怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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111話

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ゼギウス様が戻ってきて少ししてシアンさんも戻ってくると帝国に向かって出発した。

事情が事情なだけにゼギウス様たちがいない間は空気が重くなるかと思っていたが、そんなこともなく馬車の中の和気あいあいとしていた。寧ろ、帝国に向かっている今の方が空気は重い。

というのも、帝国の王、ガルドスへの謁見を控えているからだろう。ゼギウス様は寝ているが、シアン様はピリついている。

ガルドスは自らを帝王と位置付けているが、皇国に侵攻して統一した暁には自らを皇帝と名乗ると宣言しているほどの野心家だ。

それに帝国内では絶大な権力を持っている。軍の私物化や内政、外交の単独決定、果てには自由なはずの冒険者を支配下に置いているほどだ。

しかし、それだけ独裁をしていても不思議と帝国で暮らしている人はそこでの生活に不満を持っていない。

だから入ったら最後、帝王に嫌われては生きて帰ることは適わない。

その帝王がゼギウス様のことを気に入っているという噂がある。何事もなく終わればいいが、そんなうまくいくとは思えない。ゼギウス様ならどうにかなると思うが事は荒げたくないはず。だから、もし何かあった時の手助けをする。それがついてきた目的の1つだ。

それに七英雄の方々に顔が割れてから闇商人の仕事はしていなかったが、情報だけは入ってきていた。そこに気になるものがあり、そっちが本目的だ。

帝国に近づくにつれ空気は更に重くなる。皇国を出て3日目になるとようやく帝国への入り口、国門が見えてきた。

途中から操縦は私に代わり、門兵の前で魔導馬車を止める。

「通行証の提示をお願いします」

ローブの中から丸められた特殊な羊紙を取り出し門兵に渡す。それを門兵はレンズを通して確認する。羊紙にサインされている魔力が大臣のものか鑑定しているのだ。

サインに魔力が残るのが3ヶ月程度、魔力鑑定は複製や偽造が難しいのもあって多くの闇商人が帝国への入国ができない。

これも現帝王が支持されている1つの要因だ。自国民には厳しい部分もあるが、外部よりも優遇する。外の物には高額の関税を課し帝国産の物より安くは取引させない。そうして国内の市場を盛んにする。それで生じるだろう安心による質の低下は過剰な品質ノルマで防がれていた。

密輸も難しく外からの流入には高い関税、私のような外に本拠地を置く商人にとっては最悪の場所と言える。だから私も基本的には情報収集にしか使っていなかった。

「確認できました。どうぞ、お通りください」

羊紙を返してもらい一礼をして門を通る。勿論、私の通行証は本物だ。

「このまま中央通りまで行きますので、そこからは別行動させていただきます」

「ララとルル、ナナシは腐れが連れてけ」

「分かりました。用が済み次第、この魔導馬車にて待機しています」

間違ってもガルドスにララさんとルルさんの存在を気づかれてはいけない。特にララさんは1度、帝国から逃がしている経緯もあり、もし気づかれれば再び奴隷落ちか皇国との開戦のために見せびらかして処刑される。

そのもしがあった時のためのナナシさんだろう。ナナシさんが居れば大抵のことは力で解決できる。

中央通りでゼギウス様とシアンさんを下ろし、魔導馬車を駐馬場に止めると荷台に移る。

「少し失礼します。《錬成》」

そうスキルを唱えてララさん、ルルさん、ナナシさんに首輪と鎖に繋がれた手錠を生成する。恰好は荷を確認された時のためにローブを着せていたこともあって完全に貴族用の奴隷商に偽装できていた。これなら一般人に下手に接触されることもなく姿を見られることもないだろう。

「申し訳ありませんが帝国内に居る間はこうさせていただきます。もし、戦闘になることがあれば力尽くで壊していただいて構いません」

「えー、窮屈―」

そうナナシさんは首輪に指を入れて窮屈そうにしている。だけど、ナナシさんが壊そうと思えば簡単に壊せる強度にしているから着けたままにはしてくれるようだ。

そんなナナシさんとは対照的にララさんとルルさんは嬉しそうにしている。

「分かりました。でも、少し懐かしいですね」

「ララ年寄りみたい。まだあの時からそんなに時間は経っていない」

「それだけ濃い事が多かったということです!私が年寄りな訳ではありません!」

「分かっている、冗談」

そう冗談交じりの明るい会話が目の前で行われる。私の元に来た時はこんな光景を想像すらできなかった。それくらい、あの時の2人は復讐に囚われていた。

そこにしっかりと過去と決別できたのが伝わってくる。ゼギウス様に任せて本当に良かった。

「では、ついてきてください」

鎖の先を持ち中央通りから裏通りへと歩いて行く。表をこうして奴隷連れで歩いても誰も接触してこない。それだけガルドスの権威が表れていると言える。

王国や皇国と違って裏通りに来ても不気味な雰囲気を持つ人はいない。それも大半の闇商人が侵入できないことによる治安維持効果と言えるだろう。

私と同じように黒いローブに身を包んだ人たちの間を通り奥へ進み闇商区画に行く。

そこは多くのテントが並んでいるが、その奥、もう1段階客を限定した区画に行くとテントが3つだけ並んでいた。

そこは貴族の中でも上の方、それこそ王族関係の人が使う闇商だ。その真ん中のテントへ入っていく。

「おや、浅瀬では死んだって噂のマモンじゃないか。ウチでは奴隷は扱ってないよ」

マモンは闇商界での私の名だ。

この闇商人は私と違って姿を隠していない。ポニーテールに纏めた紫色の髪に魔道具の埋め込まれた眼帯を左目につけている長身の女性でパイプを咥えている。

帝国内で最も力を持つ闇商、レイブン。私の通行証の発行もこの人の力があってのものだ。

「相変わらずの喋り方ですね、レイブンさん」

「闇商なんて屑な商売に品位を求められてもね。いい物ならどんな屑でも売れるししょぼい物ならどんな聖人でも売れない、それが闇商の世界だろ?」

「そうですね。ところで例の物が入ったというのは本当ですか?」

「あぁ、入ってるよ。それよりその奴隷、王国と皇国の姫様じゃないか。おまけにその魔物は柱級のバケモノ、私が奴隷商なら殺しても奪いたい代物だね。ま、その首輪が偽物じゃなかったらだけど」

その言葉にララさんとルルさんは体をビクッと反応させる。

流石にレイブンには誤魔化せない。あの眼帯に埋め込まれている魔道具を前に隠し事は通用しない。

「コイツ消す?」

ナナシさんは何かを感じ取ったようにそう聞いてくる。おそらくレイブンさんの魔道具の使用に反応したのだろう。いや、純粋にこの人の強さに対してかもしれない。

表に出ていれば七英雄になれた存在とも言われる強者だ。それがレイブンの姿を明かしている理由、姿が割れたところで誰も手出しができない。

「いいえ、その必要はありません」

「ふふっ、その魔物は用心棒ってことか。まぁ、立ち話もなんだし来なよ」

そう言うとレイブンは足で陣を描く。すると、地下に転送された。

地下には表に流通しない魔道具が所狭しと並んでいる。そのどれもが名工の作った一点物だ。

その珍しさはララさんやルルさんにも分かるようで「あぁ…」とか「おぉ…」と語彙力を失っている。その様子をレイブンさんは笑っていた。

だが、私の目当ての物はこの程度の物じゃない。

魔道具が置かれ過ぎて廊下のような細道になっている場所を歩き壁までくるとレイブンさんは壁に陣を描く。すると壁は消え、奥に部屋が現れる。

これだけの闇商人でも特別扱いする物、水晶のような透明の球体が置かれていた。

これが私のここに来た1番の目的、魔導生命体の核だ。
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