怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
95 / 185

93話

しおりを挟む
ゼギウスが嬲られていくのを近過ぎず遠過ぎない距離から眺めていた。

絶のスキルがある以上、属性のスキルは通用しない。それが影響しているのか庭の者たちは七獣のスキルを使っている。

ゼギウスも七獣を出しているが、1対6、それも同じくらいの魔力量で召喚されている。普通なら勝てる訳もないが、それでもゼギウスならと淡い期待を抱いてしまう。

しかし、それが通用するほど甘い相手ではない。何で召喚したの?と聞きたくなるくらい一方的だった。致命傷を避けながら戦っているものの時間の問題だ。

まさか、あのゼギウスがここまで一方的にやられるなんて、ゼギウスの最期は私が止めを刺すと決めていたのに…

そう思いながら指が甲から貫通してくるくらい拳を強く握りしめていた。

だけど、私は下手に手を出せない。だって、手を出せば母様に迷惑がかかるから。

ゼギウスとは兄妹のように仲良くしてきたけど、産みの親であり今の今まで私を育ててくれた母様とは天秤に掛けられない。

私がもっと強ければこんな事にもならなかったのに…

そうも思いながらゼギウスの最期がいつ来ても目を離さないようにしていると、母様の声が聞こえてきた。

(ナナシ、今から言うことをよく聞いてください)

脳内に直接話しかけてくるその言葉に頷く。きっと今のゼギウスの状況を見かねて声を掛けてきたのだろう。母様は全てが見えている。

(貴方の体内にはラストの魔力爆弾が仕掛けられています。先ずはそれを解除しなさい)

(でも、私そんな器用なことできないよ?)

ラストに何かをされたのは分かっている。だけど、どうすることもできなかった。

私にできるのは力技、体内にある異物に対して力技で衝突させれば大きな衝撃を生んで私の体がもれなく吹っ飛んでしまう。そんなことは母様も分かっているはずで、何か策があるはずだ。

(大丈夫、今の貴方にはゼギウスの絶の因子が入っているからできます)

言っていることがよく分からないが母様ができるというのだからできるのだろう。母様の言っている絶の因子とやらを探す。

絶の因子だと分からないが普段、私の体の中に無いものを探せばまだ探せる。だけど、私はゼギウスみたいに器用じゃないし、私とゼギウスの魔力は似ているから凄く意識しないと気づけない。

意識を集中して探しているとようやく見つかった。滅に似ていながら正反対の力をもつもの、それでいて衝突を起こさない。おそらくこの靄が絶の因子だ。

(絶の因子をどうすればいいの?)

(絶の因子でラストの仕掛けた魔力爆弾を覆ってください。覆った後は潰すように圧縮すれば打ち消せます)

(うん、やってみる)

絶の因子と触れている私の魔力を使って間接的に運ぼうとするが、不思議なことに絶の因子と感覚が繋がっていて、直接、絶の因子を動かせた。

そこからは母様に言われた通り絶の因子でラストの仕掛けた異物を包み込む。そして圧縮するとラストの仕掛けた異物は消滅した。

(できたよ)

(流石はナナシですね。ここからが本題です)

そう母様の声が一段階、真剣なトーンになった。それはいつも優しく穏やかな母様には珍しいことで、そこに私も覚悟を決める。何を言われても受け入れる、その覚悟を。

(貴方はゼギウスの一部なのです)

普通ならとてつもなく衝撃的な告白だ。それなのに私は落ち着いていてどこか腑に落ちた。

ゼギウスと居る時は母様と居る時と同じような安心感を得られたしゼギウスと私の魔力は見分けがつかないほど似ている。それにゼギウスは私の滅を使っていることもあったし私も絶の因子を操れた。

だから2人で1つの完成形だと言われた方がしっくりくる。というか、そうでもなければ庭の者が相手でもゼギウスがここまで一方的に負けることはない。

そうなると母様の言いたいことは馬鹿な私でも分かる。私は消滅するけど、ゼギウスにこの力を返す。

そうすればゼギウスはまだ戦える。そう思うと自然と言葉が出た。

「うん。分かったよ」

(ごめんなさい。これは全て、私が企てたことなのです。ゼギウスを庭から出すには力を制限する必要がありました。そしてその制限した力は庭に残す。あの子たちにそこまでさせるほど、ゼギウスの力は強大でした)

そう言う母様の声は姿を見ていなくても泣いているのが分かる。それに釣られてか私からも涙が溢れてきた。

(大丈夫だよ。私のやるべきことは分かってる。あんな風にゼギウスが負けるなんて、それこそ私が死ぬよりも嫌だもん)

(ゼギウスを怨まないであげてください。本当はゼギウスの指示があるまではこのことは打ち明けず、実行しない予定でした。ですが、私の方が耐えられませんでした。このままゼギウスが居なくなるなんてあってはいけません)

(分かってるよ。ゼギウスも母様の事も怨まないよ。だって2人が居たから私は生まれてこれたんだもん。だから、ありがとう、さようなら)

母様に別れを告げるとゼギウスの元へ向かう。今にも負けそうなゼギウスの背中を叩いて笑うんだ。こんな奴等に負けるなって。

「気でも狂ったか、ナナシ《地雷》」

私の接近に気づいたプライドがスキルを唱える。馬鹿にしないでよ。

「《滅水》」

そう唱えて生み出した水の波は向かってくる土を呑み込み、雷を通さない。

ゼギウスに気を取られ過ぎたのか私を侮り過ぎているのかは分からないが、これで十分だ。ゼギウスの元までは行ける。

「《滅雷》」

七獣を中心にこの辺り一帯に雷を落とし続ける。これで少しでも時間を稼げればいい。

私でもどこに落ちるか分からない雷を掻い潜りながらゼギウスの元へ行く。

「ゼーギーウース―!しっかりしろー!」

そういつものように飛びつき思いっきり背中を叩く。いつもなら頭を掴まれるのに今回はバチイィィィインッ!といい音が鳴った。それだけ余裕がないということなのだろう。こんなゼギウスを見るのは初めてだ。

「加勢していいのか?」

ゼギウスも母様の事を気にしているのだろう。正確には母様を気にしている私の事を気にしているのだろう。

だけど、そんなことを気にする必要はなかった。

だってゼギウスが勝てばそんなこと関係ない。あいつ等が魔力体で本体が別にいるにしてもゼギウスなら何とかしてくれる。無責任だけど、それがゼギウスという私自身だ。

「いいよ。ゼギウスがあんな無様に負ける方が嫌だもん。それに母様が教えてくれたから」

「…そうか」

今の言葉でゼギウスには全て伝わったようで天を仰ぐ。全く…そんな反応しないでよ。また泣けてくるでしょ!

「もう!そんなに時間稼げないんだから早くしてよ!」

「原初を怨むなよ。全部俺のせいだ」

「母様も同じこと言ってたけど、私はどっちも怨まないよ。寧ろ、ありがとうだよ」

「そうか。俺からもありがとな」

そうゼギウスは私を抱き寄せる。こんなこと初めてかもしれない。

温かくて落ち着く。こんなに温かいなら我が儘を言ってでも、もっと抱きしめてもらえばよかったな。戦い以外にもこんなに生を実感できることがあるなんて…あー、ここでお別れか。うぅ…もっと生き……ううん、覚悟は決めたでしょ!

涙が溢れてきてえずく。早くしてよ。決意が揺らいじゃうでしょ!

「《融合》」

ようやくゼギウスが涙ながらの声でそう唱えると、ゼギウスの体の中へ溶け込むようにすーっと吸い込まれていく。

さようなら、ありがとう……

肉体はゼギウスの元へと帰り精神もゼギウスの元へと帰___

___あれ?

肉体が溶け込んでからしばらくしても精神、意識の部分は残ったままだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...