最初からやってよ!早く行くよ!」

そう俺の手を引いて屋敷の中へ行こうとする。原初に早く会いたいのも嬉しいのも分かるが、鬱陶しい。っていうか外に出してもうるせぇ。

ナナシに強引に手を引かれるまま屋敷の中に入る。さっきの今で七罪が手を出してくる可能性が高いと思っていたが、今のところその様子はない。絶好の仕掛け時ではあるはずなのに手を出してこないのは不気味だ。

おそらく杭のことに気づかれた。それに気づけるような言動をした覚えはないが、それ以外に考えられない。これからは気づかれた前提で事を進める必要がある。

そうなると、ここからは互いに準備期間に突入する。俺は戦力を整え、七罪は力を取り戻す。それには原初が居た方が助かる。

「ゼギウス、早く入るよ!」

そう考えているとナナシが原初の居る部屋の扉を開けた。すると視界にはいつもの暗い部屋ではなく橙色のような赤くて熱い何か…炎が迫ってくる。

「《絶》」

《10分の1》を使っていたままのこともあり咄嗟の《絶》で何とか間に合った。

しかし、部屋の中がどうなったかは言うまでもない。

「嘘…嘘だよね?ゼギウス……」

そうナナシが部屋の中を見ないように俺に縋るようにしがみつく。俺自身も少し浮かれていた。原初がどうなったかは言うまでもない。

絶望的な状況から何とか生き抜くことができ、犠牲になるはずだったナナシも意識が残った。そこで全てに対する見通しが甘くなっていたようだ。普通に考えればナナシを動かした原初を生かすはずがない。

少し考えれば分かることを見落としていた。それでナナシにこんな光景を見せてしまうとは……本当に何やってるんだ……

「ナナシ、悪い」

短くそう声を掛けるとナナシは理解したのか「うわあぁぁぁあん!母様!母様~!」と大声で泣き始める。それを無言で抱きしめて魔力体を解き、いつでも離脱できるように体内に取り込む。

今のナナシには酷だが、原初の部屋に入り中を確認する。屋敷自体はスキルが効かない空間ということもあり焦げ跡1つなく部屋の中にはただ空間が広がっていた。

置かれていたベッドもインテリアも何もなくなっている。ただの薄暗い空間…

部屋中を見回しても原初の体はない。あの爆発の規模だから跡形もなく消えた可能性もあるが、大方、俺が七罪の魔力体と戦っていた時に止めを刺したのだろう。そうじゃなければ原初は来るなと言ったはずだ。そうなるとあの2属性スキルの多用も単なる時間稼ぎ、通じると思って撃った訳ではない。

「《扉》」

そう唱えて、内側で泣き続けるナナシに声もかけられずに城に戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...