怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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110話

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ララの目的でもあったガキに連れられて避難所に来る。そこには傷を負っているものの大勢の人が生きていて苦しそうながらも笑っていた。

それを見てホッとする。

「あー、シアンだー」

そうクソガキたちが元気に駆け寄って来る。それに続いて爺もアタイの方に歩いてきた。

「来るのが遅いぞ。戦いはとっくに終わったわ」

「寧ろ早過ぎたよ。爺が生きてる間に来ちまうなんてさ」

「ガハハ、そうかもしれんな」

いつものように軽口を叩ける。本当に生きていたんだ。

町を見た時は正直、駄目だと思った。アタイはグラだけでなく町も守れなかったんだって、心がまた折れかけた。

だけど町は壊れているし全員じゃないかもしれないけどこれだけ生きている人がいる。そこに少しでも心が救われた。アタイの戦いは無駄じゃなかったんだって。

「それで被害状況は?」

「見ての通り町は壊滅じゃ。だが、誰も死んどらん。儂含めて全員生きとるぞ」

「良かった…本当に良かった…」

ガラにもなく軽口も叩けずに涙が溢れてきた。視界はぼやけガキ共には心配される。

「そうじゃな。お前さんのおかげだ。町を守ってくれてありがとう」

そう爺はアタイを抱きしめてお礼を言う。いつもならセクハラだってぶっ飛ばすところだけど、今だけは許す。安堵のような嬉しさの方が上回っていた。

しばらく抱擁が続いていると爺の手つきが厭らしくなってくる。そこで「いい加減にしろ!」と強引に離す。爺もこの空気に耐えられなくなったのだろう。それはアタイも同じだ。

「それで復興はできそうなの?」

「まぁ、お前さんがくれた金が残ってるからな。町の外からも雇えばすぐに元通りだ。それどころか儂の金の像まで建てられるわ」

「余計な物を建てたら金返してもらうよ。勿論、金じゃなく労働で」

「なっ、儂がお前さんから貰った金で支払うとでも思ってるのか!」

「貰ったって言ってる時点でそうだろ!アタイはアンタに上げたつもりはないさ」

そんな冗談交じりの軽口を叩き合いながら町の状況を確認していく。ララも露店が潰れていたものの約束通り物は買えたようで嬉しそうにしている。ここに来ている人の分と城に残っている人の分、全員分の小物を買ったようだ。

ちなみにアタイには星のペンダントをくれた。

皆の無事を確認できたし時間がある訳でもないから皇城へ向かおうとすると、ゼギウスが一晩泊まっていけと言ってくれた。

その夜は町の人全員とアタイたちで宴会をした。

ゼギウスは面倒くさがりながらもガキの相手をしてナナシも町の人に受け入れられていた。いや、アタイが思うのもなんだけど魔物を普通に受け入れるってどうなのさ…

そんな賑やかな宴会を終えて翌日、二日酔いの中、皇城の前まで来ている。

アタイとゼギウスだけ下りて他は馬車の中で待機になった。やっぱりララは行きたくないそうだ。これに関してアタイにできることはもうない。

「まぁ、こっちは簡単に終わるさ」

「何言ってんだ。下手したらこっちの方が面倒くせぇよ」

「アンタこそ何言っているのさ」

どう考えたってミレーネ様の方が楽だ。アタイが深い知り合いというのもあるが、それを差し引いてもミレーネ様の方が話は分かる。

それなのにゼギウスの異様なほど面倒くさそうに足取りが重い。皇城内を歩いて行き、執務室にノックをして入る。

「シアンとこれは珍しい方ですね。ゼギウス様は七英雄の称号を剥奪されたとマルスから聞いていたのですが、何かあったのですか?」

何か、ミレーネ様はアタイとゼギウスが謀反を起こしたとでも思っているのだろう。どこか昂揚しているような気がする。

「あぁ、マルスは死んだ。ついこの前の進攻でグラ、マルスは殉職した。それで俺が《嫉妬》を継承し、《暴食》は一時シアン預かり、《憤怒》を持っていたメビスはその地位に相応しくないと判断して更迭した。今回はその報告と挨拶だ」

「それは反旗を翻した、ということでしょうか?」

「口が過ぎるぞ。俺は継承した。それ以上でもそれ以下でもねぇ」

ゼギウスのその言葉からはどこか憤りを感じた。仲が良かった訳ではないが、外部が勝手な推測でものを言うことに腹が立ったのだろう。

「これは失礼いたしました」

「分かればいい。俺は前線を離れれねぇから今後、皇国への協力要請や報告はメナの人形を使って行うつもりだが、いいか?」

「勿論、構いません。皇国は新体制の七英雄に惜しみない協力をすることを約束します」

「そうか。じゃあ、先の用事もあるから行くぞ」

「ちょっ、少しくらいミレーネ様と話したいんだけど」

用件だけ終えるとゼギウスはそそくさと去ろうとする。まるで何かから逃げようとするように。

「少し待っていただけないでしょうか?七英雄の引継ぎの件は了解しました。ですから、ここからは娘についての話を聞きたいのですが、お時間、ありますよね?」

「ねぇって言っただろ。行くぞ、シアン」

「お時間、ありますよね?シアン、ゼギウス様を止めてください」

そうかつてないほどにミレーネ様から凄い圧が放たれている。それについ反射的にゼギウスの腕を掴んでいた。

なるほど、ゼギウスの言ってた面倒ってこのことね。確かにこれはゼギウスにとっては面倒くさいかもしれない。そうゼギウスに同情する。

「おい、シアン」

「ごめんね。アタイは皇国所属の人間だからさ」

「はぁ…それで何が聞きたいんだ?」

アタイも敵に回ったことで諦めたのか溜息を吐くとお手上げとばかりに両手を軽く上げる。それを見てゼギウスを開放した。元から逃げきれないのは分かっていたのだろう、ゼギウスにしては諦めが早い。

「本来であれば私がしっかりと面倒を見なければならないところ、ゼギウス様には大変迷惑をおかけしております。それとレイネを見つけ、今日まで幸せを与え続けてくださり感謝の言葉も御座いません」

「口上はいい」

ミレーネ様の涙ながらのお礼が照れくさいのかゼギウスはそう冷たく返す。

「口上ではなく本心です。ゼギウス様に出会っていなければあの子はきっと深い闇の中に囚われていたでしょう」

その言葉からは自責の念を感じる。あの状況では仕方がなかったとは思うが、あの時のララの言葉が余計にそう思わせているだろう。

「そんなことねぇよ。ララは俺じゃなくても立ち直ってた。アイツにはそういう強さがある」

「ゼギウス様からそう評価されていると知ったらあの子も嬉しいでしょうね」

話が始まる前の空気とは裏腹に和やかだ。と、思っていた。

しかし、それはここまでだった。

「ところで、ゼギウス様はレイネをどうするつもりなのですか?結婚などはお考えになっているのでしょうか?」

「アホか、ねぇよ」

「ない、というのはレイネに魅力がないと言いたいのでしょうか?」

完全に地雷を踏んだようでミレーネ様の雰囲気が変わった。ゼギウスは面倒くさいというような表情をしているだけだが、アタイには柱よりも迫力がるように見える。

ミレーネ様も大概親バカだな~。なんてどこか遠い目で傍観者に徹する。

「お前がそう思うならそう思っとけ」

「そんな訳ないでしょう!いくらゼギウス様と言えど許しませんよ!」

「あー、面倒くせぇ…」

「誤魔化さないでください!ゼギウス様はレイネと結婚は考えているのですか?」

そう話は少し前と同じ質問に戻る。それに対してゼギウスは答えていた気もするが、その返答は許されないようだ。

アタイが親なら絶対に止めときなよと言いたくなる相手だが、ミレーネ様の中だとゼギウスは合格ラインを超えているらしい。もしかしたらララのぞっこん度合いを見ての判断かもしれない。

そこから似たような問答が2時間くらい続くと「レイネも苦労しますね」とミレーネ様の方が折れていた。普段ならゼギウスが折れそうなものを珍しいな、とアタイは完全に傍観者になれていた。

お互いに疲れたようでゼギウスはぐったりとした様子で魔導馬車に戻る。そこからミレーネ様と少し話してからアタイも戻り、帝国に向けて馬車を走らせた。
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